神霊さんの不協和音な三兄妹、それと周りの人たち

砂樹

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第二章

15 土地探し(訳ありに限る) その1

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 勇者の休みに合わせて、再びの不動産屋巡りの日となった。

 ここんところ連日のように特異種が発生しては、勇者は駆り出され兄妹は町で待機を余儀なくされていたため、調査が一通り終わる頃には二月の半ばになっていた。



 家と土地がまとめて売りに出されているところは、相当高い。
 土地だけ売りに出されているなら少しはマシになるが、家を建てる費用が別にかかるのは避けられない。

 そもそも、社会的信用のない者を相手にまともな土地を売るはずもない。

 値段の問題は置いといて、運良く売ってもらえる土地があったとしても、そこはまず間違いなくなんらかの訳ありだ。

 墓地跡とか戦場跡とかならばまだマシな方。
 歴史に問題があるだけで地質には問題ない場合であれば、生活するには支障ない。

 問題は、元湿地や沼や川というだけでなく埋め立て方が雑で地盤が悪すぎるとか、地下水が上がってきて家が傷みやすいとか傾きやすいとか、一見立地条件良さそうだが自然災害の被害を非常に受けやすいとか、財産だけでなく命の危険にまで発展しかねない土地だった場合だ。

 事前に分かっていれば回避のしようはあるが、他に選択肢がなかった場合どうするか。

 地盤の改良は非常に大がかりな工事だ。
 つまり、多額の金がかかるのだ。

 このままシシャルちゃんといられないままじゃ気が狂うとか借家を出て自分たちの家建てるとか連日騒いできた妹は、今日で悩みが解決されると思いこんでいるらしい。
 途中で話が違うと暴れられないためにも、移動中できるだけ懇切丁寧に説明した。



「今の俺たちの所持金では、家を建てる以前に土地も買えない。借金なんてできる立場でもない。今日どんなに上手く物事が進んだとしても、勇者の力で仮押さえまでだ。その場の勢いでうかつなことを言うと、住む場所までなくすからな」

「で、でも。このままだとシシャルちゃんが帰れる場所が。特異種騒ぎのせいで森の中の住処もいられなくなって移動したそうですよね?」

「あー……。あの子は大丈夫だ。ふわふわ様から別の住処手に入れたと報告があった」

「ま、まさか、魔族のところにいるんですか? い、いえ、人間の中よりはなじみやすいかもしれませんけど、魔族は人間に同胞を虐殺された憎しみを抱えているのでは」

「魔族とは関わっていないらしい。人がこない良い土地見つけて羽伸ばしているとさ」

「なぜっ? シシャルちゃん、外のが元気な人なのですか」

 それはたぶん違うが、指摘するとややこしいので黙っておく。

「あの、それに、森の中で暮らすってことはやっぱり魔族ににらまれるのでは」

「問題ない。あの子は魔族の神に似てるらしいから」

「それはそれで不穏ですよ……」

「前に教えたと思うが、神殿が今の状態になる前は人間も魔族も同じ神を信仰していたんだからな? 厳密には神じゃなくて神霊だが、年中無休で何百年も人々のために手を尽くしていれば、神と呼ばれても仕方ない。神霊界では下っ端でパシリだからこそ休みなく働かされていたのだろうと、そんな事情はこちらには伝わらないしな」

