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第二章
3 唐揚げ挟みパンと、くるみパン
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帰宅した二人は荷物と剣を置いてくると昼食の準備に取りかかった。
シシャルは冷凍庫魔導具から唐揚げを取り出し、隊長と副隊長が二人暮らししていた頃から使われている箱型の加熱魔導具に入れる。
その姿を、ニクスは言いたいことをぐっと我慢しながら眺めていた。
「唐揚げ唐揚げタダ唐揚げーっと」
その魔導具、本体を買うだけならそこまで高くないが、動力源の魔力結晶が高すぎるため、魔力豊富で魔力結晶生成できる魔術師のいる家にしか普及していないらしい。
貴族が出す募集広告の中には『急募 無属性魔力結晶作れる魔術師』なんてのもあるそうだ。
動力用の魔力結晶は使い切っていたようで、シシャルは親指の爪大の無属性魔力結晶をささっと作って魔力結晶投入口に放り込む。
「マスターさ、魔力結晶の貴重さ分かってないよね」
思わず、口を挟んでしまった。
今入れた魔力結晶で大銀貨一枚くらいになるのだ。
「普通に買おうとしたらとんでもなく高いのは知ってるよ」
シシャルさんはちょっとむくれているが、間違いなく分かってない。
魔力結晶を作るのはそこそこ高度な技術だし、魔力結晶そのものが魔力の塊なのに加えて生成作業でそれなりに魔力を消耗する。
体内魔力量が多くないとゴマのような大きさを一粒で魔力切れなんて非効率すぎる結果もあり得るのだ。
魔族ならわりとお手軽に鼻歌交じりに魔力結晶作って使って快適魔導具生活できるが、人間でそんなことできるほどの魔力持ちは滅多にいない。
いざって時のお守り代わりの魔導具は広く普及しているが、それ以外はどんなに便利だろうといまいちなのは、魔力結晶作れる人がそう多くないからなのだ。
ちなみに、冷凍庫魔導具は大きさと重さを犠牲にすることで魔力循環効率を高めまくってあるので、少ない魔力結晶でも維持できるようになっている。
「でも、私が作れるのは無属性魔力結晶だけだし。隊長さんの役には立てないし」
シシャルが自身を過小評価しているのは、主にそのせいだ。
どんなにお手軽に魔力結晶を生成できても、邪霊除けには使えない。
できあがった魔力結晶に属性を付与することはできないし、作る過程で付与できるのは作成者の持つ属性だけだ。
属性を偏らせたり属性を含めないようにすることはできるが、持っていない属性を帯びさせることは不可能とされている。
シシャルの場合はそのままだと闇属性が微妙に混じっていて不利益しかないため必ず無属性化処理を行っていて、今ではほとんど意識せずとも無属性結晶を作り出せるという。
「掃除ちゃんとしててもまったく反応されないし、美味しい料理作ってもなんか反応いまいちなこと多いし」
先日のもつ煮の話を思い出してしまい、ニクスは無意識のうちに目をそらしていた。
好き嫌いの話はいつかしなきゃならないが、今は、まだダメなのだ。
「闇属性だって味覚は普通のはずなのに。……加熱、っと」
加熱時間は三分ほど。
その間に、唐揚げを挟むパンを選ぶようだ。
外出時はかまどの火を消してあるため、また火を起こすのは面倒だ。
加熱魔導具で温めるとなぜか余計に硬くなったり噛み切りづらくなったりすることもある。
なので、今日の昼食では温めずともそこそこおいしくて硬すぎないものが選ばれる。
パンの大きさは大小さまざまあるというが、我が家では手のひらを広げたくらいの大きさで平たいものが多い。
台所の常温保管庫に入っているのも大半がこれだ。
発酵パンの一種ではあるも、生地がみっちり詰まっていて食べ応えがある。
シシャルはパン一個で中銅貨一枚取られるのかと愕然としたらしいが、パン一個で一日ひもじい思いをしなくて済むことを思えば安いと言い聞かせていた。
しかし、食べるのが苦になる味ではないが美味しいと言えるものでもない。
