スマホ片手に異世界ライフ! ~神様のアプリで無敵冒険者~

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第1章

1週間

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異世界に来て、8日目。

源 我亜羅――この世界で“ガアラ”と名乗る青年は、朝になると宿で目を覚まし、ギルドへ顔を出し、倉庫街で荷運びをして、夜に宿で寝るという生活を続けていた。

 

特別な事件はない。だが、充実していた。

 

重い木箱、樽、鉄のパーツ、袋詰めの小麦。
最初は悲鳴を上げていた体も、今では違和感なく動いてくれる。

 

(……慣れてきた、ってのもあるけど、明らかに“力がついてきてる”)

ステータスオープンを使うまでもなく、ガアラは自分の体に変化を感じていた。

腕に少し張りが出て、背中のラインが若干逞しくなったように見える。
毎日が筋肉痛。けれど、その痛みが“成長”の証になっていた。

 

そして――転機は、ちょうど7日目の仕事終わりだった。

 

荷を降ろし終えた瞬間、脳に響く声。

 

 ――《スキル「筋力増加LV10」に到達》
 ――《スキルが進化します:「剛力LV1」を習得しました》

 

(……進化!?)

ガアラは思わずステータスを確認する。

 


---

《ステータスパネル》

名前:ガアラ
レベル:2
HP:103/110(疲労により微減)
MP:100/100
筋力:14(+20)
器用:11
耐久:9
魔力:17
知力:15

スキル
剛力LV1
HP回復量増加LV3

---

「剛力……!?」

スキル説明には簡潔にこう記されていた。

> 常時筋力を底上げし、重いものを安定して持ち上げられるようになる。
運搬・近接戦闘・耐荷重行動時に効果発揮。



(まさに、筋肉のスキル……!)

 

実際、自分の腕を軽くつまんでみると、以前より皮膚の下に張りを感じる。

筋骨隆々とはいかないが――「ちょっとだけマッチョになった気がする」。

毎晩しっかりと眠り、毎日限界まで体を動かす――そんな一週間を過ごすうちに、自然と身体が回復しやすくなっているのを感じていた。
頭の中にふと、以前と同じ“あの声”が響く。
――《スキル「HP回復量増加」がLV3に上昇しました》

「ふっ……悪くない」



小さく笑って肩を回すと、いつものようにラモンの声が飛んできた。

 

「おーいガアラ! 明日から新しい依頼の募集出るってよ! ちょっと遠出する護衛系だ!」

「……お、俺はもうちょい倉庫で体作っときます」

「ははっ! 筋トレ冒険者、マジでお前が初めてだわ!」

 

笑い合いながら、倉庫街の一日は終わる。

夕暮れ、宿の飯が今日はやけに美味い。

ガアラは湯の入った桶で体を流し、さっぱりした気分でベッドに倒れ込んだ。

 

(力がついて、スキルも進化して……確かに、俺は強くなってる)

だがまだ、“魔法とスマホ”に頼ってばかりだった頃とは違う。

これは自分の体が、自分の力が掴んだ変化だ。

 

(この世界で生きるために、俺はちゃんと一歩ずつ進んでる)

 

スマホは静かに、ポケットの中で眠っていた。

 

――そして、ガアラは深い眠りに落ちていく。

HPも、MPも、明日にはきっと全快している。


---

一週間の荷運びで手にした金は、銅貨700枚ほど。

宿代や食費を除いても、財布には銅貨200枚ほどが残っていた。

「そろそろ、討伐系の依頼も見てみたいな……」

ギルドの掲示板には、F~Eランク向けの魔物討伐依頼がちらほら。
特に多いのは「ゴブリンの斥候討伐」や「森で暴れる野犬の駆除」など、単体で対処可能な内容だ。

(でも――素手じゃ無理だ)

いくらスキルで筋力が上がったとはいえ、素手で魔物に挑むのは無謀だ。

ガアラは、武器を手に入れるために街の商業通りへ向かった。

 

通りには鍛冶屋、革細工屋、魔道具屋、そして中古武器を並べる露店が軒を連ねている。

その中のひとつ、薄汚れたテントの店主が呼びかけてきた。

「おう兄ちゃん、武器探しか? 初心者向けの処分品なら安くしとくぞ」

「……予算は銅貨50枚まで」

「あるある。こっちだ」

店主が引っ張り出したのは、鞘も無ければ光沢もない――
まさに“鉄の板”と呼びたくなるほど錆びた片手剣だった。

 

