異世界転移して最強のおっさん……の隣に住んでいる。

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第2章

積荷

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茂みに倒れた盗賊の一人が、呻きながら身じろぎした。
 左足にティナの剣がかすめたようで、動けない様子だ。

 ユートは彼のそばへと歩み寄り、腰を落とす。
 「動けるか?」

 「……っ、くそっ……殺せばいいだろ……」
 男はにらみつけてくるが、ユートは淡々と続けた。

 「別に殺したいわけじゃない。ただ、なぜこんな小規模な交易に貴族の私兵が紛れてたのかが気になってな」

 その言葉に、男の目がわずかに揺れた。

 「な、何のことだ……俺たちはただの盗賊――」

 「その大剣の家紋、エルメリア侯爵家のものだな?」

 「――!」

 男の呼吸が一瞬止まる。

 「仲間も全員倒されて、お前だけ生き残ってる。ここで下手な嘘をつくと、本当に殺されるぞ」
 カイが横から静かに言う。細剣の先を地面に突き立てながら、冷えた目で男を見つめていた。


 やがて男は観念したように、唇を噛んでこう漏らした。

 「……俺たちは“傭兵”だ。雇われた。目的は“積荷”だよ。中身が何かは知らねぇが、エンデリオ商会が“とある薬”を運ぶって話だった」

 「薬……?」

 ユートが目を細める。

 ノアが慌てて駆け寄ってきた。

 「ユートさん、それ、本当なんですか!?」

 「知らないのか?」
 「はい! 今回の荷は、食品と回復ポーション、それから一般的な薬草や書類だけのはず……」

 ユートはちらりと積荷の方を見る。

 (ノアが嘘をついてるとは思えない。だが――どこかで情報が歪んで伝わってる)

 「……ただの薬じゃねえ。お偉いさんが言ってた。“国の形を変える力”だってよ……。俺らみたいな連中には関係ない話だけどな」

 ユートの脳裏に、万能薬のことがよぎる。
 だが、積荷にはそんなものは入っていないはずだった。


---


 「ユートさん……私、積荷をすべて確認しておきます。何かの間違いで混入したのかもしれません」

 「任せる。気になるのは、こいつが何者から雇われたかだが……まあ、それは王都に戻ってから調べよう」


---

【その夜】

 捕らえた男は縄で拘束され、馬車の後部に固定された。
 ノアは心配そうに積荷の書類を見返しながら、こぼした。

 「“国の形を変える”……そんな薬、いったい……」


---

【護衛2日目・夜】

 焚き火の揺れる明かりの下、ノアは馬車の積荷をひとつずつ丁寧に開封していた。
 ユート、カイ、ティナ、バルトも手伝いながら、その中身を確かめていく。

 「こっちは乾燥保存された薬草ばかりだな」
 「こっちも回復ポーションだけ。変なものは――」

 その時、ティナが一つだけ違和感のある木箱に手をかけた。

 「……これだけ、封印の蝋が違う。色が濃いし、新しい」

 「ちょっと待て」
 ユートが近づき、魔力を込めて箱の封を感じ取る。
 封印の術式は簡素なものだったが、外部から確認できないよう細工が施されている。

 「……隠し箱、か。中身を確認する」

 慎重に封を開けると、箱の中には――濃い琥珀色の液体が入ったガラス瓶が3本、黒布に包まれて並んでいた。

 「これって……」
 ノアが目を見開く。
 「……見たことない……うちの記録にも、載ってない……」


---

【翌日・レナス市・エンデリオ商会支部】

 無事に目的地へ到着した一行は、さっそく支部の責任者・ミレナ支部長へ報告を行った。

 「お疲れさまでした! 襲撃があったと聞いて……ご無事で何よりです」

 ノアが手渡した報告書を読みながら、ミレナの顔が徐々に曇っていく。

 「……この“箱”の件ですが、確かに積荷リストにはありません。王都から送られてきた封印記録にも、名前がありません」

 「それって、つまり……?」
 バルトが不安げに訊く。

 「“誰かが意図的に混ぜた”可能性があります。……しかも、それを盗賊が狙っていた」

 ユートが無言でそのガラス瓶を見つめる。


---

【ミレナの話】

 「実は……王都では一部の貴族や富豪の間で、“奇跡の回復薬”の噂が流れているのです。
 “腕が生える”“不治の病が治る”といった、信じがたい話とともに――」

 ユートは微かに眉を寄せた。

 (俺が持ち込んだ“上級ポーション”が、すでに尾ひれをつけて噂になってる……?)


