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第2章 精霊条約書
魔道竜(第2章、50)
しおりを挟む邪蛇は唇をかたく結び、言葉をつまらせた。
明らかにそれまでとは違った雰囲気にティアヌの表情もかたくなる。
邪蛇はティアヌを見据え、一息つくと言葉をつむぎだした。
「彼を自由の身にしてほしい」
彼?
「彼はね、神と同化してしまったの。
次の大神官があらわれたあの時、本来ならば自由の身となるはずだった」
邪蛇のいう彼とは、おそらく初代大神官のことだろう。
………って、あれれ?矛盾して???
「ちょっと待って! 自由の身ってまさか………」
邪蛇が大神官にこだわる理由。それはここにある?
「本当に察しのよい娘ね。そうよ、彼は神……いえ、黒竜に飲み込まれてしまったのよ。このままでは永遠に彼を助けだすことはできないの」
まるで、かつて二人が親密な関係で結ばれていたかのような言い草。
恋人? いや、よくよく考えてみればありえないことではない。
「伝えられた事すべてが真実とはかぎらない。そう思わない?」
あれらは真実ではないと?
なにより驚くべきは、邪蛇と大神官は互いに想いをよせ、愛しあう関係にあった?
だからなのか。邪蛇が大神官に執着するのは。
「あら、何かしら…あからさまなその目。
人を好きになるって理屈じゃないのよ。恋は頭じゃなくハートでするもの。
ある時気付いたら、あの人を愛する気持ちだけが私を支え、あの人も同じ気持ちだった。ごく自然な成り行き、ただそれだけのことよ。
同じ女同士なら、わかるでしょ?この気持ち」
「…………」
頭では理解できるが、いざ自らに立場を置きかえてみると、そこまでできる想いの力、その心が今のティアヌにはまだ理解できない。
邪蛇は愛する人のために美しい容姿をすて、蛇へと姿をかえた。
それほどの想い。
「ヤダあなた…人を好きになったことはないわけ?」
「あるわよ! 失礼ね!」
すべて片思いで終わったけど。
は、のみこんで告げないでおく。雰囲気的にそれを告げるべきではないような気がしたからだ。
「さっきの彼………」
「セルティガのこと?」
「そぅ。もしも彼と恋に落ちるようなことがあれば、今の私の気持ちも少なからず理解できるはずよ。
いつも一緒にいたはずの人が遠くへ行ってしまう。すると気付くわけよ。
ただ恋して、ただ切なくて。
彼がそばにいてくれるだけで幸せ、そんな女の気持ちにね」
あのセルティガに特別な感情をいだく?
この私が!?
それこそまさに青天の霹靂。
落雷を直撃して、どこかおかしくしたとしても想像もできない。
『好き』になる?
ありえなすぎて笑えないじゃない。
そう言えば……クラスの友人がこんなことを言っていた。
『どんなイケメンも年をとれば、どこにでもいるただのおじさん。イケメンだとか見た目で人を好きになるなんておかしいよ』と。
あの時、私はなんと答えたのか。
恋は理屈じゃない。頭でもなくハートでするのよ。
さすが亀の甲より年の劫。言葉の重さがました。
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