神霊さんの不協和音な三兄妹、それと周りの人たち

砂樹

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第三章

13 ちょっと贅沢煮込みとプリン

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 夕食の準備をする頃にはニクスから「もう大丈夫」と言ってもらえたので、庭に出てかまどと特大七輪を前に調理を始める。

「隊長さんと副隊長さんがモツ大丈夫ならモツ尽くしにしたんだけど……今日はこっち」

 石造りの調理台にまな板を載せ、どんっと赤身の塊肉を置く。

「マスター。それどこから」

「モツもらいに行ったら、お守り欲しいって言われて。物々交換のノリで」

 新鮮イノシシ肉だ。
 煮ても焼いても美味いが硬めだから煮るのをおすすめと聞いた。

「……ぼったくられてる」

「そなの? お守りは元手タダだよ?」

「マスターが作ればね。普通は作るだけでも大銀貨飛んでってもおかしくないからね」

 ニクスは小さくため息をつきながら、規格外野菜やヒトガタ野菜からダメな部分を取り除いては井戸水で洗っていく。
 ちょっとのしおれ程度ならともかく、明らかに枯れたり腐ったりしている部分は食べられないし、時に毒になる。

「ニクスはごろごろ肉と薄切り肉どっちがいい?」

「煮込み時間と味付けによるけど……いつもの感じなら屋台のショウガ焼きくらいで」

 ショウガ焼き屋の屋台は、なぜかシシャル相手でも定額で売ってくれる数少ない店だ。
 なので、ちょっと贅沢はしたいけど節約もしたい時はよく食べている。
 ショウガ焼きの味付けは全商品共通だが、パンに挟んだり薄焼き生地で包んだり野菜を入れたりソースをかけたり、味も食感も多彩に出来るので飽きがこない。

「あの厚さ良いよね。唐揚げとか揚げ物も作ってくれないかなぁ」

「そうしてもらえて喜ぶのは主にマスターだから、さすがに無理じゃない?」

「だよねー……。定額で売ってもらえるのも謎だし」

「いや、それはマスターが昔何かしたからなんじゃ」

「何もしてないよ」

 ディールクおじさんと一緒に暮らしていた頃から顔は知っていたが、近寄ってくるでも攻撃してくるでもなかったため、特に接点はなかった。
 おじさん行方不明より前に路地裏脱出して屋台を始めていたから、お守りを渡したこともない。

「もしかして、おじさんの友達なのかな」

「友達でも闇属性ひいきは危ないって避けるんじゃ……?」

「それもそっか。じゃあなんだろ」

 肉を同じ厚さで切っていく。
 切れ味強化を使っているので断面はなめらかだ。

「マスター。野菜の下処理終わったよ」

 受け取った野菜をさくさくと刻んでは鍋に放り込み、最後に肉を並べて水を注ぐ。

 着火は火打ち石だ。
 枯れた針葉樹の葉に火をつけ、細い枯れ枝そして薪へと火を大きくしながら移していく。

「火のつけ方も、おじさんに教わったんだよね?」

「たぶんそうだと思う。よく覚えてないけど、おじさんいた頃から自分で火使ってたし」

「おじさんいる時に限る、だよね?」

「うん。いない時に火を使ったら唐揚げ買ってこないって言われてたから」

「誘導の仕方を心得てるね」

 火が安定したところで、鍋をかまどの上に置く。
 屋外なので斜め降りの雨の日には使えないが、借家の頃より使い勝手がいいし安定感もある。

 隊長は料理しないのにこんなに立派なかまどを作ってくれるなんて、ありがたいような申し訳ないような。

 このかまどで作った料理をカユシィーちゃんが食べるなら問題ない理論なんだろうか。

「うちでも揚げ物作れるようになりたいなぁ」

 揚げ物の屋台は珍しくないが、家庭での揚げ物は難しい。

 油の入手に金がかかる。
 鍋は煮物用と兼用でも出来なくはないが、鍋も周りも汚れやすくなる。
 使い終わった後の油の処理にも金がかかる。

 屋台飯なら価格に上乗せできるが、自炊ではすべて自分持ちだ。

「もしくは屋台飯を普通に買える身分になりたい。闇属性でも普通に買い物できるようになる方法ってない?」

 今のシシャルが町でやっているのは、闇属性だからというだけで理不尽に攻撃されないようにするための火消し作業。
 人々から不幸が減れば怨念も向けられづらくなる理論だ。

