スキル放出と神様落ちた。~異世界で始まる神様とチート旅。

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第1章

始めての依頼

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ギルドの受付嬢に案内されて、俺は街の外れにある民家へ向かった。
依頼は「老夫婦の荷物を市場まで運ぶ」ってやつ。

 

「よーし……これをこなせば、ようやく飯が食える……!」

「ふむ、人間とはかくも腹に忠実なのか」

「お前が言うな神(ニート)」

 

依頼主のおじいさんとおばあさんは優しくて、荷物は乾物とか野菜が詰まったカゴ2つ。
俺が両手で持って、街の中心にある市場まで運ぶだけ。

 

「うむ、簡単すぎて拍子抜けじゃの。まるで神訓練の準備体操……」

「黙って見てないで手伝えよミタマ!!」

 



 

……ところが。

帰り道、街と畑の間の路地を歩いていたときだった。

 

「ん? なんか……聞こえる」

草むらから、ガサガサと音。
俺が立ち止まると、そこから――

 

「キィィ……!」

 

小さい、でも牙のあるネズミみたいな魔物が飛び出してきた!

 

> 【魔物:スニークラット(小型魔獣・危険度E)】



 

「うおっ!? なにこれ!?」

「魔物じゃな。まぁ下等な個体よ。手加減してやるのじゃ」

「する前に倒せっての!!」

 

俺は慌てて手近な棒を拾って構えた。けど、足がすくんで動けない。
初めて見る“本物のモンスター”だ。ゲームと違ってリアルすぎる。

 

「くそ……! 来るな……!」

 

小さな体が突っ込んでくる。俺はとっさに、叫んだ。

 

「うわああああ!!!」
ボッ!

 

――その瞬間。

俺の手のひらから、何かが飛び出した。
光?エネルギー? よく分からない“衝撃波”のようなもの。

 

「キィィィィ!!?」

スニークラットが吹き飛ばされて、木にぶつかって気絶した。

 

「……な、なんだ今の……?」

「ふむ、見事な“放出”じゃな」

 

ミタマが後ろからのんびりと拍手しながら近づいてくる。

 

「おぬし、ようやく《放出》の第一歩を踏み出したようじゃな。
 まぁ中身は“びっくりしたときの魔力”ってとこじゃが」

「びっくり波動かよ……!」

 

けど、確かに。
手のひらがじんわり温かくて、さっき何かを“出した”感覚があった。

 

(スキル《放出》。使い方次第で、もしかして……!)

 

とはいえ、今はそれどころじゃない。
倒れたスニークラットをひとまず木陰に放置して、俺たちは急いで報告へ戻る。

 

そしてその夜――
俺は生まれて初めて、異世界で飯にありついた。

 

「うまっ……うまっ……!」

「うむ、食うがよい!わしの口座が空でも、おぬしの胃袋は満たされるのじゃ!」

「お前の口座どこにも存在してねぇよ!!」




翌日また依頼を受ける。

依頼帰りの夕暮れ時。
街の外れにある、人気のない草地。

 

「なあ、そろそろ本当に確認しとこうぜ」
「何をじゃ?」

「お前のスキルだよ。……今んとこ、なんもしてなくね?」

 

言ってるこっちも不安になる。
いくら元・神様とはいえ、ここまで“活躍ゼロ”だと、ただのローブ着た金髪のおっさんだ。

 

「ふっふっふ……ようやくわしの出番か」
ミタマは得意げに胸を張った。

「この下界での活動のために、わしの力――今こそ解放されるべき時!」

 

(今さら感すごいけど……とりあえず期待しとこう)

 

ミタマは天を仰ぎ、両手を掲げた。

「見よ……わしの神威――《天罰》!!」

 

ビシィッと決まるポーズ。

……しかし。

 

> 【神力不足により使用不可】
《天罰》は現在グレー表示中です



 

(※表示はミタマ本人にしか見えない)

 

「…………」

ミタマの表情がピクリとも動かない。沈黙。
俺は小声で尋ねる。

 

「……どうした? 何か出たか?」

「……うむ。問題はない。何も起きてないことが、神の計画の一環なのじゃ」

「ぜってぇウソだろそれ!!」

 

「こ、今度こそ本気じゃ! 《時空間転移》!!」
「《火魔法!》 《転移!!》 《天罰改!!》」

 

> 【神力/魔力不足】使用不可
すべてグレー表示中です



 

「なにその“改”って……技増やせば使えるようになるとか思ってんのかよ……」

 

結局――
神スキルと呼べるようなものは、何ひとつ使えなかった。

 

