89 / 132
第2章 精霊条約書
魔道竜(第2章、38)
しおりを挟む
用心深いティアヌのことだ。
策を講じないままただ時を無駄にすごすわけにもいかず、立地条件などをもとに策をめぐらせる。
前方には一本道があるいがい道らしい道も見当たらなく、辺りは溶岩の堀がはりめぐらされ、それは見るものに威圧感をあたえ難攻不落の天然要塞さながらだ。
その道の先にはまったくもって不自然なことに、一本の朽ち果てた巨大な老木が溶岩の川面にうかんでいる。
奇絶怪絶なるその老木には、溶岩の赤々とした色をも照り返す金色の葉がおいしげる。
銀杏の黄葉すらもしのぐ、一葉ごとにまばゆい光沢、黄金色に輝いてみえる。
あれらすべてが金塊ならば、一生遊んで暮らせるだろう。
その光り輝く金色の葉により隠されるようにして、小さな果実が一つだけ実っている。
―――林檎?
これだけの距離ともなると、いかな金目のものに目敏いティアヌといえどもその果実の正体や、巻き付いたように縛り付けられているであろうセイラの安否の確認ですら不可能。
近くによって確認しようと思うのだが、これが敵の罠という可能性が濃厚である。
しかも逃げ場にてきした足場がこれだけとぼしいとなると、迂闊に近付けば背水の陣とばかりに退路をたたれるのは必至。
だがこのまま手をこまねいていても何かが変わるはずもない。
―――ならば!
意を決し、巨大な老木を見据える。
ややためらいがちに、一本道へと一歩をふみだした。
「これは明らかに敵の罠だ」
セルティガはティアヌの肩をつかんだ。
「セイラが捕らえられている可能性があるいじょう、ほかにどうしようもないわ」
「ならば作戦ぐらい考えてあるんだろうな? 無闇に真っ向から敵のフトコロへ飛び込むということは、それなりのリスクがともなうことでもある」
「わかっているわ。作戦っていっても今回ばかりはその場しのぎ。作戦をたててもそれがつうじるような相手でもないし。
それに作戦をたてようにも時間がなさすぎるわ。考えるだけ時間のロスってもんよ。
よって行き当たりばったりが今回の作戦、わかった?」
それを聞き、セルティガは深いため息をもらしたばかりか、表情にも落胆の色をにじませる。
「あのなぁ~、頼むからせめて作戦の一つもたてている…とかなんとか言ってくれ。
もし仮にセイラがニエとして相応しくない場合、お前とセイラの交換を迫ってくるかもしれん。そんな理不尽な交換条件を突き付けてくる可能性もあるんだぞ!」
セルティガにしては鋭いところをついてきた。
「言ったでしょ、覚悟のうえよ。セルティガに言われるまでもないわ」
今は守るべき人がいる。
我が身にふりかかるかもしれない先のことより、今助けたい人がいる。
「バカだな…お前。相手は創世記時代の怪物だぞ? 対等に渡りあえる相手じゃないんだ。大神官にもどうすることもできなかったそんな怪物に、どうやって一矢を報いるつもりだ? 魔法で退治できるものならとうの昔にされている」
セルティガの言っていることには一々腹のたつほどに一理ある。
しかし倒せないまでも好機をつくり、二人が安全なところまで逃げ延びる間の時間かせぎ低度なら。
しかもここはバルバダイの聖域。
バルバダイの加護のもと、その神秘的なパワースポットならではの立地条件という点においてもそれほど分が悪いわけでもない。
何より邪蛇が実体ではないことが救いだ。
「それもそうね、でも一矢報いる低度なら…手段はまったくないわけじゃないわ」
「無闇に突っ込んで犬死だけはゆるさんぞ。これは誰かを犠牲にしてまで続けなければならない旅ではないんだからな。たとえそこにどんな事情がからんでいたとしても」
「だからってセイラを犠牲になんてさせられないわ。恐らくこれは、私に対する試練なのよ」
「お前がのりこえなければならない試練なのか?」
「多分ね」
そう告げながら、ティアヌは一笑してみせた。
まるで¨それいがい方法がないのよ¨、そう告げるかのような儚げな微笑。しかし開き直ったのかと錯覚させるような、どこかしらに余裕すら感じられる。
「わかった。もう何も言うまい」
ティアヌはあの怪物に勝つ気でいるのだ。
ならば止めるなんてヤボなまねはするまでもない。
ティアヌの肩にかけられたセルティガの腕をさげさせた。
セルティガはあらためてこの小さな肩をみつめる。
小さいくせにやけに頼もしい背中。
だが所詮十四歳の少女の気勢。いつ挫けるともしれない。
「ここで待っていてくれても構わないわよ」
「笑止。大の大人が女の子に守ってもらいました…なんて言えるか! それにもしかしたら俺が役にたつかもしれん。これが俺自身、自らにかせる試練だ」
お前の守りたいものすべてを守ってやりたい、そう小さく呟き、セルティガはクシャクシャとティアヌの頭部を撫でまわした。
策を講じないままただ時を無駄にすごすわけにもいかず、立地条件などをもとに策をめぐらせる。
前方には一本道があるいがい道らしい道も見当たらなく、辺りは溶岩の堀がはりめぐらされ、それは見るものに威圧感をあたえ難攻不落の天然要塞さながらだ。
その道の先にはまったくもって不自然なことに、一本の朽ち果てた巨大な老木が溶岩の川面にうかんでいる。
奇絶怪絶なるその老木には、溶岩の赤々とした色をも照り返す金色の葉がおいしげる。
銀杏の黄葉すらもしのぐ、一葉ごとにまばゆい光沢、黄金色に輝いてみえる。
あれらすべてが金塊ならば、一生遊んで暮らせるだろう。
その光り輝く金色の葉により隠されるようにして、小さな果実が一つだけ実っている。
―――林檎?
