異世界転移して最強のおっさん……の隣に住んでいる。

モデル.S

文字の大きさ
112 / 114
第3章

和平

しおりを挟む
【影の谷・中立地】

 山々の影が落ちる深い谷――
 かつて魔族と人族が手を出さぬと取り決めた“中立の地”、影の谷。
 そこに今、人と魔族が向き合い、和平の場が開かれようとしていた。

 アストレアを代表するユート、ティナ、バルトが谷の中央へと歩を進める。
 霧の奥から姿を現したのは、黒き外套の魔族――グリモル。
 その周囲には数名の魔族の随伴者。だが、どれも武器を構えてはいない。

「よく来てくれた、ユート殿。アストレアを代表してくれたこと、感謝する」

「こちらも、話し合える魔族がいてくれて助かるよ。戦うより、こっちのほうがずっといい」

 互いに短くうなずき、円形に並べられた石座に腰を下ろす。
 周囲には軽い結界が張られ、周囲の気配は立ち入らせない。


 グリモルが石板を取り出し、盟約の草案を示した。

「我らはアストレアと不可侵の盟約を結びたい。
 物資の交換と、情報の共有。そして、魔王派の残党が暴走する際には、互いに連絡を取れる体制を築きたい」

「うん、それで異論はない。……こっちとしても、無用な衝突は避けたいし、協力できるところはするつもりだ」

 ティナとバルトも小さくうなずく。

 会談は順調に進み、互いの誠意と警戒が交錯しながらも、締結は滞りなく完了した。


---

 文書への魔力刻印を終えた後、ユートはふと視線を向ける。

「グリモル。……少し、個人的な話をしてもいいか?」

「構わない。なんだ?」

「“シュウ・トードー”って名前に、聞き覚えはあるか?」

 その名を出した瞬間、空気がわずかに揺れた。
 魔族の側近たちがざわつきそうになるのを、グリモルが手で制す。

「……知っている。というより――“一度だけ”会ったことがある」

「……そうか」

 ユートの声が落ち着いていたのは、どこか予想していたからだ。


「魔王が最終進軍を開始したとき、私は前線へ出ることを拒んだ。
 中立を掲げていた我が一族が直接戦うことは、内乱を招くからだ。
 その代わり、ひとりの男と接触を試みた」

 グリモルは、霧の向こうを見つめるように、静かに語る。

「彼は何も語らなかった。ただ、こちらが戦う意志がないことを伝えると、黙ってうなずいて去っていった。
 冷たい目をしていた。敵意というより……無関心に近い。
 そしてその後、魔王軍の先鋒部隊が蹂躙されたと聞いた。――彼一人によって、だ」

「……」

「それ以外は、私も詳しくは知らない。魔王を倒したのが彼であることも、後になって風の噂で知った。
 あのとき、あれほどの力を見たのは……後にも先にも、あの男だけだ」


 ユートは、しばらく沈黙していた。
 そして小さく息を吐いた。

「……そうか。そんだけ分かれば充分だ。ありがとう、グリモル」

「礼には及ばない。だが、あの男と似た雰囲気を――君から、少しだけ感じた。
 あれが“血”なのか、“運命”なのかは分からないが……君は彼とは、違う道を歩んでくれ」

「そうするよ。俺は、街を作りに来たんだからな」


 握手を交わし、会談は終了。
 影の谷を後にする頃には、朝の霧が少しずつ晴れ始めていた。

「おじさん……シュウ・トードー……。やっぱり、あんたすげぇ奴だったんだな」

 ぽつりと、誰に聞かせるでもなく呟いたユートの声は、澄んだ谷の風に吸い込まれていった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...