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第3章
水都アクア=リュミエールへ
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「なぁ、ヒューガ」
馬車の休憩中、ガレスが腰に手を当てながら言った。
「殴るとき、どうしてる? 速すぎて見えねぇんだ。ゆっくりやってみてくれ」
「え? こんな感じですけど……」
ヒューガは拳を作り、正面に向かってスローで突きを繰り出す。
ガレスはじっと見て首を振った。
「それじゃあ腕の力だけだな。拳が軽い」
彼はその場で軽く足を開き、実演してみせる。
「いいか、腰を回し、肩を回し、腕を伸ばす。腕は力を抜け。当たる瞬間だけ拳を握り、すぐに引くんだ」
ブンッ、と空気が切り裂かれる音。拳を引いた瞬間に風圧で砂が舞った。
「ほら、こうだ。さあ、ゆっくりやってみろ」
ヒューガは深く頷き、真似てみる。
腰の回転から肩、そして拳へ――。
「そうそう。回転力を拳に伝えるんだ。……いや、もっとだ! こう!」
ガレスは何度も動きを示し、ヒューガは何度も繰り返した。肩の角度、腰の切り方、拳の握り。小さな修正を重ね、汗が額を伝う。
「よし……合格だ」
ガレスは笑みを浮かべ、親指を立てた。
「じゃあ次だ。今度は身体強化を全力でやってみせろ」
「はい!」
ヒューガは深呼吸し、全身に魔力を巡らせる。拳を振り抜いた瞬間――
――ドンッ!
大地が震え、衝撃が遠くの林まで伝わった。バサバサと葉が落ち、鳥たちが一斉に飛び立つ。
「うほーっ……スゲェなぁ」ガレスは口を開けて笑った。
「これはこれで遠くの敵もやれそうだ」エリサが冷静に付け加える。
「じゃあ、今度は少しずつ弱めていこうか」
ヒューガは何度も繰り返し、拳を放つたびに地面を抉り、砂を巻き上げ、そして少しずつ力を抑えていった。
やがて、土が軽く凹む程度の衝撃になったとき、ガレスが大きく頷いた。
「それくらいで良いだろう。合格だ」
「……ありがとうございます!」
「よし、それをよく覚えておけ。次に魔物とやり合うときは、それでいくんだ」
ヒューガは拳を見つめ、静かに頷いた。自分の中に眠る力を、ようやく“扱う”第一歩を踏み出せた気がした。
その日の夕暮れ、街道沿いの小さな林で野営をすることになった。
馬を繋ぎ、火を起こし、保存食を温める。焚き火の炎が夜の闇を押し返し、三人の顔を赤く照らしていた。
食事を終えると、交代での見張り番が決まった。初日の夜はガレスとヒューガが前半を担当することになった。
「じゃあ、エリサは休め。夜は長いからな」
「ええ。二人に任せます」
エリサが毛布に包まり眠りにつくと、あたりは途端に静寂に包まれる。草むらから虫の声が響き、焚き火の爆ぜる音がやけに大きく感じられた。
ガレスは火の番をしながら、酒袋をちびちびと口に運んでいる。
「……なぁ、ヒューガ。家族はいるのか?」
「いえ……こちらに来てからは、いませんね」
「そうか。俺はな、妻と娘がいるんだ。まだ三つになる娘なんだが、これがまぁ可愛くてな」
そこからガレスは止まらなかった。
初めて歩いた日のこと、好き嫌いが激しい食事のこと、父親の帰りを出迎える小さな足音のこと――。
夜風の中、幾度となく「可愛い」「天使みたいだ」と繰り返す姿は、普段の豪放さ以上に人間味があった。
「……本当に、娘さんのことを大事にしているんですね」
「当たり前だろ。あいつの笑顔のためなら、俺は命を張れる。……まぁ、騎士ってのはそういうもんだ」
焚き火に薪をくべながら、ガレスは少し真面目な顔になった。
「ところで、ヒューガ。お前はどうやってそんな身体強化を得たんだ?」
ヒューガは一瞬、炎を見つめて黙り込む。だがやがて、ゆっくりと語り始めた。
「……実は、元々僕は足が不自由だったんです。事故で……もう一生歩けないと思っていました」
ガレスが目を見開く。
「でも、歩きたい一心で……師匠から魔力を教わって、無茶な鍛錬を繰り返したんです。何度も魔力枯渇を起こして……死ぬかと思ったこともありました」
