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本編

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 翌朝。
 
 俺は何か盗まれたものはないかと、ごちゃごちゃになった机の上を探っていた。

 鳥はいつのまに移動していて、今はまだ布団の足の方で眠っている。
 
 引き出しも含めひとしきり見たが、なにも盗られていないようだった。
 それに安堵して胸をなでおろす。

 ネットニュースを見ようとベットに腰掛け、充電していたスマホを手にとる。

 パスコードを入力して開くと、日記帳が開きっぱなしになっていた。
 しばらくいじっていなかった日記帳、そこに昨日の日付で、文字が少し、並んでいる。

 『はばたいて、』

 反射的に、でかい烏の方を見る。
 烏はうとうととしていて、相変わらず目を閉じて眠っていた。

 少しでかくて、ちょっと透けているように感じる、それ以外は普通の烏とほとんど変わらない……そう思っていたその鳥の体にもう一つ、決定的に他と違う部分を見つける。
 足が一本、二本、そして三本。羽毛の間に隠れていたそれが、微睡むうち無意識に、姿をあらわしていた。

 ヤタガラス。

 実際のそれとは少し違うような気もしたが、見目だけでも導きの神と酷似している。

 それが少し嬉しく、しかしどこか寂しい気がして。


 そういえば昨日の夜中、あの少女は机のあたりに立っていた。そして枕元へ、ちょうど、スマホがある辺りへ歩いてきた。

 また烏の方へ視線をやる。

 まだ、起きる気はないらしかった。


 朝日が乱立するビルの縁を、白く、照らし始めていた。


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