神霊さんの不協和音な三兄妹、それと周りの人たち

砂樹

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第一章

6 年末年始と魔族と使い魔 その6

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「……という流れで、いろいろ美味い物を食べてきた。持ち帰れる物は持ってきた」

 再びの隠れ家にて。
 フルトはおみやげもとい戦利品を開帳する。

 また泥酔いしていたはずの義弟の目がすっと細められ、思い切り据わった。

「にーいーさぁーん? 当初の目的はどーしたー。誰が使い魔を倒したー」

「まずは食ってみろ。美味いから」

「へいへーい」

 チーズ入り唐揚げを渡す。
 少女の使っていた保温空間なる魔術により、まだ温かい。

 一個つまんでみると、チーズはまだ固まっておらず、トロリとしていた。

「む……。ほんとに美味いなこれ。人間はこういうのも侮れないか。んむ、まぁ、食い物に罪はねえし、料理人が俺らにどうこうしたわけでもねえし、んむ」

 そして、屋台飯をつまみながらの報告会議となる。

「野菜を練り込んだ蒸しパンか。お、中に肉入ってんのか。これも鶏か?」

「あの町は元々養鶏が盛んなのと、あの女の子が鶏料理好きだったのもあるんだろうな」

 が、暗い部屋での飲み会にしか見えない状態になっていく。

 なお、酒は自前の蜂蜜酒と発泡酒。



「はぁー……。奥さんにも食わせたかったなぁ、このモモ肉。墓前に供えるかな」

 義弟の妻でフルトの妹だった女性は、鶏好きだった。

 今になって思うが、あの女の子を幼い頃の妹と重ねていたのかもしれない。
 容姿は似ても似つかないが、鶏を前にした時の目の輝かせ方は一緒だった。

「……報告を、するぞ。複数から得た情報を総合すると、使い魔を倒したのは神聖属性の少女が隊長をしているパーティだそうだ。自称半神霊兄妹の妹という。町ではかわいい隊長として有名なのだそうだ」

「半分神霊か。そら強い。奴らは魔力が我らと同等かそれ以上だもんなぁ。もしや、そんな特別な存在なら武器も特別なものか?」

 半神霊を名乗っているのは兄だけなのだが、フルトはそこまで把握していなかった。

「光属性付与済みの市販の剣らしい」

 市販されていようと量産されていようと属性付与は高くつく。
 しかし、属性相性次第では侮れない威力を発揮する。
 付与された属性を強化する補助術などを使えば効果はさらに増すだろう。

「光なら、仕方ないな。あぁ、どうしようもない。相性最悪すぎる。使い魔は?」

「神聖属性の隊長とどのような関係があるかは不明だが、闇属性の子のところにいた。たぶん人間? だが、使い魔を気に入ってるようで、すごくかわいいから飼うんだとさ。なぜか懐いていた。放っておいても害はないだろうし、取り上げるのもかわいそうな気がしてそのままにしてある」

 疑問符がついてしまったのは、闇属性の人間なんて見るのが初めてだったせいだ。

 闇属性の濃い土地では闇属性の子供が産まれやすいはずなのに、人間から闇属性は産まれないなんて俗説がある。

 だから、純粋な人間とは言えないのではないかと疑わずにいられないのだ。

「かわいい見た目の奴などいたか? 画一的な生成できねえから個体差強めだが……」

「私から見てもかわいさは分からなかったが、何も知らない者が見ればふわふわの毛玉のような魔物としか思えぬのだろう。町の人々にも警戒されていなかった。正体に気付かれて研究される危険性は低い」

「モフモフみたいな見た目だったのか?」

 モフモフ。
 目も鼻も耳も口も手足もない、毛皮や綿の塊のような謎生物だ。

 しかし、そんな見た目なのになんとなく剣呑な気配がし、一度触ったら魔性の手触りに魅了されて離れられなくなり、魔力を吸い尽くされるまで深い眠りに落とされる。

 自分からは動こうとしないから、触りさえしなければ無害。
 だが、視界に入っているとどうしてもふわっふわの毛並みを触りたくなってしまうから非常に危険なのである。

「モフモフ……。まあ似てるといえば似ている。なんにせよ、精神性はだいぶ我ら寄りだな。相当不遇な目に遭ってきたようだ」

「んーむ。たしかに人間にも俺らと共鳴できる奴はいるよなぁ。そもそも俺があの町滅ぼそうと決めたのも奪われた宝玉があの町にあると知ったからであって、あの町の人間が仇敵ってわけでもないんだよなぁ。冷静になってみると、ついでに滅ぼすか程度のノリだ」

 二人にとって、仇敵は聖都の中心でふんぞり返る権力者どもとその手下どもである。
 その権力者が高位神官や聖女のたぐいなのかさえも分からないが、聖都の騎士団を動かせる権力があることだけは明らかだ。

