神霊さんの不協和音な三兄妹、それと周りの人たち

砂樹

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第四章

19 単独討伐許可下りまして

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 単独での魔物討伐の許可が下りた。
 ニクスは最後まで渋っていたが、背に腹を代えれない財政なのは理解していただけたので、監視付きならということになった。

 しかし、ニクスは素材採集に糸紡ぎに機織りに縫製にと大忙しだ。
 昔は分業製でやっていたのを一人でしなきゃならないから大変だという。
 即戦力じゃなくてもいいから伸びしろがあって絶対に裏切らない部下とか弟子とか欲しい、が、口癖になりつつある。

「マスター。監視役は知り合いにお願いしておいたからね。暗黒の森側の門の近くで待っているから、ちゃんと合流してから魔物討伐するように」

「はーい。行ってきます」

 監視は非戦闘員なので、単独討伐であることに代わりはない。
 たぶん。



 ……そう思っていたが、監視役の姿を見たことで疑問が生まれた。

「おはようございます」

「ああ。おはよう。久しぶり。元気だったか?」

「元気だったけど……なぜフルトさんが監視を」

 この人は非戦闘員扱いでいいんだろうか。
 戦闘職ではないが戦えたはずだが。

「あの方に頼まれたからな。よほどのことがなければ喜んで引き受ける」

 魔族の中で一番親しいフルトさんは、活動量多めの魔術師っぽい服装だ。
 人間の振りをしているようで、耳はとがっていないし人外っぽい要素もない。

 合流したところでシシャルも条件付き認識阻害術を使い、フルト以外にはシシャルと分からなくしてから森に向けて歩き出す。

 朝早くのためそれなりに森へ向かう人が歩いているのに、闇属性と魔族が連れ立って歩いているのに、誰にも警戒されない。

 シシャルが使う認識阻害とは別の方式の術なのだろう、いったいどこから来た人だろうと不思議がってはいるが、闇属性云々と突っかかる様子はない。
 明らかに人間じゃありえない髪色なのに、魔族疑惑で何か言う人もいない。

「あ、おはよー」

 フルトさんの魔術すごいなぁ、と思っていると、知っている声が聞こえた。

「おはよ。勇者なのに今日早いの?」

 勇者は勇者装備だけ無駄に目立っている。
 勇者本人の光より装備の光の方が強い上、太陽光の下だと力が増す。
 闇属性でなくてもまぶしいのか、朝っぱらから目が痛いと言わんばかりの顔をして追い越していったりすれ違ったりする人がちらほらいる。

 勇者が隣に来ると、朝から文字通り目に痛いし肌もぴりぴりしてきた。

「勇者なのにってなんだよ」

 勇者はちょくちょく夜中まで酒場で酒飲んで、朝は二日酔いでうなっていて、昼近くになってから魔物討伐に行く……という話を聞いたことがあったからだ。
 が、言わない。

「俺はなぁ、今日は午後からカユシィーちゃんに貴族教養講座するから、さくっとオオクマモドキ倒して稼いでくるの。俺、これでも貴族なの。信じがたいだろうけど元々は聖都の神殿で騎士やってたんだかんな?」

 勇者は神殿所属の人間から選ばれると知っていたはずなのに、意外な気がした。

「俺への評価低ぅ……。あー、そっちの人は……まぁ知り合いならいっか。俺、この子と仲良しだから、目の敵にはしないでね?」

「仲良くないし、何その変な間」

 勇者の目があからさまなまでに泳いだ。

「いや、俺ってば認識偽装とか認識阻害とか隠蔽術式とか一切効かねえからさ。あ、そうそう、そのせいで中央から遠ざけられてる疑惑もあるんだぜ? おにーさん、俺勇者で神殿認定だけど神殿の犬じゃないからヨロシク」

