新世のアリエーネ

創式浪漫砲༺艦༻

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結婚相談所のアリエル

心音のすれ違い

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 少年がお風呂に入って暫くしての事だった。
 
 『きゃあ!!?』

 何事かと振り返った時、少女はすぐそこのお風呂の扉を開けていた。
 しまったと思うも束の間、プルプル震えながら少女は慌てて扉を閉める。
 
 ドク……ドク……ドク……ドク。

 この音は自分の心音なのだろうか……?
 それとも彼女の……?
 扉を隔てて聞こえてくるような奇妙な感覚を少年は覚えた。
 
 少し落ち着いてきたかと思ったその時だった。

 『貴方一体何なのよっ!』

 扉の向こうで陰だけが見える。
 響いてきたのは彼女の怒り、どこか哀しい細い声。

 『も、申し訳……!!!』

 声を遮るように彼女が叫ぶ。

 『貴方、警備員じゃないわね……? ふざけないで! 通報してやるんだから!!!』

 途端に彼女の陰は消え、足音がどんどん遠くなる。

 いやだ……! 僕の……! 僕の部屋が……!!!
 冷や汗が止まらない。彼女はまず間違いなく僕を通報するだろう。そうなったら、どうなる!!?

 慌ててお風呂を飛び出し、タオルを片手に追いかけた。



 どうしてこうなったんだろう。

 『やっ……やめてっ……』

 肌と肌が密着する。
 お互いのタオル越しで。

 あれは、咄嗟の出来事だった。

 すぐさま少年はタオルを腰に巻き、風呂場から飛び出す。
 風呂場を右に曲がり、すぐの部屋へ。

 彼女が視界に入る。
 慌てて飛び出したのだろう。バスタオル一枚を羽織り、部屋の隅にある非常呼び出しボタンに手を伸ばしている。

 『お、お客様ーー!!!』

 必死の形相で少年は声を張り上げ、
 ──つるっ。

 気がつけば、取り返しのつかない状況になっていた。

 『っ……』

 少女はか細く呻き、紅い瞳に涙を滲ませる。
 今までの気丈な振る舞いが嘘だったみたいに。
 全てを諦めたと言わんばかりの顔。頬に、一滴の涙が流れて。

 少年はすぐさま彼女の側を離れると、両手と額を地面につけ、全力で謝った。



 ……。
 それにしても、あれは何だったんだろう。
 少年は、心に濃い靄がかかっているのを感じていた。

 扉を開けた瞬間、白い柔肌が、薄ら湯気と共に立ち上って見えた。
 その一瞬、鼓動が跳ね上がって、
 ──でも。
 彼女の肩に、少し赤くなった跡があった。

 彼女に、何があったのだろうか……。

 『……かしら?』

 『ちょっと! 聞いてるかしら!!?』

 いけない、考え事をしている場合ではない。
 慌てて、彼女の方を見る。

 少し落ち着いたのだろうか。
 彼女は脚を組み、ソファにどっかり腰を下ろしながらフンっと鼻を鳴らす。

 『今回のことは、大目に見てあげないこともないかしら! ただし、次からは嘘をつかないことよっ!』

 ──あの後、全力で謝って、事情を説明した。
 何とか、彼女の許しを得ることに成功した。
 今夜の楽しみにとっておいたアイスを差し出して、ね……。

 『しかし、困ったのよ……ここは私の部屋じゃないかしら』

 「どこか、お困りのことがありますか?」

 少年は尋ねる。

 どうやら彼女は、一人で気楽に過ごすためにこのホテルに通っているらしい。
 防犯設備が万全で、何かあればすぐ駆けつけてくれる。
 そんな“安心”が欲しかったのだという。

 ── (一応ここ、結婚相談所なんだけどな)

 はぁ、仕方ない。
 玄関ででも、しばらく暮らすか。
 そう考えて部屋を出ようとした時だった。

 『何、勝手に外に出ようとしてるかしら? レディを一人にするなんて、あり得ないのよ』

 ちょん、ちょんと指でリモコンを指差す彼女。
 一緒にテレビでも──彼女なりの、気遣いなのだろう。



 『はぁ……? これ、何なのよっ……!?』

 突然の声に、少年も目を見開いた。
 無理もない。テレビのどのチャンネルを回しても、映っているのは全て、うちの結婚相談所の様子なのだ。

 (おかしいな……部屋に来たときはバラエティ番組だったのに……)

 とはいえ、これはこれで妙に興味深い。
 特番らしく密着取材も入っていて、評論家まで登場している。



プロフィール
Aさん/40代/年収:非公開/職業:家事代行
希望相手
30代男性・年収600万円以上・家事スキル高め・見た目の良い人



 (あれ……どこかで見たことあるな……)

 ――Aさんに密着取材! なぜ結婚できないんダ!?スペシャル!!!

 レポーター:「さあ始まりました!『なぜ結婚できないんダ!?スペシャル』! まず最初の応募者はこちら、Aさんです! それでは早速お話を伺っていきましょう。Aさん?」

 A:「はい、よろしくお願いします! Aです」

 レ:「今回、この番組に応募された理由をお聞かせください」

 A:「はい……以前、『風恋婚活ペアリング』という相談所を利用していたのですが、なかなか理想の男性に出会えなくて……。
 正直、激辛相談って噂で内心ビクビクだったんですけど、でも、どこかで期待もしてたんです。
 それに……私の担当の方、偶然だったんでしょうか、とても優しくて……それが嬉しくて、どこかで満足してしまったんです」

 ――でも、それでは解決にならなかった。

 ドキッとした。
 間違いない。彼女は、僕がこの仕事を始めたばかりの頃に初めて担当した方だ……。

 レ:「なるほど……つまり、今回はしっかり解決したいと?」

 A:「はい……」

 レ:「では、評論家の○○さんにご意見をうかがいましょう!」

 評論家:「はい、Aさんのモヤモヤ、分析してみましょう。
 まずAさんのステータスは40代、年収非公開、職業は家事代行。
 そして希望条件は30代男性、年収600万円以上、家事スキルに加え、見た目も良い人……ですね。

 まず、お伝えしたいのは二点。
 ひとつは“条件設定”について。
 もうひとつは“共通価値認識”の必要性です。

 条件が多ければ多いほど、該当者は当然少なくなります。
 また、家事代行という立場で“主婦的役割”を望むのは自然ですが、それでいて高年収男性に全ての経済的負担を求めるのは、バランスを欠いていると言わざるを得ません。

 そして一番の問題点は“年収非公開”。
 これは、真剣に関係を築く上で信頼を損なう要素です。
 相手の情報だけを求め、自分は開示しない姿勢は、無意識のうちに相手を遠ざけてしまうのです」

 (……自分は、できているだろうか?)

 少年は胸を突かれるような思いがした。
 Aさんへの対応――あれも今思えば、未熟な自分に任されていたからとはいえ、至らぬ点だらけだった。
 そして、ミルナさんへの一件もそうだ。
 軽率な行動で、彼女を深く傷つけてしまった……。

 そう思った瞬間、ふと隣から声がした。

 『ふぅん、中々面白いのよ。でも……見るに堪えないかしら』

 そう言って、ミルナはリモコンをテーブルに置き、代わりに黒いタブレットを手に取った。
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