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第3話:そこはマッチョの海だった
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「天使様だ!」
「ほんと、シュリエル様よ! 今日もお美しいわ……隣にいる小さな子は誰かしら?」
「きゃーん可愛いわ!」
「女の子……だよね?」
「いやいや男だろ……それにしても可愛い顔してるな」
街を歩く俺たちは注目の的だった。俺たちを見かけた人々は興味津々に目を輝かせている。
露店の店先に置いてある鏡を見る。
たしかに俺は、可愛い姿をしている。
木漏れ日のような金色の髪に、中性的な顔立ち。ルビーのような瞳。肌は透けるように白く、小柄な体躯。
女の子みたいだし、ウイーン少年合唱団に混ざっても違和感のない眩しさだった。
「さあ行きますよ、アストさん! 教会はもうすぐです!」
教会都市は読んで字のごとく。教会が管轄している都市らしい。ヴェルアース王国の南端に位置する。
ヴェルアース王国とは、俺の師匠たるフレイアが統治する国だ。
結局俺は、ヴェルアース王国から逃れることに失敗したらしい。
しかし、だ。この教会都市は、天使に仕える人間たちの街。
王族と同じ権力を持つ聖職者たちが統べる都市なので、この街の中は治外法権。フレイアも迂闊に手が出せないというわけだ。それを鑑みれば、ここに行き着いたのはラッキーだったかもしれない。
教会都市の街並は白の石造りで統一されている。中央に君臨している塔は城じゃなく教会。まるでフランスのモンサンミッシェルみたいだ。
教会まで続く大通りには、あらゆる露店が並んでいる。食物や衣類の生活必需品、髪飾りのようなちょっとしたぜいたく品――しかし、華美な宝石とかは見当たらない――暮らしに困らない程度の店揃えだった。
ちなみにここで店を出せるのは教会都市が認可した商人だけである。
街をゆく人は、白い似たような服を着ている。修道士、修道女の如き素朴な印象があった。派手な生活ではないが、みんなゆったりとしていて幸せそうだ。
「いよいよ教会に入りますよ!」
「これから司教に会うんだっけ?」
「ええ。この街で腰を据えるならば、天使と司教に許可をとる必要がございますので」
司教、かあ……教会の中にはたくさんの聖職者がいるのだろう。シュリエルや大天使みたいな美形が多いのだろうか……体の性別が無くなったとしても、美形は目の保養になる。
一抹の期待を胸に、教会へ続く扉を開いた……
「いらっしゃあああああいン!」
扉の向こうには……たくさんのマッチョがひしめきあっていた。
俺は黙って扉を閉めた。
「アストさん、どうしました?」
「いや、なんか幻覚が見えた気がして」
「幻覚ですか、お疲れなんですよきっと」
「疲れてるんだよな、ははは。さあ、気を取り直してもう一度」
扉を開いた先には、修道女の服を着た筋骨隆々の男たちが、筋肉をむきだしに笑っていた。
見間違えではなかったらしい。
男たちは間違いなくマッチョだった。何故か修道女の服を着ていて、服はパッツンパッツンではちきれそうになっている。
「シュリエルさまぁ! やだあぁぁあん、昨日ぶりいぃぃぃ!」
「今日もイイ男ねェ!」
しかも全員オネエだった。
「ありがとう、今日もみなさん元気そうですね」
シュリエルさんは涼し気に微笑んで応じている。何故普通に対応できるんだ……。
「厳格な教会が幻覚だったか」
酒乱な大天使にマッスル修道女たち……
前言撤回だ、この都市はヤバイ。
回れ右して逃げ出そうとしたら、ガッチリと肩をつかまれた。
「なにこの子ぉ! すっごい可愛いわぁ!」
「やあん女の子かしらぁ!? 男の子かしらぁ!?」
「天使ちゃんでしょお! こっちへおいでえ!」
と興奮するマッスル修道女たちに教会へ引きずりこまれた俺、万事休す。
たくさんの筋肉で揉みくちゃにされる。
「や、やめろ放せ! そ、そんなとこ触るなッ!」
マッスル修道女たちは俺を子猫のように撫でまわし、舐め回し、こねくり回した。
迫りくる筋肉の波で窒息しそうだ。
「やあんかわいいいいい!」
ハートを飛ばし、腰をフリフリくねらせている。
「た、たすけてシュリエル!」
「楽しそうでなによりです!」
これのどこが楽しそうに見えるんだ!
