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第1章
仮想戦闘モード
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宿の部屋。夜。
ガアラはベッド脇の椅子に座り、スマホを手に取った。
画面には、記録されたヴァイクの戦闘データが静かに表示されている。
> 【仮想戦闘モード:起動しますか?】
対象:ヴァイク(近接連撃・実演)
難易度:標準(調整可能)
備考:実戦に基づくパターン。初撃速度80%、回避補正あり。
「……いけるな。ここでやんなきゃ意味がねぇ」
【YES】をタップ。
次の瞬間――
視界が暗転し、体の感覚がふわりと浮いたような感覚になる。
◆
気づけば、ガアラは“真っ白な空間”に立っていた。
視界には、床の中心に一体の人影が浮かんでいる。
「ヴァイク……」
仮想空間に再構築されたその姿は、リアルと変わらぬ殺気と静けさをまとっていた。
> 【準備完了】
スタート時点:5秒前。
注意:攻撃は実感的な衝撃を伴いますが、実傷はありません。
「……本気で来るってことか」
剣を構える。
仮想剣は、自分が普段使っているものと重さも感触もほぼ同じだった。
「さぁ来いよ、“幻のヴァイク”。俺の限界、見せてみろ――!」
◆
――開始。
瞬間、ヴァイクが“静かに”踏み出した。
その動きは恐ろしく滑らかで、音がしない。
気づけば、間合いが縮まっている。
(速い――!)
仮想空間とはいえ、体感速度は現実そのまま。
スマホから学んだ動きの“恐ろしさ”を、ガアラは初撃で味わう。
ギィン!
初撃の斬撃をなんとか剣で受け止めた。だが、重い。腕が痺れる。
2撃目、体重を乗せたフェイントが来る――!
(見た……でも体が追いつかないっ!)
剣を振り切れず、肩をなぞるように斬撃が入る。
> 【ヒット:軽傷判定】
「くそっ……!」
後退し、呼吸を整える。仮想空間ではスタミナの消耗もリアルだ。
「これ、やばい……でも、何度でもいける」
もう一度構え直す。
仮想ヴァイクは、同じ動きで攻めてくるわけではなかった。
「パターンが……変わる!?」
予想を超える動き。記録された動作は、“相手の揺さぶり”すら記録していた。
それでも、ガアラは食らいついた。
(攻撃タイミングを、見切れ……読みじゃなく、“視える”ようになれ――!)
再び斬撃が来る――今度は、肩の力を抜いて受け流す。
カンッ!
手応え。
初めて“受けきった”感覚が指に伝わる。
(今だ!)
踏み込み、カウンター気味に斜めに斬り込む。
仮想ヴァイクの動きが一瞬だけ止まり、スッ――と姿が霧のように消える。
◆
視界が戻った。
ベッドの上で、ガアラは額に汗を浮かべていた。
スマホの画面には表示が出ている。
> 【仮想戦闘終了】
戦闘評価:Cランク
回避成功:4回/15
ダメージ与成功:1回
次回予測:反応速度強化を推奨
「……まだまだか。でも、これ、何度でもやれるってのは――」
そう、これは“安全な敗北”を何度も繰り返せる場所。
現実では一度しかできない“学び”を、繰り返して体に叩き込める空間だ。
ガアラはスマホを握りしめた。
「――強くなる、絶対に」
その言葉が、仮想ではない現実の戦いへと繋がっていくと信じていた。
---
仮想戦闘を終え、ベッドの上で息を整えるガアラの前に――
椅子に座っていたリィナが、スマホの記録映像を見ながら腕を組んでいた。
「……1回目にしちゃ悪くない。でも、ダメなとこはしっかり見えた」
「……はあ。やっぱ、見られてたか」
「当たり前。『やってみる』って言った時から興味しかなかったから」
ガアラは苦笑しながら、スマホのホログラム画面を起動した。
さっきの戦闘が、外部映像として再生される。
ガアラの動き。ヴァイクの攻撃。
それらが透けた青で映し出されていた。
「この場面。ここの2撃目をさばけなかったのは、最初の防御で力入りすぎたせい。腕に残ってる反動が邪魔してる」
「それ、俺も思った。受けにいってるけど、“流す”って感覚がまだつかめてない」
「あとここ。3手目の踏み込み、タイミング読めてたのに詰めが甘い。
構えだけ低くしても、剣が届く位置に足が入ってない」
「……ぐっ……マジか、足か……」
「剣より体の動きの方が鈍いんだよ、あんたは。だから“剣だけで斬ろうとする”。それだと、いずれ通用しなくなる」
ガアラは無言で再生映像を見つめ、やがてスマホを伏せた。
