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第1章
学園にて
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ラステル学園・会議室。
カイルと健人たちは、午後の陽光差し込む中、静かな気配に包まれた一室へと案内された。
すでに一人の青年が椅子に腰かけていた。
整った顔立ちと落ち着いた雰囲気、淡く笑う口元――だが、どこか「鋭さ」を感じさせる男だった。
---
「こちらが……レオン=シュタイン子爵家の次男です」
カイルが簡潔に紹介した。
ティナとリュカは、少し緊張した面持ちで小さく頭を下げた。
(ティナ)「……なんか、貴族のオーラがすごい……」
(リュカ)「ん? どこぞの家なんだ? 名前は聞いたことないな……」
――2人は、レオンの素性についてこの時点では何も知らなかった。
---
そのときだった。
レオンの視線が健人に向けられる。
そして健人もまた、その顔を見て――わずかに、時が止まったような錯覚を覚えた。
(……この顔……まさか)
滅びの五日前、魔法国の崩壊寸前の研究施設。
魔力暴走の中心地に倒れていた研究員。
――目の前のこの男は、未来で出会った“あの研究員”と瓜二つだった。
---
だが健人は表情を崩さず、
「ケントです。よろしく」とだけ、落ち着いた声で答えた。
レオンは微笑んだまま、「こちらこそ、光栄です」と返し、会談は始まる。
---
会議室を後にした後、ティナがポツリとつぶやいた。
「すごく……“できる人”って感じだったね。雰囲気からして違う」
「確かに。オーラっていうか、隙がねぇ感じだったな。あいつ、何者なんだ?」
そこでカイルが小さく苦笑しながら言った。
「レオン=シュタイン。子爵家の次男。
学園でもずば抜けて優秀で、魔導科と戦術科の両方でトップの成績。
それに、卒業後の進路ももう内定してるって噂だよ。
“新しい魔法エネルギー開発の国家事業に関わる”らしい」
---
(――やはり、そうか)
健人は心の中でそっとつぶやく。
(未来で、あの施設にいたのは偶然じゃない。
レオンはこの時点で、すでに“あのプロジェクト”に近づきつつある……)
だが、彼はその想いを――誰にも語らず、胸の奥に仕舞い込んだ。
---
何も知らぬ2人。
そして、すべてを知る男。
交差する運命は、まだ静かに眠ったまま――。
---
「まずは、魔石の採取量を稼ぐこと。
ただし質も評価に加味される以上、雑な討伐は逆効果だ」
ラステル学園の一室。
カイルの声が静かに響く中、健人、リュカ、ティナの三人は簡易地図を囲んでいた。
---
魔石競技演習。
明日行われる勝負の舞台は、学園南方にある“リセルの森”――
かつて小規模ダンジョン跡があったとされる、魔力濃度の高い地域だ。
---
「……つまり、量を狙うには小型魔物、質を狙うには中型クラス以上。
バランスよく狩っていく必要があるってことだな」
リュカが地図を指さしながら確認する。
「はい、しかも魔物の討伐痕をきれいに残して、魔石を損傷しないように取り出す技術も重要です」
ティナが補足するように言った。
---
「僕は……正直、まだあいつに勝てるとは思ってない。
けど、挑む以上は全力を尽くす。君たちとなら、それができるって信じてるんだ」
カイルの表情は、以前よりずっと凛としていた。
健人は短く頷いた。
「勝てるさ。あんたは、ちゃんと“成長してる”。その力を、俺たちが引き出すだけだ」
---
その夜、健人は宿の屋上で一人、夜風に当たっていた。
空には二つの月が昇り、森の影がゆらめく。
(……レオン)
彼の顔が思い浮かぶ。
未来では“研究員”。
だが今は、ただの優秀な学生。
(この勝負で何かが変わるとは思っていない。
でも――この時代の彼を、見ておきたい)
