《異世界工房録》~魔法と技術で世界を変える二人~

モデル.S

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第一章

日常生活

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屋敷に朝の光が差し込む頃、使用人マリアはキッチンでパンを焼いていた。
 香ばしい匂いが廊下を通り、ダイニングまで届く。

 「……あ、今日のはクルミ入り?」

 まだ寝ぼけ眼のレイアが椅子に腰を下ろしながら、パン籠を覗き込む。

 「ええ、昨夜リュウイチ様が“ナッツってなんか強そうだよな”と仰ったので」

 「……あの人、語感だけでメニュー決めるのやめた方がいいと思う」


---

 数分後、サイガとリュウイチがほぼ同時に現れた。
 サイガは白衣に羽織るようなカーディガンを着て、眠そうにあくびをし、
 リュウイチは髪を後ろに結びながら、片手でトーストをかじっていた。

 「今日こそ風魔法で風呂場乾かせるようにするわよ。昨日、蒸気で余計に湿ったし……」

 「なんかもうそれ、魔法の使い方違くね?」

 「便利こそ正義。私は生活魔法使いとしても成り上がるの」


---

 朝食後、サイガは庭の一角を陣取って試作003の組み立てに取りかかっていた。
 金属パーツのはめ込みをしながら、ふと屋敷の縁側を見る。

 そこではレイアが洗濯物を干しており、
 風の魔法で衣を優しく揺らしていた。

 「……今の風、いい。制御幅が広がってる」

 サイガが自然と口に出すと、レイアは振り返らずに手だけひらひらと振った。

 「そう言ってもらえると嬉しいけど……制御ミスったら全部吹き飛ぶからね」


---

 その頃、リュウイチは屋敷裏の井戸のそばで、丸太を使った筋力トレーニングをしていた。
 上半身裸で汗を流しながら、腹筋をしつつ声を張る。

 「はーちじゅうさん! はーちじゅうよん!!」

 「うるさい」とサイガが小声で呟く。


---

 昼前、三人は街へ出ることになった。

 「たまには外で昼食もいいじゃない」とレイアが言い出し、
 サイガは部品の補充、リュウイチは訓練用品を見に行くついでだった。


---

 街の商店街には、活気が戻っていた。
 冒険者たちの噂話や、旅の商人たちが広場で演説する声。
 屋台からは揚げたての魚と香辛料の香り。

 「この街……あの日からちゃんと動いてるんだな」

 リュウイチがぼそりと呟いた。

 「当たり前よ。生きるって、戦うだけじゃない」


---

 三人は小さな木造の食堂に入り、カウンターで昼食を取った。

 「今日のおすすめは、“炙り獣肉とキャベツのスパイス焼き”だそうです」

 マリアがいれば泣いて止めていたかもしれない味の濃さだったが、
 リュウイチは最高に満足そうだった。

 「うめぇ……俺、こういうの食ってるときが一番強い気がする」

 「味覚でバフがかかる男……斬新ね」


---

 帰り道、レイアがふと立ち止まる。

 「サイガ、あの魔導具屋……寄ってもいい?」

 「構わないけど。何か目当てでも?」

 「……お揃いの小道具とか、試してみたいなって。
 私の魔法に合わせて、放出の制御ができる杖頭があったら、面白いと思う」

 「それ、ちょっとワクワクするな。オーダーメイドの複合式……後で設計案くれ」


---

 夕方、屋敷に戻った頃には空がオレンジに染まり始めていた。

 マリアがテーブルに紅茶とシナモン入りの焼き菓子を並べると、
 三人は誰からともなくソファに座り、背中を預ける。

 「疲れたー……街の人、なんか元気で……ちょっと圧倒された」

 「でもいい気分転換になったわ」

 「戦うだけが“冒険者”じゃねえからな。
 ……明日になれば、また何があるか分かんねえし」


---

 リュウイチの言葉に、静かにうなずく二人。
 戦いのない一日は、それだけで意味がある。

 だからこそ、誰にも壊されたくない。


---

 こうして、一日は穏やかに過ぎていく。
 静かに。温かく。確かに。
 この世界で“生きている”ことを実感するように。


---
午後。屋敷の玄関をノックする音が響き、使用人マリアが静かに扉を開けると、そこにはアンナが立っていた。

 「こんにちは。また来ちゃった。……父が、あなたたちに会いたいって」

 顔は穏やかだが、少しだけ緊張の色が見える。
 それを察して、サイガもすぐに表情を引き締めた。


---

 馬車に揺られながら、リュウイチがぽつりと口を開く。

 「今回のは……“あれ”の件だろ?」

 「“誰でも火球を撃てる”魔導具。術式内蔵型……試作001」

 サイガが呟くように言った。

 今では、“魔法の素質がなくても、特定の動作と魔力水晶だけで火球が撃てる”というその魔導具が、
 街の訓練場や冒険者の間でちょっとした話題になっていた。

 冒険者だけではない。兵士、商人、街の子どもたちまで――。

 魔法という“限られた力”を、誰もが扱えるようにする。
 それがどれほどの意味を持つのか、サイガ自身が一番よく分かっていた。


---

 フォルトス領の館。
 応接室に通された三人の前に現れたのは、領主フォルトス伯爵。

 威厳ある顔立ちの中に、明確な関心と“熱”を含んだまなざしがあった。


 「サイガ殿。先日の“火球を放つ魔導具”、拝見させてもらった」

 「……はい。あれは、術式を内蔵した“魔法行使補助具”です。
 素質のない者でも、規定魔力を流せば起動できるように調整してあります」


 「その魔導具――“火球発射器”とも言うべきものは、戦闘兵の装備、守備隊の武器、さらには街防衛の要にもなり得る。
 私としては、これを我が領内で独占製造したい」

 伯爵は静かに続けた。

 「もちろん、製造費用、工房設置、技術者の確保など全て我が領で支援する。
 利益配分は、“発案者である貴殿らに五割”――前回よりもさらに好条件だ」


 「……ありがとうございます」

 サイガは丁寧に頭を下げた後、ゆっくり言葉を続けた。

 「ただ、私たちは技術を“兵器”として独占的に使われることを避けたいと考えています。
 あの道具は、本来“護身”や“危機回避”のために開発したものです。
 流通そのものを止めるつもりはありませんが、使い方には慎重でありたい」


 伯爵はしばらく無言でサイガを見つめ――そして微かに笑った。

 「……それでこそ、任せるに値する技術者だ。
 ならば、“軍用には用途制限をかける”という条件で話を進めよう。
 製造範囲も、“この領内に限って小規模から”始めればいい」

 レイアが小さく囁く。

 「これは……“火球を撃てる世界”の始まりなのかもね」

 リュウイチが頷く。

 「魔法を持たない人間が、“火を撃つ”。
 誰が撃てるかじゃなく、“誰が撃つべきか”の時代になるかもな」


---

 帰り道。馬車の中、サイガは腕を組みながらぽつりと漏らした。

 「……力を広めれば、人を救える。でも、同時に――誰かがそれを“奪おうとする”」

 「だからこそ、止まらず、見て、選び続けるのよ」

 レイアの声は、静かで強かった。


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