拳を膝の上に置き、ヒューガは小さく笑った。
「それでも諦められなかった。だから、常に身体強化を発動し続けることで、今こうして歩いているんです」
「……そうだったのか」
ガレスは大きな手で顎を撫で、焚き火を見つめた。
「死ぬ気で掴んだ力か……そりゃ強いはずだ。だが、その強さを自慢しないあたり、ますますお前を信用できるな」
炎の揺らめきの中で、ガレスの言葉は重く温かかった。
やがて夜が更け、交代の時間となる。ヒューガとガレスは馬車へ戻り毛布に包まれた。
「……おやすみ、ヒューガ」
「はい。おやすみなさい、ガレスさん」
馬車の硬い揺れの中でも、どこか心地よい安堵があった。ヒューガはまぶたを閉じ、ゆっくりと眠りへ落ちていった。
翌朝。
馬車に荷を積み終えたところで、ガレスが腕を組みながら提案してきた。
「なぁ、ヒューガ。今日は少し寄り道して森を突っ切ろうと思う。街道より近道になるし、魔物も多い。お前の訓練にもなるだろう」
「……分かりました。やってみます」
エリサはわずかに眉をひそめたが、すぐに頷いた。
「なら仕方ありませんね。無茶だけはしないでください」
森の中は湿った空気が漂い、木々の隙間から差し込む光も薄暗く感じられた。小鳥の声が消え、どこか不気味な静寂が辺りを覆っている。
「……来るぞ」
ガレスが低く呟く。
茂みを割って現れたのは、体長二メートルを超える巨体。
灰緑色の皮膚、丸太のような腕、鉄を叩き潰すと噂される棍棒。――オークだった。
「よし、ヒューガ。やってみろ」
深呼吸し、全身に魔力を巡らせる。昨日の教えを思い出す。
――腕の力だけじゃない。腰を回し、肩を使え。力は当たる瞬間だけ。
ヒューガは地を蹴り、オークの懐に潜り込む。
「はぁッ!」
拳が唸りを上げてオークの胸を打つ。
巨体が一撃で吹き飛ぶことはなかった。だが確かな衝撃が伝わり、オークが呻いて後退る。
「いいぞ、その調子だ!」ガレスの声が飛ぶ。
ヒューガは続けて踏み込み、角度を変え、腰を捻って拳を突き出す。
ドンッ! バキィッ!
耳を劈く衝撃音が、森の中に連続して響き渡る。
速すぎて拳は見えない。だが確かにオークの肉を抉り、骨を震わせる打撃が走る。
一発、二発、三発――数十発。
ありとあらゆる角度から繰り出される拳が、巨体を押し潰すように叩き込まれる。
「グ、ゴォォ……ッ!」
雄叫びを上げ、オークは棍棒を振るう。だがその動きは遅い。ヒューガの影は既に別の角度から拳を叩き込んでいた。
最後の一撃。腹部へ深くめり込んだ拳が、オークの全身を震わせる。巨体がぐらりと揺れ、膝から崩れ落ちた。
地響きと共に、オークは完全に倒れ伏した。
「……やったな」
ガレスがにやりと笑い、腕を組んだ。
エリサも驚きを隠せず、ヒューガを見つめる。
「……あの速さであの威力……。本当に、人間の拳なんですか?」
ヒューガは肩で息をしながら、静かに拳を握り直した。
「……まだ調整が難しいです。でも……昨日よりは、手応えがありました」
「十分だ。お前は、もう立派に戦えてる」
ガレスの声には、確かな信頼が込められていた。
倒れ伏したオークを前に、ヒューガは膝をついてナイフを取り出し、耳を切り落とした。
「……おい、何やってんだ?」
後ろからガレスの声が飛んだ。
「討伐証明です。冒険者もやってますので」
「なるほどな。お前さんは騎士じゃなく冒険者でもあるわけか」
ガレスは納得したように頷き、にやりと笑う。
「だったら次は蹴りもやっとくか。手札は多いに限るだろ?」
「そうですね。お願いします」
ガレスはすぐに構えをとり、蹴りを実演してみせた。
「拳だけじゃねぇ。足は長ぇ分、間合いを取れる。腰の回転を意識して、足先は最後に打ち込むんだ」
ヒューガは真剣な眼差しで見つめ、何度も真似する。
腰を捻り、肩を返し、踏み込みから足を振り抜く。
数度の修正を経て、次のオークとの遭遇。
「今度は蹴りで行け!」
ヒューガは身体強化を脚へ集中させ、渾身の前蹴りを放った。
――ドゴッ!
