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第3章 精霊王
魔道竜(第3章、21)
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凍りついた海面を冷たい風が吹き抜ける。
「何だありゃ」
「どうした」
「あれを見ろ」
いち早くそれに気づいた一人の船員が遠くを指さす。
「鳥か?」
「いゃ、デカイ。シロクマだろ。シュシュいっている」
爪で氷をさく切り裂き音だと思ったらしい。
が、なわけない。地図上では現在地からみて真裏、北半球に生息するクマだ。
いくら海面が氷ついたからっていきなり生息地をひろげるわけはない。
「シロクマなんているわきゃないだろ? 常識で考えろよ」
「だよな。でも白くて大きい獣となると、他に何がいる?」
「…………」
なぜ獣限定なのか。おそらく人為的移動を無視した速度が関係している。
「おぃ? 」
勝手な憶測がのぼるなか、一隻眼をのぞいたティアヌは不敵に笑む。
「あらあら、御大自らのお出ましよ」
「ぇ? 誰だって?」
セルティガの間のぬけた拍子抜けする返答をスルーしてティアヌはとっとと歩きだす。
「行きましょ」
「おぃ!」
【よっこらせ!】
風袋を背負った風神を思わせる老人。森でよく見かけるドワーフのような矮躯で、どことなく親近感を覚えるような親しみのある顔つき。
【よっと。着地は満点じゃったのぅ。どれ】
辺りを見回す。
ブレードをつけた靴をはいたそれは、風にのり、ふわりと舞い上がるや一機にマストへ。軽やかに着地した。
「何だ」
不審人物でもみるような胡散臭い目が一点にそそがれる。
何かと絶えず戯れるようにして挙動不審ぎみな老人。船員から不審がられてもいたしかたない。
「ぉ、ぉぃ?」
ティアヌはセルティガの躊躇して呼び止めようとする制止をふりきり、マストの前にて静止する。
間違いない。
風神のような イデダチのそれにティアヌは「あなたは風の精霊王ですね?」と訊ねる。
【いかにも。ワシは大気を支配し世界をめぐる風の精霊ガスト。聖地へとむかわんとする汝に今一度その意志を問う】
試されている、そう思った。
それと同時に覚悟のほどを尋ねられたようにも感じる。
覚悟ならすでにできている。
母を失ったあの日から。
「私は精霊と人との絆を再び取り戻し、聖地への扉を開かんとする冒険者」
きっぱりと言い放つ。強い意志と覚悟のほどがうかがえるだろうほどに。
精霊王はアゴにたくわえた白いヒゲをなでつつ、何度もうなづいた。
【ふぅむ、なるほど。意志は固いのじゃな。ならば汝と契約を結ぼう。風の加護をうけたのち水の神殿『竜宮』の門をひらくのじゃ】
問題はそれだ。
「その竜宮の門を開くにはどうしたら…………」
実はそれで大いに悩んでいたところだ。
指輪を投げ入れた時点で水門が現れるかもしれない、そう安直に考えて楽観視していた。
だがどうだ。水門が現れるどころかただ海が氷っただけ。
マグマドンの奇襲は防げた。
でもそれだけだ。
【水の精霊の眷属を元の姿に戻せばおのずと道がひらかれるだろう。精霊条約書を掲げよ】
言われるがままティアヌは黒布を取り出し天高く御旗のように掲げた。
水の眷属を元の姿へ。つまりはマグマドンを呪縛から解き放て、と?
でもどうやってーーーー
「…………」
重い嘆息を吐いた。
また難問が増えティアヌを悩ませる。
「!?」
ふわりと疾風がかけぬける。
そうしているうち、目を開いてはいられず、双眸を固くとじ、飛ばされないよう踏ん張る。
「うわっ!」
あるものは甲板のうえに突っ伏した。
「つかまれ!」
あるものは、マストにしがみつくものも。
「ティアヌ!」
セルティガの案じる一声があがる。
やがて収縮していく風。
つむじ風の中央にやがて小さく青い光が。
「船長!」
「ティアヌ!」
セルティガは這いつくばる。ティアヌのそばへ駆け寄りたい心とは裏腹に虐げられる獣のように甲板に膝をついているだけで手一杯。
「ティアヌ…………」
風は勢い衰えることなく、そのまま天をめざし上昇。
ティアヌの小さな身体までもってかれそうになる。
根性のみせどころだ。めっちゃ踏ん張る!
