時空の魔女と猫の蓼科別荘ライフ ~追放されたので魔道具作って生計立ててたら、元の世界で女神扱いされてる件~

じごくのおさかな

文字の大きさ
31 / 138
第一章 蓼科で生活環境をつくる魔女

第31話 家の環境が整う・【魔力移動陣】


 エスティは蓼科で様々な技術を見た。

 その中でも特に驚いたのが、ネットの存在だ。


 日向はネットについて、地球の地図を画面で操作しながら説明してくれた。

「ここが蓼科、こうなると長野、更にこれが日本で、それ以外が世界。この世界中のを信号で繋いだ場所がネットの世界」
「なるほどぉ?」
「説明が難しいなぁ……。昨日エスティちゃんが見てた戦隊ヒーローを配信しているのが、この東京。ササミストレートを配信してるのがアメリカ」
「えぇ!? 何でですか!?」

 とにかく、どれだけ離れていても物凄い速度で情報のやり取りができる。更に電話も出来るし、物も買える。

「まるで時空魔法です」
「我もそう思った」

 魔法が技術に劣ると感じた瞬間だった。


 そして今日、ついに庵にもネット回線が開通する。読み書きの出来ないエスティは、日向に同席を頼んでいた。


 朝食に日向が作ったパンを食べ、業者がやって来るのを待つ。

「んー。簡単に日本語を読み書きが出来る方法は無いでしょうか」
「ネクロマリアの言葉って、私も全く分からないもの。翻訳魔法みたいなものは無いの?」
「ロゼ、何か知ってます?」

 ロゼは翻訳生物のようなものだ。
 だが、首を横に振った。

「我でも出来ない」
「だそうです」
「バックスに聞いておこう。我のように言葉が分かる使い魔がいるのだから、読み書きができる使い魔が居てもおかしくは無い」
「ふふ。エスティちゃん、そもそも勉強しないの?」
「ウッ!」

 エスティは可能な限り楽をしたい。
 自堕落に暮らしたいのだ。

「私の右肩に天使が座っているんですけどね、その子が勉強なんてやめろと囁いています」
「そんなわけあるか」

 勉強が出来ないわけでは無い。むしろ魔法学校の成績はトップだった。ただ卒業した今、好きな事以外は避けたい。

「勉強よりも、何か派手な事をしたいですね。確か兄弟子からの伝言は『凶悪な武器を作れ』でしたっけ?」
「……我は今、ゾっとした」
「まさかロゼを的にはしませんよ。ふふふ、まさかそんな」

 口が三日月型になっている。
 エスティはやる気だ。


「ねぇ、使い魔って死ぬことはあるの?」
「当然だ。特に、我の場合は普通の動物と何ら変わらぬ。寿命が長いだけだ」
「血と魔力を私と分けてるんですよ。私が死んだ時にロゼも死にます」
「へー! ってことは80歳ぐらいまで生きるの?」
「いや、恐らく寿命で死ぬことは無い」
「「……え?」」

 ロゼの思いも寄らない一言に、日向よりもエスティの方が驚いていた。

 寿命で死ぬことは無い。
 エスティはロゼの言葉を頭の中で反芻する。

「エスの兄弟子曰く、庵の魔石を取り入れた事でエスと庵は一体化してしまった。エスの死期が分からなかったのは、庵の寿命と同じだからだ。庵の寿命とは建物の崩壊の時だが、この蓼科の豊富な魔力でいくらでも改築できてしまうので、朽ちる事は無い。つまり我もエスも、ここに魔力がある限り死ぬことは無い」

 庵の寿命が自分の寿命?

「私はこの『魔女の庵』と一心同体という事ですか?」
「厳密に言えば、親子関係ではエスの方が親に当たる。エスは庵から寿命を補填されているのだ。バックスの仮説だがな」
「じゃあ、エスティちゃんはこの家が壊れたら死んじゃうの?」
「それはない。普通の人間に戻るはずだ。だが、左目は失明したままだろう」