隊長が「周りはこんがり良い焼き色で中は白くて、ふんわりしていて、甘くて、ほんのりバターの香りがして、ぼそぼそしてなくて酸っぱくもないパンが食べたいです」とぼやくのを聞いたことは数知れず。
隊長の実家は貴族というが、相当な金持ちだったに違いない。
そうでなければ、中が白いなんて表現できるパンを食べることはおろか見ることさえ難しいのだ。
「せっかくの唐揚げをいつものパンで挟むのもなぁ」
シシャルが闇属性というのもあって、我が家が買えるパンは決して品質のいいものじゃない。
金持ち用にひいた小麦粉や大麦粉をふるった後の残りをさらにひいてふるい、その残りを雑穀粉に混ぜてカサ増しした最低品質のものしか売ってもらえない。
薄くて平べったいのは、火の通りを早くすることでの燃料節約と、ふくらみが悪くて硬いから少しでも食べやすくするのと、二つの意味合いがある。
隊長が「ふくらみが悪い」とか「ぼそぼそ」とか文句を言うのも仕方ないのだ。
酸っぱいのは発酵種の種類の問題であって、決して古いとか品質が悪いとかではないらしいが、ニクスはパン作りに関わったことがないので聞きかじりの半端な知識しかなかった。
「この間もらったパン使おっかな」
闇属性のせいでまともなもの売ってもらえないと言いつつ、シシャルは時々良いものを隊長副隊長に内緒でこっそり食べている。
どうせ私がいないところでは二人とも美味しいもの食べているんだし、私よりずっと食事にお金かけてるんだし、少しくらいいいでしょ。
……というのが言い分だ。
シシャルとあの二人、仲良さそうに見えて実は全然分かり合えていないし心を開いてもいないのではあるまいか。
「私はもちもち雑穀パンにするけど、ニクスは食べたいパンある?」
常温保管庫の中に置かれていた隠し保管庫用封印魔導具から、拳大より少し大きくて丸々としたパンが取り出される。
箱の大きさよりパンの方が大きいのは、空間をいじる系統の魔導具だからだ。
これの維持もシシャルの魔力結晶で行っている。
封印とあるのがなんか不穏だが、いつ手に入れたか分からないのにまるで焼きたてのような見た目と香りだが、気にしてはいけない。
「松の実とくるみのパンあればそれで」
精霊は魔力だけで身体を維持できるが、ニクスくらいしっかりした実体と自我があって前世の記憶まであるような精霊は食事を好む傾向が強い。
さすがにシシャルがお腹空いたと苦しんでいる状況で食べ物をせがむことはないが、今はとりあえず、金銭的にはともかく食事的には苦労していない。
追い出された後の食事は心配だが、その箱と冷凍庫魔導具を持って行けば一月は暮らせるだろう。
シシャルさん、どれだけ食べ物を貯蔵しているのか。
「松の実はないけどクルミのパンはあるよ。練りクルミを混ぜた生地に砕いたクルミを混ぜたパンだったかな。試作品でもらったやつだけど、美味しかったよ」
「それにする」
試作品でもらったってどういう経緯だろうか、という部分は後で聞こう。
「ニクスは木の実が好きだよね」
シシャルは微笑みながら拳大のパンを差し出してきた。
こちらも丸々としていて、皮がぱりっとしている。
ずっしりしているといえばずっしりしているが、がちがちに詰まっているためではなく、水分を含んでいるための気がする。
まともに稼いでいて我が家みたいな特殊事情さえなければ、週に一回くらいはちょっと奮発して買える程度の物だろうが、お高いことに違いはない。
「私は唐揚げに挟んで食べるけどニクスはどうする?」
「別々で食べようかな」
「じゃ、すぐに準備しちゃうから待っててね」
シシャルは包丁を取り出すとパンを上下で分けるように切り、魔導具から取り出した唐揚げを挟んだ。
唐揚げは一口大ではなく一枚肉だから、転がり落ちることはない。
「ニクス、唐揚げは切っとく? かじりつく?」
「切っとく」
前世の記憶が戻る前は当たり前のようにかじりついていたが、今はしない。
一口大に切り分けてから食べるようにしている。
昔の習慣に引きずられている格好だ。
サクサクっと良い音立てて唐揚げが一口大に切られ、木皿に盛りつけられる。
シシャルは皿に置かずかぶりつくつもりのようで、皿はパンくずの受け皿の意味でしか使わないようだ。
