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第3章
転移魔法
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バルトに案内され、ヒューガたちは研究所の奥へと進む。
重厚な扉を開けると、ひんやりとした空気が流れ込んできた。実験室の一室――窓もなく、広々とした床だけが広がっている。
「ここなら広いし、何より使っていない。実験用に造ったが、今は空き部屋だ。好きに使っていいさ」
バルトが肩を竦めながら言う。
「ありがとうございます。では、早速魔法陣を設置します」
ヒューガは頷き、背負っていたカバンを床に降ろす。
カバンの中から数枚の厚紙を取り出すと、掌をかざして魔力を流す。瞬間、紙に描かれていた精緻な線が青白く光り、床一面に淡い光を帯びた魔法陣がゆっくりと転写されていく。
淡い光が床の石畳に走り、幾何学模様が次々と浮かび上がっていく様子は、まるで夜空に星座が生まれていく瞬間のようだった。
バルトは腕を組み、その様子を興味深そうに眺めている。
「なるほどねぇ……紙から直接移すなんて芸当、普通じゃ考えられないな」
ヒューガは黙々と集中し、最後の線を描き終えると、ふっと息を吐いた。
「……よし。これで設置完了です」
「この転移魔法陣は、アーデル領ガルディアスに座標を設定してあります。魔力さえあれば、いつでも一瞬でガルディアスまで飛べます」
ヒューガが説明すると、バルトの目が一気に輝いた。まるで子供が宝物を前にしたかのように、瞳をキラキラとさせている。
「すぐにでも……解析してみたい……!」
思わず口走ったバルトに、ヒューガは軽く笑ってから問いかけた。
「どうです? 一緒に行ってみますか?」
隣で聞いていたユリウスが、迷いなく頷く。
「是非お願いします! 実際に体験できるなんて……これは千載一遇の機会ですから!」
普段は冷静な彼の表情に、抑えきれない興奮が滲む。
一方のバルトは、口元を引きつらせながらもおずおずと手を挙げる。
「だ、だいじょぶなんですかね……? バラバラになったり、いきなり壁の中に埋まったり……とか……」
「心配ありません」
ヒューガは自信を持って答える。
「師匠に何度も試しましたから。転移座標は精密に設定してあります。さあ、こちらへ」
促され、3人は魔法陣の中央に立つ。
ヒューガが静かに目を閉じ、手をかざした瞬間――
床一面に描かれた転移魔法陣が、青白い光を帯びて眩く輝きだす。
淡い光の粒が宙に舞い、空気が震える。
次の瞬間、閃光と共に3人の姿はふっと掻き消えた。
突如、目の前の景色が一変した。
先ほどまで研究所の白い石壁に囲まれていたはずが、眩しい朝日と澄んだ空気が肌を刺す。
風が頬を撫で、遠くから鳥の鳴き声が聞こえてくる。
「……ッ!!」
ユリウスが思わず息を呑み、周囲を見回した。
そこは広々とした庭園だった。整えられた芝生の上に噴水があり、花壇には見事な花々が咲き誇っている。後方には見覚えのある石造りの屋敷――そう、アーデル領のガルディアスにある、賢者ミドの屋敷がそびえていた。
「まさか……」
ユリウスは両手を胸の前で握りしめ、声を震わせた。
「これが……転移魔法……! 書物で読んだ伝説を、自分が体験する日が来るなんて……!」
その眼差しは完全に少年のような憧れに染まっていた。
一方のバルトはというと、地面に手を突き、草を引きちぎる勢いで確認していた。
「……ちゃんと……足がある! 埋まってない! バラバラにもなってないっ!」
何度も自分の腕を叩き、胸を触り、腰を揺すり、尻尾の先まで確かめる。
「はぁぁぁ~~っ……! 生きてる! オレ、生きてるぅぅぅ!!」