 この蓼科の魔力がある限り、死なない。
 減る気配すらない、蓼科の魔力。


 確かに寿命が無いに等しい。

「ついに私が不死になってしまった……」
「おぉー、エスティちゃん格好いい」

 エスティは腰に手を当て、日向が拍手をする。

「軽いな」
「あんまり興味ないですからね」
「ふふ、エスティちゃんらしいね」

「――ごめんくださーい!」

「ん、電気屋さんが来ましたね」


◆ ◆ ◆


 線を繋ぐだけの簡単な工事。
 日向の話していた通りだった。

 テレビ線を分岐して機器に接続し、無線で飛ばすだけ。日向は契約関係と諸々の説明を受けていた。隣に居るエスティは座っているだけだ。

 延べ1時間弱。
 あっという間だった。


「おぉ、ネットに繋がってます」

 テレビのチャンネル数も増えた。

「これが番組表。って読めないか。チャンネルは23個見れるようになったよ」
「忙し過ぎて全部見れません、ふふ」

 そして、固定電話。

「何かあったら、これに電話を掛けるから」
「緊張で手が震えて受話器を取れないですよ」
「もう、取らなきゃだめだよ。留守電にもしておくから。使い方はね……」

 エスティは日向の説明をネクロマリア共通人語でメモしていく。やはり不便だ。


「あ、ごめん。ちょっとお花摘みにいってくる」
「はい。ついでに私も地下室を覗いてきますか」
「我も行こう」

 排水は昨晩、大きく調整した。
 夜のうちに改築を行ったのだ。


 まず、トイレからの梯子を廃止した。そして廊下からの階段にしたのだ。

 階段を下りた先にリビング程度の広さの地下室を作り、将来的にはここに大規模な浄化槽システムを導入する。

 それには金額も時間もかかる。そのため、今は魔法を使ったシステムを組む事にした。


 作ったのは【魔力移動陣】と名付けた魔道具。周囲の魔力をほんの少しだけ一方向に移動するという単純な魔法陣を組み込んだ、魔獣の皮だ。

 この上に少し調整した【弁当箱】を乗せる。魔力で開け閉めできるものを、開ける事しかできなくしたものだ。

 【魔力移動陣】の効果によって【弁当箱】が自動で排水を取り込み始める。一杯になったら、他の【弁当箱】が取り込む。これにより、汲み取り作業が不要となった。

「無駄に贅沢な時空魔法の使い方だ」
「そうですね。兄弟子に何と説明しましょう?」
「お漏らしを止めるためと言っておけ」
「釈然としませんが、納得されそうです。ひとまず浄化槽の設置待ちですね」
「聖属性の魔法は使えぬのか?」

 聖属性の魔法は腐食や毒物、呪いなどを除去するのだ。

 だが、エスティには才能が無い。それに、ネクロマリアの大国で秘匿されている技術でもあり、風や水などのような大衆向けの書籍も無い。

「無理ですね。そんな便利な魔法があったら、ネクロマリアのトイレ事情も解決してますよ」
「確かにな。そう都合よくはいかぬか。もうあの頃のように外ではしたくない」
「ふふ、猫なのにですか?」
「我にも羞恥心はある」

 ロゼは今まで外で済ませていたが、蓼科では行儀よく便座に座ってトイレをする。エスティは初めてその排尿姿を見た時、「こんなの笑う」と言ってお腹を抱えていた。


 再びリビングに戻り、日向の説明の続きを聞く。
 最終的にノートは十数ページにも及んだ。


「――こんなもんかな。ま、あとは使ってみて分からなかったら随時聞いてよ」
「ありがとうございます、日向」
「いいよいいよ。にしても、残りは外湯だけかぁ。この家も随分と発展したね。これからどうするの?」
「これから、ですか……」


 エスティは特に大きな目的があってこの『魔女の庵』を建てたわけじゃなかった。ここ蓼科に骨を埋めてもいいやと思って建てたのだ。

 美味しいものを食べて、自由に暮らせればそれでいい。
 そう考えていた。


 でも、気が付いた。


 甘い生活をする時に、罪悪感を背負い続けたくはない。
 常に後ろめたさが付きまとうのだ。


「――新しい魔道具を考えます。ネクロマリアの状況は悪いらしいので、生活費を稼ぐついでに兄弟子達の助けになればいいかなと」
「お……おおおぉ、エスが成長しているぞバックスよ。我は感激だ!」
「あ、特撮は全部見ますよ」
「……」

