神霊さんの不協和音な三兄妹、それと周りの人たち

砂樹

文字の大きさ
6 / 108
第一章

4 年末年始と魔族と使い魔 その4

しおりを挟む
 その頃、町からそこそこ離れた森の中の隠れ家にて。

「緊急召集に従って休暇返上して参上してやったぞ。何があった」

 豪奢な衣装をまとった魔族の男は、大股で地下室に足を踏みいれた。

 魔族の社会でも、年末年始は基本的にお休みである。
 人間みたいに盛大に祝うことはないものの、特別な日という認識はある。

「妹の命日を静かに過ごす予定を潰したんだ、ろくでもない理由じゃないだろうな」

 まして、彼らにとって、新年の一日目は大切な人たちの命日だった。

「なんだよーぅ。俺にとっては妻の命日に無念を晴らす日のつもりだったがなー」

 呼び出した側の魔族がどこか不満げにぼやき、木の器に酒を注いだ。

 海藻のように波打つ髪や鋭い目つき、黒一色の重苦しい衣装、薄暗く陰気な隠れ家の雰囲気に似合わず、中身は甘めで酒分の少ない蜂蜜酒だ。この男、あまり強くない。

「義兄さんも何か飲んでくれ。飲まずにやってられるか」

 すでにできあがっている様子の義弟に、こちらの姿はちゃんと見えているのか。

 彼の義理の兄、フルトことフルトウウォール・カルィタ・リツァールの姿は見えているのか。

「今は飲めない。お前から話を聞かねばならん」

 緊急だからと、ろくに着替えもせず飛んできたのだ。

 身にまとうのは、安息の闇織りの一族の布から作られた儀礼用の豪奢な衣装。
 亡き両親が深海色の髪と浅瀬の海色の瞳に合わせてしつらえてくれた一級品だ。
 手狭で陰気なこの場所には、まったくもって合っていない。

 素面なら、状況考えろ着替えてこいと言われてもおかしくなさそうなものだ。

「人間どもめぇ、俺たちが何したって言うんだよぉ。義兄さんも飲めよぉ」

 いったいいつから飲んでいたんだ、こいつ。



 魔族と一口に言ってもいろいろいる。

 二人は魔族の中でも穏健派であり、戦闘能力も低い方だ。

 見た目も人間とさほど変わらない。角が生えているわけでもないし、コウモリじみた翼があるわけでもない。瞳孔が縦とか横とかに開くこともない。

 耳がとがっていて、犬歯も鋭くて、力が弱い者でも赤ん坊でも大抵の人間より多くの魔力を保有し、闇属性が多い。違いなんてその程度。

 人間並みの高い繁殖能力を有し、家族を大切にし、同族の共同体を構築することで比較的安全に暮らしてきた。

 十四年前に、故郷が人間の手で滅ぼされるまでは。



「バレク。本当に緊急だというならば、酒はいったん止めて説明するんだ」

 肩をつかみ、軽くではあるが揺さぶる。
 うつろだった目にようやく光が戻る。

「あぁ……。あぁ、すまない、義兄さん。来てくれたのか」

 義弟はただの水を一杯飲み、ようやく落ち着いた様子で背筋を正す。

「事情を説明してもらえるか?」

「あぁ。俺は、ずっと、人間が奪っていった家宝の宝玉の在処を探していた。少し前に、場所を突き止めたんだ。それで、年末年始のゆるんだ警備体制を狙って、大量の使い魔を放ち壊滅させるつもりだった。復讐を果たして宝玉も取り戻すつもりだった」