(そして……いずれその“進路”が現実になるのなら、俺は――)
---
翌朝。
リセルの森、試合開始の広場。
レオンとその護衛チームがすでに整列していた。
「ふふ、来たか。今日こそ、お互いの実力がはっきりするな」
「ふん、こっちは準備万端だ。覚悟しておけ、レオン」
カイルが気迫を込めて返す。
その背後には、健人たちの安定した存在感が光っていた。
---
主催の教員が声を上げる。
「では――“魔石競技演習”、開始!」
鐘の音が響き、勝負が始まった。
リセルの森。
魔石競技演習――開始から一時間。
「このまま行けば、まず数ではこっちが上だな」
リュカが手にした布袋を揺らすと、複数の魔石がシャラリと音を立てた。
「質も悪くありません。中位魔獣から取れたものですし……」
ティナが丁寧に魔石の鑑定を進めながら頷く。
カイルは肩で息をしながらも、笑みを浮かべた。
「ありがとう、君たちのおかげでリズムがつかめてきた。……このまま押し切れるかも」
---
その時だった。
「……っ、あれ……?」
ティナが違和感に気づいた。
「急に魔物の出現が減ってる……? さっきまで定期的に反応があったのに」
健人も森の魔力を感じながら、僅かな異変に目を細めた。
「周辺の“気配そのもの”が薄くなってる。まるで、先回りされて狩られてるみたいだ」
---
そして――
崖の上から、姿を現したのはレオンのパーティ。
静かに微笑みながら、レオンは手を振った。
「やあ。どうやら僕たちの方が、一歩先を行っていたようだね」
---
カイルが驚きの声を上げる。
「まさか……お前、魔物の群れの“行動ルート”を事前に読んで――」
レオンは答えるように語った。
「この森には、魔物の“循環ルート”がある。
移動・出没パターンを記録しておけば、事前に魔物の集中エリアを潰しておける。
もちろん合法だよ。“狩ること”に規定はあるが、“情報活用”に制限はない」
---
「つまり……全部“潰してから”移動してたってわけか……!」
リュカが悔しげに拳を握る。
健人は何も言わなかった。
ただ、静かにレオンの目を見返していた。
(やるな……。
戦うだけじゃなく、競技として勝つための最善手を選び続けてる)
---
「さて……こっちは“次の群れの発生域”に向かうよ。
のんびりしてると、狩場は全部こっちがもらうことになるかもね」
そう言って、レオンたちは風のように森の奥へ消えていった。
---
数では追いつかれ、質でも不利になりつつある状況。
けれど――健人の目に焦りはなかった。
「レオンの戦い方は、たしかに見事だ。だが――“狩りのすべて”じゃない」
「ケント……?」
「ここからは“読み合い”だ。狩るだけじゃなく、誘い、仕掛ける。
相手が“読みきった”と思ってるなら、逆にその裏を突ける」
---
「ケント……何か考えがあるんだろ?」
リュカが問いかけると、健人はわずかに口角を上げた。
「レオンたちが“魔物の行動ルート”を読んで先回りしているなら――
俺たちは“魔物の群れそのもの”をこちらに誘導すればいい」
---
健人は森の地図を再確認する。
「魔物の休息地は、森の東側の斜面。だが、その奥――沼地に近い区域には、
一種の“縄張り境界”が存在するはずだ」
「縄張りの……境界?」
ティナが首を傾げると、健人が指で地図の斜線部分をなぞった。
「中型の捕食種――たとえば“ファング・バイパー”の領域だ。
そこに低位魔物の群れを意図的に追い込めば、“狩られる直前”に魔石ごと狩ることができる」
---
「やるじゃねぇか……。獲物を“他の魔物から守って回収”か。
しかも、群れごと誘導すりゃ、一気に数も稼げる」
リュカがにやりと笑い、ティナも拳を握る。
「誘導の魔法、任せてください!」
---
作戦開始。
ティナは《ウィンド・チャーム》で森に魔力の“微風の誘導線”を引き、