「いただきます」
それぞれの席に着き、隊長のような祈りの言葉はなしで食べ始める。
くるみパン、久方ぶりの上等なパンだった。
もちもちと弾力のある生地も、くるみの香りも味わいも、良い物と手間を惜しみなく使って作られたものにしか出せないものだ。
隊長が望むようなふわふわではないし、上等な粉を使った白さもないが、ニクスにとってはこの食べ応えあるもちもち感と深い味わいこそが愛する味だった。
もしもこのパンが販売開始されたら、また食べたい。
「唐揚げ美味しい……っ。勇者ずるい」
シシャルはシシャルで本日の食事に感動している様子だが、物は違う。
「ま、マスター? なんで勇者?」
「これ、勇者が一番おすすめの屋台の唐揚げなの。魔物討伐帰りにちょくちょく食べてるんだって。衣がしっかりついているけど油っぽくなくてさくっとしててすっごく美味しいんだぜって……。やっぱずるい」
「勇者相手に悔しがっても不毛だよ?」
勇者(神殿認定)なんて若干の笑いを込めた呼称をされている勇者だが、先代勇者の横暴の件があって権力はあまり持たされていないというが、神殿上層部の力関係が揺らがない都合のいい人物の中で最強というただし書きがついているのも公然の秘密だが、勇者の聖剣は本物だし、勇者の装備も一級品だ。
相手がもさっとしたぱっとしない容姿の二十代そこそこの青年だろうと、世渡り上手そうに見えずとも、勇者は勇者でシシャルは闇属性。
待遇に天地の差があってもなんらおかしくない。
「それは、そうだけど。次は絶対に半身揚げだけじゃなくてこれも買ってこさせてやる」
「マスター? 勇者となんかあったの?」
シシャルがちょくちょく勇者と会っているのは知っている。
勇者の依頼を受けた時は報酬を食べ物で要求していたことも知っている。
(あー……。このパンも唐揚げも勇者経由でうちに来たのか……)
出所に少し納得したところで、ニクスはじっと少女を見つめた。
――――――――
加熱魔導具はほぼ電子レンジ。
形とか動力源とかは異なるものの、使い方は似たり寄ったり。
なお、オーブン機能は付いていません。
シシャルは冷凍庫魔導具から唐揚げを取り出し、隊長と副隊長が二人暮らししていた頃から使われている箱型の加熱魔導具に入れる。
その姿を、ニクスは言いたいことをぐっと我慢しながら眺めていた。
「唐揚げ唐揚げタダ唐揚げーっと」
その魔導具、本体を買うだけならそこまで高くないが、動力源の魔力結晶が高すぎるため、魔力豊富で魔力結晶生成できる魔術師のいる家にしか普及していないらしい。
貴族が出す募集広告の中には『急募 無属性魔力結晶作れる魔術師』なんてのもあるそうだ。
動力用の魔力結晶は使い切っていたようで、シシャルは親指の爪大の無属性魔力結晶をささっと作って魔力結晶投入口に放り込む。
「マスターさ、魔力結晶の貴重さ分かってないよね」
思わず、口を挟んでしまった。
今入れた魔力結晶で大銀貨一枚くらいになるのだ。
「普通に買おうとしたらとんでもなく高いのは知ってるよ」
シシャルさんはちょっとむくれているが、間違いなく分かってない。
魔力結晶を作るのはそこそこ高度な技術だし、魔力結晶そのものが魔力の塊なのに加えて生成作業でそれなりに魔力を消耗する。
体内魔力量が多くないとゴマのような大きさを一粒で魔力切れなんて非効率すぎる結果もあり得るのだ。
魔族ならわりとお手軽に鼻歌交じりに魔力結晶作って使って快適魔導具生活できるが、人間でそんなことできるほどの魔力持ちは滅多にいない。
いざって時のお守り代わりの魔導具は広く普及しているが、それ以外はどんなに便利だろうといまいちなのは、魔力結晶作れる人がそう多くないからなのだ。
ちなみに、冷凍庫魔導具は大きさと重さを犠牲にすることで魔力循環効率を高めまくってあるので、少ない魔力結晶でも維持できるようになっている。
「でも、私が作れるのは無属性魔力結晶だけだし。隊長さんの役には立てないし」
シシャルが自身を過小評価しているのは、主にそのせいだ。
どんなにお手軽に魔力結晶を生成できても、邪霊除けには使えない。