 父からの話だけが情報源なので鵜呑みにするのもどうかとは思うが、父の親友によると充分にあり得る話なのだそうだ。

「神霊の労働環境どうなってるんですか」

「ひどいところだと、ある日突然暗黒落ちして悪神に落ちるまで何十年何百年とこき使われ、そうなったら即刻殺される。労働基準法も人権も司法もないんだとさ」

 こちらは父の親友だけが情報源だ。
 父の神霊界での立場もいまいち分からないが、あの親友の立場は輪をかけて分からない。

「怖いですよっ。神霊というからには清廉潔白な存在で、ここより上位の次元というからにはここよりも平等で公平でもっとマシな世界なんじゃないのですかっ」

「あくまでも、ひどいところの例だ。神霊界も広いんだ。たまたま、この土地の上の神霊界がひどかっただけらしい」

「全然安心できないですよっ」

 カユシィーは拳を握りしめて声を荒くした直後、ふと気付いたように目を見開いた。

「もしかして、今の最高神と言われている神霊も、パシリ……?」

「それよりはマシな身分だが、下から数えた方が早い格だ。今の父様よりも下だな。誕生時の格では向こうの方が圧倒的に上だったそうだが」

「ドレのお父様って、地上に降りられる程度の神霊なのでしたっけ」

「呪いと狭間暮らしで弱体化したからな。呪いを解いて鍛え直せば地上最強の神霊も夢じゃないはずだが、あの性格だ、枷が外れても人畜無害なままだろう」

「そ、そうですか……」

 どんなに困っても、あの父は頼れない。
 頼りにならないのもあるし、頼りになるくらい本気を出されると力関係がおかしくなりすぎて火種になりかねない。

「そういう話、俺の前で話してて大丈夫なんかね?」

 勇者はあくびをしつつ頭をかいていた。
 本日も勇者装備だが、威厳は皆無だった。





 勇者いわく訳ありばかり扱う不動産屋の店主に案内されたのは、店の目と鼻の先。

「こちらの物件でしたら、土地建物込みでお買い上げいただけるのであればお売りできるのですが、いかがでしょう?」

 初めて入手可能の提案を得られたのは一歩前進と言えるのかもしれない。

「いかがでしょうか? 管理は我々で行ってきましたので、すぐに入居可能ですよ」

 立派な石造り二階建てな上に広い庭付きではあるが、墓地の目の前で、猟奇殺人事件があったと噂される曰く付き。
 あくまで噂であってそんな事実はないそうだが、この屋敷が建てられる前は変死遺体の司法解剖を主に行う施設があったそうだ。
 その前は古代の墓地で、土地の整備中に大量の骨が出土したなんて話までついてくる。

 解剖施設が老朽化で移転し土地を売りに出し、買い取った人間が今の屋敷を建てたが、怪奇現象が多発したために恐ろしくなって、二束三文でも良いから引き取ってくれと売ったのだという。

「ドレ、勇者様。このお屋敷は嫌です、邪霊いっぱいいます、なんかひどすぎます。わたし関係なくわらわら寄ってきてます」

 カユシィーは外観を見ただけで怯えきっていて、内装を確かめることさえできそうになかった。
 ドレと勇者には何も感じられないが、無理を押すつもりはない。

(そういえば、邪霊の密度が濃くなりすぎると怪奇現象起こったり不運な事故が起こりやすくなったりするんだったな。カユの実家でもそういうことが起こりかけていた)

 ドレは怪奇現象の原因を推測しつつ、そもそもどうして邪霊が集まってくるのか原因を探ろうとして、気付いた。

 この土地、ぱっと見では分からないくらい緩やかな傾斜だが、窪地の底だ。

 となると、シシャルを連れてくることで邪霊除けはできても、根本的解決にはなりそうにない。
 常に新鮮な邪霊が供給される土地なんてカユシィーには最悪だ。
 いくら邪霊の数だって有限とはいえ、寄ってくる邪霊がゼロになる前に精神が参ってしまう。

「シシャルちゃんと暮らせるとしてもここは嫌ですようっ。なんか怖いですっ」

 そういうことだからと、一軒目は断った。

 仮にカユシィーがここを気に入ったとしてもとうてい払える額じゃないから、どちらにしてもお断りしたわけだが。

 二束三文でも良いからと言われたのに、いったいいくらで買い取ったのだろうか。



 二軒目は町の中心に近いが、その分建物が密集していて日当たりが極度に悪い土地だった。
 現在は更地になっていて、一軒目と比べると天と地の差と言えるほど狭い。
 今の借家と同等の家を建てるのも厳しいかもしれない。

 日当たり最悪でも土地が狭くても町中心部に近い利便性を重視するならお買い得なのだろうが、兄妹はその数少ない売りにまったく心が動かない。
 人が多ければシシャルへの厳しい目も多くなるし、暗黒の森から遠いのも困る。
 町外れで暗黒の森近くのへんぴな場所の方がありがたいくらいだ。

「日当たりが悪くて土地も狭いというだけで、闇属性と暮らす兄妹に売ろうとするか?」

「言えてる。なんか隠してねぇ?」

 四方を背の高い石造りの建物に囲まれた圧迫感、風通しの悪さ。
 人間二人すれ違うのも大変そうな細い道を通らなければたどり着けず、建築難度が高そうと、問題はいくつも思い浮かぶのだが。
 それだけでは、あの土地なら闇属性に売っても痛くないとか、むしろよくあの土地をつかませてやれたなとか、問題ないと判断されたりほめられたりするほどの瑕疵があるとは思えない。