リュカが小型魔物にわざと気づかせる形で走り回る。
群れが、ぞろぞろと動き始めた――。
そして、それを正面から迎え撃つのが、健人だった。
---
「――来い」
木々の間から姿を現したのは、牙を鳴らす十数体の“スレイブ・ウルフ”の群れ。
健人は剣を抜かず、右手を軽く振る。
**シュン――**と空気を切り裂く音。
直後、群れのうち先頭の2体が“何かに蹴られたように”地に沈んだ。
(最小の力で、急所だけ)
次々に倒れる狼たち――魔石だけが鮮やかに残された。
---
そして、その奥にはすでに“捕食者”が潜んでいた。
ファング・バイパー。
だが、群れが到着する前に、健人が一瞬で地面を滑り込む。
「ティナ、今!」
「《フレイム・スティッチ!》!」
炎の糸がバイパーの動きを封じ、リュカがその隙を斬る。
全員が役割を果たし、わずか数分で群れ全体の魔石を“高品質のまま”回収した。
---
それは、明らかにレオンたちの“狩りルート”を上回る一撃だった。
---
「……まさか、この群れをまとめて倒すなんて……!」
観察地点から遠巻きに見ていたレオンが、初めてわずかに眉を動かす。
「誘導、分断、確殺……魔物の動きを“作った”のか。
ふふ……なるほど。こちらが読みきったと思った瞬間に、裏を突く――
それが君の戦い方か、ケント」
---
日が傾き始める頃。
両チームの戦果は拮抗していた。
レオンは静かに呟く。
「やっぱり、君には何かがある。
――このまま終わるには、惜しい相手だな」
---
日が西に傾き、森の影が長く伸び始める。
競技終了まで残り一時間――
その時、森の西端――古びた洞窟から異質な魔力の揺れが発せられた。
「この反応……明らかに大型個体。魔石の“質”は確実に高いはずだ」
健人が魔力の流れを読むと、リュカも険しい顔で頷く。
「他の群れとは動きが違う。おそらく“上位個体”。たぶん、この競技の中で唯一のBランク級魔物だな」
---
一方、同じ魔力の揺れを察知していたのはレオンたちも同じだった。
「……どうやら、最後の一撃は“あれ”だな」
「どうする? あの相手も来るかもしれない」
レオンは静かに笑った。
「来るだろう。……だからこそ、迎え撃つ意味がある」
---
健人たちが洞窟に到着すると、そこに――既にレオンたちの姿があった。
「やあ、やっぱり来たか。最後は“君たちと正面でぶつかりたい”と思っていた」
「……偶然だな。こっちも、“ちょうど最後の一撃が欲しかった”ところだ」
健人が歩み寄り、二人の距離が縮まる。
その瞬間、洞窟の奥から、低く唸るような音が響いた――
---
姿を現したのは、“ダスク・ミノタウロス”。
全長3メートル、片腕に巨大な斧を持ち、
その肌は灰色がかった黒――魔力の瘴気を纏った、夜に紛れる戦鬼。
「くっ……マジかよ。あれはBランクの上位個体じゃねぇか……!」
「魔石の質は……最高レベル。間違いないわ」
---
「よし、ここは“合同戦闘”といこうか」
レオンが声を上げた。
「それで、討伐後に魔石を巡ってまた競うつもりか?」
健人が目を細めて問うと、レオンはわずかに笑って――こう返した。
「ふふ、それもまた一興だ。君と、“本物の実戦”で組めるなら」
---
こうして、二組のチームは一時共闘することとなった。
健人とレオン――並び立つ二人の剣士が、ミノタウロスの前に立つ。
---
ズガァアッ!!
ミノタウロスの斧が地面を裂く。
直撃すれば一撃で人間は肉塊だ。
だが、健人が刃をかわしながら横へ滑ると、
その隙にレオンが魔法を詠唱する。
「《ブレイズ・エッジ》!」
魔力の炎が剣を包み、獣の左脚を切り裂く。
---
ティナとリュカは後方から支援と妨害。
レオンの護衛も次々に連携して、攻撃を繋げていく。
そして――
「今だ、ケント!」
カイルの叫びと共に、健人が一瞬の隙を突く。
剣を回し、ミノタウロスの脇腹へ――
ズガッッ!!