できあがった魔力結晶に属性を付与することはできないし、作る過程で付与できるのは作成者の持つ属性だけだ。
属性を偏らせたり属性を含めないようにすることはできるが、持っていない属性を帯びさせることは不可能とされている。
シシャルの場合はそのままだと闇属性が微妙に混じっていて不利益しかないため必ず無属性化処理を行っていて、今ではほとんど意識せずとも無属性結晶を作り出せるという。
「掃除ちゃんとしててもまったく反応されないし、美味しい料理作ってもなんか反応いまいちなこと多いし」
先日のもつ煮の話を思い出してしまい、ニクスは無意識のうちに目をそらしていた。
好き嫌いの話はいつかしなきゃならないが、今は、まだダメなのだ。
「闇属性だって味覚は普通のはずなのに。……加熱、っと」
加熱時間は三分ほど。
その間に、唐揚げを挟むパンを選ぶようだ。
外出時はかまどの火を消してあるため、また火を起こすのは面倒だ。
加熱魔導具で温めるとなぜか余計に硬くなったり噛み切りづらくなったりすることもある。
なので、今日の昼食では温めずともそこそこおいしくて硬すぎないものが選ばれる。
パンの大きさは大小さまざまあるというが、我が家では手のひらを広げたくらいの大きさで平たいものが多い。
台所の常温保管庫に入っているのも大半がこれだ。
発酵パンの一種ではあるも、生地がみっちり詰まっていて食べ応えがある。
シシャルはパン一個で中銅貨一枚取られるのかと愕然としたらしいが、パン一個で一日ひもじい思いをしなくて済むことを思えば安いと言い聞かせていた。
しかし、食べるのが苦になる味ではないが美味しいと言えるものでもない。
隊長が「周りはこんがり良い焼き色で中は白くて、ふんわりしていて、甘くて、ほんのりバターの香りがして、ぼそぼそしてなくて酸っぱくもないパンが食べたいです」とぼやくのを聞いたことは数知れず。
隊長の実家は貴族というが、相当な金持ちだったに違いない。
そうでなければ、中が白いなんて表現できるパンを食べることはおろか見ることさえ難しいのだ。
「せっかくの唐揚げをいつものパンで挟むのもなぁ」
シシャルが闇属性というのもあって、我が家が買えるパンは決して品質のいいものじゃない。
金持ち用にひいた小麦粉や大麦粉をふるった後の残りをさらにひいてふるい、その残りを雑穀粉に混ぜてカサ増しした最低品質のものしか売ってもらえない。
薄くて平べったいのは、火の通りを早くすることでの燃料節約と、ふくらみが悪くて硬いから少しでも食べやすくするのと、二つの意味合いがある。
隊長が「ふくらみが悪い」とか「ぼそぼそ」とか文句を言うのも仕方ないのだ。
酸っぱいのは発酵種の種類の問題であって、決して古いとか品質が悪いとかではないらしいが、ニクスはパン作りに関わったことがないので聞きかじりの半端な知識しかなかった。
「この間もらったパン使おっかな」
闇属性のせいでまともなもの売ってもらえないと言いつつ、シシャルは時々良いものを隊長副隊長に内緒でこっそり食べている。
どうせ私がいないところでは二人とも美味しいもの食べているんだし、私よりずっと食事にお金かけてるんだし、少しくらいいいでしょ。
……というのが言い分だ。
シシャルとあの二人、仲良さそうに見えて実は全然分かり合えていないし心を開いてもいないのではあるまいか。
「私はもちもち雑穀パンにするけど、ニクスは食べたいパンある?」
常温保管庫の中に置かれていた隠し保管庫用封印魔導具から、拳大より少し大きくて丸々としたパンが取り出される。
箱の大きさよりパンの方が大きいのは、空間をいじる系統の魔導具だからだ。
これの維持もシシャルの魔力結晶で行っている。
封印とあるのがなんか不穏だが、いつ手に入れたか分からないのにまるで焼きたてのような見た目と香りだが、気にしてはいけない。
「松の実とくるみのパンあればそれで」
精霊は魔力だけで身体を維持できるが、ニクスくらいしっかりした実体と自我があって前世の記憶まであるような精霊は食事を好む傾向が強い。
