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第3章 精霊王
魔道竜(第3章、25)
しおりを挟む「これが神の島、ラグーンーーーーか? 」
こん、と足先に当たる。
白い砂浜には化石化して色を失った貝殻がいくつもうちあげられており、埋もれたものも靴底からその存在を固持してくる。
「あの不気味な森をのぞけば、ごく普通の無人島のように思えるが」
腑に落ちないセルティガは首をかしげてごちる。
小さな島を見渡せど人影などあろうはずもなく、ただ一望しただけでは鳥や動物などの生息を確認できぬひしゃげて折れたり、うねるようにしてくるくると曲がった木々など、鬱蒼として暗い森がしげっている。
「……ね、セイラ。あれが不気味なだけですって。聞いた?」
ぇぇと頷いてみせ「魔力の弱い人って幸せよねぇ」と皮肉るセイラ。
セイラもきっと今のティアヌと同じことを感じている。はぁと小さな嘆息が吐かれた。
森からは邪気がだだもれだ。
「あれよ。きっと感知能力も退化しているんでしょうよ」
我関せずのセルティガは観光気分でのんきに指さす。
「ぉ。あれを見ろ。ご馳走が歩いているぞ!」
声が弾んで得意げだ。はぁ、とティアヌは嘆息を吐きすてる。
「あのね、ご馳走が脚はやして歩くはずがーーーーぇ?」
目が点になった。ゴクリと生唾をのむ。
「な! ご馳走だろ」
「ぇぇ」
浜辺を散らばる貝殻と同じくする大きな貝殻を背負ったカニのようなものがサンバをおどるようして右手の大きなハサミをフリフリしながら、横むきに移動している。
ヤシカニ科に属する滅多に口にできない最高級のカニだ。
「絶対デブゴンだろ!」
は? と耳を疑った。
ティアヌはセルティガを睨めつける。
「違う! デーヴィ、いい? デブゴンじゃなくて! デーヴィゴーンよ。発音からして意味までまるで違うじゃない。ドキリとするからやめてちょうだい!」
「だがデブゴンだろ?」
「あのね、それはセルティガのような無知な人のために言いやすいよう誰かが省略したもの。デーヴィゴーンが正式名で、これは古い精霊語が語源とされ、精霊の贈り物の意。言っておくけどセルティガのは女性蔑視とみなされても文句のひとつも言えないから」
「そういう意味で言ったわけじゃないんだが…………スマン。俺の国ではデブゴンでとおるぞ」
おかしいな、ポリポリと後頭部をかきあげる。
「まぁいいじゃない。ティアヌ、呼び名はそれぞれ、ね? 国も違えば習慣だって違って当たり前だもの」
仲裁に割ってはいってくれたセイラは、なだめるように優しく語りかけてくる。
「…………。そうね。セルティガの無知は今にはじまったことじゃないもの。セイラの言うとおりだわ」
ふふふ、と見つめ合う。
不思議にセイラの言葉は素直にはいってくる。
「ぉぃ! 無知は罪じゃない。罪を憎んで人を憎まずというだろ? 知らないからとバカにするのはどうなんだ? ……ったく、女はそうやってすぐにつるみたがる。 お前ら二人で便所とか行く気だろ、そうだろ? いいゃ、絶対そうにちがいない!」
行くか、行かないか、そんなの一も二もなく行くに決まっている。
答えてやる義理はないので、またもやスルーされる。
「ほら、ティアヌ。デーヴィゴーンの群れだわ、夕飯用に捕獲しておかない?」
「……ぉ、ぉぃ?」
「いいわね! 事が片付いた暁にはご馳走よ!」
「俺を無視するな!」
問題となったデブゴン、もとい、デーヴィゴーンが列をなしてむかう先に、はた、と目をとめた。
「船だ!」
セルティガとセイラは猪突猛進に走りだし、軽々とデーヴィゴーンを追い越していく。
「ちょっ!?」
ーー待って、という制止ははやる彼らの気持ちの前では何の抑止力として発揮せず、ただ目の前の朽ちかけた難破船へと意識が向けられている。
夕飯用のデブゴン、もとい、デーヴイゴーンの捕獲は既に脳内から消去されていた。
「もぅ。危機感はどこへいったのかしら」
邪神いわく、船上にあればそれでよし。船上にその身があるかぎりは安全が保証されている。
だが二人は遠くの入江を目指し、独断で行動中。こうしている間にも二人はじきに難破船へとたどり着くだろう。
もし、そこで魔族なり邪蛇に襲われでもしたら?
「…………」
ーーったく、そうこぼして嘆息を吐き、振り向きざま乗船している船員に指示をあたえる。
「あなたたちは船で待機して。くれぐれもあの人たちみたいな勝手な行動はつつしむように」
「了解」
額に手のひらを押しあて敬礼する船員たち。
しごく従順にみえる。が、その表情には不信感をおぼえるわざとがましい嘲笑が入り交じっているように見えるのはきのせい、てことにする。
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