神霊さんの不協和音な三兄妹、それと周りの人たち

砂樹

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第一章

2 年末年始と魔族と使い魔 その2

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 元々黒っぽい植物が多い上に昼間でも暗いせいで暗黒の森なんて呼ばれる森は、真夜中となると黒一色になり、濃淡の区別さえ失われてしまう。

 そのため、一人一つ、足下を照らすためのランタンを持っている。

 それでも足下がおぼつかないのは、ここがまだ獣道だからだ。

 ようやく街道が見えてきた時には、疲れ果てたため息が漏れてしまった。

「よかったです、道に迷ってなくて」

「そうだな。あとは……こっちに行けば大丈夫だ」

 街道といっても馬車の轍が自然に造った道であり、どこぞの都市近辺の街道みたいに舗装されていないから歩きやすくはないが、人間の生活圏に戻ってきた安心感はある。

「しかし……。あんなところで悪魔の使い魔と遭遇するとはな」

 異父妹とは似ても似つかない澄んだ金色の髪をかきあげてバンダナをつけ直しながら、副隊長のドレは疑念と警戒の混じった声を発した。

 脳裏に浮かぶのは、依頼の魔物討伐を終えた帰り道に突然襲いかかってきた黒い群れ。

 ウサギ程度の大きさで、見た目が明らかに毛皮ある生き物だったからまだマシだが、暗い中であんなものを見てしまっては、全身をぞわりとさせたり背筋に冷や汗が流れたり恐怖に固まったりする事こそ正常な反応に違いなかった。

「ですね。最下級悪魔とは名ばかりの、元使い魔の群れでしたけど、大変でした」

 三人とも大きな怪我なく倒しきったが、消耗がないわけではない。

 カユシィーの剣は五本中二本が職人でないと修理できない状態になっていた。
 たぶん修理するより買い換える方が安い。

 ドレが使う矢の補充費用もかなりの痛手となる。
 魔術優先で戦っていたのに、再使用できるよう慎重に使って可能な限り回収したのに、十七本も買わなければならない。

 赤字になるほどの出費ではないが、借金返済に回せる金は微々たるもの。

 ただでさえ縮こまっているシシャルの前で口に出すわけにいかないが、頭は痛い。

「うっかり制御を離れた使い魔が野生化って、何やっているのでしょうね、上級悪魔」

 悪魔と魔族の境界は曖昧だが、基本的に、人間に害を成すなら悪魔扱いとなる。
 魔族側からするともっと厳密な区分があるらしいのだが、資料が少なくて分からない。

「あれさえなければもっと早く帰れたのですよ」

 悪魔が使役する使い魔は使用者の髪など身体の一部から作られた人工生命体で、他者の制御は受け付けないらしい。
 なのに使用者の制御も受け付けなくなることがあるのは、どこかに欠陥があるとしか思えない。

「わざと放した可能性も否定できない。聖都近くでは悪魔の動きが不穏らしい。すでに複数の被害が出ているそうだ」

「はた迷惑ですよねー……。こっちは被害が出る前だったので良かったですけど」

 兄妹は同時にちらりとシシャルを見る。

 生成と灰色の中間のような地味な色のローブをまとい、目深にフードをかぶった少女。
 見た目だけならカユシィーより年上っぽいが最年少の十歳だ。

 闇属性だからと攻撃され続けてきたため痛みに慣れてしまっていて、兄妹と出会う前に親しかった人が自分のせいで殺されたかもと気に病んでいて、変な風にこじらせている。

「その子も、ほんとは討伐しなきゃなんですよ?」

 現在、彼女の腕には、コウモリのような翼のある小さな黒い動物が抱えられている。
 布でくるんで目立たなくしているが、顔は出ている。

 つぶらな瞳やふわふわの毛並みだけ見ればかわいいと言えなくもないが、やはり魔物系統の見た目だ。
 見つめるほどに、分かりあえる気がしない。

「他の個体と違って見た目がおとなしいし攻撃もしてこなかったから見逃しましたけど」

「う、うん。人には危害加えないように、ちゃんと首輪つけて使役獣登録するから」

 制御できないのと懐かせることができないのは、同義ではない。

 首輪を買うにも使役獣登録にも金がかかるのだが、これ以上シシャルを追いつめると突発的に家出して行方不明になりかねないので、指摘はしない。

 前回家出された時は本当に大変だったのだ。
 主に妹の睡眠不足で。

「あ。あの、えっと、この子は何食べるのかな? 副隊長さんは知ってる?」

「推測はできる、程度だ。人工的に魔力で作った疑似精霊みたいなものだろうから、魔力さえ与えておけばいいと思う。正確なところは作成者にしか分からんな」

「そっか。疑似精霊。この子の力でわたしも戦えるようになれれば」

 魔力はあるのに攻撃魔術も攻撃精霊術も一切使えないシシャル、攻撃系統にとにかく憧れている。
 いろんな魔導書を読みあさっては使えないと嘆く姿を何度も目撃している。

「悪魔が使い魔を精霊代わりに用いた記録はないし、無理ではないか?」

 夢を壊すのは心が痛むが、どうしようもない事実を告げずにいると後が大変だ。

「そっかぁ……。たなぼたはないかぁ」

 シシャルは謎の動物をもふもふ触りながらしばし複雑そうな顔をしていたが、触り心地の良さに負けて頬がゆるんでいった。

 とりあえず、今回の騒動で行方不明は回避されたようでなにより、なんだろうか。

(帰ったらご機嫌取りに毎日唐揚げ作るか……)

 妹たちの精神面の健康管理が、副隊長ドレにとって借金よりも頭の痛い問題だった。
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