「なるほどな……見てるだけじゃ気づけないとこ、結構ある」
「だから、私は“外から見てる目”になれる」
リィナは少しだけ口元をゆるめて、視線を逸らす。
「ま、別に……教えるのが好きなわけじゃないけど。
あんたが倒れられると、私が面倒くさいから」
「はいはい。ありがとよ、戦術参謀さん」
「気安く呼ぶな。調子に乗るタイプでしょ、あんた」
◆
ガアラは再びスマホを見た。
自分と、リィナの視点。両方が揃って初めて、見えるものがあった。
「リィナの目があってよかった。俺ひとりじゃ、ここまで見えなかった」
「……そんなこと言っても、飴はあげないよ?」
「じゃあ、次は俺が、リィナの動きを記録して分析する番だな」
「――やめて? 恥ずかしいから」
そんなやりとりが、ふたりの間にあった。
これまでの戦いは“ぶっつけ本番”だった。
だがこれからは、戦って、見て、学んで、また戦う――
本物の成長が、ここから始まっていく。
---
それから――
ガアラは毎晩、宿の一室でスマホを手に“仮想戦闘”を繰り返した。
相手は常に、剣士ヴァイク。
あの無駄のない踏み込みと、見えないフェイント。
攻防が一瞬で切り替わる、剣の流れ。
「……くっ!」
ギィンッ!
また受けきれずにバランスを崩し、仮想ヴァイクの一撃が肩を捉える。
> 【ヒット:軽傷】
「……もう一回だ」
歯を食いしばり、立ち上がる。
汗がにじむのは現実の体。それでも、ガアラは止めなかった。
(動きは読める。なのに、体が追いつかない――
だったら、“先に動いて”待ち構えるしかねぇ)
ガアラは、構えを変えた。
それまでの“対応型”から、次の一手を“誘う構え”へ。
仮想ヴァイクが近づく。重心が右足にかかったその瞬間――
「来る!」
先んじて踏み込む。
剣を、相手の“攻撃軌道の一瞬先”へ。
ギィン――!
重い衝撃。しかし、今回は耐えた。
一歩も下がらず、反撃の体勢を保つ。
(今だ!)
反転し、ヴァイクの開いた腹部を斬り上げる――
スゥッ……
ヴァイクの姿が霧のように崩れ、消えた。
◆
> 【仮想戦闘終了】
評価:Bランク
被弾1/15 攻撃命中3
カウンター成功:1回(重大部位)
「……やった」
ベッドに背中から倒れ込み、天井を見上げる。
体は重いが、心は軽い。
「見切ったぞ……ヴァイクの三手目……!」
その時、机に座っていたリィナが、スマホ画面を見ながら言った。
「……やるじゃん。
最初は“剣だけでどうにかしようとする素人”だったのに、今じゃ読み合いしてる」
「そりゃ毎晩、死ぬほど斬られたら上達するって」
「……もうちょい褒めてほしいなら、素直に言えば?」
「べ、別に……」
「はいはい。素直じゃないとこは相変わらず」
リィナは小さく笑い、目を細めた。
「でも、ちゃんと見えてたよ。あんたの動き、前より自然になってる」
「……マジで?」
「うん。次の実戦が楽しみになってきた」
そう言ったリィナの瞳には、少しだけ期待が浮かんでいた。
ガアラが仮想ヴァイクに一矢報いた夜。
「……さて。今度は、私の番かな」
「ん?」
ベッドで休んでいたガアラに、椅子に座っていたリィナがぼそりと呟いた。
「私も、試してみる。仮想戦闘ってやつ。ちょっと……興味出た」
「おお……意外と乗り気?」
「別にあんたに褒められたわけじゃないけど、ね」
そう言いながらも、どこか照れたような、でも挑戦者のような瞳だった。
◆
スマホを操作し、記録したガアラとヴァイクの戦闘映像をベースに、模擬戦用の仮想戦士を組む。
ガアラが簡易設定を済ませ、画面をリィナに差し出す。
「ここを押すと始まる。あとは……頑張れ」
「ふん。あんたに心配されるほど、やわじゃないよ」
リィナがスマホに触れた瞬間――
視界がふわりと暗転し、真っ白な仮想空間へ。
空間の中央、軽装の剣士型の敵が、構えを取っていた。
> 【仮想戦闘モード:開始】
敵タイプ:近接型(バランス)
攻撃傾向:三連撃/足払い/フェイント使用
リィナは軽く腰を落とし、短剣を構えた。
「……ふーん。こいつ、ヴァイクの真似ってわけか」
一歩踏み込む。
敵が反応して斬り込んでくる。速い――だが、読める。
(軽いフェイントから、振りかぶって――)
クッ。
足元を狙ってきた剣を、跳ねるように回避。
「よっ……と!」
短剣を低く突き出し、わずかに敵の脇腹をかすめる。
> 【ヒット:軽傷】
「へぇ……当たると、感触があるんだ……」
だが、反撃も鋭い。
次の斬撃は、軸を外してリィナの肩を狙ってくる。
ギンッ!
