シラケン~知らない間に賢者の弟子に歩きたかっただけなのに、気づけば最強になってました〜

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第3章

最初の挑戦者

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冒険者ギルドの扉を押し開けると、昼間から酒の匂いと笑い声が充満していた。
その喧騒の中から、ひときわ下卑た声が飛んでくる。

「あれぇ? メリーちゃんじゃねぇか。また坊っちゃんと遊んでんのか? なぁ、俺とも遊んでくれよ」

頬に傷を持つ冒険者ドランが、にやついた顔で近づいてくる。
その後ろでは、片目に眼帯をした長身の弓使いリカルドと、筋肉質な体を揺らす斧使いブラムがクスクスと笑っていた。

ヒューガは一歩前に出る。
「いましたね。これを出したのは、あなたですね?」

懐から取り出した果たし状を突きつける。裏面には確かに「ドラン」の署名。

ドランの目が見開かれ、次の瞬間には顔が真っ赤に染まる。
「なんで……お前がそれを持ってるんだよ!」

ヒューガは落ち着いた声で答えた。
「師匠が受け取りました。そして、弟子の僕に『お前が相手をしてこい』と命じられました。師匠はこうも言っています――弟子の僕に勝てないなら、師匠に挑む資格は無いと」

その言葉にギルドの空気が凍りつく。
一瞬の沈黙のあと、ドランは噴き出すように笑い出した。

「はぁ!? お前があの賢者の弟子だと!? ……ククッ、あっははははっ! 笑わせんなよ!」
彼の笑いに、仲間の二人も肩を揺らして嘲笑を重ねる。

ヒューガは微動だにせず、静かに言葉を続けた。
「で? どうしますか? 相手をしていただけますか?」

周囲の冒険者たちが息を呑み、場の視線が一点に集まった。
ギルドの空気が、次の瞬間の爆発を予感していた。


静まり返ったギルドの中で、メリーが冷ややかに口を開いた。

「……で? どうするんだ、“お前ら”」

その言葉に、ドランの表情が歪む。
「……何だと?」

ヒューガは懐から果たし状を取り出し、裏面を静かに掲げた。
「ここに三人の署名があります。挑むのは――あなただけじゃなく、後ろの二人も、ですよね?」

その瞬間、酒場のようにざわめいていた空気が一層重苦しくなる。
裏に刻まれた文字を見て、リカルドとブラムの顔色もわずかに変わった。

ドランは歯ぎしりをし、拳を握りしめる。
「舐めやがって……!」

だが、ひと呼吸おいて冷静さを取り戻すと、ギロリとヒューガを睨みつけた。
「……お前を倒せば、賢者様は相手をしてくれるんだろうな?」

ヒューガは一歩も引かずに頷く。
「はい。約束は守ります」

その答えに、ドランは唇を吊り上げ、吠えるように言った。
「だったら――やってやろうじゃねぇか!」

「おう!」
「任せろ!」

背後のリカルドとブラムも声を上げ、三人のミスリル冒険者が決闘の意思を示す。

ギルド全体に緊張の気配が走った。
誰もが次の展開を見逃すまいと、固唾を呑んで見守っていた。


「ちょ、ちょっと待ってください!」
慌てて声を張り上げたのは、血相を変えたギルド職員だった。
「一応、冒険者同士の私闘は禁止です! ……なので、訓練所にて模擬戦という形でお願いします!」

場に走る緊張を和らげるように、しかし職員の額には冷や汗が流れていた。

「チッ……面倒くせぇ」
ドランが舌打ちを鳴らす。

ヒューガは落ち着いた声で問いかけた。
「あ、分かりました。それでいいですか?」

ドランは鼻で笑い、低く答える。
「構わねぇよ。どうせお前はブロンズだろ? 俺たちはミスリルだ。そうでもしねぇと――殺しちまったら、約束守れねぇからな」

挑発混じりの言葉に、ギルド内の冒険者たちがざわめく。

「だそうですよ」
ヒューガは淡々とギルド職員に向かって言った。

職員は喉を鳴らしつつも頷く。
「……では、訓練所に行きましょう。審判は私が務めます」

こうして場は整い、緊張と期待を孕んだまま、戦いの舞台は訓練所へと移されることとなった。



一同はぞろぞろと訓練所へ移動した。
噂を聞きつけた冒険者たちが面白がって集まり、観客席代わりの壁際や二階の回廊に人だかりができていく。

 既に訓練していた冒険者たちは、ギルド職員に促されて場所を譲る。木剣や木斧が無造作に並べられた武具棚にドランたちが歩み寄り、慣れた手つきでそれぞれを手にした。ドランは木剣を、仲間二人は木斧と木槍を構える。

