森で若返った元45歳、神の御使いとして世界を救うことになりました

モデル.S

文字の大きさ
6 / 6
第1章

出会い

しおりを挟む
熊の魔物は、誠也の一撃で腕を裂かれながらも、その場に踏みとどまっていた。

血が滴り落ちる。
それでも巨体は揺らがない。
次の瞬間――
低く、腹の底から響くような咆哮が広場を震わせた。

「グォォオオオオオッ!!」

空気が震え、周囲の葉がばさりと揺れる。
誠也は剣を構えたまま、その巨体と向き合った。
傷は深い。
だが倒れる気配はない。
むしろ、怒りでさらに狂暴になったようだった。
その時だった。

背後から声が飛んできた。
鋼の鎧を着た男――先ほどまで熊を抑えていた男の一人だ。
他の騎士よりも体格がよく、立ち姿からして明らかに指揮官格だった。
男は誠也に向かって叫ぶ。

「♯♯♯♯♭♯♯♯♭♢?」

誠也は思わず眉をひそめた。

「……え?」

まったく意味が分からない。
何を言っているのか理解できない。
言葉が違う。
誠也は一瞬、困惑した。

(やっぱり……言葉が通じないのか)

そう思った、その瞬間だった。
頭の奥に、あの声が響いた。

《スキル『ギレール国語』を習得しました。》

誠也は思わず目を見開いた。

「え?」

突然のことに一瞬思考が止まる。
そんなスキルがあるのか。
だが次の瞬間、男の声が再び聞こえた。
今度は――はっきりと意味が分かった。

「お前は、どこの所属だと聞いている!」

誠也は一瞬ぽかんとした。
聞き取れる。
理解できる。
そして、口も自然に動く。

「あ、ああ……えっと……」

誠也は一瞬だけ言葉を探し、

「どこにも所属してない!」

と答えた。
どうやら本当に、言葉が通じるようになったらしい。
スキルのおかげだ。
だが、そんなことをゆっくり考える暇はなかった。
熊の魔物が再び動いた。
巨体が踏み込む。
地面が揺れる。
次の瞬間、誠也へ向けて鋭い爪が振り下ろされた。
誠也は瞬時に横へ跳ぶ。

巨大な爪が地面を抉った。
土と石が弾け飛ぶ。
熊は止まらない。
すぐさま二撃目。
横薙ぎの一撃。

誠也はさらに後ろへ飛び、距離を取る。
だが、その背後から鋼の鎧の男たちが動いた。
二人の騎士が、熊の後ろへ回り込む。
剣を振り上げる。

「今だ!」

刃が背中へ叩きつけられた。
だが。
熊は一瞬で振り向いた。

「グルォオッ!」

巨大な腕が横に薙がれる。
凄まじい速度だった。
騎士二人がとっさに剣を構える。
だが、力が違いすぎる。
金属がぶつかる重い音。
次の瞬間、二人の体が宙を舞った。
吹き飛ばされる。
地面を転がり、遠くまで滑っていく。
誠也は舌打ちした。

(こいつ……速い)

迷っている時間はない。
誠也は手を前にかざした。

「ファイアボール!」

炎の球が3つ生まれる。
それを同時に放つ。
火球が一直線に熊へ突っ込む。
熊は咆哮を上げながら腕を振った。
一発。
二発。
三発。
すべて片腕で叩き落とす。
爆発。
炎が弾ける。
だが、それで十分だった。

その腕が上がった瞬間――

誠也はすでに動いていた。

爆炎の影から飛び出す。
熊の視界は、腕と炎で遮られている。
完全な死角。
誠也は踏み込んだ。
剣を振り抜く。
刃が熊の首へ食い込んだ。
深い。
かなり深い。
熊の体が大きくよろめく。

「グォォォッ!!」

怒りの咆哮。
だが誠也は止まらない。
すぐさま体を回転させ、二撃目を放つ。
刃が肩へ入り込む。
骨の手応え。

そして――

左腕が切り飛んだ。

巨大な腕が地面に落ちる。
熊の巨体がぐらりと揺れた。
膝が折れる。
そのまま前のめりに倒れ込む。

誠也は一歩踏み込み、
剣を振り上げ熊の首へ、深く突き刺した。
刃が根元まで沈む。

熊の体がびくりと震え、
それきり動かなくなった。
広場に、静寂が落ちた。

誠也はゆっくりと剣を引き抜く。
血が滴る。
深く息を吐いた。

「……終わったな」

ようやく――
戦闘が終わった。


熊の巨体が完全に動かなくなったのを確認すると、誠也はゆっくりと息を吐いた。
体の奥に溜まっていた緊張が、ようやく抜けていく。

剣についた血を軽く振り払い、周囲を見回した。
そして、言葉を失う。
広場は――惨状だった。
地面には倒れた騎士の死体。
砕けた盾。
折れた剣。
踏み荒らされた草と、濃い血の匂い。
少し離れた場所では、魔法使いが震える手で杖を掲げていた。

