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第3章 精霊王
魔道竜(第3章、15)
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船に戻ると再び航路を修正し、再びエンタプルグへと進路をたどる。
常に羅針盤の針は北東、虚海をしめしている。
「戻るんですか?」
「そぅ。リセットポイントまで。つまりはエンタプルグが見える地点てことよ」
「……はぁ?」
副船長が首をかしげる。理解不能といった間のぬけた顔つきだ。
それもそうだろう、うんうんと頷く。
「順番があるのよ、順路、わかる?」
「……??」
説明が簡略しすぎた?
首が半回転しそうな勢いで首をひねる。
付けたそうとするとティアヌの背後から疑問符がなげかけられた。
「何でだ?」
最近、妙に背後に張り付いているアイツだ。
「いつもながら端的ね。ーーふぅ。説明が面倒ね。少しは自分で考えなさい」
あのオツムは空っぽなのだろうか。
自分で答えを導きだそうともしない。
人は考えることをやめると老いるという。
「あのな、俺にそんな脳ミソがあると思っているのか? おしえてくれ」
こうあっさりオツムの弱さを認められたら答えないわけにはいかない。
きっと根が素直すぎるのだろう。憎めないヤツだ。
「仕方がないわね。あのね、常に羅針盤には北東を示すよう設定してある。つまりは、次の地点に向かうためにはリセットを設定した地点に戻らなければならないの」
「それがエンタプルグだってことか?」
「そぅ! よぅく頑張って答えをひねりだしたわね、偉いわ」
ぱちぱちと手のひらを打つ。
「バカにしてるだろ」
「ぅぅん。ホント、偉いわ」
違う意味で。
皮肉っていると副船長が感服して頷く。
「でも、それ、凄いですね」
その眸はティアヌの手のひらを見つめている。
「ぁぁ、これ? 自作の羅針盤よ」
ひらひらと振ってみせる。
中古の羅針盤を購入し、さらに正確に目的地を示すよう魔法でアレンジしてみた。
魔道の初歩技術を応用したものだが、基礎知識と理屈さえ理解していれば誰にでも作れるような代物だ。
「自作? これが!? コボル諸島まで迷わずに行けましたよね??」
青年は驚いて目をむきながら羅針盤を凝視する。
「そう設定してあるから当然でしょう?」
当たり前のことだ。そのためのものだし。行き着くために、たどり着くようするのはごく自然なことだと思うが。
「いいぇ。コボル諸島のみならず目的地へ行こうとしてもたどり着けない、なんていうのは船乗り仲間では通説ですよ。たまたま難破したりしてたどり着けた、という話ならよくききますけど」
するとセルティガが感慨深げにそっと呟く。
「行こうとしてもたどり着けない島、か」
「つまりは招かれざる者、ってことね」
それは精霊による篩にかけられた選別。生きるに値するか否か。
生かされた者には理由がある。
それをいかせるか否か。
やはり命は重いのだ。
「…………」
行き着けた者には理由がある。
精霊王に出会えた者にも理由がある。
すべてに理由があるのだ。
「うまいこと海流にのれませんね」
操舵する手に苛立ちがにじんでいる。
荒波と難所ばかりだ。無理もない。
「仕方がないわ。たかだか人間の力で自然がどうこうなるはずもないもの。羅針盤の針の動きを注視して。北東を目指してさえいればリセットポイントに自然とたどり着くわ」
ぽん、と肩を叩いて労をねぎらう。
「了解」
エンタプルグへ戻るには来たときとは海流が異なるため五日をようした。
五日目の朝。
「船長!」
やがて海の色が変化しはじめた。領海域を越えたのだ。
「間違いないわ。虚海よ」
黒き海、虚海。またの名を黒海、死の海とも呼ばれる。
虚海で一番気をつけなければならないのは太古よりの巨大生物マグマドン。
現存する生き物のなかでは最も古い種族の末裔ともいえるだろう。
異形な姿形をした彼らは創始よりの形状を色濃くのこし、二枚歯の鋭利な歯と背鰭が特徴的で、船ですら瞬時に真っ二つにできる。よって力も相当なものだろう。
そんな彼らは意外にも補食する対象は同族。共食いを繰り返し子孫を繁栄させてきた。
伝承では、彼らの骸からは鼻を覆っても鼻につく異臭が漂っていた、とある。
何人たりとも脚を踏み入れてはばらない死の領域。
「…………」
その黒き海にて水の精霊ザルゴンが待っている。
その虚海の真っ只中にはラグーンへと通じる唯一の水門、水の神殿『竜宮』があるらしい。
この先おそらくマグマドンがこのマディソン号の侵入を阻むだろう。
縄張り欲の強いマグマドンのことだ、間違いなく彼らのテリトリーを侵したものに宣戦布告することなくいきなり襲いかかってくるだろう。
ひとたび囲まれればなす術もなく時の神殿を目の前にして、一瞬にして海の藻屑と化すだろう。
「ぅーん」とうなる。
もうひとつ気がかりなことがある。
あと残りの精霊、三人のうち、風と土の精霊。
風の精霊は風神として崇められて、土の精霊は大地の象徴、芽吹かせる命の象徴。
風は土をはこび、大地を耕す。
その関係性なら理解できる。
今ティアヌが調印できたのは火と闇と光、緑の精霊の四つ。
たった四つだ。
「いいこと? ここからは静かに、できるだけ物音は禁物よ、いい?」
眸と眸をからませ、頷く。
ここから先は何が起きるともしれない。
「安全領域を越えぞ」
誰となしに呟かれた。
常に羅針盤の針は北東、虚海をしめしている。
「戻るんですか?」
「そぅ。リセットポイントまで。つまりはエンタプルグが見える地点てことよ」
「……はぁ?」
副船長が首をかしげる。理解不能といった間のぬけた顔つきだ。
それもそうだろう、うんうんと頷く。
「順番があるのよ、順路、わかる?」
「……??」
説明が簡略しすぎた?