 勇者、わりとしゃれにならないことをさらっと言った。
 フルトはただただ困惑している。

「ふぅん。言いふらしたら、分かってるね?」

「言わねえよ。神殿のお偉いさんより君のが怖い。だ、だって敵対しちゃったらカユシィーちゃんに嫌われちゃうじゃんっ?」

 その発言だけで、この人はこういう人だと察したらしい。
 フルトさんの警戒があっという間にゆるむのが分かった。
 そしてそれに気付いて落ち込む勇者。

「ところで、君ら、どういうパーティ?」

「パーティじゃないよ。単独討伐に行くには監視役が必要なの。それで」

「あー……。えーっと、おつかれさん?」

 言ってる対象はフルトさんだ。
 そんなにシシャルの監視は大変に見えるのか。

「隊長さんのためにさくっと魔物討伐するならさっさと行けば?」

 勇者との雑談は嫌いじゃないが、太陽光の下での勇者装備はけっこうつらい。
 かさばるからって光除け布を置いてこなければよかったと、早くも後悔する。

「行くけどさぁ。途中まで一緒にいかね? イノシシモドキとか出たら譲るよ?」

 途中まで道は一緒だ。
 雑談しながら行く冒険者も珍しくはない。

「少し離れてくれれば、まぁ、いいけど。光が痛い」

「あ、ごめん。最近これ着て会わないから忘れてた」



 森に入り、半ば勇者の露払い役としてイノシシモドキやキャロクモドキを狩っては袋に詰めていく。

「なんで今までもカツカツだったのに単独討伐禁止されてきたか分かった気がするぜぃ」

 勇者がちょっと遠い目をしながらひきつった笑みを浮かべている。

「これでも繊細な力加減の調節覚えたんだけど」

「そっかぁ。うん、がんばったなぁ。……はぁ」

 ため息は何に対するものなんだか。
 首を傾げつつ、獣道じみた冒険者道を進んでいく。

「あ。ところで、どこまで狩りに行くん?」

「装甲トカゲのいるあたりだよ。さすがにオオクマモドキは相手にできないし」

「……慣れれば行けるんじゃね?」

「もし倒せたとしても売りに行けない。うちのパーティ、まだ討伐できてないから」

「あぁ、カユシィーちゃん、オオクマモドキ倒す練習始めてすぐ不調になったんだっけ」

「精神的な不調なんだけどね……。貴族に戻る訓練はちゃんとできてるの?」

 クマモドキが出てきて、少し中断。
 といってもほんの十数秒で討伐回収を終えて戻る。

「できては、いるぜ? 効率がいいとは言えねえけど、魔物討伐みたいに命の危険があるわけじゃねえからな。まぁ、時間かけてなんとか」

「そっかー……。いつ回復してくれるんだろ」

 オオカミモドキの群れをサクサクっと討伐し、先へと進む。

 進めば進むほど道を使う人は減るため、下草が生い茂ったり若木が生えたりするようになる。
 けれど、動きを制限されるのは人間だけ。
 いったいどんな仕組みなのか、たいていの魔物は草木に動きを邪魔されない。

 それでも、シシャルは難なく魔物を討伐していく。

「なぁ。さっきから人外じみた速度出してねぇ?」

「え? 別に音速出してるわけでもないよ?」

「いやいやいや……。つうか誰にそんな戦い方教わったよ」

「ディールクおじさんっていう清掃冒険者のおじさん。前に話さなかったっけ?」

 勇者はしばし渋い顔をし、苦い顔になった。

「言ってたな。あぁ、いや、あー……。実は俺が一番凡人なんじゃね」

「勇者は勇者でしょ」

「勇者だけどっ。別に神に選ばれたわけじゃねえし、唯一無二の才能もねえから」

「身体強化魔術駆使すれば? 魔力多いんだし」

「どんだけ死に物狂いで訓練すりゃいいんだよ」

 勇者は逆恨みめいたジト目を向けてきた。
 が、シシャルは首を傾げた。

「んー……。私、訓練らしい訓練はしてないなぁ」

「嘘だ。ぜってえ嘘、いや、まさか天才で素で勘でさらっと習得」

「そういうわけじゃないけど。えーっとね、一晩中、防御壁使った上で軽く身体強化をかけておいて、防御壁砕ける音が聞こえたら全力で身体強化かけて全力回避、あるいは全力防御しつつ受け身をとってきただけなの。失敗すると大怪我、最悪即死だから、それはもう必死になって毎晩毎晩やってた」

