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第2章
冒険者とは
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朝の光が差し込む宿のロビー。
木の床が朝日に照らされ、柔らかく光っていた。
既に準備を終えたバトーは、腰掛けて外を眺めている。
通りを行き交う人々の声が、活気ある街の目覚めを告げていた。
やがて、二階から足音がトントンと降りてきた。
「うぅ……頭いてぇ……」
現れたのはギース。
顔は青白く、足取りはふらふら、今にも転びそうだ。
「おはよう。まるでゾンビみたいだな」
「おはよ……って、うるせぇ……頭ガンガンする……」
バトーは苦笑しながら手をかざす。
「《ヒール》」
淡い光がギースを包み、数秒後には彼の表情がスッと和らいだ。
「おおっ!? 何だこれ、頭がスッキリしてる! お前、便利だな!」
「便利って……俺は薬じゃねぇよ」
そう言って笑い合うと、二人は宿を後にした。
街の通りは朝市で賑わっている。パンを売る香ばしい匂い、果物を並べる声、そして冒険者たちの装備音。
ギルドの扉を押し開けると、中はすでに人でごった返していた。
昨日の静けさが嘘のようだ。
「ほらな、言ったろ。朝はこうなるんだよ」
ギースが苦笑いする。
バトーは興味深げに掲示板へと近づいた。
壁一面に貼られた依頼書が風に揺れ、冒険者たちが奪い合うように見入っている。
「なあ、ギース。森の中へ行ける依頼ってあるか?」
「森? また珍しいこと言うな。……あ、これなんかどうだ?」
ギースが指差したのは一枚の依頼書。
> 【オーク討伐依頼】
森の北側にオークの群れ出現。被害拡大中。
討伐数:五体以上。報酬:銀貨二十枚。
「ちょうど森だし、いい感じじゃねぇか。そこそこ危険だが、俺がいるから安心しろ」
「いや、俺がいるから安心しろ、の間違いだろ?」
バトーの軽口にギースは笑いながら依頼書をはがし、受付に向かう。
「オーク討伐依頼を受ける!」
受付嬢が確認し、依頼印を押す。
「確認しました。お気をつけて、いってらっしゃいませ」
ギースは冒険者証を受け取り、バトーに向かって親指を立てる。
「よし、バトー! これで正式にお前の初依頼だ。気合い入れていこうぜ!」
「おう、頼りにしてるぜ、先輩」
二人は笑い合いながらギルドを出る。
朝の光の中、街道の先に広がる緑の森が、静かに彼らを待ち受けていた。
街を出てしばらく歩くと、街道の先に深い森が見えてきた。
木々の間から涼しい風が吹き抜け、草の匂いが漂う。
鳥の声が響き、どこか懐かしいような静けさがあった。
「しかしお前、魔法も使えるんだな。しかも回復魔法とはな。」
ギースが感心したように言う。
「ああ。むしろ魔法の方が得意だ。」
バトーは軽く肩をすくめる。
「え? 嘘だろ。昨日は剣使ってたじゃねぇか。」
「剣は三流ってとこだな。俺は魔法使いだ。」
「はー……すげぇ拾いもんしたな俺。そりゃ頼もしいぜ。戦闘は任せる! 俺は荷物でも運んでるよ。」
「いやいや、冒険者の心得を教えてくれよ、先輩。」
「ふっ、そう来るか。よし、後輩、歩きながら教えてやるよ。」
二人は笑いながら森の入り口へ足を踏み入れた。
木々が生い茂り、陽の光が葉の間からこぼれて地面にまだら模様を作る。
足元には枯れ葉と湿った土。小さな虫が飛び交う音が静かに響く。
「まず基本は油断しねぇことだ。森の中はな、どこからでも魔物が出てくる。」
ギースが警戒しながら言った、その瞬間だった。
ガサガサッ。
茂みの奥から緑色の影が飛び出す。
「ゴブリンか!」
「任せろ!」
バトーが右手を突き出す。
指先に青白い光が灯り、瞬時に魔法陣が浮かび上がる。
