シラケン~知らない間に賢者の弟子に歩きたかっただけなのに、気づけば最強になってました〜

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第2章

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買い出しから戻ったヒューガは、執事に声をかけた。

「領主様のご依頼で、しばらく屋敷を空けることになりました」

「承知いたしました。必要なものは揃っておりますか?」

「はい。団長と一緒に買い出しも済ませました」

「それは何よりでございます。当家の備品もお使いください。……お気をつけて」

言葉は淡々としているが、その眼差しには僅かな気遣いが滲んでいた。

部屋に戻り、荷物を整理して支度を整える。革のカバンに衣類や保存食を詰め込み、床に置いた。旅立ちの実感が胸に押し寄せる。

夜。

寝台に横たわり、暗闇の天井を見上げる。明日から片道五日――馬車に揺られ続ける長旅だと聞いている。

「五日か……。車があれば一日もかからないだろうに」

自然とため息が漏れる。だがすぐに思考が跳ねた。

「あ、転移魔法……!」

上体を起こし、興奮を抑えきれずに呟く。

「そうだ。こっちに転移魔法陣を描いておいて、向こうで座標を調べれば、帰りは一瞬じゃないか」

頭の中に浮かぶのは広がる可能性。
いずれは、大規模な魔法陣を造り、人や物を一度に運べるようにすれば……街と街を繋ぐ大きな流通網になる。

「しかも、使用料を取れば安定した収入になる……これ、ビジネスになるな」

現代日本での知識が自然と繋がっていく。鉄道や物流網に似た発想だが、魔法で実現できればこの世界の常識を覆せる。

「明日……領主様に相談してみよう」

考えは尽きない。だが、旅立ちへの高揚と緊張の狭間で、瞼が重く落ちていく。
ヒューガは新しい未来を夢想しながら、静かに眠りについた。


翌朝。
屋敷を発つ前に、ヒューガは再びアーデル伯爵の屋敷を訪れていた。

応接室に通されると、領主はすでに待っていた。重厚な椅子に腰をかけた伯爵は、眼光を鋭く光らせてこちらを見据える。

「出立前に相談があると聞いたが……さて、何の話だ?」

「はい。実は……」
ヒューガは昨日ふと思いついた「転移魔法による流通構想」について、熱を込めて語った。拠点ごとに転移魔法陣を設置し、座標を繋げば、人や物を一瞬で運ぶことができる。街と街を繋げば交易は飛躍的に発展し、莫大な利益を生む。

一通り話し終えると、伯爵は「ふむ」と低く唸り、指を組んで顎にあてた。

「……確かに、実現すれば面白い。だが、問題も多いな」

「問題……ですか?」

「まずは防衛上の問題だ」
伯爵の声音は一層鋭さを増した。
「良からぬ者が使えば、大事になる。賊や敵国の間者が自由に行き来できるとすれば、領地どころか王国そのものを危うくしかねん。だからこそ、必ずお互いの領主の許可と、厳重な管理が必要になる」

ヒューガは思わず唾を飲み込んだ。

「次に、技術的な問題だ。転移魔法自体、既に失われた古代魔法だ。そして大規模なものになればなるほど、膨大な魔力が必要になる。……お前の魔力量なら問題ないのだろうが、いつまでもお前が常駐できるわけではないな」

「……確かに」

「更には安全性だ。大規模な転移ともなれば、不具合が起きかねん。誤座標に飛んだり、肉体が分離するなどという話も伝承には残っている。十分な試験を繰り返し行い、問題が起きた時に対処できる人間が必要だ」

領主は眼を細め、笑みを含んで続けた。

「つまり、転移魔法陣に詳しく、管理・点検できる人材を育てねばならん。……そして最後に金の問題だ。使用する魔力量を考えれば、利用者からは莫大な使用料を取る必要があるだろう」

ヒューガは黙って頷いた。領主の言葉は全て現実的で、同時に重かった。

「……今考えられる問題はこの辺りだな。だが――」

そこで伯爵はぐっと身を乗り出し、目を輝かせた。

「お前達だけでも使えるようにしておけ。恐らく何度も行き来することになるだろう。フフフ……面白くなってきたな。年甲斐もなく興奮してきたぞ。これは一大事業になる」

豪快に笑い、立ち上がると、机に向かい手紙を書き始めた。

「一応、あちらの領主にも構想だけは伝えておこう。成功か失敗かは、やってみなければわからん。……少し待っていろ」

やがて完成した手紙を封し、伯爵はそれをヒューガに差し出した。

「これを持っていけ。アクア=リュミエールの領主に直接渡せ」

「はい……!」

書状を大切に受け取ったヒューガは、深く一礼する。

「待ち合わせは騎士団詰め所だ。ガレスとエリサが準備を整えて待っている。……存分にやってこい」

「承知しました」

領主の激励を胸に刻み、ヒューガは屋敷を後にし、待ち合わせ場所へ向かった。



アーデル伯爵の屋敷を後にしたヒューガは、街の中心部にある騎士団詰め所へと向かった。朝の街は活気に溢れ、露店の呼び込みや馬車の車輪の音が入り交じる。だが、ヒューガの胸中は静かな緊張で満たされていた。

「いよいよ旅立ちか……」

そう呟きながら石畳を進むと、やがて武具を掲げた堂々たる建物が見えてきた。アーデル騎士団の詰め所だ。

門前に立つ兵士に声をかけると、すぐに中へ案内された。

「お、来たな!」

重い扉を抜けた先の中庭で、待ち構えていたのは副団長ガレスだった。ブロンドの短髪を朝日に光らせ、鎧の肩を気安く叩いてくる。

「おはようさん。伯爵様から聞いたぜ。お前さんが水都で魔道具の修理だってな。こりゃあ面白くなりそうだ」

「ガレスさん……よろしくお願いします」

「堅っ苦しいのは無しだ。旅は長ぇんだ、肩の力抜いてけ」

陽気な笑い声と共にガレスは手を振る。その隣には、すでに旅装に着替えた黒髪の女性が立っていた。鋭い眼差しをこちらに向ける。

「……遅くなりましたね」

「すみません、領主様のところに寄っていましたので」

「なるほど。なら仕方ありません。……私はあなたの護衛を務める身です。ですが、甘く見るつもりはありません。命を預ける以上、こちらも本気で臨みます」

その真剣な声色に、ヒューガは自然と背筋を伸ばした。

「ありがとうございます。……力不足かもしれませんが、よろしくお願いします」

エリサは一瞬だけ目を細め、口元に小さな笑みを浮かべた。

「正直なところは嫌いじゃありません。では行きましょうか」


詰め所の裏庭には、既に一台の馬車が準備されていた。荷台には保存食や水袋、薪、野営道具が積み込まれている。馬を撫でていたのは、獣人の御者ゲイルだ。犬のような耳をぴくぴく動かしながら、気さくに声をかけてくる。

「おう! これから長旅だな。俺の馬は丈夫だ、安心しな」

ガレスが笑いながら肩をすくめる。

「ゲイルの馬はいいぞ。昔から俺は何度も世話になってる。ま、たまに博打で負けて馬の餌代まで賭けやがるのが玉に瑕だがな」

「そ、そんなことはもうしてねぇ!」とゲイルが耳を立てて抗議し、場が和む。


三人はそれぞれの荷物を積み込み、馬車の座席に腰を下ろした。御者台にゲイルが座り、手綱を握る。

「よし、揃ったな」

ガレスは大きく息を吸い込み、真面目な顔を見せた。

「ヒューガ、初めての長旅だろう? 道中は退屈もすれば危険もある。魔法に頼りきるなよ。野営の準備や警戒も全部一緒にやるんだ。いいな?」

「はい、分かりました」

「それと――」とエリサが口を挟む。
「この道は比較的安全ですが、森に入れば盗賊や魔物も出ます。特に夜の警戒は怠らないこと。私は嘘や油断が嫌いですから」

「心得ました」

二人の忠告を胸に刻み、ヒューガは拳を握り締めた。


蹄の音が石畳に響き、馬車はゆっくりと街道へ出る。城壁を背にし、広大な平野の向こうに伸びる道を見つめると、胸が高鳴った。

「片道五日か……」

呟いた声に、ガレスがニヤリと笑う。

「まぁ退屈はさせねぇよ。賭け事の武勇伝でも聞かせてやるさ」

「そういう話は半分だけ聞いておきます」エリサが冷ややかに突っ込む。

笑い声と共に、馬車はアーデルの街を離れ、アクア=リュミエールへ向けて走り出した。

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