小一時間ほど愛でられまくった俺は、司教の登場でようやく解放されることになった。
「皆、静粛にせい」
彼が言い放つと、オネエたちは静かになった。引き潮の如く壁際に整列している。
「いやはや、騒がしいところで申し訳ないな」
司教は貫禄のあるおじいさんだった。白いローブをまとい、清廉とした雰囲気を放っている。かなりの年配に見えるが、背中はいっさい曲がってない。それこそ芍薬のように凛とした佇まいをしている。
なによりその鋭い瞳は、俺の師匠・フレイアを彷彿とさせる眼光だった。
この人に逆らってはいけない……無意識に本能が告げ、俺は背筋を正していた。
「そなたがフレイア王女の魔術兵器か」
司教は開口一番そう告げた。
「……俺のこと知ってるんですか?」
「嗚呼。そなたの姿を一目視て分かったよ。天文時計――この世の時間を跳躍する星の力。この世界の理まで変えてしまうやもしれん膨大なエネルギー。それが、そなたじゃ」
背中がピリピリと痛くなった。手には冷や汗がにじんでくる。
俺の正体が、この人には全部ばれているらしい。
空気が糸を伸ばしたように張り詰める。
司教は鋭い眼光で続ける。
「力の使い方しだいではこの世を壊せる危険な存在……それが天文時計。どうやってそのような力を得とくし、この世に生を得た?」
どうして俺がこんな存在に転生してしまったのかということだろう。それには心当たりがあった。
「北では、そなたを生け捕りにするため、懸賞金をかけている国もある。天文時計が実在するということは、既に遠方にも知れ渡っているんじゃ。このままではそなたを賭けて、国同士の争いが起こるやもしれん――」
司教の鋭利な瞳が俺を射抜く。
「――人々の安寧を願う教会都市としては、そなたをここで消し去ってしまうのが世の為」
「俺を殺そうと言うんですか?」
「嗚呼。それが人のため故な。この地は王女もかなわぬ治外法権じゃ。アストラリウム。王女が来る前に、そなたの命を神に返そう」
抹殺されようとしている……!
俺は後ずさる。
たしかに俺の力は使い方を誤れば危険なもの。戦争の道具に利用しようとする国も現れるはずだ。
俺という武器をめぐり、国々が争う可能性はある。
そうならないよう、俺と言う火種を先に消さんとする司教の言い分は理解できる。
かと言って、このまま殺されるのは嫌に決まっている。せっかく転生したんだ、誰にも迷惑かけない、だからそっとしといてくれ!