「《ウィンド・ブラスト》!」
轟音とともに突風が放たれ、4体のゴブリンを一掃した。
木の幹に叩きつけられたゴブリンたちは動かなくなる。
ギースは目を丸くしてバトーを見る。
「おいおい……冗談だろ。風魔法でまとめて吹き飛ばすとか、初めて見たぞ。」
「まあ、軽くな。」
涼しい顔でバトーは剣を納めた。
そのまま通り過ぎようとすると、ギースが慌てて腕を掴む。
「おい! 放っとくな! 魔石が取れるだろ!」
「魔石?」
「ったく、初心者かよ。ゴブリンでも魔石を持ってるんだ。ちっこいが換金できる。地味に稼げるんだぜ。」
ギースは手際よく短剣を抜き、ゴブリンの胸を裂いて小さな赤い石を取り出した。
「ほら、これが魔石。魔物の生命力の結晶だ。素材屋に持ってけば銀貨になる。」
「なるほどな……。勉強になるよ、先輩。」
「だろ? まだまだ教えることは山ほどあるぜ。」
森の奥へと進む二人。
静かな風が枝を揺らし、木漏れ日の中に新しい冒険の匂いが漂っていた。
森の奥へと進むほど、空気が重くなっていった。
風が止み、鳥の声も消える。
代わりに、枝を折る鈍い音と、地面を揺らすような足音が響いた。
「……なぁ、バトー。なんか来るぞ。」
ギースが声を潜め、剣を抜く。
その瞬間、茂みを突き破って二体のオークが現れた。
全身に傷を負い、血を流しながらこちらに向かって全力で走ってくる。
逃げている――何かから。
「……何かに追われてるな。」
バトーは素早く状況を見極め、片手を上げる。
次の瞬間、空間に五つの紅い魔法陣が浮かび上がる。
「《ファイアボール》。」
ドンッ――!
五発の火球が連続で炸裂し、周囲の木々ごとオークを吹き飛ばした。
爆炎が広がり、焦げた肉と煙の匂いが漂う。
残ったのは黒焦げの肉片と、焼け焦げた土だけだった。
「……やりすぎたな。もう少し弱めで、1発ずつでよかったか。」
バトーは小さくため息をつく。
ギースは苦笑しながら、黒こげの死体をひっくり返す。
「お、おい……これ、魔石、無事かな……あった! よし。」
そう言って、煤にまみれた魔石を二つ拾い上げる。
その時――。
風がざわめいた。
森の奥から、圧を感じる。
まるで空気そのものが震えているかのような、異様な気配。
「……ッ! 何か来る。」
バトーが目を細め、空気を読む。
皮膚がピリピリと震え、背筋を冷たいものが走った。
やがて、木々の間からそれは姿を現した。
太い槍を肩に担ぎ、黒い鎧に包まれた長身の男。
額には鋭く伸びた二本の角。
赤い双眸が、まるで血のように光っていた。
「おやおや……冒険者さん、ですか?」
低く、響くような声。
バトーは無意識に一歩前に出た。
その存在から放たれる魔力――まるで重圧そのもの。
「……魔族、か。」
ギースはその力を直に感じ、後ずさる。
顔から血の気が引いていく。
「ま、魔族……!? 嘘だろ……。な、何でこんな所に……!」
バトーの視線は鋭く、相手の動きを捉える。
辺りの空気が張り詰めた。
――静寂。
――そして、殺気。
森の奥で、二つの世界が交差しようとしていた。
(まずは情報を…)
バトーは冷静に息を整えた。
「魔族がこんな所で何をしているんだ?」
赤い髪でローブを着た若そうな男は、穏やかな笑みを浮かべたまま、低く答える。
「強い者を探していました。人間の街には強い魔力を感じなかったので、森の中まできてしまいましたよ。中々いないものですね。――貴方はどうですか?」
「俺達はそうでもない。お眼鏡にはかなわないと思うよ。あ、そうだ。俺はバトー、そしてコイツはギース。君の名前は?」
「私は――先発隊隊長バーリッシュといいます。」
その言葉には、妙な威圧感があった。肩書きだけで空気が変わる。
