神霊さんの不協和音な三兄妹、それと周りの人たち

砂樹

文字の大きさ
91 / 108
第四章

10 たぶん収穫祭 その1

しおりを挟む
 それからしばらくして、芋畑がまともな畑らしくなってきた。
 成長は遅いが、収穫できる芋も小振りだろうが、ちゃんと収穫までこぎ着けられそうとのことだ。

 雨が降るたびに畑だけ沼地になるのが不吉なんだが。

 畑にする前はこんなことにならなかったのに、なぜなのか。

「収穫終わったら畑の土全部掘り返して排水設備作るから覚悟しときぃや」

 畑のおっちゃんに話したら、良い笑顔でそんなことを言われてしまった。

「え。なにそれ」

「ここの土は水はけが悪いんだよ。だから毎度毎度水がたまったまま引かねえし、一見水がなくなったように見えても土に水を含みすぎてっから根腐れ起こしちまう」

「畑にするまで、水たまりほとんどできたことなかったよ……?」

「土が固すぎて吸収できずに上を流れてったんだろ。ほれ、あそこの雑草どもは固くて乾いてて栄養ほとんどねえところに生える連中だ」

 あそこのと言われても、いまだ手つかずのところに生えている雑草は何種類もある。
 まさかあれ全部なのだろうか。

「今回は普通より栽培期間長くなっちまってるし、収穫終わったら大工事になるし、次の植え付けは来年だな」

「ら、来年……」

 芋を好きな時に好きなだけ食べられる日は、遠かった。





 季節は暦の上では秋になった。

 芋畑に花が咲いて「そろそろだな」と満足げに言われ、芋畑が枯れてきて右往左往していたら「問題ない。どこの畑でも枯れてから収穫だ」と楽しげに言われた。

 そして、とうとう、収穫祭の日がやってきた。





 最近雨の日が多くて心配していたが、昨日今日と晴天だ。
 水たまりもない。

「芋掘りかー。ガキの頃はやってみたいと思ってたぜ。やり方は教えてくれよっ」

「わたくしは子供の頃に王族専用の畑で収穫体験をしたことがありますわ。ここで栽培されるものとは異なる品種ですが、きっとやり方は一緒なので問題ないはずです」

 勇者と姫が助っ人で来てくれたのはありがたいはずなのに、そこはかとなく漂う不安はいったいなんなのだろう。
 頼りになる気が、まるでしない。

 姫の方、畑仕事をなめてんのかという服装だ。
 ゆったりひらひらスカートで芋掘りする気なのか、この人。
 麦わら帽子は畑でも使われる物なのに、芋掘りの見学しにきたお嬢様感しかない。

 勇者の方は、畑向きかはともかく汚れても大丈夫そうな古めの私服。
 勇者感ゼロ。

 なお、シシャルはニクスお手製の畑仕事用丈夫な服だ。
 装飾一切なし、動きやすくて丈夫で洗いやすくて乾きやすいという、実用性のみ追求した一品である。
 あまりの丈夫さと汚れ落ちの良さで近所の農家垂涎の的になってしまったので、最近のニクスは作業着系統ばかり作っている。
 原料は、森に生えている背の高い草らしい。

「あ、カユシィーちゃーん。おはよー」

 勇者が笑顔で小屋に手を振り始めた。

「おはようございます、みなさん」

「どっか出かけるのか?」

「ええ。わたしは、寝相改善のためのためになるお話会というのがあるそうなので行ってきますね。参加費用分はちゃんと学んで身につけてきます」

 やる気満々で小屋から出てきた隊長、なぜ着飾っているんだろう。

 収穫祭で集まった面々が内心首を傾げている間に、杏色の三つ編みを揺らしながら敷地の外に出て行ってしまった。

 今日もカユシィーちゃん可愛いとつぶやく連中のことは気にしない。
 いつものことだ。

「カユシィーちゃん、詐欺に引っかかってねーよな……? だいじょぶ、だよな?」

 勇者もしばらくその連中の一人だったが、我に返るといぶかしげな顔をした。
 麦わら帽子とよれよれ服が相まって、近所の農家と見分けがつかないが、まぁいつものことだ。

「さすがにカユシィーちゃんだってあからさまな詐欺には近づかないはず……ですわよね? え、なんでシシャルさん目を逸らしますの? それ以前に、なぜカユシィーちゃんのお兄様はどこにもいませんの?」

「副隊長さんは、隊長さんの実家の定期調査報告を聞きに行ってるから」

「それは、もしや、お兄さまがいない時を狙って参加を……?」

「たぶんそう。いたら止められてたんじゃない?」

 シシャルが借家追い出しの件で不在中にまでさかのぼるが、隊長には前科がある。

 二度だか三度だか知らないが何度か未遂で済んだ後、詐欺まがいの快眠熟睡布団と安眠香油の講演会とやらに顔を出して金を巻き上げられた、と聞いた。
 副隊長による説教を聞くともなしに聞いて知った事実だが。

