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第2章 精霊条約書
魔道竜(第2章、36)
しおりを挟む責めたり誰かのせいにしたり、それは違うだろう、そう諭され、
それでも口をついて出てくる言葉はただ一つ。
「……っめん―――」
心からの謝罪の言葉、それを阻むかのようにセルティガの優しい指先の動きが、頬をつたう湿り気のおびた一線をなぞる。
「泣くヤツがあるか。キレるか泣くか、どっちかにしろ」
セルティガの九死に一生をえられたことに、嬉しさがこみあげる。
『無事でよかった』という本音は、吐いた息とともにどこかへかき消えてしまった。
「だって……死んじゃったかと思った」
そう呟くことで肩の力がぬけた。
驚くべきことに、思っていたよりセルティガを、かけがえのない仲間として認めている。
なぜこれほどセルティガの無事がうれしいのか。
生きていることにホッと穏やかな気持ちになれるのか。理解不能な感情に振り回される。
「思い込みで人を勝手に殺すな! たしかにかなりヤバい状況ではあったがな」
「さぞかし熱い鍋に放り込まれたんでしょうね」
おもわず思ってもいないような悪態を口走ってしまう嘘つきな唇。
「なんで熱い鍋なんだ?」
「よく言うじゃない。悪いことをした人って地獄へおとされたのち、グツグツと煮えたぎる大鍋に放りこまれるって」
「アホぬかせ! この俺が地獄におとされるわけがなかろうが。俺は善行の塊だ」
「まさか……図々しくも天国へ行くつもり? 善行の塊ってのも嘘くさすぎるわ。
嘘をつくと閻魔様に舌をひっこぬかれるわよ」
「何を言うか。さっき光りがパーッとみえ、川向こうで天女のごとく見目麗しい美女たちが、手まねきしていたところをお前が現世に引き戻したんだ! これを天国と呼ばずしてなんとする??」
それがもしかしたら地獄へのお誘いだとはチラリとも思わないあたりがセルティガらしいといえばらしい。
それにしてもお姉様系、しかもフェロモンたれながし、色気のある蠱惑的な美女が好みのセルティガらしい物言いといい、黄泉への入口を目の前にして、それでもエロエロ大魔神ぶりを発揮する。
あるいみ大物、怖いもの知らずの向こう見ずというべきか。
ま、これもセルティガなりの優しさなのだろう。
情けは人の為ならず。失意のどん底にある人に同情の手をさしのべることに他意はなく、いつか我が身が逆境の淵に立たされたその時、相手から救いの手が差しのべられることもあるのだろう。
今がその時なのか、そうでないのか。
セルティガはティアヌの自らを律するその姿勢から、『俺のために自らを責めるな』そう気遣って、あざとく戯けてみせている、ということは痛いほど理解できた。
「セルティガにとってこの上もなくパラダイスな世界じゃない。連れ戻してよけいなお世話さまだったようね」
それにありがたくのっておく。
「あのなぁ………。お前の中の俺のイメージって………」
文句を言い募ろうとした矢先。
「あれを見て!」
「光り、か?? っていうことは―――」
「出口よ」
はたしてそれは希望の光りとなるか、はたまた絶望への導きの光りとなるか。
浮遊術の落下速度をおとし、光り輝く光輪のなかへ二人はとびこんだ。
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