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プロローグ2
敗北
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己の力は全て出し切った。
俺はパフォーマンスが終わった後、そう思った。今でも思っている。
だが現実は甘くなかったようだ。
今回は日本選手権の決勝まで登りつめた。
前回は予選敗退だったため大きな進歩と言えるだろう。
決勝では、「ポーズダウン」を行いながら審査員からの発表を待つ。最後のアピールタイムといってもいい。
順位の低い選手から呼ばれていくのだが、俺は11位、下から2番目だったのですぐに呼ばれた。
やがて5位、4位、3位、と呼ばれて、残るは2人となった。
1人は俺の知り合いだ。あっちはどう思ってるか知らないが、俺はあいつをライバルだと思っている。
名前は内田垣内。
俺の住んでいる地域にあるジムで出会い、そこから友人となった。
ここからじゃあいつの顔は見えないが、鍛え抜かれた背筋から溢れ出る自信を感じ、とても頼もしく思える。
やがて第2位の名前が呼ばれる。
内田だった。
内田はふう、と息を吐くとポージングを終える。
場内から怒号に近い歓声が上がる。
空気が震えるのが肌で分かる。
音の振動がまるで地響きみたいに会場を震わせた。
今更実感が湧く。
終わったのだ。俺の活躍の場は失われた。
観客の視線のほとんどは1位と2位に注がれている。11位の俺には見向きもしない。
そりゃそうだ。主役は彼らだ。
どうにかして自分を慰めようとするが、喪失感は消えない。
今までで最高の出来だった。
丸々一年かけて調整してきた。食事内容からトレーニング方法、睡眠時間、起床時間まで徹底して改善するよう努めた。
なのに結果はこれだ。
これ以上はどうしようもない。
大会前に、俺は今回がダメなら諦めようと思った。
それほどに努力してきたのだ。
予選を通過した時、自分の1年間が報われたような気がした。
これで正しかったのだ、この1年間は無駄じゃなかったのだ、と。
もしかしたら1位を狙えるかもしれないとさえ思った。
「全国で11位ならいい方じゃないか」と誰かに言われるかもしれない。
だが、俺は全身全霊でこの大会に挑んだのだ。
その結果が11位なら、俺は一生この壁を越えることは出来ないだろう。
大人になるにつれて泣く事も少なくなっていたが、今回ばかりは視界が涙でぼやけた。
会場の照明が鈍く光っている。
ぼーっとしたまま表彰式が終わり、閉会となった。
着替えて会場の外に出る。もう10月だ。日はだんだんと短くなり、冷たい秋風が吹いている。
「竹月」
後ろから聞き慣れた声がする。
内田だ。
呼び止められたので立ち止まったが、特に話しかける事もない。
内田も少なからず悔しい思いはあるだろう。
俺たちはほぼ無言で駅までの道を歩いていた。
内田はちょくちょく「さみぃ」「秋だな」と独り言のような、俺に話を振ってるのかよくわからない感じでとりおり呟いている。
しんと静まりかえった空気が苦手らしい。俺もそうだ。
内田なりの気遣いなのかもしれない。
とりあえず「だな」と返す。
「俺さ」
ついでに、というような感じで何気なく言ってみた。
「もう引退するかもしんねぇ」
...。
返答はない。
「あんだけやったのに、ダメだったわ。多分これ以上はむり」
なるべく平然を装って電灯を見つめながら呟く。
また涙が出てきそうだ。声が若干震える。
何か考えてたような表情をしていた内田が口を開く。
「俺は、お前に...」
その時だった。
目の前が真っ白になった。
なにかの例えではなく、文字通り、真っ白だ。
少し遅れてまばゆい光が俺たちを覆い尽くしているのだと気付いた。
訳が分からないが、あまり動揺はない。
不思議な感覚にとらわれているうちに、光は加速し、輝きを増す。
自分の腕も足も見えなくなり、やがて光は消えた。
真っ暗だ。
いや違う。
目を閉じているからか。
ゆっくりと目を開ける。