衝撃と共に、魔獣の巨体が崩れ落ちる。
---
残されたのは、黒く濃密な魔石――
大きさ、濁りの少なさ、純度――全てが競技最高評価級の逸品だった。
---
「……これで、決着だな」
レオンは剣を納め、健人の方を見て静かに言った。
「君はやっぱり……何かを“超えてる”。戦っていて、そう感じた」
「……お前もな。まだ“学生”とは思えない動きだった」
健人もまた、心からそう思っていた。
---
その後、魔石を分け合い、双方とも納得した形で勝負は終了。
勝敗は――
“引き分け”。
だが、それは健人たちにとって十分すぎる結果だった。
---
そして、別れ際。
レオンは最後にこう呟いた。
「また会えるだろう。……今度は、味方としてか、敵としてか――それは、君次第だ」
健人は、その意味を深く考えることなく、ただ笑って答えた。
「その時が来たら、覚悟してろよ」
---
カイルと健人たちは、午後の陽光差し込む中、静かな気配に包まれた一室へと案内された。
すでに一人の青年が椅子に腰かけていた。
整った顔立ちと落ち着いた雰囲気、淡く笑う口元――だが、どこか「鋭さ」を感じさせる男だった。
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「こちらが……レオン=シュタイン子爵家の次男です」
カイルが簡潔に紹介した。
ティナとリュカは、少し緊張した面持ちで小さく頭を下げた。
(ティナ)「……なんか、貴族のオーラがすごい……」
(リュカ)「ん? どこぞの家なんだ? 名前は聞いたことないな……」
――2人は、レオンの素性についてこの時点では何も知らなかった。
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そのときだった。
レオンの視線が健人に向けられる。
そして健人もまた、その顔を見て――わずかに、時が止まったような錯覚を覚えた。
(……この顔……まさか)
滅びの五日前、魔法国の崩壊寸前の研究施設。
魔力暴走の中心地に倒れていた研究員。
――目の前のこの男は、未来で出会った“あの研究員”と瓜二つだった。
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だが健人は表情を崩さず、
「ケントです。よろしく」とだけ、落ち着いた声で答えた。
レオンは微笑んだまま、「こちらこそ、光栄です」と返し、会談は始まる。
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会議室を後にした後、ティナがポツリとつぶやいた。
「すごく……“できる人”って感じだったね。雰囲気からして違う」
「確かに。オーラっていうか、隙がねぇ感じだったな。あいつ、何者なんだ?」
そこでカイルが小さく苦笑しながら言った。
「レオン=シュタイン。子爵家の次男。
学園でもずば抜けて優秀で、魔導科と戦術科の両方でトップの成績。
それに、卒業後の進路ももう内定してるって噂だよ。
“新しい魔法エネルギー開発の国家事業に関わる”らしい」
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(――やはり、そうか)
健人は心の中でそっとつぶやく。
(未来で、あの施設にいたのは偶然じゃない。
レオンはこの時点で、すでに“あのプロジェクト”に近づきつつある……)
だが、彼はその想いを――誰にも語らず、胸の奥に仕舞い込んだ。
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何も知らぬ2人。
そして、すべてを知る男。
交差する運命は、まだ静かに眠ったまま――。
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「まずは、魔石の採取量を稼ぐこと。
ただし質も評価に加味される以上、雑な討伐は逆効果だ」
ラステル学園の一室。
カイルの声が静かに響く中、健人、リュカ、ティナの三人は簡易地図を囲んでいた。
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魔石競技演習。
明日行われる勝負の舞台は、学園南方にある“リセルの森”――
かつて小規模ダンジョン跡があったとされる、魔力濃度の高い地域だ。
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「……つまり、量を狙うには小型魔物、質を狙うには中型クラス以上。
バランスよく狩っていく必要があるってことだな」
リュカが地図を指さしながら確認する。
「はい、しかも魔物の討伐痕をきれいに残して、魔石を損傷しないように取り出す技術も重要です」
ティナが補足するように言った。
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「僕は……正直、まだあいつに勝てるとは思ってない。
けど、挑む以上は全力を尽くす。君たちとなら、それができるって信じてるんだ」
カイルの表情は、以前よりずっと凛としていた。
健人は短く頷いた。
「勝てるさ。あんたは、ちゃんと“成長してる”。その力を、俺たちが引き出すだけだ」
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その夜、健人は宿の屋上で一人、夜風に当たっていた。
空には二つの月が昇り、森の影がゆらめく。
(……レオン)
彼の顔が思い浮かぶ。
未来では“研究員”。
だが今は、ただの優秀な学生。
(この勝負で何かが変わるとは思っていない。
でも――この時代の彼を、見ておきたい)
(そして……いずれその“進路”が現実になるのなら、俺は――)
---
翌朝。
リセルの森、試合開始の広場。
レオンとその護衛チームがすでに整列していた。