小さく短剣で弾くも、完全にはさばききれず、肩口に衝撃が走る。
> 【被弾:軽傷】
「……痛っ。ちょっとは遠慮してよ」
けれど、すぐに足を回して回避、切り返し。
リィナの連撃が決まる。
> 【ヒット:中傷】
そして敵が崩れると同時に、空間が霧のように消えた。
◆
宿の部屋。
リィナが目を開け、スマホの画面をじっと見ていた。
> 【仮想戦闘 終了】
評価:Bランク
被弾1/12
回避成功:5回
有効攻撃:3回
「……なんかさ、現実よりも現実っぽいんだけど、これ」
「だろ? やってみないと分からないよな、こいつのやばさ」
ガアラは笑いながら、手元の記録画面を覗く。
「でも、リィナらしい動きだったよ。踏み込みが浅くて、切り込みが速い。リズム、相手に渡さなかったのがすごい」
「……ん。ありがと」
いつもよりほんの少し素直な言葉に、ガアラはちょっとだけ驚いた。
「次、もう一回やってもいい? 今度は、違う武器種のやつとか」
「もちろん。いくらでも用意してやるよ。
……だって、記録はまだまだ山ほど取れるからな」
ふたりは笑い合う。
戦場では言葉よりも、“動き”で信頼を示す彼女。
その彼女が、今、自分の限界を超える準備を始めたところだった。
---
ガアラはベッド脇の椅子に座り、スマホを手に取った。
画面には、記録されたヴァイクの戦闘データが静かに表示されている。
> 【仮想戦闘モード:起動しますか?】
対象:ヴァイク(近接連撃・実演)
難易度:標準(調整可能)
備考:実戦に基づくパターン。初撃速度80%、回避補正あり。
「……いけるな。ここでやんなきゃ意味がねぇ」
【YES】をタップ。
次の瞬間――
視界が暗転し、体の感覚がふわりと浮いたような感覚になる。
◆
気づけば、ガアラは“真っ白な空間”に立っていた。
視界には、床の中心に一体の人影が浮かんでいる。
「ヴァイク……」
仮想空間に再構築されたその姿は、リアルと変わらぬ殺気と静けさをまとっていた。
> 【準備完了】
スタート時点:5秒前。
注意:攻撃は実感的な衝撃を伴いますが、実傷はありません。
「……本気で来るってことか」
剣を構える。
仮想剣は、自分が普段使っているものと重さも感触もほぼ同じだった。
「さぁ来いよ、“幻のヴァイク”。俺の限界、見せてみろ――!」
◆
――開始。
瞬間、ヴァイクが“静かに”踏み出した。
その動きは恐ろしく滑らかで、音がしない。
気づけば、間合いが縮まっている。
(速い――!)
仮想空間とはいえ、体感速度は現実そのまま。
スマホから学んだ動きの“恐ろしさ”を、ガアラは初撃で味わう。
ギィン!
初撃の斬撃をなんとか剣で受け止めた。だが、重い。腕が痺れる。
2撃目、体重を乗せたフェイントが来る――!
(見た……でも体が追いつかないっ!)
剣を振り切れず、肩をなぞるように斬撃が入る。
> 【ヒット:軽傷判定】
「くそっ……!」
後退し、呼吸を整える。仮想空間ではスタミナの消耗もリアルだ。
「これ、やばい……でも、何度でもいける」
もう一度構え直す。
仮想ヴァイクは、同じ動きで攻めてくるわけではなかった。
「パターンが……変わる!?」
予想を超える動き。記録された動作は、“相手の揺さぶり”すら記録していた。
それでも、ガアラは食らいついた。
(攻撃タイミングを、見切れ……読みじゃなく、“視える”ようになれ――!)
