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第3章 精霊王
魔道竜(第3章、13)
しおりを挟む「これか? というより、これは樹なのか?」
セルティガは不思議そうに首をかしげる。
「そ。これが精霊樹。私も実物を見たのははじめてよ」
木を隠すなら森の中。
けれどこれが特別な木であることは誰の目にもわかる。
精霊樹とは、精霊の宿り木である。
特徴的なのが白紫色の葉。つまりは、葉のひとつひとつが水晶でできているのだ。
夜露で濡れた淡い紫の葉が昇りはじめた太陽光をうけ燦然と煌めきをはなつ。
「ほぅ、キレイなものだ。ひとさしの小枝だけでも売ったら金になりそうだな」
「セルティガ、あなた、最近そればっかね。もしやお金に困っているの?」
「いゃ。そういうわけじゃないがーーーー」
「まぁ、事情は人それぞれ。勘ぐる気もないわ。でもセルティガ。あの小枝ひとつ折っただけで世界が終わるのよ」
するとぎょとした顔つきになる。
「それはどういう意味だ?」
「神話では、ある者がその枝をうっかり折ってしまったそうよ。すると大地震がおきて大地は泥の海になってしまったとか」
「泥の海、か。想像もできんが」
「諸説あるけど、精霊樹の根は地層の核にまでおよんでいるからだとも。ま、密接に大地と結びついている樹ということだけは間違いないわ」
「なるほどな」
しきりに神妙にうなづく。
「で、これからどうすればいいんだ?」
コボル諸島という名称が出たときからティアヌの脳裏にはこの精霊樹が真っ先に浮かんだほどだ。
木の精霊グリビアンが宿るのはこの木以外ほかに考えられない。
「下がっていて」
セルティガを後方に下がらせ、ティアヌは精霊樹へと歩き出す。
懐から取り出し、黒布を掲げる。
「木の精霊、大地と人の絆を紡ぐ精霊よ、我の御前に姿を現したまえ」
すると風が応えた。
サァァァーーと疾風が吹き荒れる。
さわさわと葉ずれを鳴らし梢を打つ。しゃらしゃらと風鈴のように心地よい音色を奏でる。
「!?」
さぁ、いよいよグリビアン、御大のお出ましだ。
【時を紡ぐ人の子よ。汝、吾の力を欲するか?】
「はい」
葉ずれのような囁きだった。
もしかしたらセルティガの耳には届かないほどの。
【ならば吾の力を与えよう】
「ぇ?」
ここは陸地であるにもかかわらず突如目の前に現れたのは大ハマグリ。
口をあけ、泡を吐く。
「!?」
シャボン玉のように泡だった気泡はポコポコと音をたて、やがて、七色に輝く繊細なガラス細工のようなオーブが風に身をゆだね、ふわり、ふわりと次々に舞い上がっていく。
夢のように美しい光景に目を奪われていると、その泡のむこうに蜃気楼のように泡で形つくられた神殿が。
これが魔道書で有名な『夢幻神殿』のようだ。
その神殿の前には祭壇らしきものが。
「これね」
ここであってここにはない夢幻の神殿へと歩みをすすめる。
たった一歩すすめただけでも見える景色が変わる。奥に滝のようなものを確認できた。
飛翔する片翼の精霊。番をみつけると、片翼の伴侶の力を得て、本来の力を発揮し、大地の地層深く、根っこに新たな命を芽吹かせるという。
精霊界は謎だらけだ。
【よく来た。これより調印をおこなう】
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