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第3章
新たな計画
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「ありがとうございます。必ずや証明してみせます!」
ヒューガは深く頭を下げた。胸の奥が高鳴っている。自分が本当にこの世界で何かを成せる――そう認められた瞬間だった。
領主はゆっくりと頷き、背後に控える兵士に視線を向けた。
「オイ、ユリウスを呼べ」
しばしの後、扉が開き、若い青年が姿を現した。髪は父譲りの白に近い金色で、どこか気品を漂わせているが、兄ルキアンとは違い、落ち着きと聡明さを感じさせる眼差しだった。
「お呼びでしょうか、父上」
「ユリウス。お前に私の代理としてヒューガにつけ」
青年は一瞬目を見開き、そして真剣な眼差しでヒューガを見据える。
「はっ。了解しました」
ヒューガに一歩近づき、深々と礼をした。
「初めまして、ヒューガさん。ユリウス=レイハルトと申します。父より仰せつかり、これから共に行動させていただきます。……ずっとお会いしたかった」
「え?お会いしたかった?」とヒューガが思わず聞き返すと、ユリウスは少し照れたように笑みを浮かべた。
「賢者ミドの名は、私のように魔法を志す者にとって憧れの存在です。その弟子が現れたと聞いたとき、胸が高鳴りました。どうか、学ばせていただければと」
その真っ直ぐな眼差しに、ヒューガは思わず微笑み返した。
「僕でよければ……よろしくお願いします」
「私の次男だ」領主は補足するように言った。
「ユリウスは魔法に詳しい。良き理解者となるだろう。至らないところもあるが、頼むぞ」
「はい。分かりました」ヒューガは再び頭を下げる。
「では、早速研究所へ向かいましょう」
ユリウスの言葉に導かれ、ヒューガは共に歩み出した。
屋敷を出て、石畳の道を進む。水路に沿って白壁の街並みが続き、遠くで水車が回る音が心地よく響いていた。
ヒューガの隣で歩くユリウスは、どこか楽しそうに口を開いた。
「ヒューガさん。師である賢者ミドのこと……どれほどご存知ですか?」
「……実はあまり聞かされてないんです。魔法の事はよく教わりましたが、自分の話はほとんどしない人で」
「そうですか……」ユリウスは少し驚いた顔をし、やがて静かに頷いた。
「では、噂話を一つ。いや、二つ。――この街でも何度となく語られる、英雄譚です」
足を止めることなくユリウスは続けた。
「昔、北部を魔物の大群が襲ったことがありました。軍も冒険者も間に合わず、城壁の内に逃げ込んだ人々は皆、絶望していたそうです。その時……賢者ミドが現れた。たった一人で壁に立ち、魔法を放ち続け、夜明けまで街を守り抜いたのです」
「……一人で、魔物の大群を?」ヒューガは思わず呟いた。
「はい。数千規模の群れだったと伝えられています」ユリウスは目を細め、遠い憧れを宿したような表情で言う。
「そしてもう一つ。遥か西方で現れた古代竜との戦いです。噂では、彼は一歩も引かず、竜と真正面から渡り合ったと。――その戦いの余波で地形が変わり、今でもその地には巨大なクレーターが残っているとか」
ヒューガは息を呑んだ。
自分の知る師匠――飄々として酒ばかり飲み、胡散臭さ満点の中年男。その姿と、ユリウスが語る「街を守り、竜と戦った賢者」との落差が、頭の中で重なり合わない。
「……英雄、みたいだな」ヒューガはぽつりと呟く。
ユリウスは満面の笑みで頷いた。
「ええ、まさに英雄です。私にとって、そして多くの者にとっても憧れの存在です」
ヒューガは複雑な気持ちで、心の奥にチクリと刺さるものを覚えていた。
(師匠は一度も、そんな話を自分にしたことがない……)
街並みを抜けると、研究所の白い建物が視界に現れた。
塔のように高く伸びる煙突からは淡い蒸気が上がり、水車が大きな水路を挟んで回転している。石造りの堂々たる研究施設。ヒューガたちは静かな緊張感の中、その扉をくぐった。