さすがにシシャルがお腹空いたと苦しんでいる状況で食べ物をせがむことはないが、今はとりあえず、金銭的にはともかく食事的には苦労していない。
追い出された後の食事は心配だが、その箱と冷凍庫魔導具を持って行けば一月は暮らせるだろう。
シシャルさん、どれだけ食べ物を貯蔵しているのか。
「松の実はないけどクルミのパンはあるよ。練りクルミを混ぜた生地に砕いたクルミを混ぜたパンだったかな。試作品でもらったやつだけど、美味しかったよ」
「それにする」
試作品でもらったってどういう経緯だろうか、という部分は後で聞こう。
「ニクスは木の実が好きだよね」
シシャルは微笑みながら拳大のパンを差し出してきた。
こちらも丸々としていて、皮がぱりっとしている。
ずっしりしているといえばずっしりしているが、がちがちに詰まっているためではなく、水分を含んでいるための気がする。
まともに稼いでいて我が家みたいな特殊事情さえなければ、週に一回くらいはちょっと奮発して買える程度の物だろうが、お高いことに違いはない。
「私は唐揚げに挟んで食べるけどニクスはどうする?」
「別々で食べようかな」
「じゃ、すぐに準備しちゃうから待っててね」
シシャルは包丁を取り出すとパンを上下で分けるように切り、魔導具から取り出した唐揚げを挟んだ。
唐揚げは一口大ではなく一枚肉だから、転がり落ちることはない。
「ニクス、唐揚げは切っとく? かじりつく?」
「切っとく」
前世の記憶が戻る前は当たり前のようにかじりついていたが、今はしない。
一口大に切り分けてから食べるようにしている。
昔の習慣に引きずられている格好だ。
サクサクっと良い音立てて唐揚げが一口大に切られ、木皿に盛りつけられる。
シシャルは皿に置かずかぶりつくつもりのようで、皿はパンくずの受け皿の意味でしか使わないようだ。
「いただきます」
それぞれの席に着き、隊長のような祈りの言葉はなしで食べ始める。
くるみパン、久方ぶりの上等なパンだった。
もちもちと弾力のある生地も、くるみの香りも味わいも、良い物と手間を惜しみなく使って作られたものにしか出せないものだ。
隊長が望むようなふわふわではないし、上等な粉を使った白さもないが、ニクスにとってはこの食べ応えあるもちもち感と深い味わいこそが愛する味だった。
もしもこのパンが販売開始されたら、また食べたい。
「唐揚げ美味しい……っ。勇者ずるい」
シシャルはシシャルで本日の食事に感動している様子だが、物は違う。
「ま、マスター? なんで勇者?」
「これ、勇者が一番おすすめの屋台の唐揚げなの。魔物討伐帰りにちょくちょく食べてるんだって。衣がしっかりついているけど油っぽくなくてさくっとしててすっごく美味しいんだぜって……。やっぱずるい」
「勇者相手に悔しがっても不毛だよ?」
勇者(神殿認定)なんて若干の笑いを込めた呼称をされている勇者だが、先代勇者の横暴の件があって権力はあまり持たされていないというが、神殿上層部の力関係が揺らがない都合のいい人物の中で最強というただし書きがついているのも公然の秘密だが、勇者の聖剣は本物だし、勇者の装備も一級品だ。
相手がもさっとしたぱっとしない容姿の二十代そこそこの青年だろうと、世渡り上手そうに見えずとも、勇者は勇者でシシャルは闇属性。
待遇に天地の差があってもなんらおかしくない。
「それは、そうだけど。次は絶対に半身揚げだけじゃなくてこれも買ってこさせてやる」
「マスター? 勇者となんかあったの?」
シシャルがちょくちょく勇者と会っているのは知っている。
勇者の依頼を受けた時は報酬を食べ物で要求していたことも知っている。
(あー……。このパンも唐揚げも勇者経由でうちに来たのか……)
出所に少し納得したところで、ニクスはじっと少女を見つめた。
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加熱魔導具はほぼ電子レンジ。
形とか動力源とかは異なるものの、使い方は似たり寄ったり。
なお、オーブン機能は付いていません。
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