 なお、人間の国は聖王なる人物が頂点に立つが形式だけに過ぎず、実質的な支配者は神殿を牛耳る権力者たち……ということは、魔族の間にも広く知れ渡っている。

「あの町は飯が美味い。森にいる限り魔力だけで肉体維持できるがやみつきになる」

「たしかに美味いよなぁ。滅ぼしたら食えなくなるなぁ。いや、滅ぼさなくても食えねえのは変わらないけど、だが」

「宝玉を狙う手段は、殲滅ではなく潜入にしないか? 警備状況はまだ不明だが、場所の見当はつけてきた。今いる集落に迷惑がかかるのも家族が傷つくのも避けたいし、被害は最小限にとどめるべきだ。あの子を苦しませるのも本意ではない」

「なんだよぉ、義兄さんは幼女趣味かぁ? だから慈悲の神霊様のいもしない娘との結婚なんて理由で一生独身強いられるも同然でも不平不満がないわけかぁ?」

「馬鹿を言うな。あれは、妹をお前にやるための苦肉の策だった。本来は神そのものと一族の長の姉妹か娘が婚姻を結ぶことで安寧を願う風習だ。お前たちが相思相愛で、お互いの家にとっても利のある話だったから、結婚を認めるために曲げたのだ」

 当時、フルトには恋人もいなければ想い人もいなかった。
 二人の仲睦まじさを見ているうちに、壊したくないと想うようになっていった。

「……感謝はしてるよ。慈悲の神霊様はとっくの昔にお隠れになっていて、風習を愚直に守ってようと守ってもらえるはずはねえ、って、みんな分かってた」

 義弟は酒を注ぎ、ちびちびと飲む。

「あんな事件があっても、誰も、俺たちを責めなかった。けど、俺は、責任を感じてたんだよ。もしやの想いを捨てられねえし、何もできなかったのが悔しいんだよ」

「それで、集落側にも私にも伝えず、独断専行をした、と」

 町に向かう前は別の心配が優先だったため深く追求しなかったが。

「恨みに恨みで返していたら姪の身に危険が及ぶ。それは看過できない」

 今になって、ようやく、こちらの主張を口にできた。

「まして、今の我らの立場は、他の集落に身を寄せる難民だ。好意を仇で返しかねない危うい行動は慎むべきだった」

「……あぁ。そう、だ、な。死者は取り戻せないなら、せめて、家宝だけでも――いや、人間どもが憎かっただけだな。楽に確実に取り返せる方法なんて、考えようともしなかった。上手く行っても行かなくても娘に危険が及ぶかもなんてことも、考えられなかった」

 失ったものが大きければ大きいほどに、遺されたものがかすんでしまう。
 大切じゃなくなったわけじゃないのに、軽んじるような行動をし、傷つける結果を招いてしまう。

 そういうもの、なのかもしれない。

 小さく、ため息をつく。

 今後人間たちがどう動くか読めないが、被害が出る前なら穏便な解決も望めよう。
 かわいい隊長とやらには感謝しておくべきか。

「気が済むまで飲んで食べたら、帰ってのんびり過ごそうな」

 義弟の背をさすってやりながら、酒を飲み、屋台飯をつまむ。

 そうして、人知れず、町の危機は過ぎ去っていったのだった。





 貸家のまだきれいで安全な場所に移動させた机の上に、屋台飯が並んでいる。

「シシャルちゃん。留守番中になにか良いことありました?」

「とても親切な闇属性の人と仲良くなって、仮装用の服を買ってもらえて、偽装魔術まで使ってもらえたの。それでね、一緒にお祭りを楽しめたの。町の外の人みたいだし、名前も聞けなかったから、また会う機会あるかは分かんないけど」

 金銭的な都合で買えなかった丸鶏揚げを切り分けてもらいながらシシャルは微笑む。

 初めて出会った同属性というだけでも特別なのに、あの人は立派な大人だったのだ。
 闇属性でもまともな社会的地位につけるのだと、勇気がもらえた。
 手持ちが乏しいとは言っていたが、それはきっと普段はツケ払いできるような金持ちだから現金を持ち歩かないのだ。
 屋台飯を珍しがっていたのも、シシャルとは全然違う理由に決まっている。

「シシャル? 親切にされたのがうれしいのは分かるが、親切すぎて怪しくないか? 騙されてないか? 何かされなかったか?」

 切った肉を木皿に盛りつけながら、副隊長は心底いぶかしげだ。

「えーっと、でも、闇属性の人が私を傷つける理由なんてないから大丈夫かと」

「それはそうかもしれないが。裏に何か陰謀はないか?」

「大丈夫だってば。私なんか騙したって何も得られないんだから。あ、皮おいしい」



 普段は警戒心の塊なのに闇属性への警戒心は皆無なシシャルの姿に、兄妹はいろんな意味で考え方を改めた。

 この子、相手が闇属性だとチョロすぎて危ない、と。
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