「……ヒール……」

弱々しい光が怪我人を包む。
回復魔法だろう。
だが、すでに息のない者も多かった。
助けられなかった命。
誠也は胸の奥に重たいものを感じながら、静かに視線を落とした。

その時だった。

低く、よく通る声が響いた。

「怪我人を集めろ!」

先ほどまで熊と戦っていた鋼鎧の男――指揮官らしき人物だ。
男は冷静だった。
怒鳴るでもなく、焦るでもなく、短く的確に指示を出す。

「生きている者を優先だ。急げ。」

騎士たちが動き出す。
倒れた仲間を抱え、必死に運んでいく。

その男が、やがて誠也の方へ歩いてきた。
近くで見ると、かなりの迫力だった。
彫りの深い顔立ち。
ヨーロッパの騎士のような整った顔。
短く切り揃えたブロンドの髪。
顎には少し無精ヒゲ。
年齢は40前後だろうか。
戦場の空気に慣れきった男の顔だった。
男は誠也の前で立ち止まり、しばらくじっと見つめたあと――
ふっと口元を緩めた。

「ありがとう。助かった。」

そう言って、右手を差し出してくる。
誠也は一瞬戸惑ったが、その手を握った。
力強い手だった。

男はそのまま名乗る。

「俺は王国騎士団、副団長のガルドだ。」

そして少し首を傾ける。

「キミは?」

誠也は軽く頭をかいた。

「俺はセイヤ。ただの……旅人だ。」

ガルドは一瞬、目を細めた。
それから苦笑する。

「そうか、ただの旅人か。」

肩をすくめた。

「まあ、何でもいいが助かったよ。ありがとう。」

誠也も軽く手を振った。

「いや、気にしないでくれ。」

ガルドは背後の熊の死体を振り返った。
巨大な赤い魔物。
その首には、誠也の剣が残した深い傷が刻まれている。

「俺たちはな……」

ガルドは静かに言った。

「グランベアの亜種を退治しに来たんだ。」

少し苦い顔になる。

「だが、見ての通りだ。」

誠也は改めて熊の死体を見る。

(この熊……グランベアって言うのか。)

ガルドは続けた。

「普通のグランベアとは別物だった。異常な強さだ。」

少し自嘲気味に笑う。

「危うく全滅するところだった。」

誠也は頷いた。

「本当、強かったな。」

そして少し考えながら言う。

「森の奥にいた奴より強かったよ。」

その言葉に、ガルドの表情が固まった。

「……森の奥?」

ゆっくり誠也を見る。

「一人か?」

「ああ、そうだけど。」

「一人で他のグランベアを?」

「ああ。」

誠也は肩をすくめる。

「森を彷徨ってて、何体か倒したけど……。」

ガルドは黙り込んだ。
数秒。
ただ誠也を見つめている。
明らかに怪訝な顔だった。
誠也は首を傾げる。

「どうした?」

ガルドは視線を外した。

「……いや、何でもない。」

だがその目は、どこか納得していない。
少しだけ間を置き、ガルドは言った。

「あー……良かったらだが。」

広場の惨状を見渡す。

「遺体と怪我人を街まで運ぶのを手伝ってくれないか?」

誠也はすぐに頷いた。

「わかった。手伝うよ。」

「助かる。」

ガルドはすぐに振り返り、大きな声を出した。

「馬車を回せ!生存者を先に乗せろ!」

騎士たちが動き出す。
倒れた仲間を丁寧に運び、馬車へ乗せていく。
誠也も手伝った。
重い鎧の騎士を抱え、馬車へ運ぶ。
血に濡れた鎧はずっしりと重かった。

やがて、すべての遺体と怪我人が積み込まれた。
結果は――
酷いものだった。

生き残った騎士は7人。
魔法使いは2人。
そして、副団長のガルド。
それだけだった。

20人の討伐隊は、ほとんど壊滅していた。
馬車は二台。
重い空気の中、ゆっくりと動き出す。
誠也はその後ろを歩きながら、森の奥を振り返った。

深い森。
自分が一週間生き延びた場所。
だが――
今はもう、そこへ戻る理由はなかった。
馬車の車輪が、静かに軋む音を立てながら回り始めた。


森を抜けるまでの道のりは、決して静かなものではなかった。

血の匂い。

それが、この森では何よりも危険だった。
討伐隊の遺体を積んだ馬車は、ゆっくりと森の中を進む。
車輪がぬかるんだ地面を踏みしめ、重く軋む音を立てていた。
そして、その匂いに誘われるように――奴らは現れる。