「くっ……なぜじゃ……わしの力、ここまで制限されておるとは……!」

 

その場に座り込んで、頭を抱えるミタマ。
今のステータスを開いて、眉間に深いしわを刻んでいた。

(※想真からは見えない)

> 【ミタマ・Lv1】
・鑑定
・採取
・筋力強化(小)
・耐久力(小)
・剣術Lv1
・槍術Lv1
※その他スキル:神力/魔力不足により使用不可(グレー表示)



 

「まさか……この世界に転移した時点で、わしの力が“初期化”されてしまったのか……?」

「……お前、自分でも理由わかってないの?」

「うむ、完全に謎じゃ」

「おい神ィィ!!」

 

「……だが、戦えぬわけではない!」
ミタマは急に立ち上がると、腰の後ろから短い木の棒を抜いた。

「わしには《剣術Lv1》《槍術Lv1》がある!」

 

「それ使ってんの、木の棒だけどな!!」

 

力の大半を失い、理由も分からず、しかも本人にしか“使えないこと”が分からない。
これが元・神の現状らしい。

 

だけど、少なくとも――

 

「多少は戦えそうなのは分かったわ」

「うむ。なにせ神じゃからな!Lv1のな!」

 


頼れるのか頼れないのか分からない“神様(?)”と、
地味すぎるスキル《放出》を持つ俺。

 

……こりゃしばらく、地道にやるしかなさそうだ。

 

翌朝。ギルドに戻った俺とミタマは、カウンターで受付嬢のお姉さんに声をかけられた。

 

「昨日の依頼、お疲れ様でした。無事完了ですね」

「はい、荷物も問題なく届けました」

「評判も良かったですよ。さっそくですが、次の依頼に挑戦してみませんか?」

 

お姉さんが提示した依頼書には、こう書かれていた。

> 【依頼No.58】
《畑の害獣討伐》
内容:近郊の畑を荒らす小型魔物《ビアラット》の駆除
報酬:銅貨10枚+野菜詰め合わせ
危険度:E+



 

「……あー、昨日のラットよりちょっと強そう?」

「だが食い物が出るのは魅力的じゃの!」

「お前が一番気にしてるのそこかよ」

 

報酬も大事だが、戦闘の練習になるのが一番ありがたい。
というわけで、即決で受けることにした。

 



 

依頼を受けてすぐ、街外れの畑に向かうと、農夫のおじさんが出迎えてくれた。

「いや~助かるよ。ここんとこ夜な夜な畑が荒らされててなぁ。
 昨日もビアラットの群れが作物食い荒らして逃げたんだわ」

「わかりました。任せてください」

「うむ! わしにかかればネズミなど草食神の朝飯前じゃ!」

「草食神てなに!?自分で神格下げてないか!?」

 

さっそく畑の周囲を警戒して歩くこと数十分。

 

「キィィ……」

草むらの奥から、昨日より一回り大きな黒い影――ビアラットが現れた!

 

「来たか……!」

 

二匹、三匹と次々に姿を現す。どうやら小規模な群れらしい。

 

「ミタマ、やれるか!?」

「任せい! いざ、神の剣術――Lv1!!」

 

ミタマは腰の木の棒を抜き――
流れるような足運びで一匹のラットに突進!

 

「はあっ!」

スパッ!

 

――き、決まってる!?
技が無駄に美しい……!

 

「……すげぇ、なんか絵になる動き……」

「当然じゃ。これでも天界武芸大会・銀メダルじゃからな!」

「金じゃないのかよ!!」

 

とはいえ、確かに強い。Lv1とはいえ、動きのキレは冒険者以上かもしれない。

 

「……よし、俺もやるぞ!」

 

俺は後ろから迫るラットに対して、手のひらを向けて叫ぶ。

「いけぇっ、《放出》!!」

 

ボフッ!

手から飛び出したのは、昨日より明らかに“力のこもった衝撃”。
ラットの体が押し返されて転倒――一撃では倒せなかったが、意識して出すことができた!

 

「……やった、狙って撃てた!」

「ほほう、おぬしの《放出》も成長しとるのう」

 

その後、なんとか全匹を倒し、畑を守りきった。

農夫のおじさんは感謝の言葉とともに、報酬の銅貨と野菜詰め合わせをくれた。

 

そしてギルドへの帰り道。

 

「……ちょっと、戦えてたな俺たち」

「うむ、チーム名でもつけるか?」

「なんでそうなる」

 

ポンコツ神と地味スキルの俺。
だけど、少しだけ――“冒険者っぽく”なってきた気がする。
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