「ふふ、来たか。今日こそ、お互いの実力がはっきりするな」
「ふん、こっちは準備万端だ。覚悟しておけ、レオン」
カイルが気迫を込めて返す。
その背後には、健人たちの安定した存在感が光っていた。
---
主催の教員が声を上げる。
「では――“魔石競技演習”、開始!」
鐘の音が響き、勝負が始まった。
リセルの森。
魔石競技演習――開始から一時間。
「このまま行けば、まず数ではこっちが上だな」
リュカが手にした布袋を揺らすと、複数の魔石がシャラリと音を立てた。
「質も悪くありません。中位魔獣から取れたものですし……」
ティナが丁寧に魔石の鑑定を進めながら頷く。
カイルは肩で息をしながらも、笑みを浮かべた。
「ありがとう、君たちのおかげでリズムがつかめてきた。……このまま押し切れるかも」
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その時だった。
「……っ、あれ……?」
ティナが違和感に気づいた。
「急に魔物の出現が減ってる……? さっきまで定期的に反応があったのに」
健人も森の魔力を感じながら、僅かな異変に目を細めた。
「周辺の“気配そのもの”が薄くなってる。まるで、先回りされて狩られてるみたいだ」
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そして――
崖の上から、姿を現したのはレオンのパーティ。
静かに微笑みながら、レオンは手を振った。
「やあ。どうやら僕たちの方が、一歩先を行っていたようだね」
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カイルが驚きの声を上げる。
「まさか……お前、魔物の群れの“行動ルート”を事前に読んで――」
レオンは答えるように語った。
「この森には、魔物の“循環ルート”がある。
移動・出没パターンを記録しておけば、事前に魔物の集中エリアを潰しておける。
もちろん合法だよ。“狩ること”に規定はあるが、“情報活用”に制限はない」
---
「つまり……全部“潰してから”移動してたってわけか……!」
リュカが悔しげに拳を握る。
健人は何も言わなかった。
ただ、静かにレオンの目を見返していた。
(やるな……。
戦うだけじゃなく、競技として勝つための最善手を選び続けてる)
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「さて……こっちは“次の群れの発生域”に向かうよ。
のんびりしてると、狩場は全部こっちがもらうことになるかもね」
そう言って、レオンたちは風のように森の奥へ消えていった。
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数では追いつかれ、質でも不利になりつつある状況。
けれど――健人の目に焦りはなかった。
「レオンの戦い方は、たしかに見事だ。だが――“狩りのすべて”じゃない」
「ケント……?」
「ここからは“読み合い”だ。狩るだけじゃなく、誘い、仕掛ける。
相手が“読みきった”と思ってるなら、逆にその裏を突ける」
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「ケント……何か考えがあるんだろ?」
リュカが問いかけると、健人はわずかに口角を上げた。
「レオンたちが“魔物の行動ルート”を読んで先回りしているなら――
俺たちは“魔物の群れそのもの”をこちらに誘導すればいい」
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健人は森の地図を再確認する。
「魔物の休息地は、森の東側の斜面。だが、その奥――沼地に近い区域には、
一種の“縄張り境界”が存在するはずだ」
「縄張りの……境界?」
ティナが首を傾げると、健人が指で地図の斜線部分をなぞった。
「中型の捕食種――たとえば“ファング・バイパー”の領域だ。
そこに低位魔物の群れを意図的に追い込めば、“狩られる直前”に魔石ごと狩ることができる」
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「やるじゃねぇか……。獲物を“他の魔物から守って回収”か。
しかも、群れごと誘導すりゃ、一気に数も稼げる」
リュカがにやりと笑い、ティナも拳を握る。
「誘導の魔法、任せてください!」
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作戦開始。
ティナは《ウィンド・チャーム》で森に魔力の“微風の誘導線”を引き、
リュカが小型魔物にわざと気づかせる形で走り回る。
群れが、ぞろぞろと動き始めた――。
そして、それを正面から迎え撃つのが、健人だった。
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「――来い」
木々の間から姿を現したのは、牙を鳴らす十数体の“スレイブ・ウルフ”の群れ。
健人は剣を抜かず、右手を軽く振る。
**シュン――**と空気を切り裂く音。
直後、群れのうち先頭の2体が“何かに蹴られたように”地に沈んだ。
(最小の力で、急所だけ)
次々に倒れる狼たち――魔石だけが鮮やかに残された。
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そして、その奥にはすでに“捕食者”が潜んでいた。
ファング・バイパー。
だが、群れが到着する前に、健人が一瞬で地面を滑り込む。
「ティナ、今!」
「《フレイム・スティッチ!》!」
炎の糸がバイパーの動きを封じ、リュカがその隙を斬る。
全員が役割を果たし、わずか数分で群れ全体の魔石を“高品質のまま”回収した。