「一応鍛造品だが、刃がなまっててな。切れ味は期待すんなよ? まぁ叩く分には使える」

「……それでいい。買います」

 

50枚の銅貨がジャラ、と店主の掌に落ちる。

ガアラはそれを片手に、近くの雑貨屋に寄った。

 

「すみません、砥石ってありますか?」

「ああ、そこ。1個10枚だ」

 

残りの銅貨10枚を差し出し、小さな砥石を受け取る。

それを宿に持ち帰ると、部屋の隅で剣を膝に置き、地道に研ぎ始めた。

ギィ……ギィィ……シュッ……

最初はうまく力が入らなかったが、30分、1時間と繰り返すうちに――
鈍かった刃が、少しずつ銀の光を取り戻していく。

 

(……おお、ちょっと切れそうだ)

紙を裂いてみると、ゆっくりだがスッと切れた。

完璧ではないが、“使える”レベルにはなった。

ガアラは初めて手にしたこの剣の柄を、じっと見つめる。

 

「……名前、つけるか」

 

小さく呟いたその声は、宿の静けさに溶けていった。


---
「……さて」

朝食の黒パンをかじりながら、ガアラはギルドの依頼掲示板を眺めた。
討伐依頼はある。けど――やる気が起きなかった。

 

(わざわざ報酬少ない雑魚依頼をこなすより、先に感覚掴んだ方がいいかもな)

自分には武器がある。剣。名もなきなまくら。
そして、何より魔法がある。ファイアボール、ファイアストーム、インフェルノ――。

(最悪、魔法でなんとかなる)

そう考えたガアラは、ギルドには報告もせず、街外れの森林地帯に足を運んだ。
目的は、“とりあえず何かと戦ってみる”こと。

 

だが――

 

「……いないな、ゴブリン」

1時間、2時間、歩き続けるも、森の中は静まり返っていた。

葉擦れの音、鳥の声、風の匂い。

(ちょっと舐めてたか……魔物ってそんな簡単には出てこねえのか)

あまりにも暇なので、腰に下げた片手剣に視線を落とす。

柄はすり減り、刀身にはまだうっすらと赤錆が残る。

「……お前に名前でもつけてやるか」

 

少し考えてから、ふっと笑った。

「“レッドラスト”――赤錆の剣って意味でどうだ?」

剣は答えない。だが、その鈍い光沢はどこか誇らしげに見えた。

 

そしてその時。

ぐちゃ、とした音が足元から響いた。

見れば――水たまりのような肉塊が、地面を這っていた。

ゼリー状の体。中心に赤い核のようなもの。

「スライム……!」

すぐさまスマホを手に取り、鑑定カメラを向ける。

 

《鑑定結果:スライム種(弱)
 攻撃手段:跳躍体当たり・酸分泌
 弱点:斬撃/火属性/魔核破壊》

 

「いける……いけるぞ」

ガアラは“レッドラスト”を抜いた。

刃を構え、間合いを取る。

 

スライムが跳ねた。

刃を振る。だが――

ベチャッ。

斬ったはずの部分が、ねちょりと絡みつき、剣が濡れた泥のような酸に包まれる。

「なっ……!」

慌てて引くが、すでに剣はジュウ、と不吉な音を立て始めていた。

(酸……! これ、ヤバいやつじゃ……)

 

ファイアボールを起動。発動。

火球がスライムを直撃し、体の粘液を爆ぜさせる。中の赤核が弾け、スライムは消滅した。

だが、戦いが終わっても――

剣は、ひどく、錆びていた。

刃は白く濁り、先端はやや溶けている。

「……おいおい……マジかよ……」

“レッドラスト”は、名前通りの姿に戻っていた。

 

街に戻ったガアラは、そのまま宿の部屋に駆け込み、
昨日の砥石を取り出して黙々と研ぎ始めた。

ギィ……ギィィィィ……

「……またかよ……」

それでも――黙って、研いだ。

心を落ち着け、刃を整え、剣を“使える状態”に戻す。

 

何度でも、何度でも。

そうやって、彼は戦い方を覚えていく。


---
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