スマホ片手に異世界ライフ! ~神様のアプリで無敵冒険者~

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第1章

異常検知!

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森の奥。静かな木々のざわめきの中、
ガアラとリィナは、魔物の痕跡を探しながら歩いていた。

「……最近この辺、妙に魔物が減ってない?」

「うん。静かすぎる」

リィナが短剣に手をかけたその時――

ブゥッ……ブゥゥ……!

突然、ガアラのポケットでスマホが振動を始める。

取り出すと、画面が真っ赤に染まり、文字が浮かび上がった。

> 【異常検知】
周囲に空間干渉の兆候アリ。警戒レベル:高
10秒以内に接近/対応準備を



「っ……空間干渉!?」

ガアラが顔を上げた瞬間――

ズガァン――ッ!

少し先、森の空間が揺れ、空に向かって巨大な光の柱が伸びた。
地面が震え、空気が焼けたような異様な感覚が全身を駆け抜ける。

「……あれ、魔法陣だ。しかも……積層型」

リィナの顔がこわばる。
森の空間に、いくつもの魔法陣が円を描くように重なり、ゆっくりと開いていく。

そして――

そこから、一人の青年が姿を現した。

黒い長髪に銀のフレーム眼鏡。整った顔立ちに白い長衣をまとい、手にはタブレットのような何かを持っていた。

「やぁ、ユーザー“源ガアラ”。ようやく直接アクセスが通ったよ」

青年はにこやかに微笑みながら、ゆっくりと歩いてくる。

「君のスマートフォンのメンテナンスに来た。システムチェックと、いくつかの修正と拡張をね」

ガアラとリィナはすぐさま距離を取り、剣と短剣に手をかけた。

「……誰だ、お前。本当に“味方”か?」

「そりゃ疑われるよね、うんうん。実際、こんな派手に現れたら警戒されるのも当然」

青年は手のひらを見せて、敵意がないことを示す仕草をするが――
ガアラはスマホを見ていた。

その画面には、新たな通知が届いていた。

> 【指示:対応必須】
目の前の人物は“管理サイド”のメンテナンス担当。
今回の更新はシステム維持に必要。
安全は保証される。任意だが、強く推奨する。



「……マジかよ」

ガアラは眉をひそめつつ、剣の柄から手を離した。

「スマホから通知が来た。お前の言ってることは本当……らしい」

「うんうん、そっちの“メッセージ”があれば話が早い」

青年は安堵したように小さく息をつき、手元の端末を操作する。

「では、これより君のスマートフォンに対し、次回バージョンへのアップデート準備を行う。しばらくの間、通信と一部アプリが制限されるが――安心して」

彼は最後に、少し意味深に言葉を続けた。

「君の成長に合わせて、“さらなるアクセス領域”が開かれるはずだからね。……それは、君だけの特権だ」

 
「……わかった。信用するってわけじゃないが、任せてみる」

ガアラはスマホをゆっくりと差し出す。

グレゴールはそれを受け取ると、ふわりと軽く手をかざした。

「じゃあ、始めるよ。なるべく急ぐ」

次の瞬間――
スマホが彼の掌の上でふわりと浮かび、宙に静止した。

淡く青白い光がスマホ全体を包み込み、周囲の空間に半透明の立体モニターが複数展開する。
それに合わせて、彼の指先には空中に“浮かぶキーボード”が現れた。

――そして、目にも止まらぬ速度で、彼の指が叩き込み始める。

カチカチカチカチカチッ……

音もなく、光だけが細かく瞬くその様は、まるで魔法とテクノロジーが融合したような不思議な光景だった。

 



その異様な光景を見つめながら、ガアラは口を開いた。

「……名前、聞いてなかったな。お前、なんて名乗ればいい?」

「グレゴール。まぁ、それが通称というかコードネームかな」

「で、グレゴール。“メール”を送ってきてたのは……お前じゃないんだよな?」

カチカチカチ……

グレゴールの手は止まらない。ただ、目だけが一度ガアラに向く。

「うん。僕じゃない。……でも、キミももう分かってるでしょ?」

「……神様か、そんな感じの存在ってことか?」

「大体合ってる」

再び視線は浮かぶキーボードへ。

 

