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第3章 精霊王
魔道竜(第3章、22)
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「大地を創世へと導きたもう暁の光で照らした光の精霊カナタ。
そして混沌とした深淵をとこしえにたゆたわん闇を司る漆黒の精霊ブラッド。
汝が同胞にして太古よりの盟友よ。
我が呼びかけに応じ汝の前に召喚せしめよ」
呪文の詠唱をはじめた。
ぽっかりと丸く雲を割いた穴から瑞光のように一筋の光がさしこむ。
虚海の真っ黒く底知れない深海から闇のような触手がのび、光と闇がぶつかる。
異空間と現世がつながれた。
「セブラシル! (召喚)」
海原が光に包まれた。
生み出された太陽のような玉。
陽と向かいあうようにして氷った海面に写し出された白い月。
その二つが対峙するとき、そこにふたりの精霊が生み出される。
「精霊王?」
「精霊王だ。でもなんで精霊王がじきじきに召喚に応じる?」
「待て。精霊王を召喚できる魔道士なんてこの世にいるのか? 精霊召喚術士にだって精霊王を召喚できるものなんて聞いたことがないぞ?」
「確かに」
長い船旅生活のなかでも、精霊王を召喚したものを目にするのなんてはじめてだろう。
それでこそ禁断の魔道士たる所以だ。
眷属やそれらに属するものが今まで召喚に応じてきた。
それが。
「ささ、ちゃっちゃとやってちょうだい」
こんな少女に精霊王がアゴでこきつかわれている?
「し、信じられん……」
目の前の光景に目を疑うベテラン船員たち。
そうして召喚された精霊たちは己が何をすべきであるかわかっている。
申し合わせたように、闇の精霊は海面下で氷ついたマグマドンらに月の光をあびせかける。これも闇の力の一端だ。
すると汚染された海水のようによどんだマグマドンの血が清められ、青く光を放つ。
それはマディソン号の周囲全体、見渡す限りにおよぶ。
その光は時に強く、弱く。マグマドンの心の臓を再び始動させた。
「…………」
次いで、小さな太陽のような玉からは柔らかい光が。
復活と蘇生、祝福があたえられる。
「な、何の音だ?」
ミシミシと響く不吉な音。
「あれを見ろっ! 氷が割れていくぞーーうわぁ」
その瞬間、船体が右往左往ともてあそばれる。海水が溶けたのだ。
「つかまれ!」
「うわぁぁぁぁーーーーッ」
転げ落ち、船縁に片手をかけ、必死で歯をくいしばる。
「た、助けてくれぇぇぇ」
「待ってろ。腕を伸ばせーーよし。ひっぱれ!」
どが、と甲板に引っ張りあげられる船員。
「助かった、ありがとう」
「礼を言うのはまだ早い。見ろ、あれを」
マグマドンらが悠々と船の周囲を泳ぎはじめた。
「……俺たち、どうなるんだ?」
こうなればマグマドンは自由の身だ。
不安にかられていると、次の瞬間、パキンとガラスが弾け飛ぶような異音が響きわたる。
マグマドンのカラダの表面ををおおっていた殻だ。
「何だありゃ。まるで脱皮のようじゃないか」
破裂したまがまがしく黒いガラスのような破片は毒素を大量にふくみ、破裂したと同時に呪われし呪縛から今まさに解放された瞬間だった。
この黒いガラスこそマグマドンを異形化させていた諸悪の根元たる呪いの源。
呪いから解放されたマグマドンに目をこらでば、見たこともない美しい魚の姿に。幻といわれた人魚だ。
絵本や寝物語にのみ登場した伝説の人魚。
ドンナとは創世記時代から、伝わる古語で、『美しい娘さん』という意の精霊語。
化石とかした全身骨格が数年前に発見され、学会著名人の中でも騒然とさせたあの人魚が目の前にいる。
その絶滅してしまったとされてきた人魚がマグマドンとして生きながらえていた。
目も文に、その美しさは言い伝え以上のものだ。
どんな称賛や賛辞を引用しても表現しがたい。
賛美の言葉をもってしても軽薄なものに。
それほどこの世でもっとも美しい魚だ。
「これがマグマドンの真の姿なのか」
金、銀、緑、青、漆黒といった様々な長い髪を海に漂わせ、上半身は裸。
胸がふっくらとした女体もいれば、筋肉質な厚い胸板をあらわにした勇ましい見目麗しい男性体もいる。