「.........」
「...は?」
青々とした木々が生い茂る、森の中にいた。
俺はパフォーマンスが終わった後、そう思った。今でも思っている。
だが現実は甘くなかったようだ。
今回は日本選手権の決勝まで登りつめた。
前回は予選敗退だったため大きな進歩と言えるだろう。
決勝では、「ポーズダウン」を行いながら審査員からの発表を待つ。最後のアピールタイムといってもいい。
順位の低い選手から呼ばれていくのだが、俺は11位、下から2番目だったのですぐに呼ばれた。
やがて5位、4位、3位、と呼ばれて、残るは2人となった。
1人は俺の知り合いだ。あっちはどう思ってるか知らないが、俺はあいつをライバルだと思っている。
名前は内田垣内。
俺の住んでいる地域にあるジムで出会い、そこから友人となった。
ここからじゃあいつの顔は見えないが、鍛え抜かれた背筋から溢れ出る自信を感じ、とても頼もしく思える。
やがて第2位の名前が呼ばれる。
内田だった。
内田はふう、と息を吐くとポージングを終える。
場内から怒号に近い歓声が上がる。
空気が震えるのが肌で分かる。
音の振動がまるで地響きみたいに会場を震わせた。
今更実感が湧く。
終わったのだ。俺の活躍の場は失われた。
観客の視線のほとんどは1位と2位に注がれている。11位の俺には見向きもしない。
そりゃそうだ。主役は彼らだ。
どうにかして自分を慰めようとするが、喪失感は消えない。
今までで最高の出来だった。
丸々一年かけて調整してきた。食事内容からトレーニング方法、睡眠時間、起床時間まで徹底して改善するよう努めた。
なのに結果はこれだ。
これ以上はどうしようもない。
大会前に、俺は今回がダメなら諦めようと思った。
それほどに努力してきたのだ。
予選を通過した時、自分の1年間が報われたような気がした。
これで正しかったのだ、この1年間は無駄じゃなかったのだ、と。
もしかしたら1位を狙えるかもしれないとさえ思った。
「全国で11位ならいい方じゃないか」と誰かに言われるかもしれない。
だが、俺は全身全霊でこの大会に挑んだのだ。
その結果が11位なら、俺は一生この壁を越えることは出来ないだろう。
大人になるにつれて泣く事も少なくなっていたが、今回ばかりは視界が涙でぼやけた。
会場の照明が鈍く光っている。
ぼーっとしたまま表彰式が終わり、閉会となった。
着替えて会場の外に出る。もう10月だ。日はだんだんと短くなり、冷たい秋風が吹いている。
「竹月」
後ろから聞き慣れた声がする。
内田だ。
呼び止められたので立ち止まったが、特に話しかける事もない。
内田も少なからず悔しい思いはあるだろう。
俺たちはほぼ無言で駅までの道を歩いていた。
内田はちょくちょく「さみぃ」「秋だな」と独り言のような、俺に話を振ってるのかよくわからない感じでとりおり呟いている。
しんと静まりかえった空気が苦手らしい。俺もそうだ。
内田なりの気遣いなのかもしれない。
とりあえず「だな」と返す。
「俺さ」
ついでに、というような感じで何気なく言ってみた。
「もう引退するかもしんねぇ」
...。
返答はない。
「あんだけやったのに、ダメだったわ。多分これ以上はむり」
なるべく平然を装って電灯を見つめながら呟く。
また涙が出てきそうだ。声が若干震える。
何か考えてたような表情をしていた内田が口を開く。
「俺は、お前に...」
その時だった。
目の前が真っ白になった。
なにかの例えではなく、文字通り、真っ白だ。
少し遅れてまばゆい光が俺たちを覆い尽くしているのだと気付いた。
訳が分からないが、あまり動揺はない。
不思議な感覚にとらわれているうちに、光は加速し、輝きを増す。
自分の腕も足も見えなくなり、やがて光は消えた。
真っ暗だ。
いや違う。
目を閉じているからか。
ゆっくりと目を開ける。
「.........」
「...は?」
青々とした木々が生い茂る、森の中にいた。
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