「なら……何故俺はこの世界に? あの電車の事故、何か関係してるのか?」

グレゴールは小さく息を吸い、打鍵のスピードを落とした。

「――あの事故は、“偶然”じゃなかった。
君がこっちに来る直前、確かに“干渉”があった。物理的なね」

「……干渉?」

「それ以上は僕の管轄外。君自身が、いずれ知ることになるよ」

ガアラは一瞬、言葉を詰まらせた。
だが、もう一つ、どうしても聞かねばならない疑問が残っていた。

「もし……俺が、メールの指示を“無視”してたら?」

カチカチカチ……

グレゴールの指が止まる。
彼は一拍置いて、目だけで答えた。

「……例えば、リィナのとき。あの時、メールを無視してたら、彼女は死んでたよ」

「……っ!」

「助けになると判断したんだろうね、送った側が。
あの通知を君に送れば、行動するだろうと。
僕は管理者じゃないから、正確な“意図”まではわからないけど――」

カチ……ッ

最後のキーを叩いた音が、ひときわ大きく響いた。

「メンテナンス完了。システム整合性も良好。次回アップデート時の準備も済ませておいた」

 

スマホがゆっくりと回転しながら、元の姿に戻ってガアラの手元へ降りてくる。

いつもと同じ、見慣れた画面。
だが、何かが“より深く繋がった”感覚が確かにあった。

 

「……この先、君の選択はもっと重くなる」

グレゴールはそう言い残し、光の柱の前に立った。

「でも安心して。選ばれる資格があったから、君は“ここにいる”」

次の瞬間――
魔法陣が再び輝き、彼の姿は光の中へと溶けて消えた。

 



沈黙が残る森の中。
ガアラは無言でスマホを見つめる。

そして、少しだけ強く握りしめた。

「リィナが、死んでた……?」

誰も答えはくれない。
けれど――だからこそ、このスマホの指示は、もうただの“指示”ではない。

それは、誰かの命と、選ばれた意味と、未来そのものに繋がる鍵だった。


---

グレゴールの姿が光と共に消え、森に再び静寂が戻る。

少し離れた木陰から、リィナが姿を現した。

「……終わった?」

「うん」

「さっきの……あれ、何? すごい音と光で、何が起きてんのか全然……」

彼女は警戒は解いていたが、まだ完全には緊張を抜いていない様子だった。

ガアラは静かに頷きながら、スマホを見せた。

「スマホのメンテナンスだった。中身を整えて、次に進む準備をしてくれたって感じかな」

「……メンテ?って機械の修理みたいな?」

「まぁ近い。スマホって、ただの“箱”じゃなくて、“中にある機能”が大事なんだよ。アプリとか通知とか。そういうのを使えるようにしてくれてるのが、このスマホ」

「それは知ってるけど……外から修理されるもんなの?」

「うちの世界じゃ普通はありえない。でもこの世界とスマホは、何か別の方法で繋がってるらしい。で、その繋ぎ目の点検と調整をする人が、さっきのアイツ。グレゴールって名乗ってた」

「……ほんと、どこまで意味不明な代物なのよ。それ」

「だろ?」

ガアラは苦笑して、スマホを軽くポンと叩いた。

「でも、こいつがあったからこそ今まで生き延びてきたし、あんたとも組めた。そう思うと、ちょっと大事にしたくなる」

「……ふぅん。じゃあ、あんたが時々スマホと“にらめっこ”してる理由、ちょっとはわかった気がする」

リィナはようやく口元を緩め、小さく笑う。

「で? アップデートって、何が変わったの?」

「正直、全部はまだわからない。でも……たぶん、次に進む準備ってことなんだろうな。
今よりもっと上の戦い、もっと厄介な“何か”が待ってるって前提でさ」

「はぁ……気が重い話ばっか」

「でも、一緒にいればなんとかなる気がするんだ」

リィナがチラと横目で見て、そっぽを向いた。

「……そういうこと、普通の顔で言わないの。軽くてムカつく」

「いや、割と真剣なんだけどな」

「だから余計にムカつくの」

そんなやりとりを交わしながら、ふたりは森を出た。

空には星が浮かび、夜風が心地よく木々を揺らしていた。

(……アップデートが意味するもの。
何が変わって、何を試されるのか。
分からないことだらけでも、今は前に進むしかない)

ポケットの中、スマホがわずかに熱を持っていた。

それは、これから始まる新しい“何か”の予兆だった。


---
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