「貴方達も肩書きが?」
「俺達は冒険者だ。俺は見習い冒険者。コイツはアイアン。俺は冒険者成り立てで、先輩冒険者のギースに色々教えてもらっていたんだ。」
バーリッシュは赤い目を細めた。
「へぇー。貴方が下なんですか?強そうなのに?」
その言葉に、ギースが震えながら小声で言う。
「お、おい……何やってんだよ。魔族と友達になる気か?」
「逃げる準備しておけ。」
バトーは同じく小声で返す。
「肩書きは単純な強さじゃないさ。知識や経験、技術も必要で――それを教わっていたんだ。」
「人間達はややこしいですね。強い者が上に立つ。それでいいではありませんか。」
バーリッシュの体から、ゆらゆらと黒い魔力が立ち上る。
(来るな……)
空気が重くなる。バトーの喉が自然と鳴った。
「知識や経験が強さを上回る事もあるんだよ。」
バトーは一歩踏み出し、視線を合わせる。
「1人の強者を、弱者が連携して倒す――そんな力もある。」
バーリッシュはわずかに笑みを見せた。
「思い返せば昔、そういう事もありましたねぇ。冒険者と呼ばれる者達4人に、深手を負わされた事もありました。……そうではなく、今、私が気になっているのは――貴方。」
その瞳が光を宿す。
「魔力を隠していますね?分かりますよ。」
「魔力を表に出さない訓練中なだけだ。深い意味は無い。」
バトーは即座に返した。
「イヤイヤ、バトー。貴方……強いですよね。」
バーリッシュの魔力がさらに膨張する。地面がビリビリと震える。
「私は強い者を探しているんです。少し――相手してもらえませんか?」
「や、ヤバイ。どうする? バトー!」
ギースの声は震えていた。
バトーは静かに息を吐き、剣に手をかけた。
「俺はここで食い止める。逃げろ、ギース。」
「後輩置いて逃げれるかよ!」
ギースも剣を構える。
バトーはわずかに微笑んだ。
「ギース、いいんだ。俺は……このために来た。戦闘になれば巻き込む。逃げてくれ。」
ギースは歯を食いしばり、悔しそうに拳を握る。
「くっ……! 俺は足手まといか……。助けを呼んでくる! 死ぬなよ、バトー!」
バトーは軽く頷いた。
「行け。」
ギースが森を駆け出す。
その背を見送りながら、バトーはゆっくりと剣を抜いた。
「――さて、バーリッシュ。強者探しってのは、命懸けなんだろ?」
バーリッシュが笑う。
「ええ、もちろん。」
空気が裂けた。
戦いの幕が、静かに上がる。
木の床が朝日に照らされ、柔らかく光っていた。
既に準備を終えたバトーは、腰掛けて外を眺めている。
通りを行き交う人々の声が、活気ある街の目覚めを告げていた。
やがて、二階から足音がトントンと降りてきた。
「うぅ……頭いてぇ……」
現れたのはギース。
顔は青白く、足取りはふらふら、今にも転びそうだ。
「おはよう。まるでゾンビみたいだな」
「おはよ……って、うるせぇ……頭ガンガンする……」
バトーは苦笑しながら手をかざす。
「《ヒール》」
淡い光がギースを包み、数秒後には彼の表情がスッと和らいだ。
「おおっ!? 何だこれ、頭がスッキリしてる! お前、便利だな!」
「便利って……俺は薬じゃねぇよ」
そう言って笑い合うと、二人は宿を後にした。
街の通りは朝市で賑わっている。パンを売る香ばしい匂い、果物を並べる声、そして冒険者たちの装備音。
ギルドの扉を押し開けると、中はすでに人でごった返していた。
昨日の静けさが嘘のようだ。
「ほらな、言ったろ。朝はこうなるんだよ」
ギースが苦笑いする。
バトーは興味深げに掲示板へと近づいた。
壁一面に貼られた依頼書が風に揺れ、冒険者たちが奪い合うように見入っている。
「なあ、ギース。森の中へ行ける依頼ってあるか?」
「森? また珍しいこと言うな。……あ、これなんかどうだ?」
