魔道竜 ーマドウドラゴンー

冰響カイチ

文字の大きさ
102 / 132
第2章 精霊条約書

魔道竜(第2章、51)

しおりを挟む


たしかに見た目で人を好きになるなんてばかげている。



見た目とはその人の好きな好みには違いないが、それだけでは恋にはいたらないだろう。



そこに何かしらの要素が加わって恋におちるのかもしれない。


例えば、ふとした瞬間の不意打ちの笑顔・言葉、人様々だ。



ある人はフィーリングとも言うし、人によってそこは感じ方も違ってくる。



恋とはなんの気なしにできてしまった吹き出物、一度おちれば不治の病、どんな欠点をも美化してしまうそれは恐ろしい盲目だという人もいた。



もしも、百年の恋もさめる現実をつきつけられたとき、人はそれでもその夢に酔いしれることができるのか。



それは激しい情熱のあとの燻った燃えカスのようだ。



人を好きになるってなんだろう。



それでも、よりにもよってそこでセルティガの名前を出されるとは。



今のティアヌにとってセルティガはごく身近な異性には違いない。



やはり私も女の子。強い異性には惹かれる。


女の子扱いされたり、体をはって守られたりすればことさら勘違いも生じるだろう。



時折ここぞという場面で垣間見せる頼もしさ。


時々ではあるが、胸に不可思議な痛みをはしらせる。



ティアヌはそっと胸に手の平をおしあててみる。



早鐘を打つ鼓動が何かを告げていた。



けれど、ティアヌはそれに蓋をして気付かないふりをする。



あの口の悪い、ましてや見るからに女癖の悪そうなセルティガに恋をする???



嫌いではないが、邪蛇のいう『好き』の意味からしてこの気持ちはことなる…と思う。



自身と向き合うって…とても難しいことだ。



「これですべてを話したわ。そろそろあなたの返事をきかせて」



話題が超難問からそれるとティアヌはホッとして息をつく。



今はセルティガのことをどう思っているのかなんて考えたくもなかった。



「返事……随分と急ぐのね」



「急ぐというよりあなたの気持ちのほどを聞きたいの」



口約束ではまだ信用するまでには無理がある。なにせ相手が邪蛇なのだ。


創世神話に登場する悪神と取引をするなんて信用する要素がそこにはまるでないにひとしい。



「船員の安全は本当に保障してくれるのよね?」



「もちろん。船にその身があるかぎり」



これまで冒険者たちの侵入をことごとく拒み、あらゆる妨害を企てその毒牙をもって手にかけてきた邪蛇。



その邪蛇がこうして取引をもちかけ、航海の安全を約束している。



もとより妨害するつもりならば、こんな取引じたい無用。先ほどの話しを鵜呑みにすれば疑ってかかるところは一つもない。


邪蛇は大神官を助けたいがため。ティアヌは航海の無事と船員の安全が確保されればそれでよい。



心配ごとがなくなれば、他のことに集中できる。それが邪蛇のもちかけてきた取引の狙いなのやも。



この取引は、ティアヌがそれに集中し、無事にコマをすすめるために邪蛇が用意した安全という名の取引みたいなものだ。




―――信じて――みようか、な?




まずは相手を信じるところから取引ははじまるような気もする。



「商談成立、あなたとの取引に応じましょう」



「そぅ。ならばこれより先、魔族を召喚したりしてあなたたちの行く手を阻むことはしないと約束するわ。


きっとティアヌのことだから、それだけでは私を心底信用できない、でしょう? だから取引をかわした証しとして私の名を教える」



まさかそこまでしてくれるとは思わず、ティアヌの口から「えっ!?」ともれた。



「私の名前はエイミル。そして呪名(じゅな)はセウシルよ」



「…なっ??」



邪蛇みずからその名をあかしてくるとは予想外だった。



呪名とは本来魔道をあつかいものにとって誰にも知られてはならない秘密の名前だからだ。



「これで信じてくれた?」



それをみずからあかす行為。



「信じるしかないじゃない」



邪蛇はティアヌにその名をあかすことで名前による支配権をあたえたのだ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた

黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。 そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。 「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」 前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。 二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。 辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...