大げさに転げ回るように芝生へ倒れ込み、安堵と感動で声を震わせる姿に、ユリウスが思わず苦笑する。
ヒューガはそんな2人を見て小さく頷いた。
「ようこそ――ガルディアスへ。ここは、師匠の屋敷の庭です」
彼の言葉と共に、風に乗って街の喧噪が遠くから届く。
その瞬間、ユリウスとバルトは改めて悟った。
――本当に、別の場所へ一瞬で移動してしまったのだ、と。
「それでは、アクア=リュミエールに帰ります」
ヒューガが静かに言い、腰のカバンから折り畳まれた紙を取り出した。
そこには複雑な魔法陣の座標が記されている。彼は床に膝をつき、指先で紙に触れると、淡い光を帯びた魔力が走った。
次の瞬間、紙に描かれていた魔法陣が、淡い青白い光となって床へと広がり、見事に転写される。
「……っ、何度見ても凄い」
ユリウスが感嘆の声を漏らす。その瞳は憧れと興奮で輝き、ヒューガの一挙手一投足を食い入るように見つめていた。
賢者ミドを尊敬する彼にとって、弟子であるヒューガが操る未知の技術は、まさに夢そのものだった。
バルトもごくりと唾を飲み込みながら、半ば呆然とした様子でつぶやく。
「……オレも魔法陣いじれるようになりたいっすよ。いやぁ、ホント……化け物じみてる」
ヒューガは振り返り、2人に向かって穏やかに笑う。
「転写は終わりました。――では、いきましょう」
床に刻まれた魔法陣が青白く輝き、部屋全体を淡い光が満たす。
その光に包まれた瞬間、3人の姿は掻き消えるようにして消え去った。
次に彼らが現れたのは、元の研究所の一室だった。
冷たい石造りの床に立ち、見慣れた壁と天井が視界に広がる。
「……戻ってきた」
ユリウスが胸を押さえ、大きく息を吐く。
「本当に一瞬だ……! 馬車で数日の距離を、たった一呼吸で……」
「ふ、ふぅ~~……」
バルトは尻もちをつきながら深く息を吐き、安堵の笑みを浮かべた。
「無事に帰ってこれるとか……心臓に悪いっすよ、マジで……」
ヒューガは小さく頷き、再び真剣な顔を見せる。
「これで実験は成功です。……次は、運用の方法を考えなければなりませんね」
重厚な扉を開けると、ひんやりとした空気が流れ込んできた。実験室の一室――窓もなく、広々とした床だけが広がっている。
「ここなら広いし、何より使っていない。実験用に造ったが、今は空き部屋だ。好きに使っていいさ」
バルトが肩を竦めながら言う。
「ありがとうございます。では、早速魔法陣を設置します」
ヒューガは頷き、背負っていたカバンを床に降ろす。
カバンの中から数枚の厚紙を取り出すと、掌をかざして魔力を流す。瞬間、紙に描かれていた精緻な線が青白く光り、床一面に淡い光を帯びた魔法陣がゆっくりと転写されていく。
淡い光が床の石畳に走り、幾何学模様が次々と浮かび上がっていく様子は、まるで夜空に星座が生まれていく瞬間のようだった。
バルトは腕を組み、その様子を興味深そうに眺めている。
「なるほどねぇ……紙から直接移すなんて芸当、普通じゃ考えられないな」
ヒューガは黙々と集中し、最後の線を描き終えると、ふっと息を吐いた。
「……よし。これで設置完了です」
「この転移魔法陣は、アーデル領ガルディアスに座標を設定してあります。魔力さえあれば、いつでも一瞬でガルディアスまで飛べます」
ヒューガが説明すると、バルトの目が一気に輝いた。まるで子供が宝物を前にしたかのように、瞳をキラキラとさせている。
「すぐにでも……解析してみたい……!」
思わず口走ったバルトに、ヒューガは軽く笑ってから問いかけた。
「どうです? 一緒に行ってみますか?」
隣で聞いていたユリウスが、迷いなく頷く。
「是非お願いします! 実際に体験できるなんて……これは千載一遇の機会ですから!」
普段は冷静な彼の表情に、抑えきれない興奮が滲む。
一方のバルトは、口元を引きつらせながらもおずおずと手を挙げる。
