《異世界工房録》~魔法と技術で世界を変える二人~

モデル.S

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第一章

依頼

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ギルドの掲示板には、E・Dランクの雑用や小規模討伐とは明らかに違う――
 “責任ある依頼”が並んでいた。

 「さて、そろそろ“真面目な任務”ってやつに挑むか」

 リュウイチが掲示板を眺めながら言うと、サイガが小声で続けた。

 「実験条件も整えておきたい。“反撃盾”と“火球魔導具”の実戦適応試験も兼ねるなら、
 ある程度“攻撃性の高い魔物”が出る場所がいい」


---

 そこに、ギルド受付の女性が声をかけてきた。

 「お三方、Cランク認定後初の依頼ですね。
 こちらはいかがでしょう?」


---

【依頼名】
腐れ谷の魔物掃討と薬草採取の護衛

【依頼内容】
谷間に生息する毒性持ちの魔物“バグトード”の巣周辺を掃討し、
同時に薬草採取班の護衛を行う。

【想定敵性】
・バグトード(毒液と粘液を飛ばす中型魔物)
・ガススライム(魔力反応に引き寄せられる)
・2~4体で行動。地形が狭く足場が悪い。

【報酬】
金貨6枚+成果報酬


---

 「……実験にちょうどいい」

 サイガが言った。

 「狭い地形、複数相手。味方への誤爆を避けながら火力を制御するにはいいテスト環境だ」

 「毒持ち魔物相手に“反撃盾”がどこまで通じるかも見れるわ」

 「俺も、“連撃と防御の連携”を調整するつもりだったしな。
 行くか――初の“C依頼”ってやつに!」


---

 その日の午後、三人は必要な道具と装備を整え、
 数名の採取班と共に“腐れ谷”へと向かった。

 道中、サイガは自作の反撃盾・試作004と、火球魔導具の新型を調整していた。

 「新型の“火球ユニットβ”は、魔力消費を半分にして出力は維持してる。
 ただし連射はまだ厳しいから、二発撃ったら強制冷却が必要だ」

 「じゃあ俺が前に出て、動きを止めたタイミングで撃てるように誘導する。
 いつも通り、“俺が斬って、あんたらが燃やす”。それでいこうぜ」

 「私は……試作中の“風封陣”を使ってみたい。動きを鈍らせた上で火を浴びせるわ」


---

 こうして、初のCランク任務は
 “実戦と検証”を兼ねた、彼ららしい一歩として幕を開けるのだった。


---

湿った風が吹き抜ける谷間。地面はぬかるみ、そこかしこに腐葉土の匂いと、黄色く濁った水たまりが点在していた。

 「ここが……腐れ谷か」

 リュウイチは剣を背に回し、谷底を見下ろした。
 ぬめるような熱気。遠くから聞こえる水音に、どこか嫌な予感がまとわりつく。

 「魔力、感じる。近くにいるわ」

 レイアが杖を構え、視線を低くする。

 谷の左右を挟む崖は急で、戦えるスペースは細く、せいぜい幅三メートル。
 採取班はその後方に待機しており、ここを突破されれば支援不能になる。


---

 「来た!」

 サイガの魔力感知ユニットが警告音を放つ。

 ぬかるんだ水の中から、四つ足の異形の魔物が姿を現した。
 背中に膿のような袋を背負い、口元から紫色の液体を滴らせている――バグトード。

 「二体……いや、後ろにスライムも来てる!」


---

 「リュウイチ、前出る!」

 レイアの指示と同時に、リュウイチが跳躍。
 ぬかるみを一歩で超え、バグトードの前に躍り出る。

 「うおらあっ!」

 剣がうなりを上げて振り下ろされ、バグトードの肩口に食い込んだ。
 ぶよついた肉が裂け、粘液が飛び散る。

 その直後、バグトードが口を開いた。

 ベチャッ!

 毒液が霧状に噴射される――!


---

 「反撃盾、起動――!」

 サイガが叫び、リュウイチの背に向けて投擲した腕輪型の魔導具が起動する。
 淡く青い障壁が一瞬だけ発光し、毒霧を正面で受け止め――

 ビシュゥッ!!

 霧が左右に分散され、後方には一切届かない。

 「セーフ。分散成功、遮断率……ほぼ100%!」

 「今よ!」

 レイアの声と同時に、彼女の掌から風の刃が走る。
 《ウィンドスライス》がバグトードの脚を切り裂き、膝が崩れたところに――

 「燃えろっ!」

 火球魔導具を構えたサイガが引き金を引く。
 術式内蔵型の火球が、一直線に膿袋めがけて飛ぶ。

 ボゴォォッ!!