研究所の扉をくぐると、すぐにセレスティアとバルトが姿を現した。
「ヒューガ!」
セレスティアが真っ先に声をかける。淡い銀髪をまとめた姿は以前と同じだが、瞳には再会の安堵が宿っていた。
「おお、また面倒ごとを持ってきたかい?」
バルトは気怠そうに笑いながら、ぶら下げていた測定器をカチャリと鳴らす。
「セレスティアさん、バルトさん」
ヒューガが軽く頭を下げると、セレスティアは「セレスでいいと言ったでしょ」と口元をほころばせた。
「はい、セレスさん」
その呼び方に彼女は小さく満足そうに頷いた。
ユリウスは二人の様子を確認すると、研究所奥の会議室へと案内した。
厚い扉が閉じられ、防音と遮光の魔法が発動する。外界から隔絶された空間に、重々しい静寂が満ちた。
ユリウスは席につき、低く響く声で切り出す。
「セレス、バルト。すでに知っているとおり、このヒューガは賢者ミドの弟子だ。水都での修理の件で、その実力は証明済みだな」
セレスティアが真剣な面持ちで頷く。「はい。あの時も……彼がいなければ解決は不可能でした」
バルトも肩をすくめつつ、「ま、あんなあっさり解決するなんてね」と呟いた。
ユリウスは二人を見据え、言葉を続けた。
「これから始めてもらうのは極秘の計画だ。――大規模転移魔法陣による人と物の流通網の構築」
空気が一気に張り詰めた。
「膨大な魔力が必要になる。それを補うため、魔力炉の再現と自作を目指す」
ユリウスは視線をセレスティアへ向ける。
「魔力炉の研究と解析はセレス、お前に任せる」
「……はい」セレスティアの瞳が揺らめき、すぐに決意の光へと変わった。
「そして、転移魔法陣の設計と運用はバルト、お前だ」
「やれやれ、寝不足の日々になりそうだ」バルトは苦笑しながらも、目の奥には好奇心の炎を灯していた。
ユリウスは声を低め、最後に念を押した。
「重ねて言うが、この計画は極秘だ。研究所には追加の警備を置く。外に漏らすことは決して許されない」
短い沈黙の後、セレスティアとバルトはそれぞれ頷いた。
「――了解しました」
こうして、ヒューガを筆頭にした新たな研究計画が正式に始まろうとしていた。
ヒューガは深く頭を下げた。胸の奥が高鳴っている。自分が本当にこの世界で何かを成せる――そう認められた瞬間だった。
領主はゆっくりと頷き、背後に控える兵士に視線を向けた。
「オイ、ユリウスを呼べ」
しばしの後、扉が開き、若い青年が姿を現した。髪は父譲りの白に近い金色で、どこか気品を漂わせているが、兄ルキアンとは違い、落ち着きと聡明さを感じさせる眼差しだった。
「お呼びでしょうか、父上」
「ユリウス。お前に私の代理としてヒューガにつけ」
青年は一瞬目を見開き、そして真剣な眼差しでヒューガを見据える。
「はっ。了解しました」
ヒューガに一歩近づき、深々と礼をした。
「初めまして、ヒューガさん。ユリウス=レイハルトと申します。父より仰せつかり、これから共に行動させていただきます。……ずっとお会いしたかった」
「え?お会いしたかった?」とヒューガが思わず聞き返すと、ユリウスは少し照れたように笑みを浮かべた。
「賢者ミドの名は、私のように魔法を志す者にとって憧れの存在です。その弟子が現れたと聞いたとき、胸が高鳴りました。どうか、学ばせていただければと」
その真っ直ぐな眼差しに、ヒューガは思わず微笑み返した。
「僕でよければ……よろしくお願いします」
「私の次男だ」領主は補足するように言った。
「ユリウスは魔法に詳しい。良き理解者となるだろう。至らないところもあるが、頼むぞ」
「はい。分かりました」ヒューガは再び頭を下げる。
「では、早速研究所へ向かいましょう」
ユリウスの言葉に導かれ、ヒューガは共に歩み出した。
屋敷を出て、石畳の道を進む。水路に沿って白壁の街並みが続き、遠くで水車が回る音が心地よく響いていた。
ヒューガの隣で歩くユリウスは、どこか楽しそうに口を開いた。
「ヒューガさん。師である賢者ミドのこと……どれほどご存知ですか?」
「……実はあまり聞かされてないんです。魔法の事はよく教わりましたが、自分の話はほとんどしない人で」