再び斬撃が来る――今度は、肩の力を抜いて受け流す。
カンッ!
手応え。
初めて“受けきった”感覚が指に伝わる。
(今だ!)
踏み込み、カウンター気味に斜めに斬り込む。
仮想ヴァイクの動きが一瞬だけ止まり、スッ――と姿が霧のように消える。
◆
視界が戻った。
ベッドの上で、ガアラは額に汗を浮かべていた。
スマホの画面には表示が出ている。
> 【仮想戦闘終了】
戦闘評価:Cランク
回避成功:4回/15
ダメージ与成功:1回
次回予測:反応速度強化を推奨
「……まだまだか。でも、これ、何度でもやれるってのは――」
そう、これは“安全な敗北”を何度も繰り返せる場所。
現実では一度しかできない“学び”を、繰り返して体に叩き込める空間だ。
ガアラはスマホを握りしめた。
「――強くなる、絶対に」
その言葉が、仮想ではない現実の戦いへと繋がっていくと信じていた。
---
仮想戦闘を終え、ベッドの上で息を整えるガアラの前に――
椅子に座っていたリィナが、スマホの記録映像を見ながら腕を組んでいた。
「……1回目にしちゃ悪くない。でも、ダメなとこはしっかり見えた」
「……はあ。やっぱ、見られてたか」
「当たり前。『やってみる』って言った時から興味しかなかったから」
ガアラは苦笑しながら、スマホのホログラム画面を起動した。
さっきの戦闘が、外部映像として再生される。
ガアラの動き。ヴァイクの攻撃。
それらが透けた青で映し出されていた。
「この場面。ここの2撃目をさばけなかったのは、最初の防御で力入りすぎたせい。腕に残ってる反動が邪魔してる」
「それ、俺も思った。受けにいってるけど、“流す”って感覚がまだつかめてない」
「あとここ。3手目の踏み込み、タイミング読めてたのに詰めが甘い。
構えだけ低くしても、剣が届く位置に足が入ってない」
「……ぐっ……マジか、足か……」
「剣より体の動きの方が鈍いんだよ、あんたは。だから“剣だけで斬ろうとする”。それだと、いずれ通用しなくなる」
ガアラは無言で再生映像を見つめ、やがてスマホを伏せた。
「なるほどな……見てるだけじゃ気づけないとこ、結構ある」
「だから、私は“外から見てる目”になれる」
リィナは少しだけ口元をゆるめて、視線を逸らす。
「ま、別に……教えるのが好きなわけじゃないけど。
あんたが倒れられると、私が面倒くさいから」
「はいはい。ありがとよ、戦術参謀さん」
「気安く呼ぶな。調子に乗るタイプでしょ、あんた」
◆
ガアラは再びスマホを見た。
自分と、リィナの視点。両方が揃って初めて、見えるものがあった。
「リィナの目があってよかった。俺ひとりじゃ、ここまで見えなかった」
「……そんなこと言っても、飴はあげないよ?」
「じゃあ、次は俺が、リィナの動きを記録して分析する番だな」
「――やめて? 恥ずかしいから」
そんなやりとりが、ふたりの間にあった。
これまでの戦いは“ぶっつけ本番”だった。
だがこれからは、戦って、見て、学んで、また戦う――
本物の成長が、ここから始まっていく。
---
それから――
ガアラは毎晩、宿の一室でスマホを手に“仮想戦闘”を繰り返した。
相手は常に、剣士ヴァイク。
あの無駄のない踏み込みと、見えないフェイント。
攻防が一瞬で切り替わる、剣の流れ。
「……くっ!」
ギィンッ!
また受けきれずにバランスを崩し、仮想ヴァイクの一撃が肩を捉える。
> 【ヒット:軽傷】
「……もう一回だ」
歯を食いしばり、立ち上がる。
汗がにじむのは現実の体。それでも、ガアラは止めなかった。
(動きは読める。なのに、体が追いつかない――
だったら、“先に動いて”待ち構えるしかねぇ)
ガアラは、構えを変えた。
それまでの“対応型”から、次の一手を“誘う構え”へ。
仮想ヴァイクが近づく。重心が右足にかかったその瞬間――
「来る!」
先んじて踏み込む。
剣を、相手の“攻撃軌道の一瞬先”へ。
ギィン――!