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それは、明らかにレオンたちの“狩りルート”を上回る一撃だった。
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「……まさか、この群れをまとめて倒すなんて……!」
観察地点から遠巻きに見ていたレオンが、初めてわずかに眉を動かす。
「誘導、分断、確殺……魔物の動きを“作った”のか。
ふふ……なるほど。こちらが読みきったと思った瞬間に、裏を突く――
それが君の戦い方か、ケント」
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日が傾き始める頃。
両チームの戦果は拮抗していた。
レオンは静かに呟く。
「やっぱり、君には何かがある。
――このまま終わるには、惜しい相手だな」
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日が西に傾き、森の影が長く伸び始める。
競技終了まで残り一時間――
その時、森の西端――古びた洞窟から異質な魔力の揺れが発せられた。
「この反応……明らかに大型個体。魔石の“質”は確実に高いはずだ」
健人が魔力の流れを読むと、リュカも険しい顔で頷く。
「他の群れとは動きが違う。おそらく“上位個体”。たぶん、この競技の中で唯一のBランク級魔物だな」
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一方、同じ魔力の揺れを察知していたのはレオンたちも同じだった。
「……どうやら、最後の一撃は“あれ”だな」
「どうする? あの相手も来るかもしれない」
レオンは静かに笑った。
「来るだろう。……だからこそ、迎え撃つ意味がある」
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健人たちが洞窟に到着すると、そこに――既にレオンたちの姿があった。
「やあ、やっぱり来たか。最後は“君たちと正面でぶつかりたい”と思っていた」
「……偶然だな。こっちも、“ちょうど最後の一撃が欲しかった”ところだ」
健人が歩み寄り、二人の距離が縮まる。
その瞬間、洞窟の奥から、低く唸るような音が響いた――
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姿を現したのは、“ダスク・ミノタウロス”。
全長3メートル、片腕に巨大な斧を持ち、
その肌は灰色がかった黒――魔力の瘴気を纏った、夜に紛れる戦鬼。
「くっ……マジかよ。あれはBランクの上位個体じゃねぇか……!」
「魔石の質は……最高レベル。間違いないわ」
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「よし、ここは“合同戦闘”といこうか」
レオンが声を上げた。
「それで、討伐後に魔石を巡ってまた競うつもりか?」
健人が目を細めて問うと、レオンはわずかに笑って――こう返した。
「ふふ、それもまた一興だ。君と、“本物の実戦”で組めるなら」
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こうして、二組のチームは一時共闘することとなった。
健人とレオン――並び立つ二人の剣士が、ミノタウロスの前に立つ。
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ズガァアッ!!
ミノタウロスの斧が地面を裂く。
直撃すれば一撃で人間は肉塊だ。
だが、健人が刃をかわしながら横へ滑ると、
その隙にレオンが魔法を詠唱する。
「《ブレイズ・エッジ》!」
魔力の炎が剣を包み、獣の左脚を切り裂く。
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ティナとリュカは後方から支援と妨害。
レオンの護衛も次々に連携して、攻撃を繋げていく。
そして――
「今だ、ケント!」
カイルの叫びと共に、健人が一瞬の隙を突く。
剣を回し、ミノタウロスの脇腹へ――
ズガッッ!!
衝撃と共に、魔獣の巨体が崩れ落ちる。
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残されたのは、黒く濃密な魔石――
大きさ、濁りの少なさ、純度――全てが競技最高評価級の逸品だった。
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「……これで、決着だな」
レオンは剣を納め、健人の方を見て静かに言った。
「君はやっぱり……何かを“超えてる”。戦っていて、そう感じた」
「……お前もな。まだ“学生”とは思えない動きだった」
健人もまた、心からそう思っていた。
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その後、魔石を分け合い、双方とも納得した形で勝負は終了。
勝敗は――
“引き分け”。
だが、それは健人たちにとって十分すぎる結果だった。
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そして、別れ際。
レオンは最後にこう呟いた。
「また会えるだろう。……今度は、味方としてか、敵としてか――それは、君次第だ」
健人は、その意味を深く考えることなく、ただ笑って答えた。
「その時が来たら、覚悟してろよ」
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王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
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