 「ノア」
 「はい」
 「この件……一度、王都の本部にしっかり報告した方がいい。たとえ商会内に“紛れ込んでる誰か”がいたとしてもな」

 「……分かりました。私から連絡を入れます」

 ユートは小さく息を吐いた。

 「そして、その薬の出処……“知られてはいけない場所”に繋がっている気がしてならないな」


【レナス滞在2日目・宿の一室】

 広げた書類の中で、一つの封蝋の形にノアが指を止めた。

 「これ……やっぱり見覚えがあります。“カーラム商会”の封蝋に似てます」

 「カーラム商会?」
 ユートは眉をひそめた。

 「初耳だ。大きな商会なのか?」

 「王都では中堅クラスです。もともとは薬品と保存食が専門でしたが、ここ最近は資本の出所が変わったみたいで……噂では、ある貴族家が後ろにいるとか」

 「……なるほどな」
 ユートは腕を組んだ。

 「それが事実なら、“身元不明の薬品を積荷に紛れ込ませる動機”もあるかもしれない。ノア、このカーラム商会って、ここレナスにも関係者いる?」

 「調べてみます。直接の支店はないはずですが、契約してる中小商会を通じて出入りしてるかも」

 「頼む。俺たちも足で探るとしよう。誰かが何かを隠してる――その確信がある」

【レナス・夜】

 クロード商会は、街のやや外れにある石造りの倉庫兼店舗だった。日中は雑貨や保存食、少量の魔道具を取り扱っているごく普通の商会――だが。

 「……夜になっても灯りが消えねぇな」
 バルトが囁くように言った。

 「見張りもいる。あの屋根の上、ずっと同じ奴が動いてない」
 ティナが耳をぴくりと動かして続ける。

 ユートたちは、宿を出てから遠巻きにクロード商会の建物を監視していた。三人は暗闇に紛れて物音を立てず、離れた屋根の上に身を潜めている。


---

 深夜――灯りの数が増える。奥の倉庫側の扉が、ギィと開かれ、黒ずくめの男たちが何かを運び出していた。

 「……あの木箱。あれ、見覚えあるぞ」
 ユートが呟く。

 その箱には、見覚えのある、あの未登録の薬品が入っていた箱とそっくりな封蝋が押されていた。

 「やっぱり……クロード商会は、カーラムの“横流し拠点”だ」
 ノアが息を呑む。



 男たちは箱を荷車に積み込み、そのまま街の外へと向かっていく。

 「追うか?」
 バルトが低く訊く。

 ユートはほんの一瞬考えたが、首を振った。

 「いや、今はやめておこう。ここで尾行に気づかれたら逆に潰される可能性がある。今は証拠と行動パターンを掴むのが先だ」


---

【翌朝】

 ユートたちは、夜の出来事をまとめた報告書をノアが手書きし、王都本部の商会へ速達で送ることにした。

 「これで少なくとも、“未登録の薬品”と“クロード商会”の繋がりは明確になった」
 「王都に戻ったら、カーラム商会本体を――」

 そのとき。宿のドアがノックされた。

 「ユートさん、手紙が……王都からの速達です」
 宿の店主が封筒を手にして立っていた。


---
【宿の部屋・封筒を開けて】

 ユートは、届いた手紙の封を丁寧に切り開いた。中にはグレイス伯爵家の公印とともに、伯爵本人の筆跡と思われる端正な文字が並ぶ。


---

『ユート殿へ
 積荷に関する件で、王都商会本部にて重大な報告が上がりました。
 これに関して、君の関与が不可欠と判断し、至急の帰還をお願いする次第です。
 なお、この報は王都上層部の貴族間でも話題となっており、放置すれば更なる混乱を招きかねません。
 状況の説明と今後の対応について、直接話をしたく思います。
 君の信頼と行動力に期待しています。

        エドワード・フォン・グレイス』


---

 「……王都に戻るぞ。どうやら積荷の件、かなり根深くなってきたようだ」

 バルトが鞄を背負いながら言う。

 「商会レベルの不正どころじゃなさそうだな。貴族が動いてるってことは、下手すりゃ政治の話だ」

 「ティナ、ノア、準備は?」

 「はい」
 「……全部持った」


 一行は午前中のうちに馬車に乗り、王都への道を急いだ。
 途中、ユートは荷台で静かに考え込む。

 (あの薬――“奇跡の回復薬”と噂されるもの。もし俺が関与していると知れたら……)

 王都に着いた時、事態はすでに**“火種”から“火事”になっているかもしれない**。
 それでも、真実に向き合わねばならない。


---

【王都・伯爵邸】

 2日後、王都へ到着したユートたちは、ギルドを通じてグレイス伯爵邸へ呼び出される。

 応接室で伯爵が待っていた。

 「来てくれて感謝する。どうやら――“カーラム商会”と、王都のある貴族家が繋がっていた証拠が見つかったらしい」

 ユートの目が鋭くなる。


---
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