重い衝撃。しかし、今回は耐えた。
一歩も下がらず、反撃の体勢を保つ。
(今だ!)
反転し、ヴァイクの開いた腹部を斬り上げる――
スゥッ……
ヴァイクの姿が霧のように崩れ、消えた。
◆
> 【仮想戦闘終了】
評価:Bランク
被弾1/15 攻撃命中3
カウンター成功:1回(重大部位)
「……やった」
ベッドに背中から倒れ込み、天井を見上げる。
体は重いが、心は軽い。
「見切ったぞ……ヴァイクの三手目……!」
その時、机に座っていたリィナが、スマホ画面を見ながら言った。
「……やるじゃん。
最初は“剣だけでどうにかしようとする素人”だったのに、今じゃ読み合いしてる」
「そりゃ毎晩、死ぬほど斬られたら上達するって」
「……もうちょい褒めてほしいなら、素直に言えば?」
「べ、別に……」
「はいはい。素直じゃないとこは相変わらず」
リィナは小さく笑い、目を細めた。
「でも、ちゃんと見えてたよ。あんたの動き、前より自然になってる」
「……マジで?」
「うん。次の実戦が楽しみになってきた」
そう言ったリィナの瞳には、少しだけ期待が浮かんでいた。
ガアラが仮想ヴァイクに一矢報いた夜。
「……さて。今度は、私の番かな」
「ん?」
ベッドで休んでいたガアラに、椅子に座っていたリィナがぼそりと呟いた。
「私も、試してみる。仮想戦闘ってやつ。ちょっと……興味出た」
「おお……意外と乗り気?」
「別にあんたに褒められたわけじゃないけど、ね」
そう言いながらも、どこか照れたような、でも挑戦者のような瞳だった。
◆
スマホを操作し、記録したガアラとヴァイクの戦闘映像をベースに、模擬戦用の仮想戦士を組む。
ガアラが簡易設定を済ませ、画面をリィナに差し出す。
「ここを押すと始まる。あとは……頑張れ」
「ふん。あんたに心配されるほど、やわじゃないよ」
リィナがスマホに触れた瞬間――
視界がふわりと暗転し、真っ白な仮想空間へ。
空間の中央、軽装の剣士型の敵が、構えを取っていた。
> 【仮想戦闘モード:開始】
敵タイプ:近接型(バランス)
攻撃傾向:三連撃/足払い/フェイント使用
リィナは軽く腰を落とし、短剣を構えた。
「……ふーん。こいつ、ヴァイクの真似ってわけか」
一歩踏み込む。
敵が反応して斬り込んでくる。速い――だが、読める。
(軽いフェイントから、振りかぶって――)
クッ。
足元を狙ってきた剣を、跳ねるように回避。
「よっ……と!」
短剣を低く突き出し、わずかに敵の脇腹をかすめる。
> 【ヒット:軽傷】
「へぇ……当たると、感触があるんだ……」
だが、反撃も鋭い。
次の斬撃は、軸を外してリィナの肩を狙ってくる。
ギンッ!
小さく短剣で弾くも、完全にはさばききれず、肩口に衝撃が走る。
> 【被弾:軽傷】
「……痛っ。ちょっとは遠慮してよ」
けれど、すぐに足を回して回避、切り返し。
リィナの連撃が決まる。
> 【ヒット:中傷】
そして敵が崩れると同時に、空間が霧のように消えた。
◆
宿の部屋。
リィナが目を開け、スマホの画面をじっと見ていた。
> 【仮想戦闘 終了】
評価:Bランク
被弾1/12
回避成功:5回
有効攻撃:3回
「……なんかさ、現実よりも現実っぽいんだけど、これ」
「だろ? やってみないと分からないよな、こいつのやばさ」
ガアラは笑いながら、手元の記録画面を覗く。
「でも、リィナらしい動きだったよ。踏み込みが浅くて、切り込みが速い。リズム、相手に渡さなかったのがすごい」
「……ん。ありがと」
いつもよりほんの少し素直な言葉に、ガアラはちょっとだけ驚いた。
「次、もう一回やってもいい? 今度は、違う武器種のやつとか」
「もちろん。いくらでも用意してやるよ。
……だって、記録はまだまだ山ほど取れるからな」
ふたりは笑い合う。
戦場では言葉よりも、“動き”で信頼を示す彼女。
その彼女が、今、自分の限界を超える準備を始めたところだった。
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『断罪なう』。
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すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
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