魔道竜 ーマドウドラゴンー

冰響カイチ

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第3章 精霊王

魔道竜(第3章、16)

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つん、とマントをひかれた。

「何!?」

「何をそんなに考えている」

セルティガだ。勘ぐるようにティアヌの表情をうかがう。

「しっ!  ーー色々とね。それよりマグマドンは?」

「今のところ襲ってくる気配はない」

「でしょうね。踏み入れたばかりだもの。向こうも警戒しているはずよ」

「だろうな」

小声でのやり取りだとしても、警戒せねばならばい。

なにせ、生きとし生けるものが脚を踏み入れてはならない虚海、旅の最終目的地なのだ。

黒い墨汁のような塩水は深海をのぞむことなどできない。
マグマドンをおいては。

マグマドンが虚海で生息できるのは、神が大量にながした血を体内にとりこんだため、とも。

海面を朱一色に染め上げるほどの神がながした大量の血は虚海だけでなくマグマドンを異形化させ、海までも黒く変色させたという。

ならば神の怒りがおさまれば海もマグマドンももとの姿に戻せるのだろうか。

「静かね」

こそこそとふる。

「風もないしな」

セルティガにいたっては堂々としていた。



波風もたたぬ黒き海を帆をしぼませ櫂をこぐ。

力自慢の船員たちが総出で懸命に櫂をこぎ、ひたすら羅針盤の示す北東をめざす。

「!?」

緊張がみなぎった。

張りつめた船内では押し黙ったように誰も口を開くものとてない。

物音をたてればマグマドンが侵入者を排除しに大群をさしむけてくる。

多くの冒険者がこの虚海で挫折した。

船は真っ二つにされ、亡骸は本国の土を踏むことすら叶わずマグマドンの腹の中で永眠してきた。

命からがら逃げ延び、片手や両足を失ったという冒険者もいた。

生きながらえた命に感謝しつつ、未だに冒険書は綴られている。

初本から数え三十七巻。おそらくこのマディソン号での冒険が本にしたためられれば三十八巻目になるはずだ。

仕組みはこうだ。

冒険者にはかならずトレジャーレコーダーなる発信器がくばられ、その履歴をもとに本がしたためられる仕組みになっている。それも生存者ありきの話ではあるが。

船長の采配ミスで生存者なし、という不名誉きわまりない終わりは飾りたくはない。

きっと誰もが黒竜が守るとされる宝で帰郷に錦を飾りたいはずだ。

ごくり、と嚥下する。

その音すらももはや憚れる。

櫂が水を切るたびに表情が強ばっていく。

水面を打ち付けかき混ぜるような動きをする櫂の音は、おそらくすでにマグマドンに察知されている。

虚海へと侵入してから数十分が経過した。

「!?」

海に異変が!

黒い海面が漆黒に上書きされていく。

それは徐々に範囲を広めていった。

「来たぞ!」

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