「あぁもう! 待ってくださいまし、わたくしがお供することでちゃんとした会か詐欺か見極めて差し上げますわ!」

 長くてひらひらなスカートとかかとの高い靴のせいで走りづらそうにしながらも、姫は隊長を追って出て行ってしまった。

「うわー、ミイラ取りがミイラになる気しかしねえ。わりぃ、俺も行くから。すまん」

 勇者は無駄のない走りで追いかけていった。

 あっという間に、戦力となるかもしれなかった二人が離脱。

「カユシィーちゃんが詐欺に引っかかるのは困るが、こっちも大事なんだねぇ」

 結局、苦笑いな農家のおっちゃんと近隣の隊長好きの農家のみなさんとシシャルとニクスだけで収穫作業をすることとなった。

(そういえば、いつの間にか私がいても闇属性どうこう言われなくなったなぁ……。いつもの隊長さん好き集団に限るけど)



 芋の収穫と一口にいっても、種類によってやり方は異なる。
 山芋と里芋は収穫方法が違い、今回栽培した芋は暗黒の森から流れてきた森芋の改良種なのでまた違う。

 今回は、畝の端に近いところにシャベルを突き刺してテコの原理を使って芋を傷つけず土から掘り出す方式をとるらしい。

「ここの土かったいわね。おりゃあっ、おりゃあぁっ、どっこいしょっと」

 近隣の隊長好き農家の中には女性もいる。
 彼女の場合、ある日隊長を見てから子育てでがみがみ言う頻度が減って家族関係が良好になったので、なんか恩を感じて信者になったという。
 信者は語弊かもと笑っていたが、信者でたぶん合っている。

「大雨被害に遭った後のうちの畑みたいやねぇ。収穫までこぎ着けられただけでも偉いよぉ。だが、坊よ、仕事しながら酒を飲むのはやめんかね? カユシィーちゃんが見ていて真似したらどうすんね」

 隊長好きの中には高齢者もいる。
 彼女の場合、孫を見るようで和むとのこと。
 そう言いつつ、将来が心配だからとぺらぺら紙製の教養本を時々差し入れするのはどうなのだろうか。
 孫に読ませた後の不要品だから懐は痛んでいないとのことだが、はたして。

「へいへい。カユシィーちゃんがいそうなとこでは隠れて飲むわぁ。お、いいのあった」

 おっちゃんは中年だが、この辺の農家の中では若い方らしい。

「どーよこの芋。市販品にも負けないぜ」

 そばかす顔の少年は冒険者志望だが保険として畑の勉強もしているそうな。
 いつぞやのイノシシモドキ討伐中、隊長の戦う姿に魅了されると同時に自分の限界を悟ってしまったそうで。
 一般の隊長好きとは異なるが、隊長のために何かするのは共通。

「これはカユシィーちゃんに――」

「はしゃいでないで掘れ。うるさいぞ」

 少年の父親も参加しているのは、息子の無謀な夢をあきらめさせてくれたカユシィーちゃんに恩義を感じているかららしい。
 別に隊長好きではないようで、若干どころでなく肩身が狭そうな雰囲気を漂わせている。
 が、さすがに闇属性どうこうとは言ってこない。

「カユシィーちゃんのため、カユシィーちゃんのため」

 農家に混じって農具をふるう細身の青年がいる。
 特に食料の差し入れしてくれるわけでもないが、割と熱狂的な隊長好きの一人として顔は知れているので誰も警戒していない。

「の、農家って、過酷……ですね」

 当然のように最初にばてて、仮設の休憩所にふらふら吸い込まれていった。

 カユシィーちゃんのためを合言葉にがんばる隊長好きのみなさんの姿に、少なからず良心が痛む。
 この畑と芋は、シシャルのわがままで始まったのだ。

 と、おっちゃんにぽんと肩を叩かれた。

「時に神も知らない方が幸せなことはある。人間ならなおさらさ」

「それどこの格言……?」



 収穫作業は、朝に始まり昼前には終了した。

 農家の畑ほど広くないのに人海戦術でもそれだけかかってしまったのは、とにかく畑の土の質が悪かったせいに他ならない。
 熟練の農家でさえ、最後には腰痛を訴えて半数以上が戦力外となっていた。

「想定の範囲内の収穫だが……土は想定よりだいぶ改善がいるわな」

「雨が降るたび沼地になるっつうのは本当かい。ここそんな水はけ悪くなかろうに」

「どうも、水を吸い込まず地表を流れていって側溝が排水しているようで。こりゃ、水はけ良い土っつうわけじゃないね」

「それよかミミズの一匹もいない土ってどうよ? よくここまで育ったな?」

 農家の人たちが、我が家の畑を酷評しつつも改善策を打ち出していく。
 地面にシャベルを使ってあーでもないこーでもないといろいろ書き始めた。

 なんとなく言いたいことは分かるが絵ばかりなのは、識字率の問題だろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

処理中です...