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第3章
和平
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【影の谷・中立地】
山々の影が落ちる深い谷――
かつて魔族と人族が手を出さぬと取り決めた“中立の地”、影の谷。
そこに今、人と魔族が向き合い、和平の場が開かれようとしていた。
アストレアを代表するユート、ティナ、バルトが谷の中央へと歩を進める。
霧の奥から姿を現したのは、黒き外套の魔族――グリモル。
その周囲には数名の魔族の随伴者。だが、どれも武器を構えてはいない。
「よく来てくれた、ユート殿。アストレアを代表してくれたこと、感謝する」
「こちらも、話し合える魔族がいてくれて助かるよ。戦うより、こっちのほうがずっといい」
互いに短くうなずき、円形に並べられた石座に腰を下ろす。
周囲には軽い結界が張られ、周囲の気配は立ち入らせない。
グリモルが石板を取り出し、盟約の草案を示した。
「我らはアストレアと不可侵の盟約を結びたい。
物資の交換と、情報の共有。そして、魔王派の残党が暴走する際には、互いに連絡を取れる体制を築きたい」
「うん、それで異論はない。……こっちとしても、無用な衝突は避けたいし、協力できるところはするつもりだ」
ティナとバルトも小さくうなずく。
会談は順調に進み、互いの誠意と警戒が交錯しながらも、締結は滞りなく完了した。
---
文書への魔力刻印を終えた後、ユートはふと視線を向ける。
「グリモル。……少し、個人的な話をしてもいいか?」
「構わない。なんだ?」
「“シュウ・トードー”って名前に、聞き覚えはあるか?」
その名を出した瞬間、空気がわずかに揺れた。
魔族の側近たちがざわつきそうになるのを、グリモルが手で制す。
「……知っている。というより――“一度だけ”会ったことがある」
「……そうか」
ユートの声が落ち着いていたのは、どこか予想していたからだ。
「魔王が最終進軍を開始したとき、私は前線へ出ることを拒んだ。
中立を掲げていた我が一族が直接戦うことは、内乱を招くからだ。
その代わり、ひとりの男と接触を試みた」
グリモルは、霧の向こうを見つめるように、静かに語る。
「彼は何も語らなかった。ただ、こちらが戦う意志がないことを伝えると、黙ってうなずいて去っていった。
冷たい目をしていた。敵意というより……無関心に近い。
そしてその後、魔王軍の先鋒部隊が蹂躙されたと聞いた。――彼一人によって、だ」
「……」
「それ以外は、私も詳しくは知らない。魔王を倒したのが彼であることも、後になって風の噂で知った。
あのとき、あれほどの力を見たのは……後にも先にも、あの男だけだ」
ユートは、しばらく沈黙していた。
そして小さく息を吐いた。
「……そうか。そんだけ分かれば充分だ。ありがとう、グリモル」
「礼には及ばない。だが、あの男と似た雰囲気を――君から、少しだけ感じた。
あれが“血”なのか、“運命”なのかは分からないが……君は彼とは、違う道を歩んでくれ」
「そうするよ。俺は、街を作りに来たんだからな」
握手を交わし、会談は終了。
影の谷を後にする頃には、朝の霧が少しずつ晴れ始めていた。
「おじさん……シュウ・トードー……。やっぱり、あんたすげぇ奴だったんだな」
ぽつりと、誰に聞かせるでもなく呟いたユートの声は、澄んだ谷の風に吸い込まれていった。
山々の影が落ちる深い谷――
かつて魔族と人族が手を出さぬと取り決めた“中立の地”、影の谷。
そこに今、人と魔族が向き合い、和平の場が開かれようとしていた。
アストレアを代表するユート、ティナ、バルトが谷の中央へと歩を進める。
霧の奥から姿を現したのは、黒き外套の魔族――グリモル。
その周囲には数名の魔族の随伴者。だが、どれも武器を構えてはいない。
「よく来てくれた、ユート殿。アストレアを代表してくれたこと、感謝する」
「こちらも、話し合える魔族がいてくれて助かるよ。戦うより、こっちのほうがずっといい」
互いに短くうなずき、円形に並べられた石座に腰を下ろす。
周囲には軽い結界が張られ、周囲の気配は立ち入らせない。
グリモルが石板を取り出し、盟約の草案を示した。
「我らはアストレアと不可侵の盟約を結びたい。
物資の交換と、情報の共有。そして、魔王派の残党が暴走する際には、互いに連絡を取れる体制を築きたい」
「うん、それで異論はない。……こっちとしても、無用な衝突は避けたいし、協力できるところはするつもりだ」
ティナとバルトも小さくうなずく。
会談は順調に進み、互いの誠意と警戒が交錯しながらも、締結は滞りなく完了した。
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文書への魔力刻印を終えた後、ユートはふと視線を向ける。
「グリモル。……少し、個人的な話をしてもいいか?」
「構わない。なんだ?」
「“シュウ・トードー”って名前に、聞き覚えはあるか?」
その名を出した瞬間、空気がわずかに揺れた。
魔族の側近たちがざわつきそうになるのを、グリモルが手で制す。
「……知っている。というより――“一度だけ”会ったことがある」
「……そうか」
ユートの声が落ち着いていたのは、どこか予想していたからだ。
「魔王が最終進軍を開始したとき、私は前線へ出ることを拒んだ。
中立を掲げていた我が一族が直接戦うことは、内乱を招くからだ。
その代わり、ひとりの男と接触を試みた」
グリモルは、霧の向こうを見つめるように、静かに語る。
「彼は何も語らなかった。ただ、こちらが戦う意志がないことを伝えると、黙ってうなずいて去っていった。
冷たい目をしていた。敵意というより……無関心に近い。
そしてその後、魔王軍の先鋒部隊が蹂躙されたと聞いた。――彼一人によって、だ」
「……」
「それ以外は、私も詳しくは知らない。魔王を倒したのが彼であることも、後になって風の噂で知った。
あのとき、あれほどの力を見たのは……後にも先にも、あの男だけだ」
ユートは、しばらく沈黙していた。
そして小さく息を吐いた。
「……そうか。そんだけ分かれば充分だ。ありがとう、グリモル」
「礼には及ばない。だが、あの男と似た雰囲気を――君から、少しだけ感じた。
あれが“血”なのか、“運命”なのかは分からないが……君は彼とは、違う道を歩んでくれ」
「そうするよ。俺は、街を作りに来たんだからな」
握手を交わし、会談は終了。
影の谷を後にする頃には、朝の霧が少しずつ晴れ始めていた。
「おじさん……シュウ・トードー……。やっぱり、あんたすげぇ奴だったんだな」
ぽつりと、誰に聞かせるでもなく呟いたユートの声は、澄んだ谷の風に吸い込まれていった。
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