神霊さんの不協和音な三兄妹、それと周りの人たち

砂樹

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第四章

15 吸血種の子供たち その1

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 最近なんだか屋根裏で猫の声がするようになったが、屋根裏に出入りできるような穴はなかったはずと首を傾げ続けること数日。

 ドレ一人しかいない静かな時間しか聞こえず、ささやかな声なのも相まって、そうか俺は疲れているんだと斜め上な結論を出して数日。

 耳鳴りが猫の声っぽいのは、某妹が猫猫猫猫と執着しているせいだろう。

 そう思い込んで家族と情報共有しておかなかったことを、後悔する羽目となる。



 その日は、シシャルが召喚術を使う話になっていた。

 カユシィーは夕方まで所用で外出しているので、ドレは自室で過ごしていた。

 母親への手紙を書いていると、やっぱり屋根裏で猫の声がする。

 それだけなら、また幻聴か疲労が抜けないなどうしようか、と思うだけだった。

 けれど、ぱたぱた足音が聞こえはじめ、なんか騒ぎ始めた。

(これ、幻聴というには無理あるまいか)

 そんなことを思い始めたら、すさまじい声と音を立てながら大喧嘩を始めた。

「やっぱり猫いるよな……っ?」

 まさかうちの妹、屋根裏で猫飼い始めたんじゃなかろうか。
 いくら猫神霊様に逃げられ続けているからってさすがにそこまではしないはず――。

 どおん、と、すごい音と地響きがした。

 真っ先に、シシャルの魔術が失敗して暴発したのではと頭をよぎった。

 シシャルが魔術に失敗するとか暴発するとか想像できないが、いつもの無詠唱魔術と魔法陣式魔術はまったく異なる理論体系だ。
 ありえないとは言い切れない。

 部屋を飛び出し、玄関と部屋の間のちょっとした空間に出ると、しっぽを思い切り逆立たせながらおろおろするニクスの姿が見えた。

 十歳前後の姿で、見た目にそぐわず大人びた性格だが、さすがに今の音と地響きを前には平静を保てないらしい。
 ちょっと涙目になっている。

「副隊長さん。マスターが返事しないんだよ」

「防音使ってるから聞こえないだけでは? さすがに防御術は使っているだろう」

「あ。そうだ。いや、そうだけど、何かあったら自動で音は通るようにしてあるんだよ。マスターっ、マスターっ」

 どんどんと扉を叩きながら叫ぶ姿は必死の一言。

 そうなるのもうなずける。
 シシャルが怪我するってどんだけひどい被害だ、という話。

「ニクス? あ、ごめん、今開けるっ」

 扉の向こうからちゃんと声が聞こえてきたことに安心したが、開けられた扉の向こうの惨状には絶句するほかなかった。

「あ、副隊長も……。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいしっぱいしましたっ」

 シシャルも相当動揺しているようだ。全身煤けている。
 おそらく防御膜の上が汚れているだけなのだが、だとしても相当なことがあったのだ。

 部屋の中が、煤だらけ。
 床は魔法陣だったと思われる模様が焦げ付いている。
 そして煙臭い。
 窓を開けて煙を逃がしたようだが、臭いは残りまくっている。

 それも充分に問題だし後始末の大変さに頭が痛くなるのだが。

 一番の問題は部屋の中央。

 うずくまったまま、がたがた震えてくっつきあう子供が、五人。

「何がどうなったら生身の生物を呼び出せるんだ? しかも人型五人」

 人間じゃないのは、ぱっと見で分かった。
 明らかに耳が長い。

「失敗したので分かりません……。ふわふわ様もわかんないって」

「奥様みたいなこと言わないでくれるか。あの方の失敗よりはかわいいが」

「ええっ? 子供五人だよっ? このままじゃ誘拐犯だよっ?」

「とりあえず事情聞くから――」

「お、お前っ、奴らの仲間かっ?」

 怯えるばかりだった子供の一人が、他四人をかばうように立ち上がる。
 一番長身でもなければ一番大柄でもなかったが、五人の中で一番頼られる存在ではあるようだ。

「俺たちに何をする気だ! 俺たちは、ただの魔族じゃねえっ」

 子供はがたがた震えている。
 武器も何も持っていなかった。
 拳を握って構えているが、型ができているとは言い難い。

「ええと。シシャル。順を追って説明してもらえるか?」

 ニクスが子供たちの方に歩いていってなだめ始めたので、ドレはシシャルと共に部屋を出て話を聞くことにした。