これだけの距離ともなると、いかな金目のものに目敏いティアヌといえどもその果実の正体や、巻き付いたように縛り付けられているであろうセイラの安否の確認ですら不可能。
近くによって確認しようと思うのだが、これが敵の罠という可能性が濃厚である。
しかも逃げ場にてきした足場がこれだけとぼしいとなると、迂闊に近付けば背水の陣とばかりに退路をたたれるのは必至。
だがこのまま手をこまねいていても何かが変わるはずもない。
―――ならば!
意を決し、巨大な老木を見据える。
ややためらいがちに、一本道へと一歩をふみだした。
「これは明らかに敵の罠だ」
セルティガはティアヌの肩をつかんだ。
「セイラが捕らえられている可能性があるいじょう、ほかにどうしようもないわ」
「ならば作戦ぐらい考えてあるんだろうな? 無闇に真っ向から敵のフトコロへ飛び込むということは、それなりのリスクがともなうことでもある」
「わかっているわ。作戦っていっても今回ばかりはその場しのぎ。作戦をたててもそれがつうじるような相手でもないし。
それに作戦をたてようにも時間がなさすぎるわ。考えるだけ時間のロスってもんよ。
よって行き当たりばったりが今回の作戦、わかった?」
それを聞き、セルティガは深いため息をもらしたばかりか、表情にも落胆の色をにじませる。
「あのなぁ~、頼むからせめて作戦の一つもたてている…とかなんとか言ってくれ。
もし仮にセイラがニエとして相応しくない場合、お前とセイラの交換を迫ってくるかもしれん。そんな理不尽な交換条件を突き付けてくる可能性もあるんだぞ!」
セルティガにしては鋭いところをついてきた。
「言ったでしょ、覚悟のうえよ。セルティガに言われるまでもないわ」
今は守るべき人がいる。
我が身にふりかかるかもしれない先のことより、今助けたい人がいる。
「バカだな…お前。相手は創世記時代の怪物だぞ? 対等に渡りあえる相手じゃないんだ。大神官にもどうすることもできなかったそんな怪物に、どうやって一矢を報いるつもりだ? 魔法で退治できるものならとうの昔にされている」
セルティガの言っていることには一々腹のたつほどに一理ある。
しかし倒せないまでも好機をつくり、二人が安全なところまで逃げ延びる間の時間かせぎ低度なら。
しかもここはバルバダイの聖域。
バルバダイの加護のもと、その神秘的なパワースポットならではの立地条件という点においてもそれほど分が悪いわけでもない。
何より邪蛇が実体ではないことが救いだ。
「それもそうね、でも一矢報いる低度なら…手段はまったくないわけじゃないわ」
「無闇に突っ込んで犬死だけはゆるさんぞ。これは誰かを犠牲にしてまで続けなければならない旅ではないんだからな。たとえそこにどんな事情がからんでいたとしても」
「だからってセイラを犠牲になんてさせられないわ。恐らくこれは、私に対する試練なのよ」
「お前がのりこえなければならない試練なのか?」
「多分ね」
そう告げながら、ティアヌは一笑してみせた。
まるで¨それいがい方法がないのよ¨、そう告げるかのような儚げな微笑。しかし開き直ったのかと錯覚させるような、どこかしらに余裕すら感じられる。
「わかった。もう何も言うまい」
ティアヌはあの怪物に勝つ気でいるのだ。
ならば止めるなんてヤボなまねはするまでもない。
ティアヌの肩にかけられたセルティガの腕をさげさせた。
セルティガはあらためてこの小さな肩をみつめる。
小さいくせにやけに頼もしい背中。
だが所詮十四歳の少女の気勢。いつ挫けるともしれない。
「ここで待っていてくれても構わないわよ」
「笑止。大の大人が女の子に守ってもらいました…なんて言えるか! それにもしかしたら俺が役にたつかもしれん。これが俺自身、自らにかせる試練だ」
お前の守りたいものすべてを守ってやりたい、そう小さく呟き、セルティガはクシャクシャとティアヌの頭部を撫でまわした。
0
あなたにおすすめの小説
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた
黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。
そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。
「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」
前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。
二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。
辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。
【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています
空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。
『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。
「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」
「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」
そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。
◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる