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第1章
エグい新機能
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翌朝、宿の薄明かりの中。
目を覚ましたガアラは、スマホに新たな通知が届いているのに気づいた。
> 【新機能インストール完了】
・戦闘記録アプリ
・戦闘支援モード:エッジサポート(※パーティー共有対応)
・スキル改造アプリ(試験版)
「……マジか。これ、昨日のメンテで追加されたやつか」
画面をスクロールすると、エッジサポート機能に見慣れない項目があった。
> 【パーティー連携:有効】
・視界共有対象:最大3名
・対象設定方法:顔認証による自動追跡(視界内の認識対象)
・戦術AR表示:敵の弱点、味方の危険、進行方向などを瞬時に提示
※AR表示は設定されたパーティーメンバーの“視界内”にのみ反映され、他人には見えません。
「……つまり、リィナにも表示されるってことか?」
そのとき、リィナがタイミングよく部屋の扉をノックして開けた。
「朝ごはん、食べるでしょ。下の席、空いてるって」
「お、行くわ。……ちょっとだけ、つきあって」
◆
食事のあと、ふたりは宿の裏手にある小さな空き地に立っていた。
「……いい? 正面に立ってて。視界に入れば、自動で登録されるらしい」
「またスマホのやつ?」
「うん。“戦闘支援モード”ってやつで、今度はARっていう視界サポートが入る」
ガアラがスマホを操作し、リィナの顔を一瞬カメラで捉えると――
> 【パーティー設定:リィナ=登録済】
視界連携:有効
「……ほんとに連携されたの?」
「今から試してみる」
その場でガアラは地面に小石を蹴り、仮想の“敵”として登録。
リィナの目の前――何もない空中に、淡い赤いマーカーが出現した。
「っ……!」
「見えた?」
「なにこれ……敵の“弱点”ってこと?」
「そう。攻撃すべき部位、回避ライン、突っ込むタイミング……全部リアルタイムで表示されるらしい」
「へぇ……ってことは、あんたが“こっちに回れ”とか言わなくても、自動でわかるようになるのか」
「そういうこと」
リィナは目を細め、何度か首を振って視界を確認した。
「他の人には見えないんだよね? ……ま、確かにこれは“反則級”だわ」
「だろ?」
ガアラは軽く笑いながら、スマホをポケットにしまった。
(これがあるだけで、戦いの精度が段違いになる。
仲間と戦う意味が、もっと深くなっていく――)
次の戦いが、試金石になることは間違いなかった。
---
昼過ぎ、森の中。
静寂の奥、湿った地面にひっそりと潜んでいた魔物が、突然飛び出してきた。
「スケイルトード、2体。右斜め前!」
ガアラが叫ぶと同時に、スマホが震える。
ピンッ――戦闘支援モード起動。視界にARを展開します
視界の中に、青く淡い“ライン”が浮かぶ。
敵の移動経路、踏み込みタイミング、ガアラの最適ポジション――すべてが視覚的に示されていた。
そして、リィナの視界にも――
「……見えてる。弱点は腹の関節、マーカー出てる」
「OK、連携いこう」
◆
1体目が跳ね上がり、長い舌を伸ばしてくる。
その瞬間、ガアラの視界に「左回避 → 腹部切り上げ」のラインが走る。
「っらぁッ!」
指示通りに動くと、舌を紙一重で避け、剣の切っ先が敵の腹に吸い込まれるように入った。
「効いてる!」
直後、2体目が突っ込んでくる。
リィナの視界にも、敵の跳躍の“頂点”と“着地予測”がマークされていた。
「……今!」
リィナが跳躍中のスケイルトードの膝裏に短剣を滑り込ませる。
「重心崩れた、今度は任せた!」
ARに“背面:急所”の表示。
ガアラが距離を詰め、背中から喉元にかけて剣を滑らせる。
グシャッ!
2体目が泥の中に沈んだ。
◆
残る1体は回避に入るが、気配察知アプリと地図が連動して追跡ラインを表示していた。
「逃がすか……リィナ、右から回れ!」
「分かってる!」
ガアラが左、リィナが右から囲むように走り出す。
視界の中に“包囲成功予測ライン”が出現。
二人の接近タイミングが完全に合った瞬間――
「今だ!」
リィナが跳び出し、ガアラが側面から剣を突き出す。
バシュッ!
硬い鱗を突き破り、スケイルトードがその場に倒れ込んだ。
◆
「……ふぅ。3体、完了」
ガアラが息を整え、剣を鞘に収める。
「……あんた、どんどんやばくなってくね」
リィナが口を開く。
その視線は、AR表示が消えた空間をじっと見つめていた。
「でも、こういうの嫌いじゃない。
“意思疎通しなくても連携できる”のは、相当強みだよ。私みたいな無口でも、使える」
「無口って自分で言うなよ……」
ガアラは苦笑しながら、スマホを一瞥する。
「けど……便利すぎて、怖くなるな。
自分の判断が、機械に頼ってる感覚……慣れちまうと、戻れなくなりそうだ」
「なら、その判断を信じられるうちに、使いこなせばいい」
リィナはそう言って、魔石を袋に収めた。
森の木々が風に揺れる中――
ふたりの戦い方は、確実に次の段階に入っていた。
---
宿に戻った夜。
戦闘記録アプリの詳細ページを見ていたガアラの手が止まる。
> 【応用機能:仮想戦闘訓練】
記録した対象の戦闘を再構築し、仮想空間内で対戦・模倣可能。
※高ランク冒険者や敵の戦闘記録が有効です。
「……マジかよ。そんなことまで……」
ガアラは椅子から立ち上がり、部屋の隅で荷物整理をしていたリィナに声をかけた。
「なあ、ちょっと相談がある」
「ん? どうせまたスマホの機能でしょ?」
「バレてるな。……今回のは、けっこうすごいぞ」
ガアラはスマホを手に、アプリの画面をリィナに見せる。
「戦闘記録アプリ、録画だけじゃなかった。
強い奴の動きを記録すれば、その動きを“仮想空間”で再現して、自分が対戦できるらしい」
「……え? 自分がその場に入って、相手と戦えるの?」
「そう。たぶん視覚情報と反応速度を再現する、シミュレーション訓練だな。
こっちの世界で言えば、幻影魔法の上位版みたいなものかも」
「……それ、本当に実現できたら、成長速度がとんでもないことになるね」
リィナは静かに頷き、それから少しだけ笑った。
「いいじゃん。面白くなってきたじゃん。――で、誰を相手にする気?」
「それを聞こうと思ってさ。あんた、この街のギルドで強い人、誰か知ってるか?」
「ギルド内で有名なのは何人かいるけど……みんな気軽に戦闘見せてくれるとは限らないよ?」
「そこは……交渉次第だな。まずは話を聞いてみよう」
◆
翌日、ふたりはギルドに足を運ぶ。
ガアラは受付の青年に話しかけた。
「すみません。この街で一番腕の立つ冒険者って、誰ですか?」
青年は少しだけ眉をひそめながらも答えてくれた。
「“一番”は難しいけど……Aランクの“ラセルドさん”とか、Bランクの剣士“ヴァイクさん”あたりですね。
最近は“グレイスさん”って魔法使いもよく名前を聞きます。どの系統をお探しですか?」
「近接系がいい。剣士とか前衛向きの」
「でしたら、ヴァイクさんがいいかもしれません。ストイックで真面目な人ですよ。今朝、訓練場に向かったと聞いています」
「ありがとうございます!」
◆
ギルドを出て、ガアラはリィナに振り返る。
「よし、まずはヴァイクさんにお願いして、戦いを“見せてもらう”。
あとは記録して、俺自身がそれと戦って――動きを覚える」
「へぇ……ようやく“力押し以外”もやる気になった?」
「言ってくれるな。でも、たぶんこれが俺の近道だと思う」
「ま、期待してるよ。――その代わり、私も一緒に見ておく。学ぶのは、あんただけじゃないし」
ふたりは訓練場へと向かう。
“強さを見て、記録して、再現して、自分の中に取り込む”
それは、異世界におけるまったく新しい成長法だった。
---
ギルドから歩いて10分ほどの訓練場。
街外れにあるその場所では、金属がぶつかる音が定期的に響いていた。
「……あれだね。ヴァイクって人」
リィナが指差した先、中央の訓練スペースで男がひとり、鉄剣を握って立っていた。
黒髪を後ろで結い、無駄のない動きで訓練用の人形へ連撃を加えるたび、空気が切り裂かれる音が走る。
「動き、キレてるな……」
ガアラは小さく唸りながら、スマホをそっと確認する。
録画モードは待機状態。ここからが本番だった。
「よし……行ってみるか」
◆
訓練が一区切りついたのを見計らい、ガアラは声をかけた。
「すみません。あなたが……ヴァイクさん、ですよね?」
「……ああ。俺に何か?」
振り返ったその男は、落ち着いた声音ながら、どこか鋭さを感じさせる目をしていた。
ガアラは無理のない笑みを浮かべた。
「実は、自分、最近ギルドでDランクになったばかりなんです。
で、強い人の戦いを見て学べたらって思ってて……少し、動きを見学させてもらえませんか?」
「見学、か。俺の動きを見て何か参考になるとは思えんが……まあ、邪魔をしないなら好きにしろ」
「ありがとうございます!」
ガアラは心の中でガッツポーズを決めつつ、スマホをそっと録画モードに切り替える。
> 【戦闘記録開始】
対象:ヴァイク(手動モード)
モーション/反応速度/軌道解析中…
◆
ヴァイクは再び構えを取り、呼吸を整える。
(……さて、どんな動きが来る?)
一瞬の踏み込み。
足運びに無駄がなく、剣は流れるように肩から斜めに振り下ろされる。
続く反転、フェイント、角度を変えた連撃――
静かだが、圧がある。
その剣筋は“練度”という言葉そのものだった。
スマホの画面に、連撃のリズムと剣筋の軌跡がリアルタイムで描かれていく。
(すげぇ……これ、実戦で来たら多分、反応できねぇ)
最後の一太刀を打ち込んだ後、ヴァイクが剣を納める。
「……これでいいか?」
「はい、すごく参考になりました。ありがとうございました!」
「……ふん。素直な奴だな。見学くらいでよければ、また来いよ。時間が合えば見せてやる」
そう言い残して、ヴァイクは訓練場の奥へと戻っていった。
◆
「……さすがだね。下手すりゃ、BランクじゃなくてAでも通用するんじゃない?」
リィナがぼそっと呟く。
ガアラはうなずきながらスマホを確認した。
> 【戦闘記録保存完了】
名称:ヴァイク(近接連撃・実演)
再生/仮想戦闘モードで使用可能
「……よし。これで“あの動き”を仮想で再現できる」
「それ、試すの私も見るからね。サボって使いこなせなかったら怒るから」
「う……努力します」
軽口を交わしながらも、ガアラの頭の中ではすでに――
“どうすればあの一太刀に対応できるか”
“初撃を受けた場合、反撃に転じるなら何手目が最適か”
そんな分析が、始まりかけていた。
---
目を覚ましたガアラは、スマホに新たな通知が届いているのに気づいた。
> 【新機能インストール完了】
・戦闘記録アプリ
・戦闘支援モード:エッジサポート(※パーティー共有対応)
・スキル改造アプリ(試験版)
「……マジか。これ、昨日のメンテで追加されたやつか」
画面をスクロールすると、エッジサポート機能に見慣れない項目があった。
> 【パーティー連携:有効】
・視界共有対象:最大3名
・対象設定方法:顔認証による自動追跡(視界内の認識対象)
・戦術AR表示:敵の弱点、味方の危険、進行方向などを瞬時に提示
※AR表示は設定されたパーティーメンバーの“視界内”にのみ反映され、他人には見えません。
「……つまり、リィナにも表示されるってことか?」
そのとき、リィナがタイミングよく部屋の扉をノックして開けた。
「朝ごはん、食べるでしょ。下の席、空いてるって」
「お、行くわ。……ちょっとだけ、つきあって」
◆
食事のあと、ふたりは宿の裏手にある小さな空き地に立っていた。
「……いい? 正面に立ってて。視界に入れば、自動で登録されるらしい」
「またスマホのやつ?」
「うん。“戦闘支援モード”ってやつで、今度はARっていう視界サポートが入る」
ガアラがスマホを操作し、リィナの顔を一瞬カメラで捉えると――
> 【パーティー設定:リィナ=登録済】
視界連携:有効
「……ほんとに連携されたの?」
「今から試してみる」
その場でガアラは地面に小石を蹴り、仮想の“敵”として登録。
リィナの目の前――何もない空中に、淡い赤いマーカーが出現した。
「っ……!」
「見えた?」
「なにこれ……敵の“弱点”ってこと?」
「そう。攻撃すべき部位、回避ライン、突っ込むタイミング……全部リアルタイムで表示されるらしい」
「へぇ……ってことは、あんたが“こっちに回れ”とか言わなくても、自動でわかるようになるのか」
「そういうこと」
リィナは目を細め、何度か首を振って視界を確認した。
「他の人には見えないんだよね? ……ま、確かにこれは“反則級”だわ」
「だろ?」
ガアラは軽く笑いながら、スマホをポケットにしまった。
(これがあるだけで、戦いの精度が段違いになる。
仲間と戦う意味が、もっと深くなっていく――)
次の戦いが、試金石になることは間違いなかった。
---
昼過ぎ、森の中。
静寂の奥、湿った地面にひっそりと潜んでいた魔物が、突然飛び出してきた。
「スケイルトード、2体。右斜め前!」
ガアラが叫ぶと同時に、スマホが震える。
ピンッ――戦闘支援モード起動。視界にARを展開します
視界の中に、青く淡い“ライン”が浮かぶ。
敵の移動経路、踏み込みタイミング、ガアラの最適ポジション――すべてが視覚的に示されていた。
そして、リィナの視界にも――
「……見えてる。弱点は腹の関節、マーカー出てる」
「OK、連携いこう」
◆
1体目が跳ね上がり、長い舌を伸ばしてくる。
その瞬間、ガアラの視界に「左回避 → 腹部切り上げ」のラインが走る。
「っらぁッ!」
指示通りに動くと、舌を紙一重で避け、剣の切っ先が敵の腹に吸い込まれるように入った。
「効いてる!」
直後、2体目が突っ込んでくる。
リィナの視界にも、敵の跳躍の“頂点”と“着地予測”がマークされていた。
「……今!」
リィナが跳躍中のスケイルトードの膝裏に短剣を滑り込ませる。
「重心崩れた、今度は任せた!」
ARに“背面:急所”の表示。
ガアラが距離を詰め、背中から喉元にかけて剣を滑らせる。
グシャッ!
2体目が泥の中に沈んだ。
◆
残る1体は回避に入るが、気配察知アプリと地図が連動して追跡ラインを表示していた。
「逃がすか……リィナ、右から回れ!」
「分かってる!」
ガアラが左、リィナが右から囲むように走り出す。
視界の中に“包囲成功予測ライン”が出現。
二人の接近タイミングが完全に合った瞬間――
「今だ!」
リィナが跳び出し、ガアラが側面から剣を突き出す。
バシュッ!
硬い鱗を突き破り、スケイルトードがその場に倒れ込んだ。
◆
「……ふぅ。3体、完了」
ガアラが息を整え、剣を鞘に収める。
「……あんた、どんどんやばくなってくね」
リィナが口を開く。
その視線は、AR表示が消えた空間をじっと見つめていた。
「でも、こういうの嫌いじゃない。
“意思疎通しなくても連携できる”のは、相当強みだよ。私みたいな無口でも、使える」
「無口って自分で言うなよ……」
ガアラは苦笑しながら、スマホを一瞥する。
「けど……便利すぎて、怖くなるな。
自分の判断が、機械に頼ってる感覚……慣れちまうと、戻れなくなりそうだ」
「なら、その判断を信じられるうちに、使いこなせばいい」
リィナはそう言って、魔石を袋に収めた。
森の木々が風に揺れる中――
ふたりの戦い方は、確実に次の段階に入っていた。
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宿に戻った夜。
戦闘記録アプリの詳細ページを見ていたガアラの手が止まる。
> 【応用機能:仮想戦闘訓練】
記録した対象の戦闘を再構築し、仮想空間内で対戦・模倣可能。
※高ランク冒険者や敵の戦闘記録が有効です。
「……マジかよ。そんなことまで……」
ガアラは椅子から立ち上がり、部屋の隅で荷物整理をしていたリィナに声をかけた。
「なあ、ちょっと相談がある」
「ん? どうせまたスマホの機能でしょ?」
「バレてるな。……今回のは、けっこうすごいぞ」
ガアラはスマホを手に、アプリの画面をリィナに見せる。
「戦闘記録アプリ、録画だけじゃなかった。
強い奴の動きを記録すれば、その動きを“仮想空間”で再現して、自分が対戦できるらしい」
「……え? 自分がその場に入って、相手と戦えるの?」
「そう。たぶん視覚情報と反応速度を再現する、シミュレーション訓練だな。
こっちの世界で言えば、幻影魔法の上位版みたいなものかも」
「……それ、本当に実現できたら、成長速度がとんでもないことになるね」
リィナは静かに頷き、それから少しだけ笑った。
「いいじゃん。面白くなってきたじゃん。――で、誰を相手にする気?」
「それを聞こうと思ってさ。あんた、この街のギルドで強い人、誰か知ってるか?」
「ギルド内で有名なのは何人かいるけど……みんな気軽に戦闘見せてくれるとは限らないよ?」
「そこは……交渉次第だな。まずは話を聞いてみよう」
◆
翌日、ふたりはギルドに足を運ぶ。
ガアラは受付の青年に話しかけた。
「すみません。この街で一番腕の立つ冒険者って、誰ですか?」
青年は少しだけ眉をひそめながらも答えてくれた。
「“一番”は難しいけど……Aランクの“ラセルドさん”とか、Bランクの剣士“ヴァイクさん”あたりですね。
最近は“グレイスさん”って魔法使いもよく名前を聞きます。どの系統をお探しですか?」
「近接系がいい。剣士とか前衛向きの」
「でしたら、ヴァイクさんがいいかもしれません。ストイックで真面目な人ですよ。今朝、訓練場に向かったと聞いています」
「ありがとうございます!」
◆
ギルドを出て、ガアラはリィナに振り返る。
「よし、まずはヴァイクさんにお願いして、戦いを“見せてもらう”。
あとは記録して、俺自身がそれと戦って――動きを覚える」
「へぇ……ようやく“力押し以外”もやる気になった?」
「言ってくれるな。でも、たぶんこれが俺の近道だと思う」
「ま、期待してるよ。――その代わり、私も一緒に見ておく。学ぶのは、あんただけじゃないし」
ふたりは訓練場へと向かう。
“強さを見て、記録して、再現して、自分の中に取り込む”
それは、異世界におけるまったく新しい成長法だった。
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ギルドから歩いて10分ほどの訓練場。
街外れにあるその場所では、金属がぶつかる音が定期的に響いていた。
「……あれだね。ヴァイクって人」
リィナが指差した先、中央の訓練スペースで男がひとり、鉄剣を握って立っていた。
黒髪を後ろで結い、無駄のない動きで訓練用の人形へ連撃を加えるたび、空気が切り裂かれる音が走る。
「動き、キレてるな……」
ガアラは小さく唸りながら、スマホをそっと確認する。
録画モードは待機状態。ここからが本番だった。
「よし……行ってみるか」
◆
訓練が一区切りついたのを見計らい、ガアラは声をかけた。
「すみません。あなたが……ヴァイクさん、ですよね?」
「……ああ。俺に何か?」
振り返ったその男は、落ち着いた声音ながら、どこか鋭さを感じさせる目をしていた。
ガアラは無理のない笑みを浮かべた。
「実は、自分、最近ギルドでDランクになったばかりなんです。
で、強い人の戦いを見て学べたらって思ってて……少し、動きを見学させてもらえませんか?」
「見学、か。俺の動きを見て何か参考になるとは思えんが……まあ、邪魔をしないなら好きにしろ」
「ありがとうございます!」
ガアラは心の中でガッツポーズを決めつつ、スマホをそっと録画モードに切り替える。
> 【戦闘記録開始】
対象:ヴァイク(手動モード)
モーション/反応速度/軌道解析中…
◆
ヴァイクは再び構えを取り、呼吸を整える。
(……さて、どんな動きが来る?)
一瞬の踏み込み。
足運びに無駄がなく、剣は流れるように肩から斜めに振り下ろされる。
続く反転、フェイント、角度を変えた連撃――
静かだが、圧がある。
その剣筋は“練度”という言葉そのものだった。
スマホの画面に、連撃のリズムと剣筋の軌跡がリアルタイムで描かれていく。
(すげぇ……これ、実戦で来たら多分、反応できねぇ)
最後の一太刀を打ち込んだ後、ヴァイクが剣を納める。
「……これでいいか?」
「はい、すごく参考になりました。ありがとうございました!」
「……ふん。素直な奴だな。見学くらいでよければ、また来いよ。時間が合えば見せてやる」
そう言い残して、ヴァイクは訓練場の奥へと戻っていった。
◆
「……さすがだね。下手すりゃ、BランクじゃなくてAでも通用するんじゃない?」
リィナがぼそっと呟く。
ガアラはうなずきながらスマホを確認した。
> 【戦闘記録保存完了】
名称:ヴァイク(近接連撃・実演)
再生/仮想戦闘モードで使用可能
「……よし。これで“あの動き”を仮想で再現できる」
「それ、試すの私も見るからね。サボって使いこなせなかったら怒るから」
「う……努力します」
軽口を交わしながらも、ガアラの頭の中ではすでに――
“どうすればあの一太刀に対応できるか”
“初撃を受けた場合、反撃に転じるなら何手目が最適か”
そんな分析が、始まりかけていた。
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しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
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