神霊さんの不協和音な三兄妹、それと周りの人たち

砂樹

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第四章

20 勇者の露払いはおいしい商売

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 勇者との話し合いの結果、オオクマモドキ討伐と守護竜戦の日は早朝に隊長を勇者の屋敷に送っていき、勇者と監視役とシシャルの三人で森に向かうことが決まった。

「ねむいですよぅ」

「屋敷についたら、貴族教養学? の授業まで仮眠とれるようにしてもらってるから」

 収入確保しつつ副隊長の負担軽減のためには、隊長の邪霊問題をなんとかするのが最重要課題だ。
 そのため、姫による講座だか授業だかの日のいくつかを守護竜戦の日に合わせてもらった。

 隊長を起こし、顔を洗わせ、歯を磨かせ、髪をとかして結ってあげて、着替えさせて、朝食を食べさせて、送っていく。

 この日は休みだからと気が抜けているのだろう、副隊長は起きてこない。
 普段どれだけ精神的に疲れているんだ、というくらいこの日に眠ることで疲労回復をはかっている。

「行ってきます」

 起こさない程度の小声で扉越しに声をかけ、隊長を連れて屋敷に向かう。

「おはようございます。今日もカユシィーちゃんは半分眠っておりますのね。さ、こちらにいらっしゃいな。良い香りのする高級布団で休めますわよ」

 早起きが日課な姫に寝ぼけた隊長を預け、神妙な面持ちの勇者と共に屋敷を後にする。

「最近、寝起きカユシィーちゃん可愛いって言わないのね」

「言えるだけの余裕がねぇ。守護竜との戦いきっつい……」

 青ざめているのは精神面の問題のようだ。
 足取りは重いが危なげはない。

「年末の帰省までに鱗手に入らなかったらどうなっちゃうの?」

「しらねぇ、しりたくねぇ。今の最高神官と面識ねぇ、ってか依頼人高位神官以上の誰かってのしか分かんねぇ。なんに使うつもりかも、分かんねえから、切実さ訴えて手に入れるのも無理ぃ……」

 今にも泣き出しそうだ。
 なんかすがりつくように服の裾をつかまれた。

 町中ではシシャルは認識阻害術使っているので、早朝の散歩や開店準備中の人々には勇者と誰か知らない人、としか見えていないのが救いだ。

「代わりになんとかできねぇ? 美味しいもの買ってくるよ?」

「私じゃ守護竜のいるところにたどり着けないよ。オオクマモドキと戦ったことないし」

「大丈夫。今日は道中で出ることはねえ。だからたーのむーよー」

「あーもー、急に言われても無理だから。次回ね次回。あと、これ以上近づかないで、肌焼ける。光属性は闇属性じゃ傷つかないけど闇は光で傷つくの、物理的に」

「あ。ごめん。唐揚げ買うから見捨てないで」

 最近、勇者とシシャルの力関係がおかしなことになっていた。

「見捨てないよ。見捨てたら隊長さん関係でどうしようもないし」

 邪霊問題だけでも大変だったのに、今は猫問題で精彩を欠いているせいで戦力外。
 シシャルが単独討伐で稼げるようになったからと、三人一緒の魔物討伐は週に一回あるかないかまで減っている。

 一方、副隊長の負担は軽減されている。
 今までより顔色がいいし活動的になっている。
 が、彼一人では魔物討伐できないし、シシャルと二人で組んでも長所を打ち消し合うだけという相性の悪さ。
 結果、隊長の実家の件の調査に主に力を入れている。

「ほんっとうに次回は一緒に来てくれるんだなっ?」

「その代わり、今回の換金多めにして。小金貨三枚」

 小声で交換条件を告げると、高速で縦に首を振られた。



 その日は、最近決まってきた流れ通りに、勇者のための露払いをし、装甲トカゲとオオクマモドキ生息域の境界辺りで別れ、勇者が帰ってくる昼前まで装甲トカゲ狩りに専念した。

 本日の監視役もフルトだが、彼が暇つぶし用に持ってきたのは針と糸だけ。

 いったい何をやってるんだろうと思いつつも装甲トカゲを狩り続け、終了の合図で待ち合わせ場所に戻る。
 合図がかかるのはだいたい百匹倒した頃だ。

「おかえり。どうだ、この繊細さ。長様ほどではないが――」

「あの、それなに?」

 刺繍っぽいといえば刺繍っぽいのだが、なんか違う。

「これはレースという。服の装飾の一つとでも思ってくれればいい」

「フルトさんも職人さんだったっけ?」

「いや、不器用じゃないなら手伝って欲しいと言われただけだ。現状は、姪やその友人たちに教える役を引き受けるための練習中、といったところか。私はこう見えても重要な役職がある身だ。職人になるわけにいかないからな」

 フルトさんが何をしている人なのかは、いまだによく分からない。

「たぁーだぃまぁー」

 当然のごとく勇者はぼろぼろで戻ってきた。

「みずぅ。あ、ありがとぉ……はぁ」

 聞くまでもなく、今日も負けてきたようだ。



 勇者と共に昼食を食べて休憩してから町に帰る。
 監視は勇者帰還までなので、フルトさんは昼食を食べると帰っていった。

「あのお兄さんさ、もしかして俺より強くね?」

「どうなんだろ。フルトさんが戦ってるところって見たことないし」

「あー……。魔物には襲われないんだもんな、あの人」

 帰りも勇者の代わりに魔物を狩りながら進む。

「なぁ、そろそろオオクマモドキも行けるんじゃね?」

「装甲トカゲまでと別格の強さなんでしょ? あの隊長さんだって苦戦してたし。猫騒動の前だから気が散ってたはずもないよ?」

「カユシィーちゃんより君のが強いっしょ。あの子の強さは補助魔術の底上げあってのものだし」

「私だって補助魔術けっこう使ってるよ。無詠唱で媒介不使用だから分かりづらいだけ」

「そっかぁ。そうだよな、素であんな化け物じみた動きできるはずねえわな」

 勇者は、心底ほっとした様子だった。



 町中に戻ると、素性がばれそうな会話は慎む。
 結果、無言の時間が増える。

「私は買い出しあるんだけど、勇者は帰る?」

 勇者の屋敷近くになったところで、シシャルは声を発した。

「買い出しって買えるのかよ」

「……ふっ。例の親父以外には正体ばれたことないからね。あんまりお高い店だと挙動不審で不審者ってなるから素性隠せても駄目だけど」

「そ、そか。周りに迷惑かけないようにな。じゃ、また」
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