いずれも腰から下は魚体で、足のかわりに大きな尾ひれがある。
「すげぇ」
感嘆の息がだだもれるなか、現実に引き戻される一声があがる。
「契約はいま果たされた。いでよ、竜宮門!」
そして混沌とした深淵をとこしえにたゆたわん闇を司る漆黒の精霊ブラッド。
汝が同胞にして太古よりの盟友よ。
我が呼びかけに応じ汝の前に召喚せしめよ」
呪文の詠唱をはじめた。
ぽっかりと丸く雲を割いた穴から瑞光のように一筋の光がさしこむ。
虚海の真っ黒く底知れない深海から闇のような触手がのび、光と闇がぶつかる。
異空間と現世がつながれた。
「セブラシル! (召喚)」
海原が光に包まれた。
生み出された太陽のような玉。
陽と向かいあうようにして氷った海面に写し出された白い月。
その二つが対峙するとき、そこにふたりの精霊が生み出される。
「精霊王?」
「精霊王だ。でもなんで精霊王がじきじきに召喚に応じる?」
「待て。精霊王を召喚できる魔道士なんてこの世にいるのか? 精霊召喚術士にだって精霊王を召喚できるものなんて聞いたことがないぞ?」
「確かに」
長い船旅生活のなかでも、精霊王を召喚したものを目にするのなんてはじめてだろう。
それでこそ禁断の魔道士たる所以だ。
眷属やそれらに属するものが今まで召喚に応じてきた。
それが。
「ささ、ちゃっちゃとやってちょうだい」
こんな少女に精霊王がアゴでこきつかわれている?
「し、信じられん……」
目の前の光景に目を疑うベテラン船員たち。
そうして召喚された精霊たちは己が何をすべきであるかわかっている。
申し合わせたように、闇の精霊は海面下で氷ついたマグマドンらに月の光をあびせかける。これも闇の力の一端だ。
すると汚染された海水のようによどんだマグマドンの血が清められ、青く光を放つ。
それはマディソン号の周囲全体、見渡す限りにおよぶ。
その光は時に強く、弱く。マグマドンの心の臓を再び始動させた。
「…………」
次いで、小さな太陽のような玉からは柔らかい光が。
復活と蘇生、祝福があたえられる。
「な、何の音だ?」
ミシミシと響く不吉な音。
「あれを見ろっ! 氷が割れていくぞーーうわぁ」
その瞬間、船体が右往左往ともてあそばれる。海水が溶けたのだ。
「つかまれ!」
「うわぁぁぁぁーーーーッ」
転げ落ち、船縁に片手をかけ、必死で歯をくいしばる。
「た、助けてくれぇぇぇ」
「待ってろ。腕を伸ばせーーよし。ひっぱれ!」
どが、と甲板に引っ張りあげられる船員。
「助かった、ありがとう」
「礼を言うのはまだ早い。見ろ、あれを」
マグマドンらが悠々と船の周囲を泳ぎはじめた。
「……俺たち、どうなるんだ?」
こうなればマグマドンは自由の身だ。
不安にかられていると、次の瞬間、パキンとガラスが弾け飛ぶような異音が響きわたる。
マグマドンのカラダの表面ををおおっていた殻だ。
「何だありゃ。まるで脱皮のようじゃないか」
破裂したまがまがしく黒いガラスのような破片は毒素を大量にふくみ、破裂したと同時に呪われし呪縛から今まさに解放された瞬間だった。
この黒いガラスこそマグマドンを異形化させていた諸悪の根元たる呪いの源。
呪いから解放されたマグマドンに目をこらでば、見たこともない美しい魚の姿に。幻といわれた人魚だ。
絵本や寝物語にのみ登場した伝説の人魚。
ドンナとは創世記時代から、伝わる古語で、『美しい娘さん』という意の精霊語。
化石とかした全身骨格が数年前に発見され、学会著名人の中でも騒然とさせたあの人魚が目の前にいる。
その絶滅してしまったとされてきた人魚がマグマドンとして生きながらえていた。
目も文に、その美しさは言い伝え以上のものだ。
どんな称賛や賛辞を引用しても表現しがたい。
賛美の言葉をもってしても軽薄なものに。
それほどこの世でもっとも美しい魚だ。
「これがマグマドンの真の姿なのか」
金、銀、緑、青、漆黒といった様々な長い髪を海に漂わせ、上半身は裸。
胸がふっくらとした女体もいれば、筋肉質な厚い胸板をあらわにした勇ましい見目麗しい男性体もいる。
いずれも腰から下は魚体で、足のかわりに大きな尾ひれがある。
「すげぇ」
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