125 / 132
第3章 精霊王
魔道竜(第3章、20)
しおりを挟む「もったいない。捨てるぐらいなら俺にくれっ」
恨めしそうに睨めつけるセルティガ。
そりゃ、世にも珍しい精霊からの授かり物。未知なる力が秘められてはいるでしょうけど。
ティアヌは盛大なる嘆息を吐いた。
「捨てる? あり得ないわ。正確には、こうするために授けられた、というべきかしら。ほら、聴こえない?」
ややもするとボコボコと異音が響きだす。
「何だ? 何があるってんだか、どれ」
おょょ、とガン見する。
船底を見やったセルティガはティアヌが言わんとしている意味を目の当たりにすることになる。
「何だ? このモクモクは!? もしや海が煮えたぎっている?」
「それはどうかしら? よぅくご覧なさい」
「ぇ」
ふつふつと海水から白い蒸気のようなものがあがっている。
「煮えたぎっているんじゃないのか?」
「だといいわね? だとしたら、今日はお腹いっぱいごちそうが食べられそうね、良かったわねセルティガ。今夜はマグマドンの丸茹よ!」
ぎょとした顔つきで首をふる。
「は? んなもん不味いに決まってーーーー」
一瞬気をとられた、その時だった。
「危ないっ!!」
「!!」
溺れる船員の背後からにじり寄る黒い巨体。
背後をふりかえる。
「……ぇ……」
まさに、マグマドンは浮き輪ごと船員に食らいつこうと歯をむきだした。
「ぎゃぁっっっっーーーー」
大きく開口された口。ギザギザに尖った重なりあう歯。内部は外装とは違い、生き物らしい薄い朱だ。
殺れた、そう誰もが覚悟した。
「!!」
そろりと眸を開く。
まだ、そこ、にいる!
「な、なんて命冥賀なやつなんだっ」
「じっとしてろ、今引き上げてやるから」
男も船員たちにも目に涙がにじんでいる。
「た、頼む!」
マグマドンは開口したまま不自然に停止している。
助けるなら今のうちだ。そう判断を下した船員たちは総出で海水をただようヒモをたぐりよせる。
「おぃ、浮き輪のヒモを! 引っ張れ!」
「なぁ」
おずおずとセルティガが視線とともに問う。
「何?」
「助けてやらないのか?」
「救出なら彼らにまかせておけば心配ないわ」
「そうじゃなくて!」
「黙って見てなさいよ」
ウギャオォォォォォーーーーッ
絶叫。いや、マグマドンの断末魔だ。苦痛のため巨体を九の字にくねらせる。
が、海面下では水温の急激な変化によって二枚歯が焼かれた。
「今のうちよ」
「ぉぉ!」
その隙に浮き輪を手繰りよせ、甲板にあつまった船員たちによって無事にひきあげられた。
「大丈夫か?」
肩で荒い息をはくずぶ濡れの男は、力なくうなづいた。
「ーーっつ痛ぅ」
支えられた腕に激痛が走った男は苦痛そうに顔をゆがめる。
「どうした!? ここか? 待ってろ」
船員が慌てて袖をまくりあげる。
「真っ赤?」
「いや、これは凍傷だ」
「凍傷!?」
凍りつき、一部分だけが赤く腫れ上がっている。
「よく見ろ、これは凍傷だ。一見火傷のように見えるが間違いない」
皮膚の外傷は火膨れのようではあるが、ただの火傷ではないのは一目瞭然。
爪の先から肘にかけて霜のようなものが張り付いている、
「でも何で真冬の極寒でもないのに?」
その謎を解くヒントは海にある。
「海を見ろっ! 氷っているぞ」
立ち上がり辺りを見回す。
「マジかょ…………」
「海が氷るなんてーー初めて見たーー」
海面は不自然に凍りつき、海面下のマグマドンも氷の彫像にように微動だにできずにいる。
「あのマグマドンさえカチカチに凍っているぞ」
「なら、俺たちは助かった、のか?」
「……わからん……」
重い沈黙が流れた。
安全を確保できたかも定かではない。
ただわかっていることは、あのマグマドンが海水ごと氷ついている、ということだけだった。
「おぃ」
つん、と船員の衣服がつままれた。
「どうした」
「…………風だ」
誰となしに呟かれた。
「風?」
船乗りにとって命ともいえる風だ。
「ホントだ。風だ。虚海に入ってから一度も吹くことのなかった風だ」
死んだ海、そう仲間うちで囁かれていたその意味を肌で感じ取った瞬間でもあった。
気づけばあれほど凪いでいた風がそよそよと頬をなでる。
「おぃ。何か聴こえないないか?」
「ぁん?」
「耳を澄ませろっ、ほら」
シュ、シュと軽快な音が。
まるで氷の上を滑る、アレ、のような。
「今度は何だ?」
「もう俺は槍が降ろうが、何が起こっても驚かねぇぞ」
0
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!
月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、
花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。
姻族全員大騒ぎとなった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる