シラケン~知らない間に賢者の弟子に歩きたかっただけなのに、気づけば最強になってました〜

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プロローグ

そして絶望へ

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朝倉日向の人生は、一瞬で暗転した。

——赤信号。車を停め、ふうと息を吐いた瞬間だった。

対向車線から、ブレーキ音と共に大型トラックがはみ出してきた。
避ける間もなかった。
轟音、衝撃、きしむ鉄骨、砕け散るガラス。
そして意識は、闇に沈んだ。



次に目を覚ました時、白い天井があった。
消毒液の匂い。横には機械音が規則正しく響いている。
「……事故、か」

上半身は動いた。だが——。

足先に力を込めようとした。
何度も試す。……動かない。
冷たい布の感触すら伝わってこない。

「先生……足が……」

駆けつけた医師の口から告げられたのは、無慈悲な現実だった。
「下半身不随です。脊髄が損傷しており、残念ですが——もう歩くことはできません」

耳鳴りがした。
頭が真っ白になり、言葉を失った。




その後の数週間、必死にリハビリを続けた。
杖をつかせてもらい、鉄の棒に掴まり、体を揺らす。
必死に足に意識を送る。
だが、指一本すらピクリとも動かない。

「力を込めて! はい、もう一度!」
理学療法士の声。
汗が滴り落ち、歯を食いしばる。
だが、足は——死んだままだ。




別の病院では幹細胞治療を勧められた。
高額な最新医療も試した。
針治療も、電気刺激も、リハビリマシンも。

だが、どれも結果は同じ。
足は動かない。

医師は首を振った。
「現代医学では、ここからの回復は難しいでしょう」

残されたのは莫大な保険金と補償金。
そして、動かない足と、終わった未来。




会社は辞めた。
同僚からの連絡は次第に途絶え、友人も疎遠になった。
車椅子に座ったままの自分を見て、皆がどう接すればいいか分からなくなっていた。

一日、二日、三日……。
やがて、時間は虚無の塊となった。

ベッドの上でラノベを読み漁り、アニメを流し続けた。
一時は心を紛らわせたが、いくら物語を摂取しても現実の苦しみは薄まらない。
「この脚さえ……治ればな」

その呟きだけが、毎日のように漏れた。



そんなある日、スマホを手に動画サイトを眺めていると、妙なタイトルが目に留まった。

『魔方陣で身体を強化する方法』

再生数は少ない。
コメント欄は「詐欺だ」「痛すぎ」「中二病乙」と罵詈雑言の嵐。
だが、画面の中の男は真剣そのものだった。

「魔方陣を描き、魔力を流せば、人は己の肉体を強化できる。
握力も、脚力も、常人の限界を超える」

——荒唐無稽だ。
だが、男の眼差しは嘘を吐く人間のそれではなかった。

日向は笑いながらも、心の奥で思った。

「もし……もしこれが本当なら。
この脚も……また、動かせるのか?」

わらにもすがる思いで、朝倉日向は決めた。
——この動画配信者に、連絡を取ろう。


メールを送って数日後、日向は指定された古びた喫茶店に向かった。
看板は色褪せ、昼間だというのにシャッターは半分降りている。

「……怪しいな」

恐る恐るドアを開けると、カウンターの奥に無精ひげの男が座っていた。
片手にはグラス、もう片手には黄ばんだ本。
そして何より、昼間から酒の匂いを漂わせていた。

「おう、来たか。朝倉日向だな?」

「……はい。あの、動画を見て……」

「おうおう、あんなの信じるやつがいたか。俺も暇つぶしに上げてただけなんだがな」
男はにやりと笑い、グラスを煽る。

軽薄にも見える態度。だが、その目の奥だけは鋭く、笑ってはいなかった。

「……信じたいんです。この脚を、もう一度動かしたい」
日向の声は震えていた。

一瞬の沈黙のあと、男は酒瓶を机にドンと置いた。
「——よし、気に入った。なら、魔法を教えてやる」


「いいか、魔法ってのはな。根性で気合い入れて“ファイアーボール!”って叫んだら出るわけじゃねえ。
体の奥にある“魔力”ってやつを感じて、それを回してやる必要がある」

酒臭い息を吐きながらも、男の説明は妙に分かりやすかった。

「魔力ってのはな、こうやって扱うんだ」

男は、カウンターの上に手のひらをかざした。
次の瞬間、空気が震え、小さな光の球がぽうっと浮かび上がった。
ビー玉ほどの光が、まるで生き物のようにふわふわと漂い、男の指先の動きに合わせて上下左右へ滑らかに動く。

「お、おい……本当に……」
日向の声が震える。

「信じたか?」
男はにやりと笑い、指先で光球を消した。

——作り物じゃない。
動画の中の怪しげな映像じゃない。
今、目の前で起きた現実。

日向の胸が熱くなった。
「……僕にも、できるんですか」

「やる気があればな。ただし、最初は地獄だぞ」
そう言うと男は、日向の手をぐっと掴んだ。

「ちょっと痛いが我慢しろ」

次の瞬間——。
男の掌から、熱い奔流のようなものが日向の腕を駆け抜けた。
それは確かに存在する“何か”。体の奥を暴れ回る、理解不能な力。

「ぐっ……あああああ!」

日向は思わずうずくまり、胃の奥が焼けるような吐き気に襲われた。

「これが……魔力だ……! 忘れんなよ!」
男は真剣な目で告げた。



それからの日々、日向は必死に魔力を感じようとした。
だが——。

何も分からない。
ただ座り、ただ目を閉じる。
体の中にあるはずの“力”を探す。
だが何も掴めず、ただ時間だけが過ぎていった。

「……僕には、やっぱりできないのか……」

何度も絶望した。
だが、ベッドの上で動かない足を見下ろすたび、心が再び奮い立つ。

「歩きたい……僕は、もう一度、自分の足で歩きたい!」

そう呟きながら、日向はまた目を閉じ、体の奥へ奥へと意識を沈めていった。



一週間が過ぎた夜、胸の奥がかすかに温かくなる感覚があった。
「……これか?」
意識を集中させると、その熱は小さく震え、指先へとわずかに流れていく。

だが次の瞬間、頭に激痛が走った。
「うっ……!」
こめかみを押さえ、吐き気に顔を歪める。

「おい、そこでやめろ! それ以上は命を削るぞ!」
師匠が慌てて肩を支える。

「……これが、魔力切れ……」

「そうだ。今のお前はコップ一杯分の魔力しかねえ。無理に出せば生命力を削る。
頭痛は“死ぬぞ”って合図だ。忘れんな」


日向は何度も倒れ、吐き、のたうち回った。
それでも、やめなかった。

「動け……僕の足……! 歩かせろ……!」

焦燥と絶望の中で、ひたすらに魔力を回し続けた。
リハビリも治療も全て裏切ったこの足を、今度こそ取り戻すために。

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