とにかく逃げるしかない……そう決意した時
「冗談じゃ」
司教がペロリと舌を出した。
「へ?」
「アストよ。たしかにそなたは危険じゃがの、そなたにも命があるんじゃ。それを無下に奪うことなどせんわ」
「けど、すっごいマジな目で俺を殺す宣言してましたよ?」
「司教ジョークじゃ」
アメリカンジョークみたいなノリで言うな。
司教は今や柔らかい雰囲気で笑っている。さっきまでの深刻な空気は消え去っていた。
「――なにより。そなたは殺されようとしても我々に牙を剥かなかった。そなたの魔力をもってすれば、この教会都市など簡単に消し去れるだろうに」
それは司教の言う通りだったりする。けど、そんなことをすれば俺は本当に魔術兵器として囚われてしまうことだろう。そうなれば俺の平和なスローライフは二度と手に入らなくなる。
なにより人を殺すなんて考えられない。
「俺の望みは、今度こそ穏やかに生き抜くこと、それだけだ。王城を抜け出して来たのもそれが理由だ。見逃してほしい」
「そうじゃな。そうするとしよう。そなたは気が済むまで、この都市で暮らせば良い」
「え、良いのか?」
「嗚呼。しかしフレイア王女はすぐにこちらへやってくる手筈を整えるじゃろう。ちゃんと話し合う覚悟は決めておくことじゃな」
と、ウインクする司教。なかなか話の分かるおじいさんじゃないか。
「分かりました」
俺がそう返事をすると、俺たちを見守っていたシュリエルやマッスル修道女たちが嬉しそうな声をあげた。
「良かったですね、アストさん……!」
安心したように微笑んでいる。緊迫した雰囲気がとけ、みんな「良かったね!」と口々に言って拍手していた。
「司教のお許しがでたわけだし、アストちゃんに美味しいケーキをごちそうしなくちゃ!」
「そうだわよね!」
と言い合いながら、俺に教会を案内しようとしてくれる。
なんやかんやあったが、ここの教会都市はみんな良い人たちばかりらしい――
俺はふと、キラキラ輝くステンドグラスのふもとに視線をとめた。そこには、一人の少女が立っていた。
「あれ……あの子だれ?」
綺麗な白髪の女の子だ。陶器人形のように白くて細い体躯。金色の瞳はクリッとしている。その背には、美しい純白の翼が輝いていた。
「あの子は天使の子だよ、森で倒れていたのを保護したんだ!」
とシュリエルは微笑んだ。
天使の子は控えめに微笑を浮かべると、丁寧にお辞儀をしてくれた。
可愛いし綺麗だし、優しげな顔つきをしている。
俺は会釈しようとして、一点、気になることに目を留めた。
その女の子の瞳だ。たしかに綺麗だけど……その根底に、暗い闇が潜んでいるように思えたのだ。
「ほんと、シュリエル様よ! 今日もお美しいわ……隣にいる小さな子は誰かしら?」
「きゃーん可愛いわ!」
「女の子……だよね?」
「いやいや男だろ……それにしても可愛い顔してるな」
街を歩く俺たちは注目の的だった。俺たちを見かけた人々は興味津々に目を輝かせている。
露店の店先に置いてある鏡を見る。
たしかに俺は、可愛い姿をしている。
木漏れ日のような金色の髪に、中性的な顔立ち。ルビーのような瞳。肌は透けるように白く、小柄な体躯。
女の子みたいだし、ウイーン少年合唱団に混ざっても違和感のない眩しさだった。
「さあ行きますよ、アストさん! 教会はもうすぐです!」
教会都市は読んで字のごとく。教会が管轄している都市らしい。ヴェルアース王国の南端に位置する。
ヴェルアース王国とは、俺の師匠たるフレイアが統治する国だ。
結局俺は、ヴェルアース王国から逃れることに失敗したらしい。
しかし、だ。この教会都市は、天使に仕える人間たちの街。
王族と同じ権力を持つ聖職者たちが統べる都市なので、この街の中は治外法権。フレイアも迂闊に手が出せないというわけだ。それを鑑みれば、ここに行き着いたのはラッキーだったかもしれない。
教会都市の街並は白の石造りで統一されている。中央に君臨している塔は城じゃなく教会。まるでフランスのモンサンミッシェルみたいだ。
教会まで続く大通りには、あらゆる露店が並んでいる。食物や衣類の生活必需品、髪飾りのようなちょっとしたぜいたく品――しかし、華美な宝石とかは見当たらない――暮らしに困らない程度の店揃えだった。
ちなみにここで店を出せるのは教会都市が認可した商人だけである。