 幼い頃から付き添っていたロゼは、それでも嬉しかった。ロゼが猫らしからぬ微笑みをしているのを見て、日向も口を開いた。

「ふふ、私もちょくちょく遊びに来るよ。進学しないと決めたから、土日に余裕が出来たし」
「いいですね。日向のパンは買い取りますよ」
「ほんと!? いやーお小遣い増えちゃうなぁ!」

 日向は嬉しそうに頭をかいた。


 この生活に、エスティは満足していた。
 冒険者時代も楽しかったが、自分はもともと出不精なのだ。

 家で仕事をしつつ誰かが訪ねてくれるなんて、こんな贅沢な事は無い。


 だがそんなエスティとは対照的に、ロゼは危機感を覚えていた。


 ロゼがバックスに聞いたネクロマリアの現状の中には、エスティに伝えていないものもあった。

 ネクロマリアで最も強大な大国オリヴィエントですら、加速度的に増え続ける魔族に対処し切れていない。そして対処できるラインはとうに超えている事を、ネクロマリアの住人の大半が知らない。

 起死回生の一手がない限り、ネクロマリアの人類が滅ぶのは時間の問題。そんな状況下で、辺境の国ラクスに時空魔法使いが出現した。


 ラクス王国の保管する文献にはチラっとしか出ていなかった時空魔法。大国オリヴィエントの文献では、一体どう伝わっているのだろうか?


「――ままならないな」
「? どうしました、ロゼ?」

 この幸せを壊したくない。

「…………いや、腹が減った」
「ふふ、隠さなくてもいいですよ。昨日の白猫に惚れたんでしょう?」
「お、一目惚れかな?」
「違う」
「尊いですねぇ。今からベッドルームを作りましょう。この世界では回転するベッドが主流だそうですが、日向はご存じですか?」
「え、エスティちゃんそれどこ情報!?」


 エスティはやる気は無いが、優しい子だ。

「まったく」

 ロゼは、大好きな主が死地に行かないか、それだけが心配だった。
感想 1

あなたにおすすめの小説

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

追放即死と思ったら転生して最強薬師、元家族に天罰を

タマ マコト
ファンタジー
名門薬師一族に生まれたエリシアは、才能なしと蔑まれ、家名を守るために追放される。 だがそれは建前で、彼女の異質な才能を恐れた家族による処刑だった。 雨の夜、毒を盛られ十七歳で命を落とした彼女は、同じ世界の片隅で赤子として転生する。 血の繋がらない治療師たちに拾われ、前世の記憶と復讐心を胸に抱いたまま、 “最強薬師”としての二度目の人生が静かに始まる。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

トルテ一家の長い家族旅行

まりー
ファンタジー
 トルテ一家は冒険者。夫のキールと妻のハルシャ、3歳のルルの3人で世界を旅して周っている。  柔らかな風吹く丘の村に、波音響く海辺の街。時には魔物湧くダンジョンも。  いつかお家に帰るまで。長い長い家族旅行を楽しみましょう。

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた

黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆ 毎日朝7時更新! 「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」 過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。 絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!? 伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!? 追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!

ダンジョンで同棲生活始めました ひと回り年下の彼女と優雅に大豪邸でイチャイチャしてたら、勇者だの魔王だのと五月蝿い奴らが邪魔するんです

もぐすけ
ファンタジー
勇者に嵌められ、社会的に抹殺されてしまった元大魔法使いのライルは、普通には暮らしていけなくなり、ダンジョンのセーフティゾーンでホームレス生活を続けていた。 ある日、冒険者に襲われた少女ルシアがセーフティゾーンに逃げ込んできた。ライルは少女に頼まれ、冒険者を撃退したのだが、少女もダンジョン外で貧困生活を送っていたため、そのままセーフティゾーンで暮らすと言い出した。 ライルとルシアの奇妙な共同生活が始まった。

追放王子の気ままなクラフト旅

九頭七尾
ファンタジー
前世の記憶を持って生まれたロデス王国の第五王子、セリウス。赤子時代から魔法にのめり込んだ彼は、前世の知識を活かしながら便利な魔道具を次々と作り出していた。しかしそんな彼の存在を脅威に感じた兄の謀略で、僅か十歳のときに王宮から追放されてしまう。「むしろありがたい。世界中をのんびり旅しよう」お陰で自由の身になったセリウスは、様々な魔道具をクラフトしながら気ままな旅を満喫するのだった。