首が半回転しそうな勢いで首をひねる。
付けたそうとするとティアヌの背後から疑問符がなげかけられた。
「何でだ?」
最近、妙に背後に張り付いているアイツだ。
「いつもながら端的ね。ーーふぅ。説明が面倒ね。少しは自分で考えなさい」
あのオツムは空っぽなのだろうか。
自分で答えを導きだそうともしない。
人は考えることをやめると老いるという。
「あのな、俺にそんな脳ミソがあると思っているのか? おしえてくれ」
こうあっさりオツムの弱さを認められたら答えないわけにはいかない。
きっと根が素直すぎるのだろう。憎めないヤツだ。
「仕方がないわね。あのね、常に羅針盤には北東を示すよう設定してある。つまりは、次の地点に向かうためにはリセットを設定した地点に戻らなければならないの」
「それがエンタプルグだってことか?」
「そぅ! よぅく頑張って答えをひねりだしたわね、偉いわ」
ぱちぱちと手のひらを打つ。
「バカにしてるだろ」
「ぅぅん。ホント、偉いわ」
違う意味で。
皮肉っていると副船長が感服して頷く。
「でも、それ、凄いですね」
その眸はティアヌの手のひらを見つめている。
「ぁぁ、これ? 自作の羅針盤よ」
ひらひらと振ってみせる。
中古の羅針盤を購入し、さらに正確に目的地を示すよう魔法でアレンジしてみた。
魔道の初歩技術を応用したものだが、基礎知識と理屈さえ理解していれば誰にでも作れるような代物だ。
「自作? これが!? コボル諸島まで迷わずに行けましたよね??」
青年は驚いて目をむきながら羅針盤を凝視する。
「そう設定してあるから当然でしょう?」
当たり前のことだ。そのためのものだし。行き着くために、たどり着くようするのはごく自然なことだと思うが。
「いいぇ。コボル諸島のみならず目的地へ行こうとしてもたどり着けない、なんていうのは船乗り仲間では通説ですよ。たまたま難破したりしてたどり着けた、という話ならよくききますけど」
するとセルティガが感慨深げにそっと呟く。
「行こうとしてもたどり着けない島、か」
「つまりは招かれざる者、ってことね」
それは精霊による篩にかけられた選別。生きるに値するか否か。
生かされた者には理由がある。
それをいかせるか否か。
やはり命は重いのだ。
「…………」
行き着けた者には理由がある。
精霊王に出会えた者にも理由がある。
すべてに理由があるのだ。
「うまいこと海流にのれませんね」
操舵する手に苛立ちがにじんでいる。
荒波と難所ばかりだ。無理もない。
「仕方がないわ。たかだか人間の力で自然がどうこうなるはずもないもの。羅針盤の針の動きを注視して。北東を目指してさえいればリセットポイントに自然とたどり着くわ」
ぽん、と肩を叩いて労をねぎらう。
「了解」
エンタプルグへ戻るには来たときとは海流が異なるため五日をようした。
五日目の朝。
「船長!」
やがて海の色が変化しはじめた。領海域を越えたのだ。
「間違いないわ。虚海よ」
黒き海、虚海。またの名を黒海、死の海とも呼ばれる。
虚海で一番気をつけなければならないのは太古よりの巨大生物マグマドン。
現存する生き物のなかでは最も古い種族の末裔ともいえるだろう。
異形な姿形をした彼らは創始よりの形状を色濃くのこし、二枚歯の鋭利な歯と背鰭が特徴的で、船ですら瞬時に真っ二つにできる。よって力も相当なものだろう。
そんな彼らは意外にも補食する対象は同族。共食いを繰り返し子孫を繁栄させてきた。
伝承では、彼らの骸からは鼻を覆っても鼻につく異臭が漂っていた、とある。
何人たりとも脚を踏み入れてはばらない死の領域。
「…………」
その黒き海にて水の精霊ザルゴンが待っている。
その虚海の真っ只中にはラグーンへと通じる唯一の水門、水の神殿『竜宮』があるらしい。
この先おそらくマグマドンがこのマディソン号の侵入を阻むだろう。
縄張り欲の強いマグマドンのことだ、間違いなく彼らのテリトリーを侵したものに宣戦布告することなくいきなり襲いかかってくるだろう。
ひとたび囲まれればなす術もなく時の神殿を目の前にして、一瞬にして海の藻屑と化すだろう。
「ぅーん」とうなる。
もうひとつ気がかりなことがある。
あと残りの精霊、三人のうち、風と土の精霊。
風の精霊は風神として崇められて、土の精霊は大地の象徴、芽吹かせる命の象徴。
風は土をはこび、大地を耕す。
その関係性なら理解できる。
今ティアヌが調印できたのは火と闇と光、緑の精霊の四つ。
たった四つだ。
「いいこと? ここからは静かに、できるだけ物音は禁物よ、いい?」
眸と眸をからませ、頷く。
ここから先は何が起きるともしれない。
「安全領域を越えぞ」
誰となしに呟かれた。
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