神霊さんの不協和音な三兄妹、それと周りの人たち

砂樹

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第四章

11 たぶん収穫祭 その2

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 収穫した芋を大きさ別に分けたり、早めに食べないとダメになりそうな芋を分けたりしてから、小屋に運んでいく。

 収穫した芋はすぐに食べられるが、日の当たらない場所で表面を乾かしてから箱詰めしないと日持ちが悪くなるという。

 ということで、ニクスが持ってきた真っ黒な布を倉庫に引いてその上に芋を転がして同じ布をかけて、その上で風通しを良くしてしばし置いておくことになった。



 一通りの作業を終えて伸びをしていたら、休憩所から手招きされた。

「同居人のお嬢さん。カユシィーさんが好きな料理は?」

 最初に脱落した後、しばらく休憩しては一カ所か二カ所掘っては休憩を繰り返していた青年は、農家の人々が議論に熱中しているのをいいことにそんなことを聞いてきた。

「すでにご存じかもしれませんが、霜降り牛肉と白いパンだそうです」

「それは、知っているよ……。僕も貴族の端くれだけど、お祝いの時でもなかなか食べられない品だから、驚いたものさ。どこまですごい家の出なんだい……?」

 聞きたいことの本命は、そっちか。

「家名も本名も聞いたことはありませんし、どの地方出身かも知りません。名門貴族なのは間違いないようですが」

「名門貴族って、実質的な暮らしはともかく名目上だけなら何十家もあるんだよねぇ。たぶんお金持ってる名門だろうけど、そんな家のご令嬢がなんでこんなところに」

「それは、話していいことか分かりませんので、話せません」

 話したらとんとん拍子で解決に向かうかも、と一瞬思ったが、家格あるいは財政が隊長の実家より下だとすれば無理だと切り捨てた。

「ところで、あなたはどのような立場のお方で?」

「僕は神官だよ。元は聖都の神殿にいたんだけど、不真面目が過ぎて左遷されてね。い、いや、今はまじめに働いているから! カユシィーちゃんに顔向けできない男にはなりたくないから、心機一転、きちんと神官として働くようになったのさ」

 最辺境とか神に見捨てられたとか言われるこの町にも神殿の支部はあり、数名の神官が住み込みで働いている。
 一般の住民の冠婚葬祭は基本的にそこで行うそうだ。

「私が闇属性というのはご存じですよね? それより隊長さんが上ですか?」

「もちろん! というか、別に僕は闇属性だからって思うところないよ? むしろ光神聖複合の連中のが気に食わない。いや、憎い」

 それは、決して、大好きな子に取り入るために心を押し殺しての発言などではなく、本音だった。
 それはもう、憎い発言の瞬間、どす黒い何かが湧き出すほどの本音だった。

「いったい何があったの」

 シシャルのそのつぶやきは、あくまでもどす黒い何かに対してのもの。
 だったのだが。

「聞いてくれるのかいっ?」

 思い切り真剣な目を、いや、すがるような目をされた。

「奴ら、僕が光属性持ってないからって、出世できないとか試験で一位になっても無駄とかさんざん……っ。光属性持ってないのに頭良いはずない不正したに違いないって騒ぐ奴もいてさ。光と神聖の複合以外が良い成績取るのを快く思わない連中は教師の中にもいたんだよ。そのせいで、父さんよりも上に行くって目標は、あっさり潰された。もう、どうしようもないじゃないか。がんばっても報われない、それどころか悪い方に突き落とされるんだ。不真面目になったのはあいつらのせいだ! 僕の性根が腐ってるんじゃないんだよぅ。なのに、なのに……っ」