「!!」
やがてそれは厚い雲を蹴散らし、風穴をあけ、ぱんと消失した。
「…………」
あとに残されたのは茫然とたたずむティアヌ。
黒布には小さく青い光が灯されている。文字だ。
「終わったのか?」
セルティガがやっとのことで一声を紡ぐ。
ティアヌは腕をおろし、それを確認するとそこには瑞雲をかたどったマークのようなものが刻まれていた。
「ーーそう、みたいね」
乱れ髪を手のひらでととのえ、茫然自失なりに声をしぼりだした。
【時を刻む子よ、光と闇の精霊を召喚するのじゃ】
サラバじゃ、と言いおいて、風の精霊は一陣の風とともに去りぬ。
風は止まると死ぬといわれるが、事実かもしれない、ふとそう思った。
風の精霊は一時たりともじっとしてはおらず、身体のどこかしらがたえず動いていた。
「なぁ、このままここで召喚するのか?」
「そうなるわね、時間もないし。それにいつまでマグマドンが凍っていてくれるかもわからないもの。ぐずぐずしていられないわ」
「!」
セルティガや船員たちはゾゾゾと背筋を震わせる。
確かに保証なんてものは何もない。
船員たちの顔が再びきりりと引き締まった。
「何だありゃ」
「どうした」
「あれを見ろ」
いち早くそれに気づいた一人の船員が遠くを指さす。
「鳥か?」
「いゃ、デカイ。シロクマだろ。シュシュいっている」
爪で氷をさく切り裂き音だと思ったらしい。
が、なわけない。地図上では現在地からみて真裏、北半球に生息するクマだ。
いくら海面が氷ついたからっていきなり生息地をひろげるわけはない。
「シロクマなんているわきゃないだろ? 常識で考えろよ」
「だよな。でも白くて大きい獣となると、他に何がいる?」
「…………」
なぜ獣限定なのか。おそらく人為的移動を無視した速度が関係している。
「おぃ? 」
勝手な憶測がのぼるなか、一隻眼をのぞいたティアヌは不敵に笑む。
「あらあら、御大自らのお出ましよ」
「ぇ? 誰だって?」
セルティガの間のぬけた拍子抜けする返答をスルーしてティアヌはとっとと歩きだす。
「行きましょ」
「おぃ!」
【よっこらせ!】
風袋を背負った風神を思わせる老人。森でよく見かけるドワーフのような矮躯で、どことなく親近感を覚えるような親しみのある顔つき。
【よっと。着地は満点じゃったのぅ。どれ】
辺りを見回す。
ブレードをつけた靴をはいたそれは、風にのり、ふわりと舞い上がるや一機にマストへ。軽やかに着地した。
「何だ」
不審人物でもみるような胡散臭い目が一点にそそがれる。
何かと絶えず戯れるようにして挙動不審ぎみな老人。船員から不審がられてもいたしかたない。
「ぉ、ぉぃ?」
ティアヌはセルティガの躊躇して呼び止めようとする制止をふりきり、マストの前にて静止する。
間違いない。
風神のような イデダチのそれにティアヌは「あなたは風の精霊王ですね?」と訊ねる。
【いかにも。ワシは大気を支配し世界をめぐる風の精霊ガスト。聖地へとむかわんとする汝に今一度その意志を問う】
試されている、そう思った。
それと同時に覚悟のほどを尋ねられたようにも感じる。
覚悟ならすでにできている。
母を失ったあの日から。
「私は精霊と人との絆を再び取り戻し、聖地への扉を開かんとする冒険者」
きっぱりと言い放つ。強い意志と覚悟のほどがうかがえるだろうほどに。
精霊王はアゴにたくわえた白いヒゲをなでつつ、何度もうなづいた。
【ふぅむ、なるほど。意志は固いのじゃな。ならば汝と契約を結ぼう。風の加護をうけたのち水の神殿『竜宮』の門をひらくのじゃ】
問題はそれだ。
「その竜宮の門を開くにはどうしたら…………」
実はそれで大いに悩んでいたところだ。
指輪を投げ入れた時点で水門が現れるかもしれない、そう安直に考えて楽観視していた。
だがどうだ。水門が現れるどころかただ海が氷っただけ。
マグマドンの奇襲は防げた。
でもそれだけだ。
【水の精霊の眷属を元の姿に戻せばおのずと道がひらかれるだろう。精霊条約書を掲げよ】
言われるがままティアヌは黒布を取り出し天高く御旗のように掲げた。
水の眷属を元の姿へ。つまりはマグマドンを呪縛から解き放て、と?
でもどうやってーーーー
「…………」
重い嘆息を吐いた。
また難問が増えティアヌを悩ませる。
「!?」
ふわりと疾風がかけぬける。
そうしているうち、目を開いてはいられず、双眸を固くとじ、飛ばされないよう踏ん張る。
「うわっ!」
あるものは甲板のうえに突っ伏した。
「つかまれ!」
あるものは、マストにしがみつくものも。
「ティアヌ!」
セルティガの案じる一声があがる。
やがて収縮していく風。
つむじ風の中央にやがて小さく青い光が。
「船長!」
「ティアヌ!」
セルティガは這いつくばる。ティアヌのそばへ駆け寄りたい心とは裏腹に虐げられる獣のように甲板に膝をついているだけで手一杯。
「ティアヌ…………」
風は勢い衰えることなく、そのまま天をめざし上昇。
ティアヌの小さな身体までもってかれそうになる。
根性のみせどころだ。めっちゃ踏ん張る!
「!!」
やがてそれは厚い雲を蹴散らし、風穴をあけ、ぱんと消失した。
「…………」
あとに残されたのは茫然とたたずむティアヌ。
黒布には小さく青い光が灯されている。文字だ。
「終わったのか?」
セルティガがやっとのことで一声を紡ぐ。
ティアヌは腕をおろし、それを確認するとそこには瑞雲をかたどったマークのようなものが刻まれていた。
「ーーそう、みたいね」
乱れ髪を手のひらでととのえ、茫然自失なりに声をしぼりだした。
【時を刻む子よ、光と闇の精霊を召喚するのじゃ】
サラバじゃ、と言いおいて、風の精霊は一陣の風とともに去りぬ。
風は止まると死ぬといわれるが、事実かもしれない、ふとそう思った。
風の精霊は一時たりともじっとしてはおらず、身体のどこかしらがたえず動いていた。
「なぁ、このままここで召喚するのか?」
「そうなるわね、時間もないし。それにいつまでマグマドンが凍っていてくれるかもわからないもの。ぐずぐずしていられないわ」
「!」
セルティガや船員たちはゾゾゾと背筋を震わせる。
確かに保証なんてものは何もない。
船員たちの顔が再びきりりと引き締まった。
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