 義弟は昔から真面目で実直だと有名だった。
 妻の死から立ち直れず迷走していた時期もあるが、ここ数年はかつてのように動き回っていた。

 まさか、目的不明の奔走は、人間に喧嘩売るためだったのか。

 無謀極まりない。

 返り討ちで死亡だけならまだマシな方だ。

 最悪の場合、人間の神殿の聖騎士団が派遣されて一族郎党皆殺しにされるのだから。
 今暮らしている集落だけでなく、無関係な集落もとばっちりを食らいかねないのだから。

 二人の故郷が滅ぼされたのだって、他の土地への襲撃のとばっちりだったのだから。

「ふむ。……失敗報告か。お前の使い魔を返り討ちにするとは、手練れだな」

 義兄として冷静を装いつつも、内心焦っていた。

 魔族はおおむね魔力が多く魔術に秀でているが、向き不向きはある。

 義兄フルトは視覚偽装や認識阻害や異空間迷路の生成など幻惑系統を得意とし、義弟バレクは使い魔や魔導人形などの疑似生命創造を得意とする。

 強度はそれほど高くないが、あくまで同族基準に過ぎず、対人間ならば充分と言える。

 それでも、聖騎士団の数の暴力には敵わない。

「使い魔の出所は悟られたのか?」

「分からん。倒された際の詳細自体が分からん。町にたどり着くこともできなかった。聖王の姫と勇者は聖都で休暇中のはずなんだが」

「勇者……、あぁ、あの町か。我らの集落を滅ぼす際の拠点にされたという。そこならば戦利品としてあってもおかしくない。人間の神殿に運ばれたものとばかり考えていたが」

「俺もそう考えていたさ。……話を戻すが、使い魔たちは襲撃前の待機中に発見され、制御を切られた上で倒されたようだ。一網打尽というやつだ。あれだけ準備したのに、だ」

 制御を切った上で倒す。
 それは対使い魔戦闘に長けた者ということか。

「制御が切れる直前の記録を調べてみたが、姿は見えなかった。おかげで何者の手によるかも分からん。使い魔どもは統率をとれず手当たり次第に人間を攻撃し、返り討ちになったと思われる」

「信じられないな。あの町に神殿認定勇者以外の実力者などいるはずなかろうに」

 自称移民船団による開拓で最後に作られたのがあの町とされている。
 人間たちの国は開拓時期が早いものほど重要視されるため、あそこは国内で一番の辺境で一番貧しい町なのだ。

「使い魔とはいえ防御力はそこらの魔物の比ではなく、数の暴力もあるのだろう? 年末年始も休めない困窮冒険者に倒されるはずはない」

 年末年始、冒険者も休暇を取る。
 そもそも依頼自体極端に少なくなるという。

 休暇を取れないということは、それだけ困窮しているということで、そういう者はたいてい駆け出しか泣かず飛ばずの弱い冒険者というのが相場だ。

「あぁ、俺もそう思うよ。なのに、倒されたんだ。それは間違いねえんだ」

「不気味だな。生き残りがいると知られたか? ならば警備を強化せねば。姪だけは何がなんでも守るぞ」

「あ、ああ。警備強化は俺が引き受ける。本来、そちらの方が得意分野だ」

 使い魔を作るのが得意でも、戦いが得意とは限らない。
 義弟の真骨頂は、使い魔と魔導人形を用いた情報網構築と罠の作成にある。

 守るには向いているが、攻めるには向いていないのだ。

 と、義弟は言外で言い訳するような顔をしていた。

「分かった。ならば私が偵察に向かおう。念のため隠密行動に徹し、情報を持ち帰ることを第一とする。よいな」

 一度自宅に戻って着替えてから出発となるが、日が昇るまでには終わるだろう。

「義兄さん。追加でもう一つ。制御を離れても使い魔の生存はある程度分かるのだが、一匹だけ生き残っているようなのだ。使い魔に逃走などという行動ができるとは思えぬ以上、捕獲されて調査される可能性が高い。死体ならまだしも、生体相手の研究は危険だ」

「処分してくればいいのか?」

「警備状況にもよるが、可能ならば」

「承った。では行ってくる」

 そしてフルトは、新年で浮かれて警備もゆるんだ町へ向かうことになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...