 しかし、それでできるのは立場の悪化の阻止だけ。
 待遇改善にはつながらない。

「マスターがこのままちょっとおかしな方向にがんばってたら変な風に実を結びそう」

「変な風にの部分が不穏で怖いからやめて。これ以上ひどい目に――、えっと、最近は何があったっけ。攻撃されるの日常過ぎて印象が」

 鍋に塩と乾燥香草粉末を入れながら、少し首を傾げてしまった。

 あからさまな器物損壊は借家の件が最後だから、もう一年以上も前か。

「マスター。印象薄いのは実害ゼロだからだよ。周りへのとばっちりもなぜかないし」

「対策してるもの。私のせいでどうこう言われるの嫌だから」

「あー……。えーっと、なんというか……、ほどほどにね?」

「ばれない程度にしてるから安心して」

 時々さじ加減間違うことはあるが、妖精さんのおかげだとごまかすすべはあるので、大問題にはなっていない。

 いつからか謎だが、『カユシィーちゃん』と『妖精さん』が便利すぎる。

「でも最近静かだよね。呪いの魔法陣せっかく書き換えてもらったのに、起動するほどの攻撃してくる人もいないし。一回くらいどんな風になるか見てみたいんだけど」

「好奇心は分からなくもないけど、いたら怖いからね。マスターの防犯魔術だって、辺境の貧乏人の家には過ぎた代物だからね。国宝の守護に使われてもおかしくないくらいすごいからね」

「さすがに大げさだよ。私、防御系だけはとことん練習しててかなり高位の術も使えるけど、専門家じゃないし」

 特大七輪に炭を放り込んで、かまどの火を使って火をつける。
 水をほどほどに入れた鍋を上に置く。
 こちらは少し置き方を考えないとぐらつくので、ちょっと危ない。

「専門家じゃないのにそこまで使える異常性に気付こうか。……ところで、マスター、ほかは何作るの?」

「プリン作るよ。卵と牛乳と糖蜜がそろったから」

 ひび割れで日持ちしないため出荷できない卵と、出荷先がお休みの日だが搾乳はしなきゃならないので行くあてがあまりない牛乳と、金持ちと貴族向けの白い砂糖を作る時の副産物な糖蜜。
 どれも訳ありだが、今朝採れたてや出来たてなので鮮度はいい。

「……マスターって訳分からない人脈あるよね」

「家畜が襲われるのも闇属性のせいだって言われたくなくて、いろいろやったから」

 柵の修理に始まり、害獣追い払いや害獣駆除の手伝いもした。
 闇属性のせいで家畜が病気になったと言われるのも嫌なので、健康管理に役立つ情報をふわふわ様経由で集めまくってまとめて教えたこともある。

「でも砂糖関係はどうやって」

「砂糖泥棒捕まえたことあるし、原料を食い荒らす害獣駆除を手伝ったこともあるし」

 砂糖は白さが増すほどにお高くなる。
 この辺りでは完全な白や見事な結晶までは作られないが、この地域で作る最高級だって人頭大の袋一つで大銀貨に変わるとか。

 砂糖の原料となるカブっぽい作物はこの辺りのイノシシもキャロクもその他小動物も食べるため、害獣被害もバカにならない。

「卵混ぜて牛乳入れて糖蜜入れてこして器に注ぐ、と」

 プリンは材料こそ手に入れやすいが、上手く作るのは難しい。

 プリンとなる液体は混ぜるだけなので手順と分量さえ間違えなければいい。

 火加減が唯一無二の難題だ。

 どこぞの大都市のように常に一定火力が出せる調理台なんて使っていないから余計だ。

 固まらないだけならまだ修正できるが、火が通りすぎてスが入りまくるとどうしようもない。
 食感は悪くなるし、それに引きずられて味が落ちた気もする。

「ニクス。いまさらだけど、このさらしっていうの、蒸し器に使っちゃって良いの?」

 蒸し器のふたに布をかぶせて結びつけることで、ふたから水滴が落ちるのを防ぐ。

 蒸し器に器をそっと並べていく。
 こぼすと後片付けが面倒になる。

「いいの。美味しい物のためには手間を惜しまないし、洗えば何度でも使えるから。マスターは食べ物で誘導するのが一番だしね」

「食べ物のことしか考えてないと思われるのは心外なんだけど。隊長さんみたいにつまみ食いはしないし盗み食いもしないんだけど」

 沸騰したところで蒸し器を鍋の上に載せ、ふたをする。
 時間を計るのは、先日発見して入手した特大砂時計だ。
 だいたい一時間計れると判明している。

「あー……、うん。そういう視点では、そうだね。あ、そうだっ。ちゃんと冷蔵庫に入れて鍵かけとかないと隊長さんに盗み食いされるに一票」

「いつもより厳重にしておくよ。そろそろ隊長さんが鍵開け習得しそうだし」

「あの子、貴族に戻るつもりなんだよね……? 鍵開け、いる……?」

 シシャルとニクスは、顔を見合わせた後、どちらともなく気まずさから目をそらした。



「ひどいですよあの二人、私はそんなはしたないことしませんからっ」

「普段の言動が悪い」

「食卓に並んでいるものしかつまんでいませんよぅ。鍵開けだって、ドレにきつーく止められましたから、やってみようなんてもう考えていませんっ」

 煮込みの良い匂いが漂い始めたことでのぞき見に来た兄妹は、遠くでそんな会話をしていたとか。
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