衝撃で空気が裂け、オークの巨体が数メートル吹き飛び、木に叩きつけられて沈んだ。
「よし、上出来だ!」
ガレスが満足そうに笑い、ヒューガも小さく息をついた。
その後は「遠当て」の訓練に移った。
「全力で魔力を拳に乗せて……離れた相手を殴るイメージだ」
ヒューガは深呼吸し、狙いを定める。次の瞬間――
バァンッ!
凄まじい衝撃が放たれ、離れた木陰に潜んでいたゴブリン三匹が一斉に吹き飛ぶ。棍棒で殴打されたかのように胴体を抉られ、地面に転がった。爆散はしていないが、一撃で沈黙した。
「……今の、拳を飛ばしたように見えたな」エリサが驚愕を隠せずに呟く。
「ゴブリン程度ならまとめて倒せるな。これは戦場じゃ化け物じみた武器だぞ」ガレスも口笛を吹いた。
その後も、ヒューガは道中で遭遇する魔物相手に身体強化の訓練を繰り返した。拳、蹴り、遠当て。加減の幅も広がり、制御も少しずつ身についていく。
途中の小さな町に立ち寄り、ギルドでゴブリンやオークの討伐証明を提出する。銅貨や銀貨を受け取り、保存食や水袋を買い足した。
馬車の車輪がまた街道を走り始める。日ごとに青々とした大河が近づき、川の音が大きくなっていく。
そして――旅立って五日目。
丘を越えた瞬間、視界いっぱいに広がる街並みが見えた。
無数の水路が縦横に走り、石造りの橋が幾重にも架かる。魔道具による水の循環がきらめき、坂道を登るように流れる水の筋が幻想的に街を彩っている。
「……これが、水都アクア=リュミエールか」
ヒューガは息を呑み、しばし言葉を失った。
馬車の休憩中、ガレスが腰に手を当てながら言った。
「殴るとき、どうしてる? 速すぎて見えねぇんだ。ゆっくりやってみてくれ」
「え? こんな感じですけど……」
ヒューガは拳を作り、正面に向かってスローで突きを繰り出す。
ガレスはじっと見て首を振った。
「それじゃあ腕の力だけだな。拳が軽い」
彼はその場で軽く足を開き、実演してみせる。
「いいか、腰を回し、肩を回し、腕を伸ばす。腕は力を抜け。当たる瞬間だけ拳を握り、すぐに引くんだ」
ブンッ、と空気が切り裂かれる音。拳を引いた瞬間に風圧で砂が舞った。
「ほら、こうだ。さあ、ゆっくりやってみろ」
ヒューガは深く頷き、真似てみる。
腰の回転から肩、そして拳へ――。
「そうそう。回転力を拳に伝えるんだ。……いや、もっとだ! こう!」
ガレスは何度も動きを示し、ヒューガは何度も繰り返した。肩の角度、腰の切り方、拳の握り。小さな修正を重ね、汗が額を伝う。
「よし……合格だ」
ガレスは笑みを浮かべ、親指を立てた。
「じゃあ次だ。今度は身体強化を全力でやってみせろ」
「はい!」
ヒューガは深呼吸し、全身に魔力を巡らせる。拳を振り抜いた瞬間――
――ドンッ!
大地が震え、衝撃が遠くの林まで伝わった。バサバサと葉が落ち、鳥たちが一斉に飛び立つ。
「うほーっ……スゲェなぁ」ガレスは口を開けて笑った。
「これはこれで遠くの敵もやれそうだ」エリサが冷静に付け加える。
「じゃあ、今度は少しずつ弱めていこうか」
ヒューガは何度も繰り返し、拳を放つたびに地面を抉り、砂を巻き上げ、そして少しずつ力を抑えていった。
やがて、土が軽く凹む程度の衝撃になったとき、ガレスが大きく頷いた。
「それくらいで良いだろう。合格だ」
「……ありがとうございます!」
「よし、それをよく覚えておけ。次に魔物とやり合うときは、それでいくんだ」
ヒューガは拳を見つめ、静かに頷いた。自分の中に眠る力を、ようやく“扱う”第一歩を踏み出せた気がした。
その日の夕暮れ、街道沿いの小さな林で野営をすることになった。
馬を繋ぎ、火を起こし、保存食を温める。焚き火の炎が夜の闇を押し返し、三人の顔を赤く照らしていた。
食事を終えると、交代での見張り番が決まった。初日の夜はガレスとヒューガが前半を担当することになった。
「じゃあ、エリサは休め。夜は長いからな」
「ええ。二人に任せます」
エリサが毛布に包まり眠りにつくと、あたりは途端に静寂に包まれる。草むらから虫の声が響き、焚き火の爆ぜる音がやけに大きく感じられた。
ガレスは火の番をしながら、酒袋をちびちびと口に運んでいる。
「……なぁ、ヒューガ。家族はいるのか?」
「いえ……こちらに来てからは、いませんね」
「そうか。俺はな、妻と娘がいるんだ。まだ三つになる娘なんだが、これがまぁ可愛くてな」
そこからガレスは止まらなかった。
初めて歩いた日のこと、好き嫌いが激しい食事のこと、父親の帰りを出迎える小さな足音のこと――。
夜風の中、幾度となく「可愛い」「天使みたいだ」と繰り返す姿は、普段の豪放さ以上に人間味があった。
「……本当に、娘さんのことを大事にしているんですね」
「当たり前だろ。あいつの笑顔のためなら、俺は命を張れる。……まぁ、騎士ってのはそういうもんだ」
焚き火に薪をくべながら、ガレスは少し真面目な顔になった。
「ところで、ヒューガ。お前はどうやってそんな身体強化を得たんだ?」
ヒューガは一瞬、炎を見つめて黙り込む。だがやがて、ゆっくりと語り始めた。
「……実は、元々僕は足が不自由だったんです。事故で……もう一生歩けないと思っていました」
ガレスが目を見開く。
「でも、歩きたい一心で……師匠から魔力を教わって、無茶な鍛錬を繰り返したんです。何度も魔力枯渇を起こして……死ぬかと思ったこともありました」
拳を膝の上に置き、ヒューガは小さく笑った。
「それでも諦められなかった。だから、常に身体強化を発動し続けることで、今こうして歩いているんです」
「……そうだったのか」
ガレスは大きな手で顎を撫で、焚き火を見つめた。
「死ぬ気で掴んだ力か……そりゃ強いはずだ。だが、その強さを自慢しないあたり、ますますお前を信用できるな」
炎の揺らめきの中で、ガレスの言葉は重く温かかった。
やがて夜が更け、交代の時間となる。ヒューガとガレスは馬車へ戻り毛布に包まれた。
「……おやすみ、ヒューガ」
「はい。おやすみなさい、ガレスさん」
馬車の硬い揺れの中でも、どこか心地よい安堵があった。ヒューガはまぶたを閉じ、ゆっくりと眠りへ落ちていった。
翌朝。
馬車に荷を積み終えたところで、ガレスが腕を組みながら提案してきた。
「なぁ、ヒューガ。今日は少し寄り道して森を突っ切ろうと思う。街道より近道になるし、魔物も多い。お前の訓練にもなるだろう」
「……分かりました。やってみます」
エリサはわずかに眉をひそめたが、すぐに頷いた。
「なら仕方ありませんね。無茶だけはしないでください」
森の中は湿った空気が漂い、木々の隙間から差し込む光も薄暗く感じられた。小鳥の声が消え、どこか不気味な静寂が辺りを覆っている。
「……来るぞ」
ガレスが低く呟く。
茂みを割って現れたのは、体長二メートルを超える巨体。
灰緑色の皮膚、丸太のような腕、鉄を叩き潰すと噂される棍棒。――オークだった。
「よし、ヒューガ。やってみろ」
深呼吸し、全身に魔力を巡らせる。昨日の教えを思い出す。
――腕の力だけじゃない。腰を回し、肩を使え。力は当たる瞬間だけ。
ヒューガは地を蹴り、オークの懐に潜り込む。
「はぁッ!」
拳が唸りを上げてオークの胸を打つ。
巨体が一撃で吹き飛ぶことはなかった。だが確かな衝撃が伝わり、オークが呻いて後退る。
「いいぞ、その調子だ!」ガレスの声が飛ぶ。
ヒューガは続けて踏み込み、角度を変え、腰を捻って拳を突き出す。
ドンッ! バキィッ!