「そうですか……」ユリウスは少し驚いた顔をし、やがて静かに頷いた。
「では、噂話を一つ。いや、二つ。――この街でも何度となく語られる、英雄譚です」
足を止めることなくユリウスは続けた。
「昔、北部を魔物の大群が襲ったことがありました。軍も冒険者も間に合わず、城壁の内に逃げ込んだ人々は皆、絶望していたそうです。その時……賢者ミドが現れた。たった一人で壁に立ち、魔法を放ち続け、夜明けまで街を守り抜いたのです」
「……一人で、魔物の大群を?」ヒューガは思わず呟いた。
「はい。数千規模の群れだったと伝えられています」ユリウスは目を細め、遠い憧れを宿したような表情で言う。
「そしてもう一つ。遥か西方で現れた古代竜との戦いです。噂では、彼は一歩も引かず、竜と真正面から渡り合ったと。――その戦いの余波で地形が変わり、今でもその地には巨大なクレーターが残っているとか」
ヒューガは息を呑んだ。
自分の知る師匠――飄々として酒ばかり飲み、胡散臭さ満点の中年男。その姿と、ユリウスが語る「街を守り、竜と戦った賢者」との落差が、頭の中で重なり合わない。
「……英雄、みたいだな」ヒューガはぽつりと呟く。
ユリウスは満面の笑みで頷いた。
「ええ、まさに英雄です。私にとって、そして多くの者にとっても憧れの存在です」
ヒューガは複雑な気持ちで、心の奥にチクリと刺さるものを覚えていた。
(師匠は一度も、そんな話を自分にしたことがない……)
街並みを抜けると、研究所の白い建物が視界に現れた。
塔のように高く伸びる煙突からは淡い蒸気が上がり、水車が大きな水路を挟んで回転している。石造りの堂々たる研究施設。ヒューガたちは静かな緊張感の中、その扉をくぐった。
研究所の扉をくぐると、すぐにセレスティアとバルトが姿を現した。
「ヒューガ!」
セレスティアが真っ先に声をかける。淡い銀髪をまとめた姿は以前と同じだが、瞳には再会の安堵が宿っていた。
「おお、また面倒ごとを持ってきたかい?」
バルトは気怠そうに笑いながら、ぶら下げていた測定器をカチャリと鳴らす。
「セレスティアさん、バルトさん」
ヒューガが軽く頭を下げると、セレスティアは「セレスでいいと言ったでしょ」と口元をほころばせた。
「はい、セレスさん」
その呼び方に彼女は小さく満足そうに頷いた。
ユリウスは二人の様子を確認すると、研究所奥の会議室へと案内した。
厚い扉が閉じられ、防音と遮光の魔法が発動する。外界から隔絶された空間に、重々しい静寂が満ちた。
ユリウスは席につき、低く響く声で切り出す。
「セレス、バルト。すでに知っているとおり、このヒューガは賢者ミドの弟子だ。水都での修理の件で、その実力は証明済みだな」
セレスティアが真剣な面持ちで頷く。「はい。あの時も……彼がいなければ解決は不可能でした」
バルトも肩をすくめつつ、「ま、あんなあっさり解決するなんてね」と呟いた。
ユリウスは二人を見据え、言葉を続けた。
「これから始めてもらうのは極秘の計画だ。――大規模転移魔法陣による人と物の流通網の構築」
空気が一気に張り詰めた。
「膨大な魔力が必要になる。それを補うため、魔力炉の再現と自作を目指す」
ユリウスは視線をセレスティアへ向ける。
「魔力炉の研究と解析はセレス、お前に任せる」
「……はい」セレスティアの瞳が揺らめき、すぐに決意の光へと変わった。
「そして、転移魔法陣の設計と運用はバルト、お前だ」
「やれやれ、寝不足の日々になりそうだ」バルトは苦笑しながらも、目の奥には好奇心の炎を灯していた。
ユリウスは声を低め、最後に念を押した。
「重ねて言うが、この計画は極秘だ。研究所には追加の警備を置く。外に漏らすことは決して許されない」
短い沈黙の後、セレスティアとバルトはそれぞれ頷いた。
「――了解しました」
こうして、ヒューガを筆頭にした新たな研究計画が正式に始まろうとしていた。
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