 中央にはヒューガとドランたち。そして審判役のギルド職員が立つ。
「それでは――模擬戦を始めます!」
声を張り上げる職員は、「模擬戦」という部分だけを強調し、場の熱気を冷まそうと必死だ。

 ヒューガは一歩前に出ると、ぽんと手を打った。
「あ、そうだ。僕が勝った場合……どうしましょうか?」

 突然の言葉に、ドランが眉をひそめる。
「あ?」

「ドランさん達が勝ったら、師匠に挑む権利を差し上げます。僕が勝ったら――そうですね、一つだけ、何でも言うことをきいてください」

 観客席がざわついた。挑発にも似た言葉に、空気がさらに熱を帯びる。
ドランは舌打ちをして肩をすくめる。
「あー!? チッ……ハイハイ、分かったよ。それでいい。さっさと始めろ」

 ギルド職員は深呼吸して、勝利条件を告げる。
「勝利条件は、気絶するか“参った”と言わせること。……よろしいですね?」

「あぁ」ドランが短く答える。
「分かりました」ヒューガも頷いた。

 職員は右手を高く掲げ、観客が固唾を飲む。
「――では、始め!」

 振り下ろされた手が、戦いの合図となった。


合図と同時に、ドランの後ろにいた二人が左右へ散った。
左の男が木斧を振りかぶり、ヒューガの首筋を狙って飛び込む。右の男は低く身を沈め、木槍で足を薙ぎ払おうと突き込んでくる。

 咄嗟に後方へ跳ぶヒューガ。土煙を上げて足場を蹴ると、間一髪で首と足を狙った同時攻撃を避けた。

「距離を詰めろ! 魔法だけは打たせるな!」
ドランが叫び、真っ直ぐに突撃してくる。

 三人の動きは淀みがなく、まるで一本の槍のように息が合っていた。
間髪入れずに繰り出される打撃、突き、薙ぎ払い。速い。重い。鋭い。
ヒューガの体は小刻みに動き、時に紙一重で頭を逸らし、時にわずかに腰を捻って槍先を躱す。

 身体強化によって研ぎ澄まされた視覚が、三人の攻撃軌道をはっきりと捉えていた。
しかしそれはあくまで「避ける」ことに集中しているからこそ。反撃の隙を作るには、一瞬でも動きに穴を見出す必要がある。
だが、三人の連携にはその「穴」がほとんど存在しなかった。

(……なるほど。これがミスリルの実力か)
ヒューガは内心で感嘆した。

 木剣と斧と槍が次々に襲いかかる。だが当たらない。
まるで攻撃の雨の中を、ただ一人で踊るように抜けていく。

 見物していた冒険者たちがどよめいた。
「おぉーっ! スゲェ!」
「ミスリル相手に一撃も受けてねぇぞ!」

 熱気が訓練場に渦巻く。
攻撃を繰り返しながらも焦れたのはドランたちの方だった。


修行を受けていなければ――間違いなく、この連携に押し潰されていただろう。

あれは異世界行きを決めた後だったかな?
ヒューガの脳裏に、師匠の不遜な笑みがよみがえる。

『避ける訓練をしておけ。当たらなきゃ、とりあえず死なねぇだろ』


 言葉と同時に襲いかかる、とんでもなく素早く、重い攻撃。
剣、槍、斧、鎖鎌。次から次へと武器を変え、延々と打ち込んでくる師匠。
ヒューガは反撃の機会を与えられず、ひたすら「避ける」だけを課されてきた。

 その訓練が、今まさに生きていた。
ドランたちの連携は見事だ。だが――師匠に比べれば、読み切れないほどの速度ではない。
大体の間合い、攻撃の癖、軌道の読み。身体が覚えている。

(攻撃はからっきしだけど……避けるのだけは、得意だ)

 斧が唸りを上げ、槍が突き込み、木剣が薙ぎ払う。
ヒューガは紙一重でそれらを躱し続けた。

 やがて、乱打の中にほころびが見え始める。
(……疲れてきてるな。特に左だ)

 木斧の男の呼吸が荒くなり、動きがわずかに鈍る。
連携がわずかに拙くなった、その一瞬。

「――ここだ!」

 ヒューガは地面を強く蹴り、踏み込む。
腰を捻り、正拳突きを突き出す。

 ドンッ!

 鈍い衝撃音と共に、拳が男の胸板を捉えた。
木斧の男は息を詰まらせ、後方へ吹き飛び、土煙の中に転がった。
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