街をゆく人は、白い似たような服を着ている。修道士、修道女の如き素朴な印象があった。派手な生活ではないが、みんなゆったりとしていて幸せそうだ。
「いよいよ教会に入りますよ!」
「これから司教に会うんだっけ?」
「ええ。この街で腰を据えるならば、天使と司教に許可をとる必要がございますので」
司教、かあ……教会の中にはたくさんの聖職者がいるのだろう。シュリエルや大天使みたいな美形が多いのだろうか……体の性別が無くなったとしても、美形は目の保養になる。
一抹の期待を胸に、教会へ続く扉を開いた……
「いらっしゃあああああいン!」
扉の向こうには……たくさんのマッチョがひしめきあっていた。
俺は黙って扉を閉めた。
「アストさん、どうしました?」
「いや、なんか幻覚が見えた気がして」
「幻覚ですか、お疲れなんですよきっと」
「疲れてるんだよな、ははは。さあ、気を取り直してもう一度」
扉を開いた先には、修道女の服を着た筋骨隆々の男たちが、筋肉をむきだしに笑っていた。
見間違えではなかったらしい。
男たちは間違いなくマッチョだった。何故か修道女の服を着ていて、服はパッツンパッツンではちきれそうになっている。
「シュリエルさまぁ! やだあぁぁあん、昨日ぶりいぃぃぃ!」
「今日もイイ男ねェ!」
しかも全員オネエだった。
「ありがとう、今日もみなさん元気そうですね」
シュリエルさんは涼し気に微笑んで応じている。何故普通に対応できるんだ……。
「厳格な教会が幻覚だったか」
酒乱な大天使にマッスル修道女たち……
前言撤回だ、この都市はヤバイ。
回れ右して逃げ出そうとしたら、ガッチリと肩をつかまれた。
「なにこの子ぉ! すっごい可愛いわぁ!」
「やあん女の子かしらぁ!? 男の子かしらぁ!?」
「天使ちゃんでしょお! こっちへおいでえ!」
と興奮するマッスル修道女たちに教会へ引きずりこまれた俺、万事休す。
たくさんの筋肉で揉みくちゃにされる。
「や、やめろ放せ! そ、そんなとこ触るなッ!」
マッスル修道女たちは俺を子猫のように撫でまわし、舐め回し、こねくり回した。
迫りくる筋肉の波で窒息しそうだ。
「やあんかわいいいいい!」
ハートを飛ばし、腰をフリフリくねらせている。
「た、たすけてシュリエル!」
「楽しそうでなによりです!」
これのどこが楽しそうに見えるんだ!
小一時間ほど愛でられまくった俺は、司教の登場でようやく解放されることになった。
「皆、静粛にせい」
彼が言い放つと、オネエたちは静かになった。引き潮の如く壁際に整列している。
「いやはや、騒がしいところで申し訳ないな」
司教は貫禄のあるおじいさんだった。白いローブをまとい、清廉とした雰囲気を放っている。かなりの年配に見えるが、背中はいっさい曲がってない。それこそ芍薬のように凛とした佇まいをしている。
なによりその鋭い瞳は、俺の師匠・フレイアを彷彿とさせる眼光だった。
この人に逆らってはいけない……無意識に本能が告げ、俺は背筋を正していた。
「そなたがフレイア王女の魔術兵器か」
司教は開口一番そう告げた。
「……俺のこと知ってるんですか?」
「嗚呼。そなたの姿を一目視て分かったよ。天文時計――この世の時間を跳躍する星の力。この世界の理まで変えてしまうやもしれん膨大なエネルギー。それが、そなたじゃ」
背中がピリピリと痛くなった。手には冷や汗がにじんでくる。
俺の正体が、この人には全部ばれているらしい。
空気が糸を伸ばしたように張り詰める。
司教は鋭い眼光で続ける。
「力の使い方しだいではこの世を壊せる危険な存在……それが天文時計。どうやってそのような力を得とくし、この世に生を得た?」
どうして俺がこんな存在に転生してしまったのかということだろう。それには心当たりがあった。
「北では、そなたを生け捕りにするため、懸賞金をかけている国もある。天文時計が実在するということは、既に遠方にも知れ渡っているんじゃ。このままではそなたを賭けて、国同士の争いが起こるやもしれん――」
司教の鋭利な瞳が俺を射抜く。
「――人々の安寧を願う教会都市としては、そなたをここで消し去ってしまうのが世の為」
「俺を殺そうと言うんですか?」
「嗚呼。それが人のため故な。この地は王女もかなわぬ治外法権じゃ。アストラリウム。王女が来る前に、そなたの命を神に返そう」
抹殺されようとしている……!