「だ、だいじょぶなんですかね……? バラバラになったり、いきなり壁の中に埋まったり……とか……」
「心配ありません」
ヒューガは自信を持って答える。
「師匠に何度も試しましたから。転移座標は精密に設定してあります。さあ、こちらへ」
促され、3人は魔法陣の中央に立つ。
ヒューガが静かに目を閉じ、手をかざした瞬間――
床一面に描かれた転移魔法陣が、青白い光を帯びて眩く輝きだす。
淡い光の粒が宙に舞い、空気が震える。
次の瞬間、閃光と共に3人の姿はふっと掻き消えた。
突如、目の前の景色が一変した。
先ほどまで研究所の白い石壁に囲まれていたはずが、眩しい朝日と澄んだ空気が肌を刺す。
風が頬を撫で、遠くから鳥の鳴き声が聞こえてくる。
「……ッ!!」
ユリウスが思わず息を呑み、周囲を見回した。
そこは広々とした庭園だった。整えられた芝生の上に噴水があり、花壇には見事な花々が咲き誇っている。後方には見覚えのある石造りの屋敷――そう、アーデル領のガルディアスにある、賢者ミドの屋敷がそびえていた。
「まさか……」
ユリウスは両手を胸の前で握りしめ、声を震わせた。
「これが……転移魔法……! 書物で読んだ伝説を、自分が体験する日が来るなんて……!」
その眼差しは完全に少年のような憧れに染まっていた。
一方のバルトはというと、地面に手を突き、草を引きちぎる勢いで確認していた。
「……ちゃんと……足がある! 埋まってない! バラバラにもなってないっ!」
何度も自分の腕を叩き、胸を触り、腰を揺すり、尻尾の先まで確かめる。
「はぁぁぁ~~っ……! 生きてる! オレ、生きてるぅぅぅ!!」
大げさに転げ回るように芝生へ倒れ込み、安堵と感動で声を震わせる姿に、ユリウスが思わず苦笑する。
ヒューガはそんな2人を見て小さく頷いた。
「ようこそ――ガルディアスへ。ここは、師匠の屋敷の庭です」
彼の言葉と共に、風に乗って街の喧噪が遠くから届く。
その瞬間、ユリウスとバルトは改めて悟った。
――本当に、別の場所へ一瞬で移動してしまったのだ、と。
「それでは、アクア=リュミエールに帰ります」
ヒューガが静かに言い、腰のカバンから折り畳まれた紙を取り出した。
そこには複雑な魔法陣の座標が記されている。彼は床に膝をつき、指先で紙に触れると、淡い光を帯びた魔力が走った。
次の瞬間、紙に描かれていた魔法陣が、淡い青白い光となって床へと広がり、見事に転写される。
「……っ、何度見ても凄い」
ユリウスが感嘆の声を漏らす。その瞳は憧れと興奮で輝き、ヒューガの一挙手一投足を食い入るように見つめていた。
賢者ミドを尊敬する彼にとって、弟子であるヒューガが操る未知の技術は、まさに夢そのものだった。
バルトもごくりと唾を飲み込みながら、半ば呆然とした様子でつぶやく。
「……オレも魔法陣いじれるようになりたいっすよ。いやぁ、ホント……化け物じみてる」
ヒューガは振り返り、2人に向かって穏やかに笑う。
「転写は終わりました。――では、いきましょう」
床に刻まれた魔法陣が青白く輝き、部屋全体を淡い光が満たす。
その光に包まれた瞬間、3人の姿は掻き消えるようにして消え去った。
次に彼らが現れたのは、元の研究所の一室だった。
冷たい石造りの床に立ち、見慣れた壁と天井が視界に広がる。
「……戻ってきた」
ユリウスが胸を押さえ、大きく息を吐く。
「本当に一瞬だ……! 馬車で数日の距離を、たった一呼吸で……」
「ふ、ふぅ~~……」
バルトは尻もちをつきながら深く息を吐き、安堵の笑みを浮かべた。
「無事に帰ってこれるとか……心臓に悪いっすよ、マジで……」
ヒューガは小さく頷き、再び真剣な顔を見せる。
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