「カユシィーちゃんの凶悪な寝相を訓練に使うなよぉっ?」

「訓練じゃないよ。気がついたら思いっきり過酷な訓練同然になっていただけだよ。借家時代は、寝室、一緒だったからさ……」

 遠い目になってしまう。
 今思えば、あの地獄によく耐えられたものだ。

 倉庫や台所で寝る方が安眠できるに違いないのに、そんなひどいことできないと抵抗されて、一番ひどい環境に置かれていたのだ。

 途中からは防御壁で完全防御できるようになったので、身体強化はほとんど使わず眠れるようになったが、それまでは本当に悲惨だった。

「聞けば聞くほど異常なんだが。カユシィーちゃん、やっぱ何か悪いものにとり憑かれてるんじゃね? ちゃんと調べたことある?」

「あるけど、何もなかったよ。呪いも、遠隔操作系も、憑依系も、該当なし」

「そっかぁー。そっかぁ……。あった方がマシだったんじゃねえかなー……。根本的な対処法が存在するっつう意味でさ……」

 否定は、しがたかった。





 装甲トカゲ生息域に入ったところで、勇者とは別れた。

 フルトさんは時々見えなくなりつつもしっかりついてきていた。
 見えなくなっていた間は少し離れていたのか、薬草採集用の袋がいっぱいになっている。

「フルトさん、薬草採集も頼まれてたの?」

「別件だ。君の監視を怠らないなら他の仕事もしていいとのことだったから、集落の薬草収集依頼を受けてきた。これだけあれば充分だから、ここからは監視に専念する」

「勇者がいる間、監視怠ってた?」

「いや。遠隔で監視できる魔術も使えるから問題ない」

『(本来は子供の見守り用の魔術かな? そこそこ必要魔力は多いけど便利だから魔改造されて、自宅近辺の監視や不審者の監視など派生魔術が存在しているんだよ)』

 ふわふわ様、今日はヒマなのか。
 そして眠くないのか。
 解説はありがたいが、複雑だ。

「行きすぎた戦い方始めたら止めるから、それまでは好きに戦っていてくれ」

「あ、うん……」

 フルトさん、適当な座れそうな場所を見つけると腰を下ろして刺繍を始めてしまった。

(なんで、刺繍?)

 趣味なのか、ニクスに頼まれていたのか。
 刺繍って難度高いのではなかったか。





 装甲トカゲを狩り尽くしてしまう前に待ったがかかり、持ってきたお弁当で昼食をとってから帰路についた。

「よっ。今帰りー?」

「勇者……。まさか私が帰り支度するの見てたわけじゃないよね」

 歩き出してまもなく勇者の声がかかり、思わず疑念を口にしてしまう。

「見てたぜ? いやたまたま目に入ったから観察してただけだけどな。俺だってそんなヒマじゃねえし。で、装甲トカゲ何匹倒した?」

「十まで数えたところで数えるの面倒になって、後は適当に」

「倒した総計、百七十匹だ。この地区の装甲トカゲ最大許容数は五百、一日回復量は百だから、これくらいでとどめておけば怪しまれないだろう」

 どうやって調べたんだろう、と思ってはいけない。
 魔物が脅威となるのは人間だけだ。

「おぉう……。そりゃ、いっぺんじゃなくてちまちま売ってった方がいいな……。なんなら俺が代わりに換金してこようか? とりあえず小金貨一枚になるくらいの量で」

「勇者の手柄になるけど天引きは阻止できるし怪しまれもしない、か。私に都合よすぎない? なんか裏ある?」

 すっと目をそらされた。
 が、すぐにまっすぐに見据えられた。

「いや、な。実は、今、神殿から無茶な指令受けててさ。しばらく深いところまで行ったり来たりする羽目になってて。君に露払い頼んでオオクマモドキ倒すのに専念してたのと関係すんだけど、聞く?」

「聞いたら否応なく巻き込まれる系じゃないなら」

 勇者のことは敵視していないが、それはそれとして神殿がらみなら当然警戒はする。

「実はさ、闇の守護竜の鱗を今年中に分けてもらってこいって。オオクマモドキは再出現に時間かかっから、一回倒して体力回復してから出直せば、体力温存しつつ守護竜と戦えるわけ。でも道中の他の魔物は最短一時間で復活するだろ? 相手すんのが面倒くさい」

 魔物は無限に湧く資金源扱いされているが、数の暴力で押し切られない程度に頻繁に復活してくれる方が稼ぎやすいが、狙いによってはそんな感想にもなる。

 装甲トカゲは動きが鈍いから避けていけるが、他の魔物はそこそこ素早い。

「というわけで、今後も露払いやってもらう代わりに換金代行するよ? っておさそいなんだけど。どうでしょ?」

「うーん。それだと勇者の都合に合わせて行動しなきゃだよね。週一回とかならない?」

「俺が行けない日は休めってわけじゃねえからな? 俺が行くときは露払いしてね、だから。別に行動制限はしないんでヨロシク」

「んー。それならまぁいっか」

 なんか美味しすぎる話だと思いつつも、シシャルはうなずいた。

 勇者は、心の底から安堵した様子だった。
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