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第2章 精霊条約書
魔道竜(第2章、40)
しおりを挟む緊迫しはりつめた空気のなかを額に冷ややかな汗をにじませ、それぞれの得物を手に、一歩を踏みしめながら歩く。
熱気をおびた体感温度はすでに半端ない。
しかし魔法の護符、漆黒のマントを羽織っているおかげで多少なりともしのげる、といった感じだ。
がしかし、果たしていつまでこの灼熱に耐久できることやら。マントに一縷の望みをたくす。
しかしながら、こんな熱い所にて長時間ものあいだ水もあたえられず、体温をさげるすべもなく、生身の人間が無事にいられるものなのだろうか?
一歩後ろを歩くセルティガにしたって熱さ寒さにすぐれた万能をほこる鎧(アーマー)、魔法の護符(マジックタリスマン)の加護をうけていてもなお、ビー玉サイズの大粒の汗が額といわず全身をぬらしている。
セルティガの辿ってきた道をふりかえれば、乾いた地表が点々と湿り気をおび、それは一瞬にしてくゆる白煙となって蒸発してしまう。
となるとあの中心部、老木の真下は、想像を絶する灼熱地獄だと推測される。
当初は木には根がないものとふんでいた。なぜなら溶岩の河に根を張り巡らせるなど常識的にありえないことだからだ。
ならばあの巨木をささえる土台は一体なんなのか?
宙に浮いている?
それとも溶岩の河に浮かべてあるとか?
どれも違う気がする。溶岩の川面に巨木な老木が不自然なまでにたたずむ。いっそのこと、溶岩が地表のかわり、と考えた方がしっくりとくるではないか。
そういえば…以前《魔族全集百科》という閲覧禁止の書物に不思議な木のことが書かれてあった。
異世界『魔界』には、人のエナジーを糧に成長をする聖木(ジュボック)なる木があると。
聖木が十分に成長をとげると一つの果実を実らせる。
その一本の木から一つしか収穫できない黄金の果実は、魔界でもかなりの価値のあるものらしい。
ということは、その木をこの世界に移植したとも考えられる。時空転送(ポルカ)をもちいればなんのことはない。理屈的にも可能だ。
ならばあれはどうだ。今回のケースにあてはめてみると、栄養源は少数の人間だけの生気(エナジー)ではまかなえない成長ぶり。
生気…というより他のモノ――――例えば……溶岩を糧にして……?
「……………」
そこでティアヌの歩調がゆっくりと停止した。
「どうした? 腹でも痛むのか??」
まったくその場の空気をよまないデリカシーのなさ。
だがティアヌは何も聞かなかった風をよそおい、不敵な笑みを浮かべる。
「試してみたいことがあるの」
「試す?何を??」
「これだけの溶岩がありながら、久しく噴火しないその訳ってヤツをね」
「火山が噴火しない訳?」
「どう考えてもおかしいじゃない。溶岩はいつ噴火してもおかしくないほどの十分な量は足りている」
「そ…ぅ…言われればそうだな」
「突破口は自らの力で切り開くもの、そうでしょう?」
「よし! 俺にも手伝わせろ」
勢いこみ、ご自慢の魔刀『風斬丸』に手をかけた。
「もちろん、そのつもりよ」
しかし、如何せん魔刀風斬丸といえども一太刀をあびせたところで邪蛇を一刀両断するにはいたらないだろう。運が良ければかすり傷を負わせることはできても、悪ければ逆襲されこちらが後退する間もなく全滅が危ぶまれる。
この推測が正しいのか立証する手立ては実戦のなかで試すいがい方法はない。
だがもし万が一、判断を誤ればセイラだけでなくセルティガまでも巻き込み、溶岩の河の藻屑となることは必至。
……ってヤメヤメ☆!物事を悪い方にばかりかたよって考えるのは私の悪い癖だ。なるようにしかならないのがこの世の理。
女は愛嬌より度胸!
「セルティガ。落ち着いて聞いてちょうだい。いいこと? 私が合図するまでおとなしくしていて。私が合図したのち、すみやかに絶妙のタイミングで、セイラを縛り上げているロープを切ると同時に、そのままセイラを担いでこの洞窟から退避すること。これは船長命令よ」
「お前は?」
「邪蛇をこの島から追い払う」
「一人で大丈夫なのか?」
セルティガの思わぬ一言をきき、ティアヌはメンをくらう。
できるのか、そう聞かないあたりセルティガのティアヌに対する信頼度のあらわれというべきか。
ちょっぴり面映ゆい。
できない、なんて言えるわけがない。これだけ『できる』と信じてくれる人がいるのなら尚のこと、不可能も可能にかえなくては。
「もちろんよ」
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