神霊さんの不協和音な三兄妹、それと周りの人たち

砂樹

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第四章

16 吸血種の子供たち その2

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 それから数時間後の夕方。

 子供たちが風呂に入ってさっぱりしたところで、夕飯の話が持ち上がった。

「あのー……。みんなって、ご飯どういうの食べてたの?」

 煤だらけの服を全員分まとめて特殊用洗濯かごにつっこみながらの問いだ。

 髪も肌も水で流して石鹸で洗えばきれいになったが、服は残り湯で軽く洗ったくらいではきれいにならなかったのだ。

「ご飯? あ……、おなかすいた」

 子供たちは空腹を自覚しだした。
 そして、シシャルの質問に首を傾げた。

「普通に肉とか野菜とか食べるよ? 血しか吸わないわけじゃないからね」

「肉が好きだけど、野菜も食べ……られないわけじゃない、です」

 そんな発言する子供たちと、うなずく子供たち。

「モツとかヒトガタ野菜とか肥料キノコとかは、食べられる?」

 この国の一般の人間は食べない食材を例にあげると、きょとん、という顔をされた。

「なにそれ?」

「キノコはなんとなく分かる、けど、他が分かんない」

 手ぬぐいで頭を拭きながら、悩むそぶり欠片もなしの返答だった。

「あー……。名前が違えば物が同じかどうかも分からないかぁ。えっと、モツは、動物の内臓。うちではイノシシとか豚とか鶏とかが多いね。ヒトガタ野菜は、形が変に育っちゃって普通には売れない野菜のこと」

「へー。この辺じゃモツって言うんだ?」

「うん。私は好きだけど、人間は好まないの。みんなは大丈夫?」

「俺ら吸血種だぜ、人間と味覚を一緒にしないでくれ」

 一人だけあからさまな敵意を向け続けているが、まだシシャルを光属性と思いこんでいるのだろうか。

「えーっと。あんまり味覚かけ離れてると料理作るのに困るんだけど。とりあえず今日は我が家の味出すから、無理そうだったら早めに言ってね」



 作り置きのモツ煮を特大七輪で温めなおし、その間に器を用意して近くの机に並べていく。
 器はお客様用なんて上等なものではないが、いつも保存用に使っているから質は問題ないはずだ。