狼の魔物だ。
茂みの奥から、赤い目がいくつも光る。

「来るぞ!」

騎士の一人が叫ぶ。
次の瞬間、狼が飛び出した。

だが誠也はすでに動いていた。
剣を抜く。

一歩踏み込み、横薙ぎに振り抜く。
刃が狼の首を裂き、そのまま地面へ叩きつけた。
すぐに次の狼が飛びかかる。
誠也は手をかざした。

「ファイアボール」

火球が狼の顔面に直撃し、爆ぜる。
炎と衝撃で、狼の体が転がった。
その間にも、別の狼が馬車へ迫る。
だがそこへ鋼の鎧の男が立ちはだかった。
ガルドだ。
大剣が振り下ろされる。
重い一撃。
狼の体が真っ二つに裂けた。
もう一人の騎士も盾を構え、馬車の横を守る。

「近づけるな!」

騎士たちは必死だった。
だが――主に狼を仕留めているのは誠也だった。
剣。
魔法。
その両方で、次々と狼を斬り伏せていく。
何度か襲撃を受けたが、馬車は止まらない。
そして――
やがて森の空気が変わった。
木々が途切れる。
視界が一気に開けた。

「……出た」

誠也は思わず呟いた。
森の外だった。
目の前には広い草原が広がっている。
青空。
風が草を揺らす。
そして地面には、整然と並んだ石畳の道が伸びていた。
街道だ。
誠也は思わず大きく息を吐いた。
胸の奥に溜まっていた緊張が、一気にほどける。

「……はぁ」

ようやく。
ようやく森を抜けた。
馬車はそのまま街道を進み始める。
誠也は荷台に腰を下ろした。
体が軽い。
背負子を降ろし、中を覗く。
果実が残っていた。
オレンジ色の実。
この一週間、自分の命を繋いできたものだ。
誠也は一つ取り出すと、かじった。
甘い果汁が口に広がる。

「……うまい」

そう呟いたあと、ふと周囲を見た。
騎士たちは皆、疲れきっていた。
鎧は血に汚れ、顔には疲労が浮かんでいる。
誠也は背負子を抱え上げた。

「ほら、食べるか?」

騎士たちへ果実を差し出す。

「森で取れたやつだけど。」

騎士たちは一瞬顔を見合わせた。
だが一人が遠慮がちに受け取る。

「……いただきます」

かじる。
そして目を見開いた。

「うまっ……!」

他の騎士たちも次々に果実を受け取る。
疲れた体に染みるのだろう。
皆、驚くほどの勢いで食べていた。
誠也は残りを数えた。
あと五個。

「……まあ、ここまで持っただけでも十分だな」

森の外へ出られた。
もう必要ない。
その時、ガルドが果実を食べ終えた。
そして誠也をじっと見た。

「……こ、これは……」

妙に真剣な顔だった。

「俺らが食べて良かったのか?」

誠也は首を傾げた。

「ん?もう森を脱出できたから、いらないよ。」

ガルドは少しだけ黙り込み――

「……そうか」

と呟いた。

「ありがとう」

その声はどこか慎重だった。
誠也は少し首を傾げる。

(なんだ?)

妙な態度だ。
だが深く考えるほどでもない。
変な果物だったのかもしれない。
誠也は気にしないことにした。

馬車はそのまま街道を進む。
草原を抜け、丘を越える。

そして――
二時間ほど進んだ頃だった。
遠くに、巨大な影が見えた。
誠也は思わず身を乗り出した。

「……おお」

それは――
街だった。
巨大な城壁。
灰色の石で作られた高い壁が、街全体をぐるりと囲んでいる。
門の上には見張りの塔。
さらにその奥。
街の中心には――
白い城がそびえ立っていた。
塔が空へ突き刺さるように伸びている。
まるで映画の世界だった。
誠也は目を輝かせた。

「おおー……」

思わず声が漏れる。

「すげぇー」

ガルドが横から笑う。

「初めてなのか?」

誠也は頷いた。

「ああ。初めて見る。」

ガルドは腕を組み、城壁を見上げた。

「ここがギレール王国の王都――クルフトだ。」

誠也はもう一度その巨大な街を見た。
城壁。
塔。
石造りの街並み。
すべてが、自分の知っている世界とは違う。

「……へぇ」

誠也は感心したように言った。

「デカいな。」

馬車はそのまま、王都クルフトの門へ向かって進んでいった。
こうして誠也は――
ついに、初めての街へと辿り着いた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

処理中です...