 神殿内部はどろどろしているとか腐敗の温床とか、割と抽象的な悪は聞くが、具体的な内容は知らずにきた。
 この青年の話を聞いても具体的な情景は浮かばない。

 が、いろんな問題があって、そのせいで人生狂う人はけっこういると察しはした。

「父さんまで、僕が何されたか知ろうともしないで、ダメ息子とか出来損ないとかぁっ。それで、複合属性の弟と妹ばっかりかわいがって、とうとう左遷させたんだ……っ」

 思い出し憎悪が障気になっている。
 なぜかシシャルがいると障気も勝手に消えていくので被害は出ないが、この人、いったいどこまでひどい目に遭ったんだ。

 畑改善案の話し合いを聞きに行きたいが、ちょっと向こうを見たら袖口を思い切りつかまれた。
 逃がさないと言わんばかりだ。

 ちなみに、障気は邪悪属性なので、反対属性の神聖持ちなら本来は勝手に中和される。
 聖別食材でも中和できる。

 なので、神聖属性持ちの発する障気の危険度は相対的に高くなりやすい。

(障気払いも神殿の仕事ってふわふわ様言ってたなぁ……。その神殿が原因で発生してるのはどうかと思うなぁ……)

 その後しばらく、光と神聖の複合属性じゃなかったゆえの悲惨な経験と悲哀とその他諸々を語られ、言葉と一緒に障気が吹き出し続けた。

 かと思ったら、突然障気が消えて表情が華やいだ。

「――そんな時に現れたカユシィーちゃんは、なによりも美しく見えたんだ。あの子は誰だったんだろうと調べ、こっそり見に行って、無邪気な笑顔に心を鷲掴みにされた。今までの苦しみがすべてどうでもいいものに、いや、あの子に会うための必要な犠牲に思えたんだ。僕はもうあの子のために生きようと誓った」

 どろどろした感情でよどんだ魔力が障気になるくらいいろいろ心に溜まったままだったようだが、まぁ、憎しみはともかく障気は出し切ればとりあえず安心らしいので、新たな憎しみの芽を隊長が取り除いたというのならもう問題はないだろう。

「あーすっきりした。君、聞き上手だね。カユシィーちゃんに癒されて惚れた僕の気持ち、分かってもらえたかな」

 晴れやかな笑顔は、障気という毒から解放されたおかげもありそうだ。

「え、ええ……」

 隊長は、身内以外にはわりと人畜無害だ。
 邪霊関係と、最近は猫関係でも暴走するが、他人の精神や財産を意図的に傷つけることは、たぶんなかったはず。

 現実を知って幻滅してまた障気溜め込む羽目にならなければいいが、それは本人次第。

「心の重荷は身体にも影響って本当なのかな。肩が軽くなったよ」

「そ、そうですか……」

 その肩こりはたぶん障気起因。
 障気は体内の循環系に悪影響を及ぼし、体調不良を起こしやすくなる云々。

「そうだ、お礼に何か聞きたいことある? カユシィーちゃんに役立つ情報、僕も持ってたりしないかな?」

 期待に満ちた目を向けられても非常に困る。
 あの子の家の事情はともかく、心の内はまったくといっていいほど分からない。

「そういうのは本人に聞いた方がいいかと。あ、でも、その時は副隊長さんも同席でお願いします。ほら、隊長さんだけだと思いつかないけど聞いた方がいいことあるかもしれませんしっ」

 実際は、隊長だけだと口滑らせてやっかいごとになりかねないためだが。

(私も聞きたいことはあるんだけど……。ディールクおじさんのこと、神殿関係者なら知っているとも限らないよね。当時も神官だったかは微妙な年齢だし、不都合な情報って隠されるものだし、治療に行った神殿がどこ神殿だったかも分かんないし)

 神殿は冠婚葬祭を取り仕切るのでたいていの町に一カ所はある。
 が、治癒魔術を使えるかどうかはその時々の人員次第。
 解呪を伴うとなれば聖都とその近辺に限られるらしい。

 神殿治療に行った時には解呪完了していたのでそこまでは行っていないはず。
 だが、分かるのはその程度だ。

「おーい、畑どうするか決まったからおいでー」

 ちょうどいい具合に、農家のみなさんの議論は終了したようだ。

 神官青年に一礼して、もはや地面が謎の模様になっている議論場所に向かった。
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