「まーだー? お腹すいたー」

「もうすぐできるから。……だいたい温まったかな。みんな、こっち来て。まずは味見してもらって、食べられそうならお代わりしてね」

 器にちょっとずつ盛りつけて渡していく。

「どう……?」

「おいしそうな匂いする」

「うん。見た目まずそうだけど匂いはいつもの飯じゃん」

 見た目まずそうはよく言われている。
 なので傷つきはしない。
 自覚もある。
 なんで私の料理って見た目もおいしそうにできないんだろうと思っている。

 具をいっぺんにぶち込んで長時間煮込んでいれば、形も崩れるし色も悪くなるのは道理なのだが。
 彩りに最後に何か添えるみたいな一手間もしていない。

「いっただきまーす。……どろっどろだけどだいたいいつもの味じゃん」

「ほんとだー」

「おいしーい。シシャルおねーさんってほんとに人間?」

 なぜ魔族はシシャルを人外認定してくるのか。

「私は、闇属性だけどただの人間です」

「そう言ってるけどマスターは半分以上人外に足つっこんでるから」

 一番近くにいるはずのニクスからの信用がない。
 たしかに魔力は人間基準だと化け物だが、そこまで人外じみたことしてないのに。



 食卓が和やかになってきた頃、本日も猫に逃げられたらしい隊長が帰宅した。

 別に丸一日猫探しに行っていたわけではない。
 勇者の屋敷での貴族教養ナントカに行ったついでに猫神霊様と遊ぼうとしたり帰りに猫探ししたりしているだけ、のはずだ。

「ただいま帰りました。あのー、ドレ? わたしの寝相問題は? あの子たちは?」

 そして、見知らぬ顔ぶれに首を傾げた。

「おかえり、カユ。説明は向こうでしよう。ところでその服の破れはどうした?」

 兄妹の会話の最後の方でニクスの耳がぴくりと動いたが、彼が明確な反応を見せる前に子供たちが好奇心と警戒を見せ始めた。

「あの光っぽい子、誰」

「副隊長さんの妹で、カユシィーって言うの。神聖属性は持ってるけど、光はないよ」

「ふぅん。シャルねぇとは他人? ぼくらと同い年くらい?」

「他人なのは合ってるけど、私よりも年上。……信じがたいのは分かるけど、ほんとだから。ちっちゃい呼ばわりとか子供扱いとかはやめてあげてね」

 さすがに十歳未満の子供たちと同年代扱いはかわいそうな気もしないでもないが、ぴょんぴょん飛び跳ねたり全身動かしながら首を振ったりする姿に、大人感は皆無。

「わたしじゃないですようっ! 猫と名の付く方々とまともに触れ合えたことないんですからぁっ。ドレひどいです! ばかあっ!」

 隊長は大声で叫んだかと思うと、家の中に消えていった。

「隊長さん、猫好きなのに猫に嫌われてるの」

 質問される前に説明しておく。
 子供たちは全員ばらばらな反応をした。

「猫かぁ。猫って伝説で聞いたことあるけど見たことない」

「すごく可愛いからって人間が独り占めしてるって聞いたー」

「猫見てみたいっ。どんなの? どこにいるの?」

「見える範囲にはいないかなぁ。後で探そうか」

 たぶんまだ近くに最低二匹はいる、はずだ。

 シシャルが夕食準備中に副隊長が調べたところ、屋根裏に猫が入れそうな隙間は発見した。
 しかし猫はいなかった。
 隅に溜まった抜け毛の塊はあったので、頻繁に出入りはしていたらしい。

「シャルねぇ。猫って、魔界猫? 外来猫?」

「魔界猫って何。いや外来猫も分かんないけど。えっと……?」

 ニクスの方を向くと、察してくれたのか苦笑いを浮かべられた。

「マスターが知ってる猫は外来猫の方だよ。猫神霊様は外来猫に近いね」

「なんで外来?」

「え。昔からそう言われているからそういう種類だと思ってたんだけど」

『平野部に住んでいる猫は、自称移民船団と一緒にやってきた外来生物なんだよ。だから外来猫。元々、森の東側には猫っぽい生き物はいなかったそうだよ』

 外来生物なのか、猫。

「じゃあ、魔界猫って?」

『暗黒の森やそれより西の魔力が濃い地域に生息する魔導生物。見た目も生態もほぼ猫だけど、魔術を使えるし寿命もとんでもなく長い。魔界から渡ってきたと言われているけれど、真偽は不明だから深く考えない方がいいかもね』