俺は後ずさる。
たしかに俺の力は使い方を誤れば危険なもの。戦争の道具に利用しようとする国も現れるはずだ。
俺という武器をめぐり、国々が争う可能性はある。
そうならないよう、俺と言う火種を先に消さんとする司教の言い分は理解できる。
かと言って、このまま殺されるのは嫌に決まっている。せっかく転生したんだ、誰にも迷惑かけない、だからそっとしといてくれ!
とにかく逃げるしかない……そう決意した時
「冗談じゃ」
司教がペロリと舌を出した。
「へ?」
「アストよ。たしかにそなたは危険じゃがの、そなたにも命があるんじゃ。それを無下に奪うことなどせんわ」
「けど、すっごいマジな目で俺を殺す宣言してましたよ?」
「司教ジョークじゃ」
アメリカンジョークみたいなノリで言うな。
司教は今や柔らかい雰囲気で笑っている。さっきまでの深刻な空気は消え去っていた。
「――なにより。そなたは殺されようとしても我々に牙を剥かなかった。そなたの魔力をもってすれば、この教会都市など簡単に消し去れるだろうに」
それは司教の言う通りだったりする。けど、そんなことをすれば俺は本当に魔術兵器として囚われてしまうことだろう。そうなれば俺の平和なスローライフは二度と手に入らなくなる。
なにより人を殺すなんて考えられない。
「俺の望みは、今度こそ穏やかに生き抜くこと、それだけだ。王城を抜け出して来たのもそれが理由だ。見逃してほしい」
「そうじゃな。そうするとしよう。そなたは気が済むまで、この都市で暮らせば良い」
「え、良いのか?」
「嗚呼。しかしフレイア王女はすぐにこちらへやってくる手筈を整えるじゃろう。ちゃんと話し合う覚悟は決めておくことじゃな」
と、ウインクする司教。なかなか話の分かるおじいさんじゃないか。
「分かりました」
俺がそう返事をすると、俺たちを見守っていたシュリエルやマッスル修道女たちが嬉しそうな声をあげた。
「良かったですね、アストさん……!」
安心したように微笑んでいる。緊迫した雰囲気がとけ、みんな「良かったね!」と口々に言って拍手していた。
「司教のお許しがでたわけだし、アストちゃんに美味しいケーキをごちそうしなくちゃ!」
「そうだわよね!」
と言い合いながら、俺に教会を案内しようとしてくれる。
なんやかんやあったが、ここの教会都市はみんな良い人たちばかりらしい――
俺はふと、キラキラ輝くステンドグラスのふもとに視線をとめた。そこには、一人の少女が立っていた。
「あれ……あの子だれ?」
綺麗な白髪の女の子だ。陶器人形のように白くて細い体躯。金色の瞳はクリッとしている。その背には、美しい純白の翼が輝いていた。
「あの子は天使の子だよ、森で倒れていたのを保護したんだ!」
とシュリエルは微笑んだ。
天使の子は控えめに微笑を浮かべると、丁寧にお辞儀をしてくれた。
可愛いし綺麗だし、優しげな顔つきをしている。
俺は会釈しようとして、一点、気になることに目を留めた。
その女の子の瞳だ。たしかに綺麗だけど……その根底に、暗い闇が潜んでいるように思えたのだ。
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