耳を劈く衝撃音が、森の中に連続して響き渡る。
速すぎて拳は見えない。だが確かにオークの肉を抉り、骨を震わせる打撃が走る。
一発、二発、三発――数十発。
ありとあらゆる角度から繰り出される拳が、巨体を押し潰すように叩き込まれる。
「グ、ゴォォ……ッ!」
雄叫びを上げ、オークは棍棒を振るう。だがその動きは遅い。ヒューガの影は既に別の角度から拳を叩き込んでいた。
最後の一撃。腹部へ深くめり込んだ拳が、オークの全身を震わせる。巨体がぐらりと揺れ、膝から崩れ落ちた。
地響きと共に、オークは完全に倒れ伏した。
「……やったな」
ガレスがにやりと笑い、腕を組んだ。
エリサも驚きを隠せず、ヒューガを見つめる。
「……あの速さであの威力……。本当に、人間の拳なんですか?」
ヒューガは肩で息をしながら、静かに拳を握り直した。
「……まだ調整が難しいです。でも……昨日よりは、手応えがありました」
「十分だ。お前は、もう立派に戦えてる」
ガレスの声には、確かな信頼が込められていた。
倒れ伏したオークを前に、ヒューガは膝をついてナイフを取り出し、耳を切り落とした。
「……おい、何やってんだ?」
後ろからガレスの声が飛んだ。
「討伐証明です。冒険者もやってますので」
「なるほどな。お前さんは騎士じゃなく冒険者でもあるわけか」
ガレスは納得したように頷き、にやりと笑う。
「だったら次は蹴りもやっとくか。手札は多いに限るだろ?」
「そうですね。お願いします」
ガレスはすぐに構えをとり、蹴りを実演してみせた。
「拳だけじゃねぇ。足は長ぇ分、間合いを取れる。腰の回転を意識して、足先は最後に打ち込むんだ」
ヒューガは真剣な眼差しで見つめ、何度も真似する。
腰を捻り、肩を返し、踏み込みから足を振り抜く。
数度の修正を経て、次のオークとの遭遇。
「今度は蹴りで行け!」
ヒューガは身体強化を脚へ集中させ、渾身の前蹴りを放った。
――ドゴッ!
衝撃で空気が裂け、オークの巨体が数メートル吹き飛び、木に叩きつけられて沈んだ。
「よし、上出来だ!」
ガレスが満足そうに笑い、ヒューガも小さく息をついた。
その後は「遠当て」の訓練に移った。
「全力で魔力を拳に乗せて……離れた相手を殴るイメージだ」
ヒューガは深呼吸し、狙いを定める。次の瞬間――
バァンッ!
凄まじい衝撃が放たれ、離れた木陰に潜んでいたゴブリン三匹が一斉に吹き飛ぶ。棍棒で殴打されたかのように胴体を抉られ、地面に転がった。爆散はしていないが、一撃で沈黙した。
「……今の、拳を飛ばしたように見えたな」エリサが驚愕を隠せずに呟く。
「ゴブリン程度ならまとめて倒せるな。これは戦場じゃ化け物じみた武器だぞ」ガレスも口笛を吹いた。
その後も、ヒューガは道中で遭遇する魔物相手に身体強化の訓練を繰り返した。拳、蹴り、遠当て。加減の幅も広がり、制御も少しずつ身についていく。
途中の小さな町に立ち寄り、ギルドでゴブリンやオークの討伐証明を提出する。銅貨や銀貨を受け取り、保存食や水袋を買い足した。
馬車の車輪がまた街道を走り始める。日ごとに青々とした大河が近づき、川の音が大きくなっていく。
そして――旅立って五日目。
丘を越えた瞬間、視界いっぱいに広がる街並みが見えた。
無数の水路が縦横に走り、石造りの橋が幾重にも架かる。魔道具による水の循環がきらめき、坂道を登るように流れる水の筋が幻想的に街を彩っている。
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