 魔界の実在を問うと話が脱線しそうなので、問うのはやめておく。

 魔界猫なら寝返り被害に耐えられるかどうか問うのは後回しだ。

 隊長が帰ってきたことで、聞かなきゃならないと気付いたことが一つある。

「話は変わるんだけど、みんなって、安眠に役立ちそうなものって知ってる?」

「あんみん? シャルねぇ、寝不足なの?」

「私じゃなくて隊長さん。あの召喚魔法陣も、隊長さんの寝相問題を解決する方法求めて使ったものなの。あの子、すごく寝相悪いからなんとかしたいんだって」

「ふーん。しらねー」

「わたしの妹、寝相悪いけど、直そうって話はなかった。……だいじょうぶかな。お父さんとお母さん、も、逃げられた、かなぁ」

 子供の一人が、現実を思い出してしまい涙ぐんだ。
 ニクスが背中をさすり、ぎゅっと抱きしめなだめたことで、泣くことはなかったが、神妙な空気になってしまった。





 なんとか夕食も後片付けも終えたので、小屋のシシャルの部屋にて繊細な話題に切り込むこととなった。

 この頃には副隊長への警戒心も抜けてくれたので、なんとか会話が成立する目算もある。
 シシャルとニクスだけではいまいち話を引き出せないので、彼が頼りなのだ。

「君たち、殺されかけたそうだな?」

 単刀直入すぎる切り込みに、人選を間違ったかもしれないと冷や汗が伝ったが。

「そーだよ。いきなり、『神聖騎士による征伐だ』って宣言があって、いきなり光とか炎とかの攻撃が村中に降り注いだ……らしい」

「神聖騎士? 聖騎士ではなく?」

「ん? 神聖騎士って言ってた、と思う。だよな?」

「うん。そう聞いた」

 神聖騎士と聖騎士が同一存在なのか、横で聞いていていきなり疑問が浮かんだ。

 聖騎士は神殿所属の騎士の中でも特に位が高い者に与えられる称号、だっただろうか。
 特別な存在であるがゆえ、名を騙るのは重罪だと聞いたこともある。

「君たちは実際に聞いていないのか? 姿も見ていないのか?」

「うん。見張りから聞いたの」

「昼間だったから寝てたんだよ。夜行性なの。……母さんに叩き起こされて、地下神殿の一番奥でみんなと一緒に隠れてるようにって。あ、もちろん、神殿っつったって奴らのとは違うからなっ? 我らの神の神殿だ」

 説明してくれているのは、一番背が高くて一番年上な少女だ。
 最初は性別どっちか分からなかったが、着替えを見せたら迷わず女物の古着を手に取ったし、風呂入るときは他の女の子と一緒だったので、たぶん確定でいい、と思う。

 ずっと噛みついてきていた子供とは同い年でお隣さんらしい。

「ぼくは、光の雨の中で、逃げて、地下に入った」

「地下にいたのは、君たちだけか?」

「ううん。大人の人たちもいたの。でも、応援を頼むって、外から声がして……何人か出てって、残りの人も、出入り口付近で警備するって」

 子供たちは押し黙り、一人が少しきょろきょろした後で手を挙げた。
 一番小さい子だ。

「大人の人に、早く中にって。でも、まだお母さんと赤ちゃんが……でも、どおんって」

 その子は、五人の中で一番煤けていたし、火傷もしていた。
 恐ろしげに身を縮める姿は、それで怪我をしたのだと語るようだった。

「この子、たぶんその時に気絶したの。火傷した大人の人が、中に連れてきたから」

「ほかにも、怪我をした子供とか、いろんな人が、いたんだ。なのに、なんで」

 なんで、この五人だけが召喚の対象になったのか。

 他にも、助けを求めている人はいたはずなのに。

「君たちの村の名前や場所は?」

 近いのならば、今からでも駆けつければ間に合うだろうか。
 助けられるだろうか。
 副隊長も、同じことを考えているようだった。

「名前は、ないと思う。場所は分からない」

「そうか。隠れ里の類だとそうなるか。これは聖都の動向から探った方がいいな。少し席を外す。ふわふわ様借りていくぞ」

 ふわふわ様を手に取り、副隊長が部屋を出ていった。

「お姉ちゃん。お母さんとお父さんも、呼べない?」

「お、俺の兄ちゃんたちと隣の姉ちゃんもっ」

 子供たちの力になってあげたいのは、山々だが。
 シシャルは首を振った。

「召喚術は精霊召喚しか知らないの。ふわふわ様に新しく教えてもらえれば使えるだろうけど、魔法陣方式は準備に時間がかかるから、すぐには無理」

 子供たちが悲痛な表情を浮かべていても、シシャルは冷静に対応する。
 感情論ではどうにもならないことを、幼少期から痛いほど知っている。

「明日になったら、使ってあげるから。それでいい?」

「明日、で、間に合う? 殺されちゃわないっ? 今すぐは、できないの?」

 服をつかんでくる小さな手は、震えていた。
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