ギースが指差したのは一枚の依頼書。
> 【オーク討伐依頼】
森の北側にオークの群れ出現。被害拡大中。
討伐数:五体以上。報酬:銀貨二十枚。
「ちょうど森だし、いい感じじゃねぇか。そこそこ危険だが、俺がいるから安心しろ」
「いや、俺がいるから安心しろ、の間違いだろ?」
バトーの軽口にギースは笑いながら依頼書をはがし、受付に向かう。
「オーク討伐依頼を受ける!」
受付嬢が確認し、依頼印を押す。
「確認しました。お気をつけて、いってらっしゃいませ」
ギースは冒険者証を受け取り、バトーに向かって親指を立てる。
「よし、バトー! これで正式にお前の初依頼だ。気合い入れていこうぜ!」
「おう、頼りにしてるぜ、先輩」
二人は笑い合いながらギルドを出る。
朝の光の中、街道の先に広がる緑の森が、静かに彼らを待ち受けていた。
街を出てしばらく歩くと、街道の先に深い森が見えてきた。
木々の間から涼しい風が吹き抜け、草の匂いが漂う。
鳥の声が響き、どこか懐かしいような静けさがあった。
「しかしお前、魔法も使えるんだな。しかも回復魔法とはな。」
ギースが感心したように言う。
「ああ。むしろ魔法の方が得意だ。」
バトーは軽く肩をすくめる。
「え? 嘘だろ。昨日は剣使ってたじゃねぇか。」
「剣は三流ってとこだな。俺は魔法使いだ。」
「はー……すげぇ拾いもんしたな俺。そりゃ頼もしいぜ。戦闘は任せる! 俺は荷物でも運んでるよ。」
「いやいや、冒険者の心得を教えてくれよ、先輩。」
「ふっ、そう来るか。よし、後輩、歩きながら教えてやるよ。」
二人は笑いながら森の入り口へ足を踏み入れた。
木々が生い茂り、陽の光が葉の間からこぼれて地面にまだら模様を作る。
足元には枯れ葉と湿った土。小さな虫が飛び交う音が静かに響く。
「まず基本は油断しねぇことだ。森の中はな、どこからでも魔物が出てくる。」
ギースが警戒しながら言った、その瞬間だった。
ガサガサッ。
茂みの奥から緑色の影が飛び出す。
「ゴブリンか!」
「任せろ!」
バトーが右手を突き出す。
指先に青白い光が灯り、瞬時に魔法陣が浮かび上がる。
「《ウィンド・ブラスト》!」
轟音とともに突風が放たれ、4体のゴブリンを一掃した。
木の幹に叩きつけられたゴブリンたちは動かなくなる。
ギースは目を丸くしてバトーを見る。
「おいおい……冗談だろ。風魔法でまとめて吹き飛ばすとか、初めて見たぞ。」
「まあ、軽くな。」
涼しい顔でバトーは剣を納めた。
そのまま通り過ぎようとすると、ギースが慌てて腕を掴む。
「おい! 放っとくな! 魔石が取れるだろ!」
「魔石?」
「ったく、初心者かよ。ゴブリンでも魔石を持ってるんだ。ちっこいが換金できる。地味に稼げるんだぜ。」
ギースは手際よく短剣を抜き、ゴブリンの胸を裂いて小さな赤い石を取り出した。
「ほら、これが魔石。魔物の生命力の結晶だ。素材屋に持ってけば銀貨になる。」
「なるほどな……。勉強になるよ、先輩。」
「だろ? まだまだ教えることは山ほどあるぜ。」
森の奥へと進む二人。
静かな風が枝を揺らし、木漏れ日の中に新しい冒険の匂いが漂っていた。
森の奥へと進むほど、空気が重くなっていった。
風が止み、鳥の声も消える。
代わりに、枝を折る鈍い音と、地面を揺らすような足音が響いた。
「……なぁ、バトー。なんか来るぞ。」
ギースが声を潜め、剣を抜く。
その瞬間、茂みを突き破って二体のオークが現れた。
全身に傷を負い、血を流しながらこちらに向かって全力で走ってくる。
逃げている――何かから。
「……何かに追われてるな。」
バトーは素早く状況を見極め、片手を上げる。
次の瞬間、空間に五つの紅い魔法陣が浮かび上がる。
「《ファイアボール》。」
ドンッ――!
