シラケン~知らない間に賢者の弟子に歩きたかっただけなのに、気づけば最強になってました〜

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第3章

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「静まれッ!」

白髪の老人――アクア=リュミエール領主の一喝が、轟音のようにギルド内を揺らした。
その声に押されるように、剣を構えていた騎士団員たちが動きを止める。

「……父さん! あいつらが俺を――!」
腹を押さえながら必死に訴える息子に、領主は冷たい視線を落とす。

「黙れ、愚か者。貴様が軽率に剣を振るったと聞いたぞ。恥を晒すな」

「で、ですが……!」
「下がれ」

鋭い声に息子は言葉を飲み込み、護衛たちに抱えられて奥へと退いた。
ざわついていた冒険者たちも、領主のただならぬ威圧感に押し黙る。

領主はゆっくりとヒューガたちへ歩み寄った。
「……さて。事情を説明してもらおうか」

ガレスが一歩前に出て頭を下げる。
「我らはアーデル伯爵の命により、この街を訪れた者です。賢者ミド殿宛の依頼を代行すべく――」

言葉を途中で切り、懐から一通の封書を取り出す。
「こちらを、領主様にお渡しするよう仰せつかっております」

執事風の騎士がそれを受け取り、領主の手に渡す。
封蝋には確かにアーデル家の紋章が刻まれていた。

領主は素早く封を切り、目を通す。
「……ほう。賢者ミドの弟子、ヒューガ――か」

その名を口にした瞬間、場の空気が変わった。
冒険者たちの間からざわめきが再び広がる。
「賢者の弟子……? 本物か……」

領主は視線を上げ、ヒューガをまっすぐ見据える。
「火を消せ、若者。ここで血を流す必要はない」

ヒューガは息を整え、両手に掲げていた炎をゆっくりと消した。
重苦しかった空気が一気に和らぎ、安堵の吐息があちこちから漏れる。

「よし。話は私の屋敷で聞こう。……賢者の弟子よ」

その威厳に満ちた声に導かれ、ヒューガは初めて正式にこの水都の領主と向かい合うことになるのだった。



「……ヒューガと言ったか」
領主の低く落ち着いた声が、広間に響く。

「古代魔道具の修理を、もとは賢者ミドに依頼した。だが行方知れず……そこでお前だ。弟子のお前に、直せる自信はあるのか?」

ヒューガは一拍置いて、静かに答えた。
「見てみないとわかりません。……でも、少しだけ自信はあります」

領主の瞳が鋭さを帯びる。
「誰もが匙を投げたものだ。なぜお前は“自信がある”と言える?」

「それだけ勉強してきましたから」
迷いのない声だった。

一瞬、室内に静寂が広がる。
やがて領主は目を閉じ、重々しく頷いた。
「そうか……分かった。ならば頼もう。――賢者ミドの弟子、ヒューガに、水都アクア=リュミエールの古代魔道具の修理を正式に依頼する」

ヒューガは深く頭を下げる。
「依頼、承りました」

「よし。研究者たちを補佐につける。原因が分かり、修理ができたなら……後の者たちにも対応できるよう、知識を伝えてやってくれ。
正直なところ、我らにはお手上げだ。ミドであっても、せいぜい助言程度と踏んでいた。……駄目でもともとだ」

そこまで言い切った領主は、席を立ち、背を向ける。
重々しい足音が扉へ向かう――が、ふいに立ち止まった。

「……息子のことは、済まなかった」

振り向いたその表情は、威厳ある領主ではなく、一人の父のものだった。

「領主としてではなく、親として謝罪する」

その言葉と共に、領主は深く頭を下げた。
「お前だけではない。他の二人にも――済まなかったと伝えてくれ」

ヒューガは驚きに目を見開き、それから真摯に答える。
「はい。……分かりました」

「ではな」

短く言い残し、領主は背を向けて退出していった。
残された部屋に、青白い魔光が静かに揺れていた。


宿に戻ると、部屋にはすでにガレスとエリサが待っていた。
「どうだった?」とガレスが椅子に腰かけたまま顔を上げる。

ヒューガは小さく息を吐き、領主からの正式な依頼を伝えた。
「……古代魔道具の修理を頼まれました。街の水路を維持する仕組みが、不安定になっているらしいんです」

「やっぱりか」とガレスは腕を組む。「街全体の話だもんな。こりゃ本気で重大任務だ」

「それで……ヒューガはどう答えたんだ?」とエリサがじっと見つめる。

「……見てみないと分からない。でも、やってみたいと答えました」

エリサはわずかに眉をひそめたが、すぐに口元を和らげた。
「あなたならそう言うと思ったわ。あの領主も、相当な賭けに出たのね」

ヒューガはふと思い出し、2人に告げる。
「それから……息子さんの件について、領主様が謝罪してくれました。領主としてではなく、一人の父として、と。……僕だけじゃなく、二人にも“済まなかった”と伝えてほしいと」

一瞬、部屋に沈黙が落ちる。
ガレスは驚いたように目を見開き、すぐに肩をすくめて笑った。
「へぇ……あの領主がか。滅多に頭なんか下げる人じゃねぇんだがな。よっぽど本気だ」

エリサは腕を組んで目を伏せ、静かに言った。
「……誠実な方なのね。なら、こちらも全力で応えるしかないわ」

ガレスは椅子の背もたれに身を預け、大きく笑った。
「ははっ、面白れぇ! 水都を救うか、ぶっ壊すかって話じゃねぇか。……まあ、ヒューガならやれるだろう」

その夜、三人は旅の疲れもあって早めに休んだ。
ヒューガはベッドに横たわりながら、領主の言葉を思い返す。
――もし修理ができれば、後の者達にも教えてやってくれ。
責任の重さに、胸が高鳴ると同時に、不思議な期待感が芽生えていた。


翌朝。

研究所へ向かう道は、朝日に照らされた水路が美しく輝き、街全体が水鏡のように揺れていた。
エリサが先導し、街の複雑な路地を抜ける。

「ここが、水都の研究所よ」

案内されたのは、水路の真上に建てられた円形の白亜の建物だった。壁には古代文字の装飾が刻まれ、中央の屋根には大きな魔晶石が輝いている。水音と魔力の脈動が、建物そのものから響いてくるようだ。

扉を開けると、そこには既に数人の研究者が集まっていた。
中央に立っていた女性が、すっとこちらを振り返る。

「あなたが……ヒューガね?」
銀青色の髪をひとつに束ね、眼鏡越しの瞳が冷ややかに光る。セレスティア・ノルヴァン。研究所の所長だ。

その後ろから、革の作業着を着た大柄な男が頭をかきながら出てきた。
「いやぁ、お待ちしてましたよ……! おっと、自己紹介がまだでしたな。副所長のバルト・グレンデルです。いやぁ、昨日も道に迷って――って、あっ、今はどうでもいいか」

セレスティアは呆れたようにため息を吐き、すぐにヒューガへと視線を戻す。
「無駄口は後にして。……本当に、あなたに直せるのかしら?」

研究者達の視線が一斉にヒューガへ注がれる。
緊張の一瞬。ヒューガは深呼吸をして、静かに頷いた。

「見せてもらえれば分かります。必ず――答えを出してみせます」

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