 爆発とともに、膿袋が破裂し、毒液が周囲に飛散――だが、リュウイチはすでに後ろへ下がり、被害はゼロ。


 「まだ来るぞ!」

 ぬかるみの奥、揺れるように這いずってくるのは――ガススライム。
 淡く発光しながら、一定間隔で膨張・収縮を繰り返している。

 「距離を取って、火力で一気に!」


 リュウイチが跳び退き、レイアとサイガが同時に詠唱と起動。

 「風陣、発動――!」

 「ユニットチャージ、火球二連装――射出!」

 レイアの風が前方に展開し、スライムの進行を止める。
 そこに、サイガの連続火球が叩き込まれた。

 ドンッ! ドンッ!

 第一発で膜が破れ、第二発で内部の核が燃え上がる。


 「沈黙確認! 殲滅完了!」

 静寂が戻った谷に、サイガの声が響く。

 レイアは杖を下ろし、リュウイチは肩で息をしながら剣を鞘に戻した。

 「火球、実戦投入完了。反撃盾も毒液に対して有効。
 今回のデータ、全部記録できてる」

 サイガが胸元の記録水晶を指で叩きながら微笑んだ。

 「……やっぱりすげぇな、お前の道具」

 リュウイチが苦笑交じりに言った。

 「俺が突っ込んでも、あんたらが後ろで全部“守ってくれる”。
 こんなに戦いやすいのは初めてだぜ」

 「もう“魔導具なしの冒険”には戻れないかもね」

 レイアが冗談交じりにそう言うと、三人は自然と笑った。


 だがその笑いの裏で、サイガは一つの思いを抱えていた。

 ――この力が、いつか“誰かの命を奪う”道具になるとしたら。
 今のうちに、使い方と限界と、その“責任”を知っておかなければならない。


 腐れ谷の空は、湿った風の中で静かに揺れていた。


---
腐れ谷の戦闘を終えた後も、任務は続いていた。

 背後で採取を行っていた薬草班が、谷の奥の高台に生える希少種――**“オロル草”**の採取に成功したとの報が入り、三人は護衛として谷の斜面を見張っていた。


---

 「ここまで来れば、襲ってくる魔物もほぼ掃討したはずだが……」

 サイガが魔力感知ユニットを操作しながら呟く。
 画面には安定した魔力分布が表示されている。

 リュウイチは剣の手入れをしながら、少し緩んだ声で言った。

 「つーか、これが“Cランクの依頼”なら、BとかAはどんだけヤバいんだよ……」

 レイアが微笑しながら言う。

 「大丈夫。あなたの後ろには、反撃盾と火球魔導具があるから」

 「……心強いが、心配でもあるわ」


---

 夕刻、任務完了の報告を携え、三人は街へと戻った。

 ギルドでの受付は、今回の活躍をすでに耳にしていたらしく、冒険者数名が彼らに視線を向けていた。

 「お疲れさまでした! 無事の帰還、報告受けています。腐れ谷の掃討、完全成功ですね!」

 受付嬢の明るい声とともに、報酬袋が手渡された。


 だが、受付の女性は小声で、サイガへ封筒を差し出す。

 「……こちら、王都の“術式管理会”から届いたものです。技術開発者として、貴殿に招待が」

 封筒は黒い封蝋で閉じられ、紋章には術式を象る円環と双翼が刻まれていた。


 「術式管理会……ってことは、王都が“魔導具”の噂を本格的に掴んだってことか」

 サイガが封を見つめながら、わずかに眉を寄せる。

 「このまま“火球を撃てる道具”が世に広まれば、軍だけじゃなく、
 商人や盗賊、果ては政争の道具にさえなり得る」


 「どうするの?」

 レイアの問いに、サイガは少しだけ考えた末、答えた。

 「行くさ。技術者として、“どういう連中が手を伸ばしてくるのか”をこの目で確かめる必要がある。
 それに、もしこの技術を“正しく使いたい者たち”がいるなら――その道も作ってやりたい」


 「じゃあ俺たちも同行だな。
 お前だけ王都行って、変な連中に囲まれて“おとなしい技術者”なんて言われても、目覚め悪いしな」

 「ええ。あたし、王都って行ったことないし。
 ……でもなんか、これが“次の物語の始まり”って気がする」



 かくして――

 腐れ谷の戦闘は、彼らの技術が“社会に触れる”最初の火種となった。

 届いた一通の招待状が、静かに彼らを次なる舞台へと導いていく。


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