小さなベイビー、大きな野望

春子

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しぶといアイツの季節がやって来た。

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*虫が苦手な方は、注意してください。



この季節がやって来た。
じめじめと、鬱陶しいほどの湿り気と共に暑さがやって来るこの季節に、忌々しいアイツらが、忍び寄る。

「いい?リーサ。今日は、フィルに何が何でも、逆らってはダメよ。」
「うん…!」
母からの注意にも真剣にうなずく。
毎年恒例の行事。
フィル先導で行われる一大イベント。
上の従兄弟たちは、既にスタンバイ。
フィルの一言で、魔法を仕掛ける。


「おぞましいあれを絶対に我が家で徘徊なんて認めないわ。」
フィルは、息子たちにお願いしながら、罠を張っていく。もちろん、侵入防止の魔法をかけて。二重に。あの忌々しい黒光りのアイツ。
虫は元々、苦手ではあるが、あれだけは、名前さえ呼ぶのもおぞましく、姿を見たら、発狂してしまう。
「端までやれ。リーサ。お前。ツェリおば様と部屋にいろ。」
戦力外の二人は大人しく、部屋に籠る。
「アイツら、繁殖力はおぞましいんだから、卵を植え付けられるなんて、嫌だわ。」
「バカ。いうな!キモい。」
ベシッ。
「フィル。これを試してみて。今、中央で、物議を醸してるようだけど、新作の罠なんだ。これを設置するだけで、やつらは、出てくることはないみたい。期限はあるから、期限内に、取り替える必要はあるみたいだけれど。」
「そんな画期的なものがあるの!?」
食い付きが半端ない…!
マルクスに聞いてみると、うなずく。
「半年に一回、設置したものと新しいものを交換するんだよ。」
「試すわ!」
フィルは黒い丸い物体を握りしめる。


「まずいわ!」
マリーウェザーが、我が家にやって来た。
罠を張っている我が家に早々は侵入出来ないだろうと安堵してる。
「どうしたの?」
「ベリズムのダンジョンでされたのよ!」
「奴等?」
はて?と首を傾げる。何の話か?
マリーは、普段は、こんなに慌てたりしない。
「あれよ!」
「あれってなーに?」
「…ゴキブリ…よ。」
「?」
「ジャイアント・ゴキブリが出たのよ!大量に!」
大声で話したため、フィルの耳に入ってしまった。
「キャアアー!何の話なの!」
「あ…!フィルおば様。ごめんなさい!違うの!あのベリズムのダンジョンに今年、周期で、大量にその…!」
青ざめるフィル。
ベリズムダンジョンは、30階に連なる大型ダンジョンの一つで、元々、蟲系の魔物は、沢山出るダンジョンではあるが、今年は、周期で、かなりの蟲が産まれて、蠢いてるようだ。
冒険者たちが間引きしてるようだが、蟲だと侮ることなかれ。
ダンジョンにいるのだから、そりゃあ厄介。
毒を体内に入れて攻撃したり、麻痺をするような注射針を持っていたり、吸われたら、体内のものを啜られたり…!
まあ、ドロップ品も中々良いようなので、冒険者の中では、割りと行くようではあるが。
だが、冒険者も人の子。
誰もが忌避するあの虫の存在は、このダンジョン特有の種類ではあるのだが、おぞましさを感じている。名前の通り、でかくて、普通のより、耐久性の良い体と、尚且つ、しぶとさは、倍以上。
言い伝えによると、昔あったある国は、このジャイアント・ゴキブリの大量発生で、国が、覆われ、一夜にして滅亡したそうだ。
歴史で習うが、先生もおぞましさを感じながら教え、生徒は恐怖を感じる。
羽音とカチカチ、歯の音が、するそうだ。
「フランに頼む?」
「バカね。フランは虫は好きだけど。あれだけは、家族…メイドたちから、猛反対を受けて以来、接近禁止令、出されてるじゃない。」
「スプレーでシュッシュッ?」
「ジャイアント・ゴキブリのでかさは、…アルミンとこのアビーと同じ位にでかいのよ。」
リーサは衝撃で固まり、フィルを見ると、フィルは、可哀想なほど、硬直。
アビーはブラックドックで、大型犬。
「あわあわ…!フランツおじちゃんにやっつけてもらう?」
「あら?マリーじゃないの!いらっしゃい。」
ツェリが入ってきたが、フィルの姿に首を傾げる。何事?と内容を聞いた。
「リーサ。フランツお兄様が出るまでもないわ。ギルドにいる冒険者たちが間引きしてくれるわよ。ダメなら、魔法省が動くわ。なんなら、古狸でも行かせればいいのよ。あ。そうだったわ。大丈夫よ。その件。」
「どうして?」
「私が、鳩を苦手に思うようにね。カイヤはあれが苦手なのよ。近々、ベリズムの近くで、開催されるオークションに参加予定のカイヤはね。それを聞いて、ニーヤに相談したのよ?そしたら、ニーヤは、カイヤのために、戦闘部隊を派遣したわ。」
「戦闘部隊って…あれでしょ?クラヴでしょ?また何かやらかしたの?」
「あら、リーサ。滅多なことをいうんじゃないわ。良いじゃないの。人のためになるんだから。うちのデヴァイスも行かせようかしら?」
「デヴァイスは蜘蛛を食べたことあるって、ほんとかな?」
「知らないわ。」
デヴァイスは、ゲテモノでもウェルカム。
「フィル。そんなゲテモノを気にするよりもみんなで、お茶しに行きましょう?」
「そうね…。」
「そうよね。スタンダードビートなんて、早々は起きないわよね。」
ほっとしてるマリーウェザー。


マリーウェザーの懸念は、杞憂に終わった。
冒険者たちの健闘で、抑えられた。
あと約一名、強者が、ジャイアント・ゴキブリのドロップ品を持ち帰り、ギルドに買収を求めたようだが、それはまた別の話。

あと我が家は、マルクスが提供した罠がバッチリで、一匹も見られず、フィルは、安堵する年になった。
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