五発の火球が連続で炸裂し、周囲の木々ごとオークを吹き飛ばした。
爆炎が広がり、焦げた肉と煙の匂いが漂う。
残ったのは黒焦げの肉片と、焼け焦げた土だけだった。
「……やりすぎたな。もう少し弱めで、1発ずつでよかったか。」
バトーは小さくため息をつく。
ギースは苦笑しながら、黒こげの死体をひっくり返す。
「お、おい……これ、魔石、無事かな……あった! よし。」
そう言って、煤にまみれた魔石を二つ拾い上げる。
その時――。
風がざわめいた。
森の奥から、圧を感じる。
まるで空気そのものが震えているかのような、異様な気配。
「……ッ! 何か来る。」
バトーが目を細め、空気を読む。
皮膚がピリピリと震え、背筋を冷たいものが走った。
やがて、木々の間からそれは姿を現した。
太い槍を肩に担ぎ、黒い鎧に包まれた長身の男。
額には鋭く伸びた二本の角。
赤い双眸が、まるで血のように光っていた。
「おやおや……冒険者さん、ですか?」
低く、響くような声。
バトーは無意識に一歩前に出た。
その存在から放たれる魔力――まるで重圧そのもの。
「……魔族、か。」
ギースはその力を直に感じ、後ずさる。
顔から血の気が引いていく。
「ま、魔族……!? 嘘だろ……。な、何でこんな所に……!」
バトーの視線は鋭く、相手の動きを捉える。
辺りの空気が張り詰めた。
――静寂。
――そして、殺気。
森の奥で、二つの世界が交差しようとしていた。
(まずは情報を…)
バトーは冷静に息を整えた。
「魔族がこんな所で何をしているんだ?」
赤い髪でローブを着た若そうな男は、穏やかな笑みを浮かべたまま、低く答える。
「強い者を探していました。人間の街には強い魔力を感じなかったので、森の中まできてしまいましたよ。中々いないものですね。――貴方はどうですか?」
「俺達はそうでもない。お眼鏡にはかなわないと思うよ。あ、そうだ。俺はバトー、そしてコイツはギース。君の名前は?」
「私は――先発隊隊長バーリッシュといいます。」
その言葉には、妙な威圧感があった。肩書きだけで空気が変わる。
「貴方達も肩書きが?」
「俺達は冒険者だ。俺は見習い冒険者。コイツはアイアン。俺は冒険者成り立てで、先輩冒険者のギースに色々教えてもらっていたんだ。」
バーリッシュは赤い目を細めた。
「へぇー。貴方が下なんですか?強そうなのに?」
その言葉に、ギースが震えながら小声で言う。
「お、おい……何やってんだよ。魔族と友達になる気か?」
「逃げる準備しておけ。」
バトーは同じく小声で返す。
「肩書きは単純な強さじゃないさ。知識や経験、技術も必要で――それを教わっていたんだ。」
「人間達はややこしいですね。強い者が上に立つ。それでいいではありませんか。」
バーリッシュの体から、ゆらゆらと黒い魔力が立ち上る。
(来るな……)
空気が重くなる。バトーの喉が自然と鳴った。
「知識や経験が強さを上回る事もあるんだよ。」
バトーは一歩踏み出し、視線を合わせる。
「1人の強者を、弱者が連携して倒す――そんな力もある。」
バーリッシュはわずかに笑みを見せた。
「思い返せば昔、そういう事もありましたねぇ。冒険者と呼ばれる者達4人に、深手を負わされた事もありました。……そうではなく、今、私が気になっているのは――貴方。」
その瞳が光を宿す。
「魔力を隠していますね?分かりますよ。」
「魔力を表に出さない訓練中なだけだ。深い意味は無い。」
バトーは即座に返した。
「イヤイヤ、バトー。貴方……強いですよね。」
バーリッシュの魔力がさらに膨張する。地面がビリビリと震える。
「私は強い者を探しているんです。少し――相手してもらえませんか?」
「や、ヤバイ。どうする? バトー!」
ギースの声は震えていた。
バトーは静かに息を吐き、剣に手をかけた。
「俺はここで食い止める。逃げろ、ギース。」
「後輩置いて逃げれるかよ!」
ギースも剣を構える。
バトーはわずかに微笑んだ。
「ギース、いいんだ。俺は……このために来た。戦闘になれば巻き込む。逃げてくれ。」
ギースは歯を食いしばり、悔しそうに拳を握る。
「くっ……! 俺は足手まといか……。助けを呼んでくる! 死ぬなよ、バトー!」
バトーは軽く頷いた。
「行け。」
ギースが森を駆け出す。
その背を見送りながら、バトーはゆっくりと剣を抜いた。
「――さて、バーリッシュ。強者探しってのは、命懸けなんだろ?」
バーリッシュが笑う。
「ええ、もちろん。」
空気が裂けた。
戦いの幕が、静かに上がる。
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