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第2章 精霊条約書
魔道竜(第2章、41)
しおりを挟むと言った手前、それを貫かねばならない。
そこがデキル女の辛いところである。
「ま、なんとかなるでしょう。いざとなれば時空転送で脱出するしね。それより私のことは気にせずセイラのこと頼んだわよ」
「おぃ、ちょっと待て。ならば俺が行動を起こすまでもないんじゃないのか?お前が俺たちを時空転送で脱出させれば―――」
「今は無理。その前に邪蛇に感づかれでもしたらセルティガ、確実にアンタがまっさきに殺られるわ」
「何を根拠に??」
「女の勘よ。私が邪蛇ならまっさきにアンタを殺るわ」
「そんなに俺が憎いのか??」
「聞きたいわけ?素直な気持ちを答えてやらなくもないんだけど?」
「いや……やめとく」
「それが賢明ね」
時空転送(ポルカ)とは、闇の精霊ブラッドの加護を必要とする呪文。
闇と一口にいっても様々な闇が存在し、不穏な精霊界の情勢と条約書の関係もあり、現在邪蛇とブラッドは同じ闇を共有している形になる。
しかしブラッドと条約を結びなおせば綻びかけた不安定な関係そのものが改善され、ブラッドの支配下にある闇じたいが形状のことなる闇となる。
つまり同じ闇は闇でも日向にできた日陰、光りのさしこまぬ闇ほどに違う、ということだ。
俄か仕込みの作戦をうちたてたところで、数百メートルほどの距離をおいて立ち止まる。
すると腕組みをし、待ち構えていたあばら屋の女主人は溜め息まじりに頬へと手の平をすべらせた。
「最近の娘は…お待たせしました、ぐらい言えないものかしら?」
「待てと頼んだ覚えはないんだけど?」
あばら屋の女主人の後方には巨大なオブジェのごとく黄金色の葉をしげらせた老木が。
見たところ推定、樹齢八百年といったところか。おそらくあの場所におさまっていたのはバルバダイの神像のはずだ。
――――あれ? ちょっと待てよ………。
この街がおかしくなりはじめたのは確か二年前。これほどの短期間で木が樹齢八百年っておかしくないか?
もし仮にこの木がティアヌの仮説をくつがえすことができないとすれば聖木と断定してほぼ間違いない。
たかが二年だ。されどそのたかが二年でコレ???
しかるに魔界の特別な木だとしてもこれほど急激に成長できるものなのだろうか?
もう一つの疑問。それは、はじめての犠牲者となったあのあばら屋の女主人。その当初、二年前のあの場所には邪蛇の神像があったという。
これは当時の調書をもとに、POLICE(ポリス)が炎の聖域へ調査に入ったとか。確かに神像はあったらしい。ゆえにそこは裏付けされている。
その邪蛇の神像はどこに?
それにこの聖木。人間、二・三十人をニエにしたところで、これほどの急激な成長はできないだろうし、この木すべてにおいて目を瞠るものがある。
目をこらせば葉の一枚一枚には人面さながら、目鼻立ちのような突起物が確認できる。
明らかに木を成長させる養分は他にある。それも大量のエナジーを発するものだ。
と、ここへきて、思わずハッとして息をのんだ。
「セイラ!」
その呼び掛けにセイラは答えなかった。
「セ…イラ…??」
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