「途中までは、問題なく魔法陣動いてたの。でも、召喚の返事待ちの間に、魔法陣の上にホコリが降ってきて、そしたらなんか暴走して、どーんって」

 小屋の外でパタパタと服の煤をはたきながら、シシャルは納得しがたそうな様子だ。

『魔法陣起動中に魔法陣を書き換えられると効果が消えたり暴走したりするのと近いのだろうけど、精霊呼ぶはずが生身の魔族を呼ぶ術になっちゃった理由は不明だね』

 ふわふわ様の補足に納得はするが、解せない部分はある。

「ホコリが降ってきたって、どういうことだ? 昨日、しっかり掃除していただろう」

「屋根裏に猫がいたの」

 シシャルのその一言で、いろいろ察した。





 しばらくしてから部屋に戻ると、子供たちはくっつきあったままながらも手ぬぐいで顔の煤を落としているところだった。

 ニクスは子供たちと同年代かちょっと上くらいの見た目だからなのか、明らかに人外の特徴があるからなのか、すぐに落ち着いてくれたという。

「ニクス。その子たちの素性は分かったか? 魔族のようだが」

「魔族は魔族だけどっ、高等な吸血種だっ」

 ニクスが口を開く前に、先ほど他の子たちをかばおうとしていた一人が吠えた。

「吸血種……。実在してたのか? 神殿が乗っ取られた辺りで滅ぼされたというが」

 古文書で読んだ内容だから、数百年前の話のはずだ。
 シシャルも存在は知っているのか、五人を観察しながらも不思議そうな顔をしていた。

「ひっそり隠れ住んでたんだよっ。誰にも迷惑かけずになっ」

 子供たちは全員煤けていた。
 よくよく見れば、魔法陣が変な風に暴走して煙が出たから煤けた、とは思えない汚れ具合だ。

 服が焦げている子も、身体に怪我をしている子もいる。

「あの、答えるのはニクスでもみんなでもいいんだけど、なんで私そんな子たち召喚しちゃったの? 呼ぼうとしてたのは精霊さんなんだよ?」

 魔法陣を書き間違えた可能性は、ほぼゼロ。
 シシャルとニクスとふわふわ様の三人で確認したはずなのだから、全員見落とすなんてさすがにありえない。

 かといって、ホコリによる暴発がすべて悪いで片付けていいものか。

「知らない、けど。たぶん、俺らが殺されそうになってたから? 人間それも光ヤローに助けられるなんて屈辱だけど、恩は恩だ。光ヤローでも」

 シシャルをにらみつけながら言い終わると、その子供はそっぽを向いた。

「いや、私、闇属性……」

「そんな神々しい闇属性がいてたまるか!」

「神々しい……? どこらへんが? まさか、金髪だからってだけじゃないよね」

「金髪に琥珀目に白肌なんて光か神聖かの二択だろうが。ふんっ」

「黒髪の光神聖複合も存在するぞ。俺の母親だが」

 困惑しているシシャルを差し置き、ドレは思わず『髪色と属性は無関係』と主張してしまう。
 ここで言っても無意味と分かっているはずなのに。

「と、とにかくっ! この人たちは敵じゃないから、大丈夫だから」

「人間に仕える精霊なんか信用できっかよ」

 そう言われた瞬間、ニクスの気配ががらっと変わった。

「仕えてないよ。僕が保護者だよ。いろいろあってマスターと呼んでるけど、見た目年齢もこうだけど、この子は大人が監督して導いてあげないといけない危険物なんだよ」

「危険……っ? やっぱ光属性こわっ」

「闇属性だってば」

 敵意丸出しの子供は一人だけで、ほかの子供たちはおろおろしていたりうずくまったままだったりしたが、興味を示し始めた。

「えーと、あー、ほんとだ」

「光属性みたいな色だけど闇属性なんだー?」

 子供たちは遠慮がない。

 そして、金や黄色は光で黒は闇というのは広く浸透した認識だ。

 おかげで、ドレとカユシィーの母親は神殿でひどい目に遭って迷走の果てに神霊召喚やらかしたわけで。

「なるほどこれが共鳴現象か」

「じゃあじゃあ、お姉ちゃんも、聖都ってとこの奴らに殺される側なの?」

 子供たちの警戒心が、ニクスとシシャル限定でごそっと減った気がした。

「殺されかけたことはあるよ。あの強烈な光のビリビリくるのは無理。普通の人にとっては心地いいらしいけど理解できない」

 殺されかけたといっても無傷で切り抜けているので、相手の殺意はともかく特に命の危険はなかったのだろうが。

「わかるー。お姉ちゃん仲間だー」

「な、なんだ、人間でも話せば分かる奴はいるじゃないか」

「おねえちゃん、たすけてくれてありがと」

「え、っと、えと……」

 子供たちが、一人除いてきらきらした目を向け始めた。
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