「じ、実はですね、こんな立地なせいか、何度も犯罪の舞台となっているのですよ。こちらでも対策はしているのですが、なかなか……」

「ま、まさか殺人もあったのです?」

「我々の管理になってからはありませんよ。過去には何件かあったそうですが」

「そ、そのせいで、ここも邪霊が溜まっているのですか。ドレ、ここも嫌です」

 闇属性相手の商売が可能なほどの訳ありはたいてい後ろ暗く、そういう訳ありは邪霊を引き寄せる嫌な空気を漂わせやすい。

 この調子で、新居なんて見つけられるのだろうか。



 三軒目は飲食店が数多く出店する地域だ。
 屋台街も近い。
 土地自体もそこそこ広く、建物もぱっと見はこの町で平均的な木造平屋建てだ。
 周囲の建物から浮いているわけでもないし、日当たりが極度に悪いわけでもない。
 今の借家からさほど離れておらず、暗黒の森までかかる時間は多少の変動で済みそうだ。

 ここにある訳ありはいったいなんだ? と首を傾げつつ、建物の中を見せてもらおうとして歩き出した瞬間、一同はいっせいに顔をしかめた。

 風向きが変わったとたん、強烈な悪臭が周囲を立ちこめたのだ。

「な、なんなんですか、この、強烈な悪臭……っ」

「実は、裏手に家畜肥料の製造所がありまして。それだけでも悪臭を避けられないところ、すぐそこの牧場に併設された食肉加工場の経営者が変わってから別の悪臭も追加されましてね。廃棄物処理はずさん、排水施設管理も怠り、汚水を未処理で垂れ流すわ側溝を詰まらせるわあふれさせるわ……っ」

 食肉処理は衛生管理が重要なはずだが、貧しくなればなるほど衛生という概念は薄れていく。
 知っていても気を使えるほど余裕がない人も少なくないし、そもそも知っているかどうか怪しい人も少なくない。

 食肉加工場に関しては、立派な建物を見るに元々はちゃんとしていたのだろうが、なんらかの理由で経営が悪化して手が回らなくなり、悪循環に陥ったのだろう。

「邪霊はそんなにいないですけど、ここも嫌です。嫌な臭い染み着いちゃいそうです」

「みなさんそうおっしゃって、今ではこの通りのほとんどの家が空き家なのです」

 悪臭対策さえできれば悪くない、いや、破格の好立地。

 ただ、ニオイ対策の魔術はないわけじゃないが難易度が非常に高い。
 空気は通すがニオイは通さないという取捨選択、それも良い匂いは通していいが悪臭は遮断するというさらに高度な選択を追加するとなると、さすがにシシャルでも荷が重いだろう。
 魔力的な面ではなく技術的な面で。

 魔術というものは、規模の大小や質の善し悪しだけではなく、効果対象の取捨選択の種類が増えるほどに難易度が増すものなのだ。

「多数の苦情が行政にも寄せられていて、何度か指導が入ったそうなのですがね。いまだに改善の余地がなく。ですがっ、改善さえされればかなりの良物件なのは事実です。解決後では購入不可能になってしまいますから、今のうちに確保しておいては?」

 不動産屋も必死だ。
 言い分だって、まぁ、分からなくもない。

 今の購入であれば、後々改善された際に「今は好立地だが当時はああだったし改善の見通しもなかったし、不動産屋の経営的にも相手を問わず売らなければ立ち行かなかった」と言い訳ができる。

 その言い訳をできるかどうかが、闇属性と関わる際に非常に重要な要素だ。

(シシャルの掃除能力であれば、一時的に臭いを軽減することも可能だろうが、根本的な解決をできない限り悪臭と隣り合わせなのは変わりないか。解決後、闇属性のお隣さんやご近所さんになるのは嫌だと近隣物件が売れなかった場合にどんな影響があるか分からないのもきついな。不動産屋が行政に圧力をかけて購入を無効にするあるいは所有権を取り上げるのは難しいと思うが、その代わりに闇属性を追い出そうと画策する可能性はある。万一の可能性は考慮しなくては)

「これだけの悪臭だと、家の中もすさまじいことになるよな」

「ええ……。一般家屋ですので、そこまで機密性は高くありませんからね」

「そうか。では、他を、見せてもらえるか」





 訳ありばかり取り扱う不動産屋は、その後も訳あり度も訳ありの方向性も様々な土地や建物を紹介して回ったが、どれもこれも訳ありがひどすぎて食指が動かなかった。

 夕方、不動産屋に戻ってきた一同は、疲労に徒労感が加わって疲れ果てていた。

「あと何軒ある……?」

 疲れ果てながら勇者が問う。
 不動産屋は管理用の木の板を確認する。

「あと三軒ですね」

 その三軒に買える物件があることを祈りつつ、次回持ち越しとなった。
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